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魔王、絶大な力を封印し平凡な幸福を探す  作者: 倉持コウスケ
第一章
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第六話


 ファミレスでのバイトを終え、魔王はリビングで、アニメを見ていた。ときどき野菜スティックを食べている。

 美貌の秘書セーナが、心配そうに入ってきた。


「あの、魔王様」


「なんだ。いまアニメを見ているんだ、邪魔するな。レムって女の子がかわいくて、いいんだよな」


「大丈夫ですか」


「大丈夫。アニメの世界に没入すれば、つらい現実を忘れられるから。時々つまむ野菜スティックが最高だよ。七味唐辛子を混ぜたマヨネーズにつけ、シャキシャキ行く。これこそ、平凡な幸福さ。フフ」


「魔王様、病んでいるように見えますが。グーグルという検索エンジンで調べたんですが、飲食店でのお仕事は、相当大変らしいじゃないですか。やめることも一つの手ですよ」


「いいよ、つづけるよ。だって辞めたら、魔力がなかったらただの無能ってことになっちゃうじゃん。平凡な幸せはつかめないってことじゃん」


「そもそも平凡な幸せって何ですか。魔力を持つ生物、すべての頂点に立ったんですよ?」


「でも、なんかむなしいんだよね。あと彼女できると思ったんだけどさ、告白しても『おそれおおいので』って振られる。もう嫌」


「では気分転換に、出かけましょう」


「お出かけ、か。まあいいだろう。どこに行くんだ?」


 魔王とセーナは、百円ショップのダイソソーの自動ドアをくぐった。


「なんだ、ここは」


「魔王様、百円ショップのダイソソーを知らないんですか? なんでもたった百円で買えるんですよ」


「税込み百円?」


「いえ、税別百円です」


「ふん。そんなことだろうと思ったよ」


「怒らなくてもいいじゃないですか」


「商品は、大したことないだろう。だってたったの百円なんだからな。安かろう、悪かろうだよ」


「いや、ダイソソーを甘く見ちゃいけませんよ。『え!? こんなものが百円!?』と私はつい叫んでしまったことがあるんです。それほどです」


「大したことないさ。百円なんだから。見た目はよくてもすぐ壊れるに決まっている。え!? なにこれ! ダイソソーって多肉植物も売ってるの?」


 魔王は多肉植物コーナーに、少し興奮して駆け寄った。


「そうなんですよ、魔王様。ノートや文房具、キッチン用品はもちろん、園芸関係の商品や、多肉植物もあるんですよ」


「何宣伝してきてんだよ。ダイソソーでパートしてんのかよ。公務員は副業禁止だぞ。え!? なにこれ! サボテンも売ってるの!?」


 魔王は小さなサボテンのとげを触った。


「あっ、痛い。ちゃんとしたサボテンじゃん! なんだよ。百円ショップって、サボテンまで売ってるのか。ちょっと店内をぐるっと回ってみないか? いやもちろん、安かろう悪かろうだとは思うけどね? 別に、テンション上がってるわけじゃないけどね?」


「変な言い訳しないでいいですよ。じゃあ行きましょうか」


 魔王とセーナは、ガラスの瓶が並ぶコーナーに歩いてきた。


「すごいな、こんなにきれいなガラスの瓶がたくさん。このガラスの瓶いいな。蓋が金色で、ちょっとかっこいい。買おうかな」


「何に使うんですか」


「ジャムでも入れたらいいじゃん」


「魔王様はお米派じゃないですか」


「いや、ジャム塗ったパンもいいなって思ってるんだよね。買おうかな」


「ジャム入れるなら、こっちの小さいガラス瓶の方がいいですよ」


「ほう。確かにこのガラス瓶、悪くない。おっ、見ろよ、あっちには事務用品がいっぱい売ってる!」


「事務用品なんて、魔王様は使わないでしょう。ちょっと! 走らないでくださいよ。待ってください」


「おいおい、見ろよ、セーナ。この青いクリアファイルも百円だって。かっこいいなあ。これ、買おうかな」


「魔王様。いったい何をファイルするんですか」


「ほかには何があるかな。おっ、かわいいハンドタオルが売ってる! これっていくら?」


「百円ショップなんだから、百円ですよ」


「おお! アロマキャンドルも売ってる! あんまりアロマキャンドルには興味ないんだよなあ。でも見ろよ、セーナ、ほら。青い海と砂浜がかわいらしく表現されている! 信じられない、これで百円なのか。買おう」


「魔王様、アロマキャンドルですよ? 本当に欲しいんですか?」


「百円なんだからいいじゃん」


「百円でも十個で千円ですよ? わかってます?」


「おっ! エコバックも売ってるじゃん! へえ、結構デザイン豊富ー。レジ袋、日本って有料でしょ? 買わないとなって思ってたんだよね。セーナも買う? このイチゴとブルーベリーの描いてあるエコバックがかわいいなあって思うんだよな。どう思う?」


「すっかり夢中じゃないですか。私はエコバック持ってるんで大丈夫ですよ」


「なんだよ、ノリが悪いなあ」


魔王は野菜スティックに、タルタルソースをつけポリポリ食べながら、パソコンを見ていた。


「魔王様、何やってるんですか」


「この世界、ネットショッピングの環境も充実しているから、チェックしてるんだよ。セーナはさ、Amazon派? 楽天? それともヤフーショッピング派? 日本ではAmazonが圧倒的に人気らしいよ?」


「すっかり埼玉県民ですね」


「いいじゃないか。どう? キュウリ×タルタルソース最高だよ? 食べる?」


「じゃあ一本もらっていいですか。今日、バイト休みですよね? どう過ごす予定ですか?」


「そうだなあ。ネットショッピングのサイト見て、そうそう、あとメルカリ始めたいと思ってるんだよね。メルカリやラクマとかの、フリマサイトをちょっと回ってみようかな」


「一日中家にいるんですか?」


「何か文句があるのかよ」


「ひきこもりみたいになってるじゃないですか。どこか出かけましょうよ。なんだか不健康ですよ。行きたいところないんですか?」


「近所ならいいけど、あんまり遠出はしたくないなあ。面倒くさい」


「いい気分転換になると思いますよ? この日本というエリアでは、ラーメンという食べ物が大人気だそうです。さっき、食べログってグルメ系のサイト見ていたら、何件か、おいしいラーメン屋を見つけました。行きませんか」


「面倒だなあ」


「ネットショッピングなら、移動中でもできるでしょう。さあ、外に出ましょう」


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