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魔王、絶大な力を封印し平凡な幸福を探す  作者: 倉持コウスケ
第一章
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第四話


魔王はため息をつきながら、2DKでピラフを食べている。セーナは白い顔に心配そうな色を浮かべている。


「魔王様、どうしたんですか」


「満足に、ファミレスで働くこともできない。俺は無力だ」


「そんなことないですって! すべての世界で最強の魔力・攻撃力を誇るじゃないですか」


「でも、ファミレスでは怒られてばかりだ」


「仕事は最初がつらいものですよ」


「だけど」


「わかりました。ではうちでカツ丼を作る練習をしてみては?」


「練習か。そうだな。よし、そうしよう。出でよ! 大悪魔ルシファー、世界を凍らせる力を持つアイナル、雷撃魔法最強の使い手ロネコ!」


 魔王の前に、黒髪で大柄なルシファーと、色白で小柄な美女アイナル、桃色のショートカットで攻撃的な面構えの美少女ロネコが現れた。


 髪も肌も、雪みたく真っ白なアイナルが「今度は、この世界を滅ぼすのですか」と穏やかに聞いた。


「いや。カツ丼のことで、ちょっと苦しんでるから、助けてもらおうと思ったんだ」


 アイナルは首をかしげる。

「カツ丼? それが魔王様を苦しめていると。わかりました。では、私アイナルが、氷雪魔法を使い、この世界のすべてのカツ丼を、氷漬けにしましょう」


「いや、大丈夫だ。そういうことはいい」


「魔王様。私ルシファー、以前の過ちを悔い改め、家電量販店について、詳しく調べてまいりました。ケースデンキは、新製品が安いそうです!」


「もう家電の話はいいんだよ。ルシファー、お前は帰れ」


「魔王様、そんな! ああっ!」


 ルシファーは魔王の時空間魔法で、もとの場所に飛ばされてしまった。


「魔王様、私、桃色の髪のロネコを呼んだということは、戦争ですね? そのカツ丼という女は、敵の帝国のボスでしょう。私がそのカツ丼を、雷で黒焦げにしてやりますよ」


「そうではない。カツ丼は料理だ。いいか、これから俺は、二人と、二人の部下に、カツ丼という料理を作る。そのとき大中小、どのサイズかを教えてくれ」


 普段温厚なアイナルは、声を大きくした。


「魔王様が、私たちに料理!? そんな、恐れ多い!」


「ふん、バカだな、アイナルは」


 桃色の髪のロネコは、小ばかにする口調で言った。

「魔王様は、私たちを来るべき戦争に備え、パワーアップさせようということでしょう。カツ丼とは、魔王様にしか生成できない特別な料理ですね?」


「カツ丼は誰にでも作れるよ」


「またまた、魔王様。誰にでも作れるものを、魔王様が作るわけないじゃないですか。だったら部下にやらせればいい」


「いや、誰にでも作れるものすら、満足にできない無能なんだよ。それが嫌だから、いま頑張って勉強しているんだ。創造魔法!」


 魔王は無から有を作り出す、最高難易度の大魔術を発動。台所に、テーブルと冷凍カツ、お米が現れた。


「魔法は使いたくなかったが、この場合はしょうがないだろう」


 氷雪魔法の使い手アイナルと、桃色の髪のロネコは、呆然とした。ロネコはハッと我に返り、震える声で言った。


「あの創造魔法を、詠唱破棄で、わずかな魔力で使うだなんて」


「何を驚いている、ロネコ」


「魔王様! 今のはどうやったのですか!? 私は雷系統のものなら、詠唱破棄で、創造できます。ですが魔力をほとんど使わずには無理です。なぜ」


「簡単だよ。魔力の質を磨けば、わずかな魔力で、大魔法を使える。よく、魔力の量が多くないと、大魔法が使えないと誤解されているがな」


 美貌の秘書セーナが「魔王様。そんな重要なこと、言ってもいいんですか」と聞く。


「いいよいいよ。いまはカツ丼づくりが大切なんだから。それにもう興味ないのよ、世界征服とか、最強とか」


 ロネコはその攻撃的な顔に感動の色をにじませた。

「魔王様。それだけの秘密を教えてくれるということは、私たちを、信頼してくれているということですよね?」


 アイナルは白い髪を触りながら、頬を赤らめて言った。

「それだけの秘密を教えてくれるということは、私たちを側室にしたいと、そういうことですね?」


 セーナが「寝言は寝て言えよ」と不愉快そうに言った。


「おい、何の話だ。とにかく今は、俺のカツ丼づくりの腕を上げる、それこそが重要だろう!」


 ロネコもアイナルも「はい!」と力強く返事をした。


「よし! 家でちゃんと慣れて、料理の腕を上げ、同僚たちをあっと言わせてやる!」


 魔王は台所に立ち、エプロンをし、ふと考えこんだ。赤髪のセーナは、魔王の顔を覗き込み「どうしたんですか」と青い目でじっと見て質問した。


「せっかくだから、最高級の豚を使おうと思ってな。大量の魔力をその身に宿したブーブン豚を使おう」


 セーナは驚きの声を上げた。

「ええ!? あの伝説のブーブン豚を!? いいんですか? 五十年に一度だけ、白い草の咲く平原に現れると言われていますが」


「創造魔法では、生命体は作れない。だが血抜きしてさばいた後、食材となったブーブン豚なら生み出せる」


「なるほど。巨万の富をやすやすと築いただけはありますね」

 セーナは感心して言った。


「卵は、ルーウユの卵にしよう」


 またセーナは驚きの声を上げる。

「ええ!? 炎の海に住む、不死鳥と呼ばれるルーウユの卵を!? 十年に一度しか生まないと言われていますが」


「創造魔法で生み出せばいい」


「なるほど。やはりすごいです」


「カツ丼のソースのだしに、マケカツオの鰹節を使おう」


「ええ!? マケカツオは、十年に一度だけ、第七惑星の海に姿を現す伝説の魚です。その鰹節!?」


「創造魔法を使えばいい」


「いやあ、魔王様。思いのままですね」

 セーナは感心して言った。


「だが平凡な幸せは、簡単には得られない」


「私が用意します」


「いや、平凡な幸せは、自分でつかまなければ意味がないんだよ。恋人もな」


「恋人!?」


「セーナ、何驚いている。内緒だが、実は俺、彼女いない歴22年だ」


「では! 私が!」


「いや、部下に手を出したらパワハラやセクハラになるから」


「あ、そうですか」


「うん。気を付けないとね」


「本当に好きなんですが」


「ハハ、セーナ、冗談を言うなんて珍しいな。カツ丼を作るからセーナは向こうで待ってろ。よし! 作るぞ!」

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