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最終話 二人での初詣

 時間は23:00。そろそろ出かける時間か。防寒のために、手袋とコートを羽織って(はおって)、外に出る。


 外は相変わらず雪が降っている。しかも、ますます激しくなって来ている。足元にも雪が積もり始めていて、慎重に歩く必要がありそうだ。そんな雪も、今はこの不思議な時間のためにあるように思えてくる。


 歩きながら、『やきそばや』での出来事を思い出す。


 一緒にゲームをプレイしたこととか、三が日に、おばちゃんと彩ちゃんと僕の三人で登山をしたこととか。学校での愚痴を聞いてもらったり、反対に彩ちゃんの悩み相談に乗ったり。中学と高校での『やきそばや』での思い出は、こんなに僕にとって重要だったことを今更ながら実感する。


 待ち合わせ場所に近づくにつれて、初詣客が少しずつ増えて行く。そういえば、『やきそばや』の近くもこんなんだったっけ。皆、防寒装備は万全という感じだ。こうして行きかう人たちの間にも何かしらドラマがあるのだろうな。


 そして―


「さわたりさーん!」


 遠くから声がする。声がする方向を見ると、手をぶんぶん振っている。こんな人通りの中だと目立つだろうに。ちょっと苦笑いしてしまう。


 急いで、彩ちゃんの居るところに向かう。


「ほんっっっっっっと、お久しぶりです。沢渡さん!」


 タメが長いな。


「彩ちゃんも、ほんとに久しぶり。髪、切ったんだね」


 そんな挨拶を交わす。彩ちゃんは、ロングスカートにダッフルコート、厚手の帽子といった装いで、凄く温かそうだ。


「ちょっと、イメチェンしてみようかと思いまして。どうです?」


 くるんと回る彩ちゃん。僕よりもよほどはしゃいでいるようで、微笑ましくなってしまう。


「うんうん。可愛いと思うよ。似合ってる、似合ってる」


 帽子を取って、髪を撫でてみる。


「むー。子ども扱いしてませんか?」

「してないしてない。ちょっと彩ちゃんが面白かったから」


 そんなことを言い合いながら、笑い合う。


「沢渡さんは変わってませんね。2年前の時のまんまです」

「それって、褒めてる?」

「褒めてますって」

「僕なりに、身だしなみは気にしてるんだけどな……」


 その成果が出てるかは不明だけど。


「じゃなくて、かっこいいって意味です」

「え?」

「ですから、かっこいいって意味ですよ!」


 やけくそ気味に叫ぶ彩ちゃん。周りの目が気にならないのかな。


「ちょっと。周りが聞いてる、聞いてる」

「あ。すいません」


 慌てて声のトーンを落とす彩ちゃん。


「それで、かっこいいって……」

「そのまんまです。私がお世辞言ったりしないの、知ってますよね?」


 少し怒ったように言う彩ちゃん。


「いや、そうだけど。中高の頃、彩ちゃんには一回も言われた覚えが……」

「だから、照れ臭かったんですよ」

「そうだったんだ」


 全く気がつかなかった。


「だいたい、なんで、今更ラインで私がメッセージを送ったと思ってるんです?」

「僕と同じで、懐かしくなったんじゃ……」


 そう答えた僕だったけど、彩ちゃんは何やらぷるぷると震えている。


「……きだからです」

「え?」

「だから、好きだからですよ。沢渡さん、鈍いって言われません?」

「言われた覚えはないけど」

「はあ。まあいいですけど」


 少し、肩を落とす彩ちゃん。好意に気づかなかったのは悪かったけど。


「それで。返事が欲しいんですけど」

「返事?」

「告白したんですから、その返事に決まってます。YESですか?NOですか?」


 勢いに任せてまくしたててくる。こんなガンガン攻めて来る子だったっけ。

 ともあれ。


「僕で良ければ、喜んで。付き合おうか」


 返事をする。


「その。いいんですか。本当に?」


 信じられないようで、少し涙ぐんでいる。そんな様子もなんだか可愛らしい。


「僕も人並みに男だし。彩ちゃんみたいに可愛くていい子に言われて、NOとか言えるわけないよ」

「なんだか、口がうまくなってません?」


 じろりとにらまれる。別にそうじゃないんだけどな。


「それで、これからは彼氏彼女ってことでいいのかな?」

「私の方が聞きたいくらいなんですけど、それ」


 そんな風にして、僕と彩ちゃんは再会を果たしたのだった。


「そういえば、ちょっと気になったんだけど」

「なんですか?」

「なんで急に大晦日に友達に追加されたんだろうって」

「実は、あけおめのためにラインを始めたんです」


 少し恥ずかしそうに告白する彩ちゃん。別にラインをやっていなかったことを恥ずかしく思う必要はないと思うんだけど。


「でも、凄い偶然だよね」

「はい?それは、そうですけど」

「だって、僕が電話番号変えてたら、今こうなってなかったよ」

「あ!」


 言われて、彩ちゃんもその事実に気づいたようだった。


「確かにそうですね。ちょっと不思議です」

「まあ、電話番号変えるのがめんどくさかっただけなんだけど」

「せっかく、いい話だったのに、そんなオチですか」


 なんだか、微妙な表情になる彩ちゃん。


「そろそろ、初詣に行こうか」

「あ、そうですね。来年は楽しくなりそうです」


 わくわくしたように言う彩ちゃん。


「僕も同感」


 来年は彼女と一緒に過ごせるんだから。


「ですよね。でも、いきなりエッチなことはなしですよ?」

「しないってば。僕をなんだと思ってるの?」

「だって、サークルの新歓とか、そういう人居ますもん」

「あー、確かにね。そういう性質悪い奴も多いね」

「まあ、沢渡さんは信用してますけど」

「だったら、さっきの言葉はなに?」

「冗談ですよ、冗談」


 初詣の行列に並びながら、そんな取り留めもないことを話す。


 この物語の続きがどうなるかわからないけど。

 世の中は不思議な(えん)に満ちている。

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