表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 焼きそば屋

 彼女と初めて会ったのは、中学1年生の頃だった。当時の僕がなんでそんなことを考えたのか思い出せないのだけど、真夜中の神社で初詣(はつもうで)をしたいと思って、一人、大晦日の夜に家を飛び出したのだった。幸い、神社も近かったし、また一人息子が変なことを考えたぞ、と笑って見送ってくれたのだった。


 時間は23:30。初詣先の神社まで歩いて数分というところだ。しかし、寒い。本当に寒い。手元のガラケーで気温を確認すると、最低気温はなんと-5℃。こりゃ寒いわけだ。手をこすりあわせていると、道路沿いの建物から何やらいい匂いがしてくる。それに、明かりもついている。一体なんだろうか。


 いい匂いにつられて、建物に近寄ってみる。


「らっしゃい!兄ちゃん、焼きそばかい?」


 道路に面している窓から、威勢のいい声がする。人懐っこそうな顔をしたおばちゃんだ。


「いい匂いがするから、見に来ただけなんですが……」


 どうやら焼きそば屋らしいけど、なんでこんな深夜に?


「そうか。ま、寒いやろ。中に入りな」


 威勢のいい声と笑顔が特徴のおばちゃんに乗せられて、つい店に入ってしまう。外が寒いので、中の温かさにほっとする。椅子が5個あるだけのこじんまりとした店内で、ストーブで部屋を暖めているようだ。


「兄ちゃん、初詣かい?」

「はい。ちょっと、深夜に一人で行きたくなって」


 初対面のおばちゃんに何を言っているのかと思ったが、聞かれてもいいか。


「兄ちゃん、変わっとるな。これ、サービスな」


 鉄板でジュージューと音を立てていた焼きそばを、小皿に乗せて出してくる。


「ええと。ただで受け取るわけには」

「その内常連さんになってくれたら、ええから」


 受け取らないのも失礼だろう。そう思って、なんとなく箸をつける。


「おばちゃん!これ、凄く美味しいです!」


 感動のあまり、つい大声を出してしまう。


「うちの焼きそばは、ソースが決め手なんや。ま、企業秘密やけどな」


 おばちゃんは笑みを浮かべながらそんなことを言う。


「なるほど」


 今思えば、どこに企業秘密があるのかわからなかったけど。なんとなく納得させられてしまうパワーがそのおばちゃんにはあった。


 ふと、焼きそばのある鉄板の奥を見ると、僕より少し歳下らしき子が、僕をじっと見つめている。


「その子は?」

「ああ。(あや)はちょっと人見知りでな」


 しょうがないなという感じのおばちゃんの声。


「ほら、彩。挨拶」


 前に出て来た「あや」という名前らしい子はぺこりとお辞儀をして、


溝口彩(みぞぐちあや)といいます。よろしくお願いします」


 そう礼儀正しい挨拶をしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ