ワタシの生まれた意義
私がこの家に迎えられる前はとあるオモチャ屋の棚に飾られていました。
飾られていたのは当然私だけではなく、鼓笛隊の格好をした動物達の人形やテディベア、木製で足が車輪になっている動く馬のオモチャがあり、少し離れた所では絵本などもありました 。
私はその中でも高名な職人に作られた作品であるために、一人だけ特別に作られた売り場に飾られていました。
だからなのか、私は日々嬉しそうに買われていくオモチャ達が理解出来なかったのです。醜いものに買われ、ボロボロにされ、あげくの果てに捨てられる運命を受け入れる事は私には到底理解出来るものではありませんでした。だがなぜか買われていくもの達から満足そうな希望に満ちた姿を感じ、悔しさが浮かんできました。
私はある夜なぜ嬉しそう買われて行くのか、鼓笛隊の人形達に聞いてみました。蛙や犬の人形は「オモチャはそう言う物だからだ」と言われました。その意見に私が納得いってないという事を感じとったのか、リーダーのクマが「良いかい?子供達に笑顔と幸せを与えたいと言う作り手の願いによって私たちは生まれたのだよ。だから私たちは子ども達を幸せにしてあげる役目があるんだ。やっとその役目を果たせるスタートラインに立てたから喜んで旅立っていくんだよ」と言いました。
私は「笑顔ってなに?幸せってなに?私が知らないものを誰かに与える事は出来ないわ。」と言いました。
クマがどう答えようか悩んでいると
「幸せは人の数だけあるって私に書かれてあるからよくわからないけど、笑顔ならわかるわ。だって今の貴方の顔と私に描かれてある笑顔の挿し絵がそっくりだもの」と話を聞いていたらしい絵本が言いました。
私は『特別な自分に似ているのか、それはきっと良いものなのだろう』と思い、何と無くだけど理解できました。
運命とでも言うのか、買われていく理由がなんとなく理解できた翌日に私は今の家に迎えられました。
今では、ご主人が毎日鏡の前で私の髪をすく時間が一番のお気に入りです。
鏡に写ったご主人の顔を見たとき私の心は温かくなります。きっとこの気持ちが幸せなのでしょう。クマや絵本が言っていた事が何と無くでは無くしっかりとわかった気がします。ご主人も私と同じ気持ちを抱いてくれてると嬉しいです。
私の今願いは大事に末長く使ってもらうことです。このかたの孫の孫の代まで現役でいれたら嬉しいなって思います。そしてクマやご主人に教えてもらった幸せをご主人の子孫に与えてあげたいです。
なのでご主人、私が末長く現役でいられるようにこれからもいっそう大事に扱って下さいね。




