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小説

じゃんけんで負けて婚約していたが馬が合わなかったので婚約解消してくれて感謝します

作者: 重原水鳥

台風によって溜まったストレスを発散するべく書いた、【やまなしおちなしいみなし】小説。何も考えてないです。ただじゃんけんして男を押し付け合う姉妹たちとワイワイ言いあう姉妹が書きたかっただけです。とくにざまあもないです。あっさり終わります。

前半は女サイド、後半は男サイド

「婚約を解消してくれ」

「別に良いですわ」

「は?」

「……は?」


 ペネロープ・デュ・エイモズとルネ・ヌダム・トレノーは呆然と見つめ合った。


 場所は国の貴族たちの集う、社交パーティ。よって、その場には二人以外の人間が沢山いる。そんな場で婚約を解消するという重要なテーマを持ち出してきたルネには面食らったものの、ペネロープにとってその提案自体はウェルカムなものであったので、すぐ頷いた。けれどそれにルネが信じられない、とばかりの顔をしたのだ。

 近くにいる貴族の人間が何事かと二人に注目している。ペネロープは手に持っていたケーキの皿をそっとテーブルの上に戻してから、ルネと向き合う。


「何を驚いているのですか? 言い出したのはそちらではありませんか」

「いや、そうだが……」

「では正式な書類は後でお母様から送っていただきますので、それでよろしいですか?」


 ペネロープの家であるエイモズ家は、当主であった父が亡くなって久しい。よって現在はペネロープの母が当主を担っている。元々父は入婿であり、エイモズ家の血筋なのは母であったので、母が当主になることに対する文句はそれほどなかった。

 ああ、と虚ろな返事をするルネに、ペネロープはテーブルに置かれたケーキを取ると、ドレスの裾を揺らして婚約者であった男の場から去った。ペネロープが居なくなった後、ルネの元には一人の少女が近づいて来て、彼と何かを話していたが、ペネロープにとっては最早関係の無いことだった。


「いやだわいやだわいやだわぁ」


 少し場所を移動して新たな甘味を求めていたペネロープの耳に、聞きなれた声が聞こえる。顔を上げればまるで鏡で自分の顔を見たかの様に同じ顔をした女が立っている。サブリナ・デュ・エイモズ。ペネロープの実の姉妹の一人だ。サブリナの手は横にいる男性――彼女の恋人であるローランだ――に細い腕が回されている。


「ペネロープ、貴女今、婚約を解消されてしまったのよ。もう少し落ち込むとか怒るとかないの?」

「別に。ルネ(あのひと)の事を愛していた訳でもないもの」

「悲しいこと言うわぁ」

「そもそも、私にルネを押し付けたのはサブリナたちじゃない。私が引き受けたお蔭で、貴女今ローランと付き合えてるんだから感謝ぐらいしてよね」


 ペネロープがそういうと、サブリナは感謝してるわ、と言いながらローランにもたれかかった。ローランは愛おしそうに恋人を見つめ、その額にキスを落とす。それを見たペネロープはふるふると頭を振った。


「お幸せに」

「ジョジアーヌとルイザは庭にいるわ。教えに行ってあげたらぁ?」

「別に後でいいわよ、面倒臭いもの」

「やだぁ。先に教えておかないと、あとで文句言われるわよお」

「……それもそうね、ちぇっ」


 ペネロープは空になった皿を歩くボーイに託すとスタスタと、ホールから庭につながるドアに向かって歩き出した。

 庭にも多くの男女が集っている。その中に、サブリナほどではないものの、自分と似た顔をした娘たちを見つけると、近くのボーイに声をかける。


「あそこの席に三人分のケーキを運んでちょうだい」

「かしこまりました」


 準備は整ったと、ペネロープは姉妹たちに近づく。


「ジョジアーヌ、ルイザ」

「あら、ペネ。どうかしたの?」

「はぁい」


 ジョジアーヌとルイザは、ペネロープとサブリナのように全く同じ顔をしている。


 彼女たち四人は、四つ子の姉妹であった。母の腹の中で、一卵性の双子が二組一緒に育ったのだ。そうして生まれてきた姉妹たちは母の下で元気に育った。エイモズ家の四つ子は貴族の間でも有名だ。四人全員が美人であることもあるし、歌が上手いためでもある。芸術の盛んなこの国で、最も尊ばれているのが音楽だった。楽器の名人や歌の上手い人は、それだけで尊敬されるのである。


 庭で時間を過ごしていた人々は、どうやらホールで起きた騒ぎはまだ知らないらしい。なので純粋に、エイモズの四つ子の内三人がそろったことで注目を受けている。


「どうかしたのよ、だからここに来たんだから」


 ペネロープは席に着くと、ルイザの飲んでいたカップを奪って喉を潤した。「やだぁ、私のよ」とルイザが文句を言うが気にかけず先ほど起きた出来事を伝える。


「私、ルネとの婚約、無くなったわ」


 ジョジアーヌとルイザが驚いた顔をした。そして数秒、同じ顔を見つめ合い、またペネロープを見る。まるで鏡のような息の合った動きだった。


「やだ、どうして」とルイザが言う。

「彼から言って来たのよ、婚約を解消してくれって」

「信じられない」と言ったのはジョジアーヌだ。「婚約をしてほしいって言って来たの、彼じゃない」


 その言葉にペネロープは五か月前の事を思い出す。


 エイモズ家は美しい四つ子と彼女たちを女手で育て上げた美しく立派な女主人が有名だが、実質のところ貴族としての階級では下位。そんな彼女たちの元に、上位貴族であるトレノー家から婚約の話が転がり込んできた。基本的に結婚相手は己で見つけるように娘たちを教育していた母であったが、流石にトレノー家からの申し入れは無視できず、娘たちに話を伝えた。トレノー家が求めたのは己の家の子息つまりルネと「エイモズ家の娘」の婚約であり、四つ子のうちだれが良い、という注文は書かれていなかった。


「私、いやよぉ」と最初に声を上げたのはサブリナだった。


 この時、サブリナはとある音楽会で出会ったローランに思いを寄せており、彼の方もまんざらではなく、幾度かデートをし始めた所だった。確かに、ここで彼女がトレノー家との婚約を受け入れるためにはローランと別れねばならぬだろう。それは流石に可哀そうだと残りの三人の姉妹たちは思った。

 けれども誰も「私が」という声が出ない。それは当然で、トレノー家のルネと言えば音楽家のサロンにおいて、芸術に関心の無い男として有名だった。魂の奥底から歌と生きているようなエイモズ家の娘たちにとって、芸術に理解の無いような男と結婚するなど耐えられないことであったし、そうでなくとも夫がそんな男だなんてサロンでどのように言われるか、分かったものではない。


「私、いやよ」

「私も、いやよ」

「私だって、いやよ」


 三人はそう言って、暫くにらみ合った。そのまま数日経った。うやむやにでもしてしまおうかと話していた四つ子であったが、トレノー家から返事の催促の手紙が届いたことで腹をくくるしかなくなった。

 結局三人が選んだのは、運に任せるということだった。


「よい? 例え誰がトレノー家と婚約することになっても、恨みっこなしよ」

「ええ、もちろん」

「恨んだりしないわ。喚きはするけれどね」


 そう言い会った三人は握った右手を差し出した。誰がルネと結婚するのか? その決定方法は、――じゃんけんだったのである。


 このころ、貴族の令嬢の間で流行っていた演劇の中で出てきた異国の文化が、じゃんけんだった。演劇が流行ったことでじゃんけんも流行り、多くの令嬢がこれで物事を決めたりする姿が至る場所で見受けられた。

 それに則り、三人もじゃんけんで誰がルネと婚約するかを決めようということになったのである。

 サブリナの見守る中、三人は真剣な顔で握った右手を突き出す。


「ださなきゃまけよ」

「さいしょはぐぅ」

「じゃんけん……」


 ――その結果、ペネロープがルネと婚約することになったのであった。


 それから五か月。ペネロープとルネは、恋人としては赤点だろう関係を続けていた。まず、デート先の趣味が合わない。ペネロープが望むのは音楽会か、演劇等。一方でルネが行くのはどこかのパーティに行くか、家でのデート。勿論それらが悪い訳ではないが毎回それではつまらないし、ペネロープが誘って音楽会に行ってもルネは終始つまらなそうにして酷い時には寝入ってしまうのだからペネロープとしても嫌な思いしか残らない。

 この婚約を望んだのはルネではなく、彼の父親であるトレノー卿であることは分かっているが、これから夫婦となるのだとしたらこれほどかみ合わないのではどうしようもない。ペネロープの心はとうにルネから離れていた。結婚したとしても幸せにはなれない。そのうえ、もしかすれば歌を歌うことすら嫌がられるかもしれないと考えると、もうペネロープは震えあがってしまう(ルネは歌なんて何の役にも立たない、と言っていたのだ)。


 だからこそ、彼からの婚約解消という申し入れはもうそれはそれは嬉しい、いっそ彼に泣きながら感謝をしていいぐらいの事であった。流石にそれほど喜ぶのは外聞が良くないので、大人しく受け入れただけだったが。


(……そういえばあの後ルネに飛びついていた女性、誰かしら。私は知らない人だったわね)


 婚約を解消された時のことを思いだして、そんなことを疑問に思うが、もう関係のないことだから別に気にしなくても良いかと考えを切り替える。


「理由なんて知らないわ。でも向こうから解消してくれって言って来たのよ、ついさっき」


 ペネロープがそういうと、ジョジアーヌが目を丸くした。


「ついさっき? まさかこのパーティで?」

「もちろん」

「最低だわ。周囲に人が沢山いるところで、そんな話をするなんてどんな神経をしているのかしら。でもよかったわね、そんな男と結婚しなくてすむんだもの」

「全くよ」


 ニコリとペネロープは微笑む。このパーティは久々の大きなものだから最後まで楽しむつもりでいるが、終わったならすぐ母にこの件を伝えて正式に婚約を解消してもらおうとペネロープは思った。


 * *


 エイモズ家の四つ子。


 それはとても有名な、美人の四つ子だった。そのうちの一人とルネが婚約をすることになったのは全ては父の画策だった。

 父であるトレノー卿は、芸術になんの興味も示さないルネをとても心配していた。だからこそ、芸術性の高い女性と結婚させようと企んだのである。ルネからすれば酷いおせっかいだった。

 この国において芸術性の高い人間は尊ばれる。それをルネは知っている。けれども彼にとっては芸術よりも実学や剣を振るうということのほうがずっと面白いことだった。芸術ばかりして、何一つ役に立たない大人たちをルネは知っていた。だから、芸術()()なんの役にも立たないと彼は思っていたのだ。

 そんな青年が、歌を愛し、歌の神にも愛されたと言われている女性と付き合ったところで、上手くいくはずもなかったのだ。


 ペネロープ・デュ・エイモズは美しい女だった。学が無い訳でもない。けれども、最初に会った時から馬が合わないと感じていた。

 女の歌う歌はルネには耳障りだった。女が行こうと誘う音楽会はつまらなく、眠ってしまうものばかり。演劇はまだセリフがあるから起きていられるが、こんな作り物に喜ぶ女の気持ちが分からなかった。


 彼女と結婚しては息苦しいだけの日々になる。それを感じ、なんとか婚約を解消しようとルネは思った。ペネロープは何度もルネに声をかけて来る。恐らく、ルネを愛しているのだろう。それがルネ自身の人柄ならばよいが、家の格から考えてトレノー家という家柄を愛している可能性も高かった。

 だからルネは少しずつ彼女を遠ざけた。そしてある日は図書館、ある日は騎士団といった、ペネロープの来ることのないだろう場所に行くようになった。もしそこに彼女が現れたなら、それはペネロープがルネの人柄を愛しているということだろう。そうだったならば、死ぬほど趣味が合わずとも、なんとか夫婦としてやっていけるかもしれない。そう思ったが、ペネロープが現れることはなかった。


 そうして暫くして。ルネは一人の女性と出会った。騎士団で知り合った男の妹であった女性だ。貴族ではあるが、家の格が低いためにまだ結婚もしていない。昔から芸術の良し悪しが分からず、体を動かすことのほうが好きな、女性。

 まるでルネ自身だった。

 実際に会い、話す内にルネは彼女に惹かれていった。彼女も、ルネに思いを傾けてくれた。


 彼女とならば幸せな家庭を築けるだろう。そう思ったからこそ、ルネは決めた。ペネロープとの婚約を解消することを。


 トレノー卿は反対するだろう。ペネロープも嫌がるだろう。しかしそれぐらいで揺らがないような強い決意をし、ルネは婚約を解消することにした。

 ――彼には人の心の機微がいまいち理解できていなかった。だからこそ、パーティホールという無関係の人間の多い場で、ペネロープに対して婚約解消を言いだした。

 ルネからすれば、人が多ければペネロープが見苦しく喚くことはないだろうと思っていた。そこまでしか思いは行っていなかったのだ。


 そうして告げた解消の意思は、ルネの予想とは裏腹に、あっさりと受け入れられた。

 ペネロープは立ち去り、ルネが呆然としていると、愛しい女性がそっと肩に触れた。


「大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

「彼女はなんて……?」

「俺の自由にしていい、ということだった」

「まあ……! それは良かったわね」

「ああ、よかった」


 ニコリとほほ笑んだルネは、帰った後に父から怒鳴られたが、頑として婚約を解消するという意思を譲らなかった。パーティの次の日には早くもエイモズ家から婚約を解消する旨、そしてそれを言いだしたのがルネであるという手紙が届いてしまい、トレノー卿も仕方なしに二人の婚約解消を認めてくれた。しかしその腹いせか、正式に恋人となった女性との新たな婚約は認めてくれなかった。

 頭の固い父親だとルネは息をついた。

■ペネロープ・デュ・エイモズ

 エイモズ家の四つ子の一人。歌が上手い。美人。

 じゃんけんで負けてルネと婚約することになった。結婚することになるなら仲良くなろうとは思っていたがあまりに趣味が合わないのでこりゃ無理だと思ったら向こうから破棄しようと言ってくれたのでラッキー。

 イメージ的にはミュージカル映画の世界で歌ってるタイプ。


■ルネ・ヌダム・トルノー

 芸術に興味がない。別にそれだけで悪人な訳ではない。だがちょっと周囲の人間が抱える感情を読み間違えたりはしていた。

 イメージ的にはミュージカル映画を見てて「なんでこいつ歌いだすんだ」と思ってしまうタイプ。


■サブリナ・デュ・エイモズ

 四つ子の一人。ペネロープと同じ顔。美人。歌が上手い。ローランという恋人がいる。


■ジョジアーヌ・デュ・エイモズ

 四つ子の一人。ルイザと同じ顔。美人。歌が上手い。


■ルイザ・デュ・エイモズ

 四つ子の一人。ジョジアーヌと同じ顔。美人。歌が上手い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 正直、男女ともに別に好きだったわけでもなく、政略結婚も薄いのだから当然こうなるわなとは思う。 好きでもないのに婚約継続するほうが悪い。 まあ切り出す場所は全面的に悪いが。 割とはっきり言う…
[一言] さぁ、続きを書くのだ!
[一言] 私もミュージカル世界の唐突に歌い出す感じは確かにむず痒い感じはしますけど、婚約者の男は芸術に関心がない以前に、人としての感性が欠落しているようにしか見えない。思い上がりも甚だしい勘違い男過ぎ…
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