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頬が乾く頃

作者: 銅爆


 まだ少し、涼しさを残した風が頬を撫でる。

 先刻降った俄雨のせいか、やけに肌寒く感じた。

 家に干したままの洗濯物の事を思うとやるせない気持ちになる。

 今頃、森の木々や草花と同様に酷く濡れてしまっているだろう。


 やるせない。


 ……この気持ちが、洗濯物を濡らした雨のせいで無いことは、とうに知っている。

 だが、この雨のせいにして、全て流しきってあの青々とした空のようになりたいと──。


 ふと、差す影。


 見れば、また大きな雲が空を覆い始めている。

 まるで、私の心を読んだかの如く。

 天気にまで気を遣われる女……笑える。


 屋根や軒もない細々とした路地の真ん中。

 濡れた地面から、湿った匂い。

 濡れた後の地面の匂いは、どこか、懐かしい感じがして。


 振り払うように、胸ポケットからタバコを取り、咥える。


 ライターを取り出し、火をつける。

 ジッという小気味のいい音と共に、タバコに火がつく。


 ──すぅ、と鼻から抜けるタバコの煙。


 私は、嫌いだ。タバコの煙が、味が、匂いが、嫌いだ。


 一息。吸い込むと、吸い慣れたタバコの味。


 やはり、嫌いだ。


 どうにも好きになれない、この味。

 だが、これじゃないと、ダメだ。

 これ以外は、ダメ。

 どれを吸っても、これ以外、私が満たされることは無い。

 タバコなんて、どれも同じと思っていたはずなのに。


 あぁ、私はいつからこんなにも弱くなってしまったのだろう。


 思うのも束の間、先刻降ったよりも幾分か酷い雨が辺りを打ち付ける。

 せっかくつけたタバコの火が、だんだんと消えていく。


 雨が止み、完全に火が消えた頃、私の嫌いな味もまた、消えた。


 風が、頬を撫でる。


 濡れた体は、よく、冷える。


 打って変わって晴れた空を見れば。

 白く、大きな入道雲が、やけに綺麗に見えた。


 携帯灰皿にタバコを押し込み、ポケットにしまう。


 路地を、一人、歩く。


 通り抜けるように、風が吹く。

 湿った地面の匂いも、風と共に、抜けていく。


 顔から、顎を伝い、雫が一つ、落ちる。


 私は、この季節が──。

 


短めですが、御容赦を……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 大変遅くなりましたが、企画より参りました。 好きだからこそ大切だからこそ嫌いで手放せない、何とも矛盾に満ちたタバコの香り。彼女が吸っていたタバコの銘柄は、かつて肌を重ねた恋人が好んでいたも…
[良い点] 雨が降る前、降った後の独特の匂いと、消えゆくタバコの匂いとが合わさってなんとも哀愁漂う雰囲気を感じました。 [一言] 大変遅いですが、企画より拝読させて頂きました。 どうしてこの匂いじゃな…
[良い点] とても哀しみの伝わるよい文章でした。 心情の描写がよく表現できていると感じました。
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