おめでとうと嘘を吐く
ー素直で一生懸命なところが好き
それが彼の口癖でした。
「別れよう」
そう切り出したのは私でした。
きっかけは彼の浮気。
浮気と言っても口だけの浮気。
ただ自分じゃない女の人に
「好きだ」
と言っただけ。
まぁ、付き合いたいとも言ったらしいけれど
そんなことは正直どうでもよくて
ただ漠然と『裏切られた』
そう思ってしまった私は子供だったのだろう。
彼と出会ったのは高校3年生の夏。
憧れだった人と付き合えた私は
付き合っているという事実だけで
毎日が幸せだった。
それが長い大学生活を経て社会人にもなると
少なからず慣れというものが生じてくるわけで
彼と些細なことで頻繁に喧嘩をするようになった。
いつからだろうか。
小さな幸せでは満足できなくなったのは。
いつからだろうか。
会うことに疲れてしまうようになったのは。
そんな彼が今日結婚する。
相手は私の知らない人。私とは正反対の人。
何処で出会ったのか、どうしてその人だったのか
分からないことばかりの私だけれど
それを聞いた時に少なからずショックを受けたのは
きっとそういうことなのだろう。
素直で一生懸命なところが好き
そう言ってくれた彼に
精一杯の嘘を吐きます。
「おめでとう。幸せになってね。」
と
初の短編小説です。
恋愛って難しいですよね。