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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『結』 chapter 002
9/40

玉依の焦燥 plus 櫻子 × 肆



 此処(ここ)櫛名田(くしなだ)家の洋館2階、櫻子(さくらこ)の部屋だにゃ。


 今、ワガハイは部屋の主である櫻子(さくらこ)と、何故(なぜ)だか相当本気ガチマジ実戦(バトル)に突入しそうになっておる―――

 それを(にゃん)とか誤魔化(ごまか)(なだ)めすかして、無益な衝突を回避するべく懸命に知恵を振り絞っておるところであるのだが……。


「あらぁ、それは(おそ)れ多いことですわねぇ。 星系軍きっての知将(・・)と世に聞こえた ティマイヨ・レイ特務中佐 直々(じきじき)懸命なる(・・・・)ご対応だなんて。 ですが生憎(あいにく) 幾らお知恵を振り絞られたところで、この状況は変えられませんわよ (たま)さま…… じゃない、<T・M・S>さん?」


 ふぅ…… というようにコイツは、ネコの姿であるワガハイのような『動物』やら『植物』やら―――

 要は、人間型以外のモノたちの『心の声』を聞くことができるという、非常に厄介(やっかい)…… あ、いや… とっても素敵(ステキ)な固有の異能(ジン)を持っておるのだにゃ。


 であるからして、ワガハイの思考などはもう コイツの言葉を借りれば『赤裸々(せきらら)に筒抜け』なのだそうであるにゃ。

 まぁ、そのことが引き金となり、今のこの特異な状況となってしまっておるのであるが。


「はぁぁ…… だからもう (たま)さまぁ…… 」


「お、どうした櫻子(さくらこ)、トイレタイムにでもするか?」


「だぁかぁらぁぁぁあ! (なっが)いんですってば! (たま)さまのお話…… いえ、心の(つぶや)きはぁ!!!」


「おっと、こいつは失敬」


 ふぅ、(まさ)怒髪(どはつ)(てん)()くといったところだにゃあ。

 そんなに怒らんでも良かろうに―――


 って、んん?

 あー、そうか…… もしかするとこうなった直接の原因は、心を読まれてしまったから云々(うんぬん)といったことではにゃく、そもそもの『ワガハイの思考形態や話の長さ』の方にあった…… ということなのかにゃ?


 と、ワガハイが ふと思ったところを櫻子さくらこがすかさず読み取り、それが取り敢えず大いにまとていたようで―――


「まぁ! その通り! (たま)さま(えっらぁ)い! ワタクシ、久々に感動致しましたわ!」


 笑っとるし――― (にゃん)だその目まぐるしい感情の移ろいは…… 情緒不安定な娘め。


「ほ… ほぅ そうか、それは良かった。 ではこれからはその辺りのことを心に留め、鋭意努力するところであるからして…… この部屋には自由に出入りしても良いにゃ?」


「あぁ…… そうでした――― 本題はそっちでしたわ……。 もう少しで(たばか)られるところでした」


 そう言って櫻子さくらこは、落胆した様子でうつむき ゆっくりと首を振る。


「ですのでたまさま、今後一切(いっさい)この部屋への出入り 及び 長考(ちょうこう)長話(ながばなし)等々を禁じます。 あと、ワタクシの所有する本やゲーム、そして特に『うるわしの双子(キリかし)ちゃんフィギュアたち』に触れたり、ましてや話しかけたりといった怪しげな変態行為も同様です」


 いや、別に(たばか)ったりなどしてはおらんし…… それに何故(なぜ)か、禁則事項がいろいろと増えてしまっておるようなのだが……。


「それと何度も言うが、『双子(ふたご)どもの幼女人形(フィギュア)』とやらの件は全くの誤解、()(ぎぬ)だからにゃ――― てか『変態』言うにゃ」


 ふぅ…… まぁいずれにしろ、あまり余計な話の整理などするものではないにゃあ。

 墓穴を掘って面倒事(めんどうごと)がこれ以上増えては(かにゃ)わん。



「しかしアレだなぁ櫻子(さくらこ)よ、先程までは怒りで全く聞く耳を持っておらんかったオマエが、どうやら少しは落ち着いてきたようだにゃあ」


「はぁ? ワタクシはずっと冷静ですわよ。 でもまぁ、この闘いを今更やめようなどと言われたところで、もうこの胸には溶岩マグマのように()に燃える熱い心が (たぎ)りまくってしまいましたから、そうそうやめられるものではございませんわ!!」


 て、のりのりかよ。

 全く…… 外ではいつも大人(おとな)()淑女面(しゅくじょづら)をしておるくせに、血の気の多い娘だにゃ。

 いや、しかしそれでも(にゃん)とかしてやめさせにゃいといかん。


 今のコイツの煽情的(せんじょうてき)かつ未熟で(たが)が緩んだ、()わば加減を知らぬ状況での異能(ジン)の解放は、正直非常に洒落(しゃれ)にならん結果しかもたらさんであろうからにゃ。



「ふーんだ! まぁ確かに、(たま)さまが今お心の中で(おっしゃ)られた通り、ワタクシはまだ異能(ジン)(ぎょ)するための『(たが)が緩く』、そして大層『未熟』なのであろうことは 自分でも充分承知しておりますわ」


 そして櫻子(さくらこ)は、ワガハイの攻撃を警戒して一度は中段に構えていた『光の薙刀(なぎなた)』を またお気に入りの八相(はっそう)に戻し、そして不敵な笑みを浮かべる。


「ふふ、ですが(たま)さま…… いえ <T・M・S>さん? 先程ワタクシが厳重に張り増しさせていただいた、この部屋の多重異次元結界――― それをあやまって内側から破ってしまうなどといったことがないよう、異能(ジン)の解放加減を調整して相手(アナタ)だけ(・・)し斬る……。 その程度の芸当であれば、如何(いか)に未熟なワタクシとて 造作(ぞうさ)もないことですのよ?」


 はぁぁぁ…… コイツはやっぱり―――


「ふん、やはり全くもって論点がずれておるようだにゃ…… オマエは(にゃに)も解っておらん。 ワガハイが案じておるのはにゃ、結界が破れてこの部屋の外に影響が及ぶかどうかなどという、そんなつまらんことではにゃいのだ」


「あらあら、何やら思わせ振りなことを。 ではいったい、何をご懸念されていると(おっしゃ)るのです?」


「それはにゃ、ワガハイとオマエの――― 『生き死に』のことだにゃ」


「えーっと…… はい?」


 櫻子(さくらこ)は、少し怪訝(けげん)な表情を浮かべる。


「では逆に問うが…… まさかオマエ、この結界を『自分が加減しないと破れてしまう』程度のものだとでも考えておるのか?」


 この強固過ぎる結界を『内から破らない程度に加減する』だなどと―――

 (みずか)らの異能(ジン)の強さを、攻防ともに完全に見誤(みあやま)っておること(はなは)だしいにゃ。


 これ程の位相膜結界を内側から破るのに、一体どれ程の強力な異能(ジン)が必要か。


 恐らくは、相当な手練(てだ)れが放つ波動や火力でも、そうしたモノら複数名での全力(full force)解放(attack)による一点突破が必須―――

 それを明確に目論(もくろ)み、全員が息を合わせた上での集中攻撃でもって、(ようや)く僅かに一点の(ほころ)びを入れられるかどうか……。


 そして更にそのかん、攻勢異能(ジン)を放つモノと同数か またはそれ以上の守り手が、結界から跳ね返ってくる熱や衝撃を 守勢異能(ジン)によって防ぎきる―――

 

それこそが、この狭い結界内で(ようや)くにして たった一回分(・・・・・・)の攻撃ターンをしのぎ、(にゃん)とか生き延びるための最低条件となる。


「要するにだ、この強固に閉じられた狭い空間の中で攻撃側――― つまりオマエ(・・・)が、その『加減』とやらを一歩間違えれば、結界がどうこうなる以前に、中におるワガハイたちの方が二人揃って黒焦くろこげ…… もしくは血塗(ちまみ)れのスプラッタ地獄ということだにゃ」


 いや…… (にゃに)のこっておれば、まだ良い方かもしれんがにゃあ。



「え…… (たま)さま、もとい<T・M・S>さま、それって…… 本当なんですの?」


 櫻子さくらこよ、それだと『サマ』が(かぶ)ってしまっておるがにゃ。

 あと、その微妙な呼称(<T・M・S>)、イマイチ定着しておらんのなら もういっそ やめてしまえにゃ。


「ああ、本当だにゃ。 オマエが張る結界の強靭(きょうじん)さと(たく)みさは相当なものだ。 『宇宙最高水準(ユニバースクラス)』と言っても良い。 しかしそれ程の技量を持っておるとは言え、実戦経験の全くにゃいオマエが 攻撃において幾ら『加減する』などと言っても…… 正直ワガハイは 恐ろしくて仕方がないにゃ」


 櫻子(さくらこ)は、恐らく自身の持つ異能(ジン)の強さを見誤(みあやま)り、相当に『過小評価』しておる。

 もしもコイツが、この空間の中で感情に任せた異能(ジン)を一度でも解放してしまったら……。


 当然ながら、この強力な結界は壊れることもなく、しかもこれ程の結界を張れるモノが放つ『力任(ちからまか)せの波動』が、よもや微小脆弱(びしょうぜいじゃく)なものなどであろうはずもにゃい。


 そして、密閉されたこの狭い空間の中におるワレらには全く逃げ場がなく、攻撃を受けるワガハイのみならず、放った側の櫻子(さくらこ)自身にさえも甚大じんだいな衝撃と被害をもたらすであろう。


 つまりは、互いにとって『ロクなことににゃらん』ということだにゃ。



 ここでようやくにして、室内に充満していた胸苦(むなぐる)しい『あつ)』が、少しだけ緩んだような気がした。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 表玄関付近―――


鷺山さぎやま八上やがみ様、まことに申し訳ございません。 櫻子さくらこお嬢様は、只今(ただいま) 少々立て込んでおりまして…… 」


紀理江きりえ 「そう…… なんですか。 さくらちゃ… 櫻子さくらこさんにお呼ばれして おうかがいしたのですけれど…… 」


鷺山 「本当に申し訳ございません。 お部屋にはいらっしゃるのですが、いつお会いになれるかが解らない状況でして…… 」


弓弦ゆづる 「あれ? 紀理江きりえちゃんじゃないか、いらっしゃい。 櫻子さくらこに会いに来たのかな? それともたませんせ…… おほん! 猫のタマ君に会いに?」


紀理江 「ひ ひゃぃい!? ゆゅ… 弓弦ゆづるさん!? ごごご… ごきげんよう…… です。 あー… いぃぃえ、あの…… ささ さくらちゃん… さんに よば… 呼ばれて遊びに…… いえ、ぉお お勉強をしに、うぅ うかがいましたぁ!」


弓弦 「そうかぁ。 でもあの二人…… いや 一人と一匹は、今ちょっと手が離せそうにないんだよ――― ねぇ、鷺山さぎやまさん?」


鷺山 「はい、まだもう少しかかりそうな状況です、弓弦ゆづる様」


弓弦 「だろうねぇ、何をやってるんだか。 うーん…… あ そうだ、取り敢えず ボクの部屋で少し待ってみるかい? お茶でもれてもらうよ。 それに桐子きりこちゃんや柏子かしわこさんも居るようなら呼んでさ」


紀理江 「え… えぇ? ぇぇえーーー!? ゅゅゆ… 弓弦ゆづるさんの、ぉお お部屋にぃ!!? ととと…… とんでもないですぅーーー!!!」


弓弦 「昔馴染(むかしなじ)みなんだし遠慮しないで。 第一 こちらが呼んでおいて、このまま帰すわけにもいかないしさ。 鷺山さぎやまさん、桐柏キリかしちゃんたちは?」


鷺山 「桐子きりこ様はお部屋にいらっしゃいます。 ですが柏子かしわこ様は…… 」


弓弦 「はは… この混ざった感じ、やっぱりそうかぁ。 で、あとは…… お祖父じい様に… 龍岡たつおかさん? へぇ、こいつは豪儀ごうぎで興味深いなぁ。 お父様あたりが面白がりそうだ」


鷺山 「はい、先程 霞が関へお出掛けになられましたが、大層 きょうがお乗りのようでしたわ」


弓弦 「あはは… だろうね。 じゃあ鷺山さぎやまさん、すみませんがボクの部屋に紅茶を三つお願いできますか? 桐子きりこちゃんはボクが呼びに行くから大丈夫」


鷺山 「かしこまりました。 それでは八上やがみのお嬢様、上着はこちらでお預かりを」


紀理江 「は… はは はいぃぃ――― (やだもう、なにこの展開!? こうなったらどうか、さくらちゃんの用事がずぅーーーっとこのまま終わりませんようにぃぃぃ!!!)」


弓弦 「ん? 紀理江きりえちゃん、何か言った?」


紀理江 「ぃい いえ! な… なんでもありまっせぇーーーん!!」


鷺山 「それでは、どうぞごゆっくりなさってください」


(はぁ… なんだか初々(ういうい)しくて可愛らしいわぁ……。 ワタシも今となっては大昔に、一度でいいからこんな恋をしてみたかった……。 いいえ、でも うらやましくないうらやましくない! ――― はぁぁぁ…… 今日は白鳥しらとりでも誘って、いつもより多めにんで帰ろう…… )






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