表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『結』 chapter 002
8/40

玉依の焦燥 plus 櫻子 × 參



 此処(ここ)櫛名田(くしなだ)邸の屋敷地内、洋館2階の櫻子(さくらこ)の部屋―――


 とは言え、今は大仰(おおぎょう)な結界が幾重(いくえ)にも張られており、普段のそれとは随分と かけ離れたおもむきだにゃ。


 しかも櫻子(さくらこ)が言うには、どうやら成り行き上(・・・・・)…… ということであるらしいが、ワガハイとコイツとの間で、どうにも物騒な事態になりかけておる。


 全く…… 困ったものだにゃ。



「でねぇ、(たま)さま――― ちょっと想像してみて?」


 おっと、本題に来たか。 どうせいろいろと怒られるんだろうにゃあ……。 まぁ、今の笑顔もなかなかにコワイが。


「ふむ、ワガハイは心を読める訳ではにゃいが…… まぁ オマエが言わんとすることは、だいたい解る気がせんでもにゃい。 よし、取り敢えずオマエの言いたいことを、先に言ってみてくれんかにゃ」


 あぁーあ、(にゃん)でワガハイがこのような目に…… もういっそ、天にでも召されたいにゃ……。



「うん、ありがとう(たま)さま。 それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」


 櫻子さくらこはそう言うと、相変わらずの無機質な笑顔から一変、今度はしんから無表情な面持(おもも)ちになり言葉を続ける。


「でですよ? 帰ってきてみたらワタクシの(・・・・・)お部屋で、お(しゃべ)りする老猫が(ひと)りぶつぶつと理屈を()ねっくりまわしながら、床に食べ物やら本やらを散々(さんっざん)にとっ散らかしまくりやがっておられ…… 」


 えーと、櫻子(さくらこ)さん? 言葉の言い回しがその…… 若干おかしいかにゃ?


「それに! そもそもいつだって(たま)さまはワタク… シの…… え? ――― きゃぁあああっ!!!?」


 櫻子(さくらこ)が突然、長い黒髪を振り乱して その場から少し()退()く。


 一体何(にゃん)だ? ――― って、あぁ…… コイツ(・・・)にゃー。


 櫻子さくらこの足元には ねずみ型の某試作機(・・・・)が、ちょろちょろと動き回っておる―――

 ん? いや待て…… 『動き回って』おる…… だと?



「だからもぉーーー!! コレ(・・)はいったい何なんですの? おもちゃ? まったく、お(いく)つになられるんですか アナタはぁ!!!」


「うん、ソイツは自律式ねずみ人形(ロボ)の『ネズ子さん』だ。 ワガハイとはもうかれこれ…… 5日程の長い付き合いになる」


 ひぃ! だから櫻子(さくらこ)ってば、眼がコワイんだにゃ……。


「だいたいこんなもの、いったいどこで買ってきたんですか!」


「いや、それは葉月(はづき)が作ってくれてにゃ…… 」


「く、お母さま…… はぁぁぁ……… …ぁ……ぁぁ…… … 」


 だからにゃあ…… そんな(しぼ)り出したような長い溜め息とともに、絶望感に(さいな)まれた超絶的無表情とか…… やめてくれよコワイから。


「それよりも見ろ! このネズ子さんはにゃ、全身がソーラーパネルになっておって、簡単な人工知能(AI)も組み込んである。 だから ちゃんと自分で()の光を探して、充電などもしっかりとこなすのだ。 また 屋敷地内だけでなく、この街全体の地図や三次元地形データが隅々(すみずみ)まで詳細にインプットされておるによって、自分で随時 様々な学習をしながら、行動範囲もどんっどん拡げていくという…… なかなかに優秀で()いヤツなのだぞ? そして更にだ、ワガハイを視認 もしくは生体反応で感知すると、その場で即座に逃げるか戦うかを状況によって的確に判断して…… 」


もう結構(・・・・)


 ――― はいはーい。



「でぇ! ワタクシがお部屋に入ると、面妖(おっか)しな老猫が ただひたすらに取り留めもなく陶酔(とうすい)気味ぎみに――― それも何故(なぜ)だかワタクシの命の次に大切な『双子(キリかし)ちゃん人形(フィギュア)』たち…… プラス、えーっと…… 『ねず公さん』? ……に向かって、また長々(なっがなが)とつまらないお説をお()れ流しになっておられ――― それって、状況として如何(いかが)なものでしょう? ねぇ、どうなのヤバくない!?」


 いや、ワガハイ――― 実際には声は出しておらんかったはずなのだがにゃあ…… ほら、今のように。


 そしてそもそも、こうしてほんのちょっと考えただけのことが、コイツには即座に()として聞こえてしまうのであるからして―――

 つまりは、こういったニアミスは ある程度仕方がない(・・・・・)のではにゃいかと……。


 あと、コイツの言う『大事な双子(ふたご)どもの幼女人形(フィギュア)』のことなど、全くもって預り知らんぞ。

 たまたま近くに置いてあっただけであろうが。

 と言うか、ワガハイもそこまで()ってしまってはおらんわ。


 あぁ それとなぁ櫻子さくらこ、『ねず公』ではなく『ネズ子さん』にゃ。


 ―――――― みし……… ギ… ギキ……… ぴしぃ!!


 ん? (にゃん)か部屋中で妙な音が聞こえた感覚があるのだが―――

 それに櫻子(さくらこ)、肩で息をしてどうしたにゃ?

 顔も赤いし…… いろいろとつまらん事を考え過ぎて、知恵熱でも出たか?


(たま)さま…… やはりいっぺん、お宇宙そらを跳び越えた『アチラの世界』に()ってみられた方がおよろしいようですわね……。 あと、『知恵熱』は乳幼児が発症するやつですから…… 」


 出た、そのコワイ笑顔のやつ。

 はぁ…… しかし (こと)ここに至っては、もうやる(・・)しかないのかにゃあ……。



「と言うか、そもそも以前から言ってますわよね!? このお部屋は、ワタクシの『聖域』であると。 そうそう、何でしたっけ? 『ワレらの聖域を(おか)すものには? 如何(いか)なる手段をも(いと)わずにチカラ(・・・)を行使して(まも)る』 ……とかなんとか。 であればワタクシも、『実効排除』という手段に打って出ても一向に構わない……… そういうことですわよね?」


「にゃ、(にゃ)(ほど)にゃぁ。 うーん、つまり――― 要は その(にゃん)だ…… ()(てい)に言うと、それはワガハイを所謂(いわゆる)…… 」


「はい。 現時刻(ひとなな)をもって、(たま)さまをワタクシの『敵性体』と認定致します。 これより対象を<T・M・S>と呼称しますわ。 さぁ、やりましょう! 今ここで! 存分に!!」


 何か 急に楽しそうだな、櫻子(さくらこ)よ……。


 でも、やはりかぁ―――

 まぁ 遅かれ早かれ、コイツとはこうなる運命さだめであったのかも知れんにゃあ……。


 ん? <T・M・S> ――― <タ・マ・サマ>?

 敵性体認定でも ちゃんと『さま』を付けてくれておるとは、律儀なことだ…… 興味深いにゃ。


「ちょっと…… またお心の声が うっさいですわよ! さぁ、(たま)さま…… お覚悟を!」


 呼称、<T・M・S>じゃにゃいのかい。



 それにしても――― 異次元性の位相空間をこれ程までに幾重(いくえ)にも薄く張り重ね、多重結界層膜として いとも簡単に現出させてしまうとはにゃ……。


 また 櫻子(さくらこ)のヤツは驚くべきことに、この部屋の内側全体を結界層膜で覆う際、その一枚一枚を室内の凹凸(おうとつ)や、床に置いてある様々な物体にギリギリ()れない形状で立体的に沿わせ、そうすることによって一切いっさいの次元干渉を起こさせることなく、効率的に室内を覆い巡らせておるのだ。


 そして更に、その柔軟性と流動性たるや―――

 ネズ子さんの『動き』に合わせて、そこに(かぶ)っておる何層もの結界膜を 動的にその都度(つど)同調し変容させてくるとは……。

 さすがのワガハイも相当に驚かされたぞ。


 しかも、ただでさえ精巧かつ強力であった結界障壁が、当初よりも更に厚くなった。

 恐らくは 何層かの異次元空間の膜を、先程のたった一瞬で全く同じ形状に張り重ねたのであろう。


 たった薄紙一枚分程の隙間(すきま)で、幾重(いくえ)にも張り重ねられた極薄(ごくうす)の多層異次元の位相膜が、それぞれの局所的な接触や摩擦によって焦げ臭いにおいを発し、また(とき)に あちこちで小さな彩閃光を放っておる……。


 この恐ろしく強力 かつ緻密(ちみつ)で不安定な結界は、もう展開した櫻子(さくらこ)自身にしか解除できんであろうにゃ。


 そしてもし仮に、コイツと闘った相手…… 今現在の状況で言うと このワガハイが、この中で櫻子(さくらこ)を倒してしまったら……。


 恐らく この結界のバランスは一気に崩れ、中に()るワガハイも ただでは済まんだろう。

 もしくは…… 展開した術者を失い、二度と解けなくなった結界の中で野垂(のた)れ死ぬ…… か。


 『術者が死ぬと魔法や呪い そして結界などの効力が消滅して めでたしめでたし』…… などという世迷(よま)(ごと)は、所詮(しょせん) 物語の中だけの『お気楽なご都合主義』に過ぎんからにゃ。



「あら、今日はまた随分と よくお()めくださるのですね、嬉しいですわ。 でも…… 相変わらずお話が(なっが)ぁぁぁい!!!」


 まずいにゃあ…… 折角(せっかく)持ち上げてやったのに、逆に怒らせてしまったか。



 そしてその瞬間、櫻子(さくらこ)の手には (みずか)らの背丈よりも長い『光の薙刀(なぎなた)』が現出しており、それをすかさず 攻撃特化の八相(はっそう)(かま)える。


 やれやれ…… (あい)も変わらず、防御不要(ノーガード)で攻めの一択(いったく)か―――

 普段の(たたず)まいに似ず、闘いとなると攻撃一辺倒(いっぺんとう)なヤツだ。

 そんな構え、突きをくらえば それでもう(しま)いではにゃいか。


 (にゃん)だかんだと言って、所詮(しょせん)はワガハイが相手だという『甘え』が見える――― そんな闘い方だにゃ。


 と、この心の声も 勿論(もちろん)コイツには聞こえておるはずなのだが…… 特に反応がにゃい。


 そうか…… どうやら今は怒りで、ワガハイの声などには全く聞く耳を持っておらんという訳だ。

 仕方にゃい、ワガハイも(みずか)らに一時的な生体強化と防護障壁の術式でもを(ほどこ)しておくとするか。

 痛い思いをするのは、ご免だしにゃ。


 あとは武器や防具として、実体化させた『光の長苦内(ながクナイ)』を右刃(みぎやいば)かまえにて(くわ)え…… 更に『光翼(こうよく)(たて)』を、まぁ 取り敢えずは左肩にでも(まと)わせておくとするか。



 櫻子(さくらこ)の方は表情こそ変わらないが、気から来る圧と波動が 先程にも増して強くなってきておるようだ。


 いかんにゃあ…… コイツに潜在する異能(ジン)の強さは、やはり相当なものだ。

 だが如何(いかん)せん それを発する情緒も、また発せられた異能(ジン)を制御する力量も まだまだ全くもって未熟過ぎる。


 このままだと互いに、単なる『じゃれ合い』では本当に済まなくなるにゃあ…… さて、どうしたものか。


 (にゃん)とか、この状況の(あや)うさを訴えたいところではあるが…… もうワガハイの声は、届いておらんようだしにゃあ。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく過日かじつたん



 過日、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館2階 北東の間―――


弓弦ゆづる 「あれ? お母様、何なんです それ?」


葉月はづき 「おぅ 弓弦ユヅルくんかぁ、よぅお越しぃ♪ コレはなぁ、自律式偵察型ロボットの『窮鼠きゅうそくん-001』ゆうねーん」


弓弦 「えっと…… ネズミ型の… 偵察ロボット? なのかなぁということは何となく解ったのですけれど…… どうして『窮鼠(きゅうそ)』なんです?」


葉月 「ほうほう… さっすがは弓弦(ユヅル)くん、よぅ気付いたなぁ。 ふっふっふー 実はコイツ、万が一 テキさんに見つかった時はな? 鋭く研ぎ澄まされたはがねの前歯で めっさ噛付かみつきよんねん。 (イッタ)いでぇー!」


弓弦 「は、はぁ…… 」


葉月 「ほんでなほんでな? 事前に薬液おクスリ筐体きょうたい側に仕込んでおけばや、麻酔マスイでもドクでも 好っきなもんをテキさんらぁに注入できるよう、上手いコトなってんねん コレが~。 ま、ウチが作ったんやけどな? ふふん…… どや、すっごいやろ!?」


弓弦 「えぇっと…… まぁ、すごいかと言われれば すごいのでしょうけれど……。 でもそんなの 国際法や人道的見地からして、『アリ』なものなんですか?」


葉月 「んーーー、そんなん知らん」


弓弦 「でしょうね…… 」


葉月 「いや ちゃうねん! だって他の国なんかやと、もっっっとエゲツないもんも平気で使つこてるしやなぁ。 まぁアレや、『みんなで渡ればコワないでぇー』言うやっちゃ。 あっははー 」


弓弦 「そう…… なんですか。 と言うか そんな機密きみつっぽいロボット、そもそもボクが見てしまって大丈夫だったのですか?」


葉月 「え? あーーー、そう言われてしまうと ほんまはアカンかったかも。 じゃあアレやわ、適当に忘れといて。 でぇ、もしどぉーーーしても忘れられんようやったら…… せめて あんま人に言わんといてー 」


弓弦 「え…… あ はい、もちろん誰にも言いませんが……。 と言うか、この国の防衛機密って そんなユルユルなんですか?」


葉月 「いんやぁ、意外とキッチリしとって厳しいようやけど? んでもまぁ、大丈夫やってぇー! だいたいコレな? 何日か前からテストがてらタマやんに持たせて外で遊ばせとったんやけど、駅前の商店街のおばちゃんら みーんなで囲んで、えっらい騒ぎやったでぇ…… って、 ぶ! あっはぁー、さっすがにちょーっとヤバかったかなぁ!? ヤダもー どないしょー。 ぶふーーーっ! あーっはっはっは!! 受っけるわぁー ほんま、弓弦ユヅルくん ヤルなぁ! アンタ、珍しくおもろかったでぇ!!」


弓弦 「相変わらずめちゃくちゃだ…… て言うか ボクは何もしてないし。 まぁ、程々でお願いしますね」


葉月 「あいあーい。 ん… せや、それよりな? 今度コイツでタマやんにみつかせてぇ、薬品おクスリの効き目の方も実験したろかなー とか思てんねんけど…… 弓弦ユヅルくんも見たい?」


弓弦 「いえ 絶対に関わりたくないので、ボクが不在の時でお願いします」


葉月 「なんや~、弓弦(ユヅ)っちはノリ悪いなぁ。 あ… ほならアレや、アンタも寝とる間に コイツめっさませたんでぇ~ 」


弓弦 「いやもう お母様、本当これ以上巻き込まないでください。 そうだ、ボクの分はたま先生か櫻子(さくらこ)が全て身代わりで引き受けますよ」


葉月 「アンタ…… そういうトコは相変わらずやね。 我が子ながらちょっと怖いわ」


弓弦 「いや、お母様にだけは言われたくないですし」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 玉様の焦り具合が尋常でないと思ったら、ごまかせるに越したことはない状況だったのですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ