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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『結』 chapter 002
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玉依の焦燥 plus 櫻子 × 貳



 …… にしてもだ、実際 何故(なにゆえ)ワガハイが こんなつまらん()に…… やれやれ、もう泣きたいわ。


 って、ん? (にゃん)だ、この違和感は?

 泣き(・・)… たい……… いや、なき… 鳴き(・・)たい…… のか!?


 いや…… いやいやいやいや!

 ワガハイは(ネコ)ではにゃいのであるからして、『鳴く』はなかろう…… 一体 (にゃーに)を言っておるのだ。

 まーったく、ワガハイとしたことが…… にゃあ?


「おーい、(たま)さまー 」


 落ち着け落ち着け…… そう、ここはあくまでもヒト(・・)らしく、堂々と男泣きに泣いてやろうではにゃいか―――


「ふ… ふぐ…… ぐくく………… えぐぅ…………………… ん? んん~?」


 ほう… うーん、困った…… 泣き方が解らんぞ。

 って そうか、幾ら心に傷を負ったとて、そもそも今は泣いてなどおる場合ではにゃいわ。

 ふむ… いかんぞ、これはいかん。


「あのー、(たま)さまってばー 」


 むぅ… それよりもどうしたら、『()』この場を(うま)く切り抜け (のが)れられるか…… その一点を まずは考えるのだにゃ―――

 そう、この最悪かつ凶悪な…… 動植物専門(・・・・・)の『読心能力』を持つ『無自覚サイコパス(むすめ)』からにゃ。


「あ、やっと戻ってきた…… と思ったら――― いったい何なんですの? このクソ猫はぁ……。 はっはぁぁぁーーん? 無自覚ぅ……? サイコパスぅーーー? ふぅぅぅーーーーん」


 マズイ! いろいろと考えてはダメだ! 全て(さと)られておるのであるからして―――

 てか櫻子(さくらこ)ぉ、眼がにゃ…… ワガハイを見下ろす、そのお(めめ)がコワイんだにゃあ……。


「はぁぁぁぁ…… (たま)さまぁ、さっきから訳の解らない世迷(よま)(ごと)を、もぅ うっだうっだうっだうっだとぉ…… 」


「ひぃ! コワ!? い… いやぁー、さ 櫻子(さくらこ)ぉ… さん……。 あ あんまし、怒るにゃよにゃあー あっはは……。 おぉ、そうだ いかんいかん! そう言えば挨拶あいさつが まだだったではにゃいか~、これはうっかりうっかりぃ…… はは… は。 い… いやぁ、お… おぉっかえりぃ 櫻子(さぁくらこ)ぉ。 ふふん…… えぇーーーっと、そのー(にゃん)だ…… おほん! あー… 今日はなかなかに、はゃ… 早かったにょにゃ… だな、のなにゃ」


 ―――――― ()んだ。


 いかん…… 頭の中を全部読まれていると思うと、もうどうして良いか解らなくなってきたにゃ。

 無理に自然なふう(よそお)おうとする程に、ギコチなさが余計に際立(きわだ)ってしまうしにゃあ…… とほほ。


「え…… あらまぁ (たま)さま!? 『とほほ』って…… ワタクシ、実際に聞いたのは初めてですわ!」


 いや…… 急につまらんところで、さっきまで完全に死んでおった(まにゃこ)を いきなり輝かせるにゃよ。

 取り敢えずこっちは今、全然(ぜんっぜん)それどころではにゃいわ。


「あーはいはい…… 『とほほ』でも『よっこいしょーいち』でも、もう(にゃん)でも聞かせてやるにゃ……。 てか、心の中で思っておるだけで、口には一切いっさい出しておらんのだがにゃ…… 」


 と ここで急に、櫻子(さくらこ)のヤツが少しだけ怪訝(けげん) かつ真面目(まじめ)な顔付きになる。


「えーっと、(たま)さま? 前からずっと気になっていたのですが…… (うかが)っても(よろ)しいでしょうか?」


(にゃん)だにゃ」


(たま)さまって、これまでに数千年もの間 世界中を巡ってこられたという割に、何故(なぜ)だかこの国の…… えーっと『昭和色?』的な部分が随分(ずいぶん)と色濃いんですのね…… 」


「ふん、何かと思えば…… ほっとけ。 単にここ数十年間の記憶や(くせ)が記憶に新しいだけだ」


 はぁ… しかしそれにしても、言われてみれば全くだにゃ……。

 いや、くだらん『昭和色云々(うんぬん)』の話ではなく―――


 もうかれこれ4000年以上を生き、そして3000年近くも この地球星アルドの世界各地を巡り……。

 その間に、何度かは『神』とまで(まつ)り上げられてきたこのワガハイがだ―――


 こーんな、昨日今日生まれてきたが(ごと)き 尻の(あお)(ちろ)い小娘なんぞに気圧(けお)されておるとは、全くもって 忌々(いまいま)しいやら情けにゃいやら……。


「尻の(あお)(ちろ)い…… 小娘…… 」


 ――― ぎろり


「ひぃっ!」


 暗殺者のような眼で見下(みくだ)し見下ろす櫻子(さくらこ)の顔を見上げると、無機質だった笑みに若干の色味が着いたように見えた―――

 勿論(もちろん)良くない方(・・・・・)の色が……。


「ご自分のお歳に見合わない精神年齢の低さとデリカシーのなさをしこたま(・・・・)棚の上にお上げになって…… ワタクシに対しては随分(ずいっぶん)な評価ですわねぇ」


 ふむ…… まぁ確かにコイツの言う通り、ワガハイも少々大人げないところが無くはにゃいと、多少自覚はしてはおるが―――

 でもソコはほら、ワガハイはこの屋敷のマスコット的存在な訳であるからして……。


「はぁいぃぃぃぃ!?」


 ダメだーーーー! ちょっと頭の中を(かす)めただけのことが全て包み隠さず、コイツの脳内には まさ逐一(ちくいち)『ダダ()れ』だ!


 あぁ…… もう本当、お宇宙(そら)(かえ)りたいにゃ……。



 しかしここに来て、櫻子(さくらこ)は急に疲れでも出たのか()きたのか、いずれにしろ 表情が一旦落ち着きを取り戻す。


「ふぅ、でもまぁいいか……。 これでは話が全く先に進みませんものね。 うん、(たま)さま…… 取り敢えず ただいまー。 今日は生徒会も部活もございませんでしたから、早く家に着きましたよー 」


「そそ、そうか。 じゃあアレだな…… んーと… そう、他のヤツらも早く帰ってくれば、め… めしの時間が…… 時間も、早くなるからして…… その、よ よろ… 喜ばしいにゃ!」


 あー 何とかこの機に乗じ、せめて話題を()らせたい。

 ん? いや そうか、櫻子(さくらこ)には当然 この心の声も聞こえておるのであろうからして…… いかん、いかんぞ。


 そのー(にゃん)だ…… あーっと、(にゃん)ですよ? あのー、有耶無耶(うやむや)にして上手いこと逃げたいとか、適当(てきとー)誤魔化(ごまか)して 無かったことにしたいとか……。

 いやもう決して、決してそういった(よこしま)なことを(くわだ)てている訳ではなくてですね―――


 て、ワガハイは心の中で『敬語』使って、一体何をしておるのやら。


 「ふぅ、全く やれやれだにゃ…… 」


 なぁ、櫻子(さくらこ)ぉ、聞いてるか?

 もうワガハイには無理だ、誤魔化(ごまか)しきれん。

 ほら、この通り…… 降参だにゃ。


 で、どうする?


「 ………………………………………。」


 もう(あきら)めて心の声で呼び掛け始めたワガハイに対し―――

 櫻子(さくらこ)は ジトっとこちらを見下ろして、その表情を変えぬままに切り出す。


(いさぎよ)い…… などとは、とても言えないようなご思考(・・・)の経過を存分ぞんっぶん拝聴(はいちょう)させていただきましたが……。 でもまぁ、これがもし逆の立場だったらと思うと、それはさすがにワタクシでも怖気(おぞけ)(ふる)うような状況ですわね…… お察し致しますわ」


 櫻子(さくらこ)はここでひと息つき、(けん)のあった表情をまた少しだけゆるめて笑みを浮かべる。


「解りました――― ではまぁ…… (たま)さまの その不運に免じて、まずは話を元に戻しましょうか。 で、(たま)さま? これから始まる糾弾(きゅうだん)と弁明…… そして場合によっては、この多次元位相膜結界の中での熾烈(しれつ)な攻防……。 お覚悟の程は如何様(いかよう)ですか?」


「いろいろと引っ掛かるところはあるが、まずは話し合いから始めてもらえるというのは嬉しいにゃ。 それにしても、こんな大事おおごとになるようなことなのかにゃ」


「本当…… 事程左様(ことほどさよう)に――― 成り行きとは、まこと奇異(きい)なるものですわね」


 櫻子(さくらこ)が無機質な笑みを浮かべてそう言うのに合わせ、空間自体の圧や磁場が ぴしり(・・・)偏重(へんちょう)した。

 同時に全身が総毛立ち、強い耳鳴りが襲う。


「ほぅ…… 結界を更にあの上から張り増ししたのか、大したものだにゃ」


「あら、これは珍しくおめに(あずか)り…… 光栄ですわ」


 一応(・・) 話し合いのていを成すとは言え、取り敢えずワガハイのことは逃がさん…… とでもいったところか。


「ふふ…… 」


 ふん、なかなかに(すご)みのある笑みを浮かべおる…… 残念ながら、話を()らすことは出来なさそうだにゃ。


 それにしても…… この中でこのままじゃれ合う(・・・・・)ことにでもなれば、ちょっと洒落(しゃれ)にならんぞ。

 櫻子(さくらこ)め…… これを機会にワガハイを使って腕試しとでもいうつもりか。

 一体どうしたものやら。


「うふふ…… お夕飯の前に一汗(ひとあせ)かきましょうか、(たま)さま。 一手ご教授の程、お頼み申しますわ」


「はぁぁぁ…… 」


 やれやれだにゃ。


 時刻は午後4時半…… 頃のはずだが、何しろ部屋の内側全体に張られた位相膜結界が厚く 光の偏光や屈折がひどいため、窓の外の()の高さも計れない。


 ふぅ…… つまらんことで、大層な話になったにゃ……。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 表玄関付近―――


猿倉さるくら刀眞とうま様、お車のご用意が整っております」


刀眞とうま 「ああ、今行く――― すまねぇな。 ところでよぉ、さっきからいったい何なんだこれぁ?」


猿倉 「は……? 何――― と、申されますと?」


刀眞 「いやぁ、この屋敷ん中のギシーっとした感じってぇかよぉ…… って、あーーー そか。 いや 何でもねぇよ、忘れてくれ」


猿倉 「? はい…… えー それでは、正面でお待ちしておりますので」


刀眞 「おう。 じゃあ みんなぁ、ちょっと察庁さっちょうの方に行ってくるわ」


鷺山さぎやまかしこまりました――― あの、刀眞とうま様…… 」


刀眞 「鷺山さぎやまさんか、どうしたぃ」


鷺山 「先程来の波動流出の件でしたら、先刻よりすで槍慈そうじ様が御自おんみずからお立合い下さっておられます。 また、中隊長である龍岡たつおかも 及ばずながら助力申し上げております」


刀眞 「そうか…… ん、情報ありがとよ、助かったぜ」


鷺山 「いえ、こちらこそ ご報告が遅れまして、申し訳ございません。 あと、どうやら柏子かしわこお嬢様もご一緒のようで…… 」


刀眞 「ほう? そいつは…… おもしれぇなぁ。 で、桐子きりこのヤツは?」


鷺山 「龍岡たつおかからの連絡によりますと、桐子きりこお嬢様はお部屋においでだそうです」


刀眞 「へぇ、だが アイツが感知できてねぇはずはねぇから…… ふん、それはそれでおもしれぇな。 解ったよ、じゃあ 後はよろしく頼むわぁ」


鷺山さぎやま 犬山いぬやま 鴨山かもやま 「はい、お任せを。 行ってらっしゃいませ、刀眞とうま様」


(ふん、ツブぞろいのコイツらん中でも感知できてるのは…… 龍岡たつおか鷺山さぎやま、あとは虎丸とらまる白鳥しらとりってぇとこ…… か。 にしてもだ、ちと櫻子さくらこのヤツが張りきり過ぎのようだが――― まぁ 親父も付いてくれてるようだし、今回は任せちまっても良いかぁ。 てぇかよぉ…… あの二人は全く、きもせずによくもまぁ……。 だが、たまにゃこういうのも 面白(おもしれ)ぇから良いやな)






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