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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『結』 chapter 002
6/40

玉依の焦燥 plus 櫻子 × 壹



 それにしても迂闊(うかつ)であった―――


 屋敷の中を探索しているうちに、(みずか)らの思索の深みに()まり…… それが寄りにもよって、一番やばいヤツ(・・・・・)の部屋で(おぼ)れてしまっておったとは……。


「いや、だから(たま)さま…… 心の中のお声がね、(あい)も変わらず ワタクシにはもう全部ダダ()れなわけですよ。 しかも話長いし……。 て言うか、『やばいヤツ』ってワタクシのことですの? あと『クォーター宇宙人』って(なぁに)?」


 そして言葉の最後に小声で低く、「だっさ」と聞こえた気がする。

 正直、非常にこう…… 「なかなかどうして」な状況だにゃ。


 それにしても、『(ネコ)は汗をかかない』などとよく聞くが―――

 実は今現在、ワガハイの(ひたい)・首筋・背中・脇の下、そして特に四肢しし末端まったんの肉球あたりからは、次々と(おびただ)しい量の変な汗が 滝のごとく吹き出してきておる。


 おぉ! ということはやはり、『ワガハイは(ネコ)ではない』ということになるようだにゃ。


 いや、今はそんなことはどうでも良い。

 近代の著名な文豪の作品名を雑にパロっておる場合ではにゃいわ。


「うゎ、そうだったのですか…… それはかなり引きますわね、ださ」


 …………………………。


 ふぅ、そうかそうか…… (にゃ)る程(にゃ)る程。

 考えたことが すべからく筒抜け過ぎて、ワガハイもう泣きそうだにゃあ。


 そう、この櫻子(さくらこ)固有の異能(ジン)の一つに、『動物の心の中が読める』というものがあるのだ。


 ワガハイは姿かたちが、この地球星(アルド)に生息する『(ネコ)』なる 超絶的に愛らしい小動物に近しいせいか、まんまと心の中の全て(・・)が もう見事(みごと)に読まれまくりなのであるにゃ。


「あぁ、(たま)さま…… もう本当、清々(すがすが)しいほどに気色悪い(おもむき)の 素晴らしき勘違い的ご思考まっしぐらですわね…… 」


 櫻子(さくらこ)は わざとらしく肩を(すく)め、ゆっくりと首を振りながら言う。

 (あわ)れむような(さげす)むようなその目は、(にゃん)とも言えない冷たさでワガハイを見下ろしていた。


「まぁ、(たま)さまの(むな)しくも(かな)しい自己陶酔(ナルシズム)についての全否定と糾弾(きゅうだん)は あとにするとして…… 」


「おーい」


「前段の『ワタクシ固有の異能(ジン)』についてのご認識に関しましては 少し語弊(ごへい)があるようですので、ここで訂正させていただきますわ」


 そう言って櫻子(さくらこ)は、「こほん――― 」などと勿体(もったい)つけて咳払(せきば)いなどをしてから、(えら)そうに語り始めた。

 何か腹立つにゃ……。


「えーっとですね…… そもそもワタクシ、心を読んでいる(・・・・・)のではなく、人間以外の全ての生き物の思考が もう頭の中に勝手に流れ込んでくる(・・・・・・・)…… という方が正しい表現かと思いますの」


「あぁそうか、そうだったにゃあ。 で、それは今でも(うま)く制御しきれておらんのか?」


「ええ…… ここ数年で(ようや)く、虫や植物程度の(かす)かな思考であれば かなりの至近距離であったとしても、こちら側からその(ほとん)どをシャットアウトできるようにはなったのですが…… 」


「ふむ、ある程度のサイズの動物系となると、なかなかに難しい…… ということか」


「はい。 特に(たま)さまのように、まるで人間のつもり(・・・)ででもあるかのような イキった(・・・・)思考をなさる奇怪きっかいな生き物などである場合は特に。 そうですわね…… 半径5mの範囲であればもう余裕で、本当にかなり赤裸々(せきらら)な感じで…… 」


「待て待て…… えーっとだ、櫻子(さくらこ)よ。 いやまず、ワガハイはそもそも『人間気取りの…… イキった? 奇怪きっかいな? ()』なのではにゃく、あくまで『猫っぽい感じの人間(・・)…… ヒューマン(・・・・・)(たぐ)い』であるからしてだにゃ。 そこのところは努々(ゆめゆめ)間違えてくれるにゃよ?」


 てかもう、自分で言ってて(すで)に 腹立たしいやら情けにゃいやら。


「と、それよりもだ――― もうひとつ、非常(ひっじょー)に聞き捨てならんかったのが『有効範囲』の話にゃんだが…… 『5m』って、まじでか」


「うん、まじ」


 ほぅ…………… うん…………………………。 うん? ……… あれ?

 え…… えぇぇぇーーーーー!!!?


「ぃ…… いやいやいやいやいや! それはいかんだろう~~~!!? もうワガハイ、プライバシーとか一切(いっっさい)ないではにゃいかぁ!!!」


御愁傷(ごしゅうしょう)様でございます」


 櫻子(さくらこ)非情(ひじょう)に かつ非常(ひっじょー)に美しい姿勢で、ワガハイに向かって丁寧(ていねい)にお辞儀をしておる。

 うん、なかなかに良い所作(しょさ)だにゃ…… って いやいやいや、お辞儀されても。


(ちな)みにですが、対象が見知った個体(・・・・・・)である場合、その『存在』だけを感知するのでしたら、範囲は約10倍――― 50m程にまで拡がりますわよ♪」


 始めはこの固有の異能(ジン)について、まるで『厄介(やっかい)な長年の悩み』のように話していた櫻子(さくらこ)であったのだが―――

 ワガハイが苦悶(くもん)動揺(どうよう)する様子に気を良くしたのか、今は少し得意気な口調になってきておる。

 (にゃん)だコイツ。


「おい、オマエ…… やけに楽しそうではにゃいか」


「まさか、とんでもございませんわ。 だって、家族で(つど)っている時など 常に(たま)さまの面妖(おか)しな思考が、もうそれこそ()()もなく 不躾(ぶしつけ)に流れ込んでくるんですのよ?」


 櫻子(さくらこ)はそう言うと、「やれやれ」とでも言わんばかりの 少し大袈裟(おおげさ)な溜め息をつき、首をふるふると横に振ったりなどしている。


 くそ…… 櫻子(さくらこ)め、さっきからなんかやっぱり腹立つんだよにゃあ その態度。

 いや、それにしてもだ―――


「え、だがそれってつまり 食事(めし)の時にゃんかも…… 」


「ええ、『塩辛しおから(うま)い』だの『舌を火傷(やけど)した』だの『魚の(うろこ)(のど)に貼り付いた』だの…… とにかくそうした いろいろな しょうもない(・・・・・・)お言葉は、全部(ぜーんぶ)聞こえてますわ」


「じゃあ、風呂の時とかも…… 」


「ワタクシがちょうどたまさまのお部屋の近くにいる時などでしたら、どこを洗っておられるのかも明確に。 やだもぅ、気持ち悪い…… おぇ」


「まさか、寝てる時とかは…… 」


「どんな夢をご覧になっているかも解っちゃってますわよ? 残念ながら『SOUND ONLY』ですが」


「あの…… それっていつから………… 」


「ワタクシが生まれてからずっとですので…… もうかれこれ16年?」


 ちーーーん…… 終わったにゃー。



「 …… って、まーじーでーかーーーーー!!? え、いゃだから…… てか、そそ… そういうのオマエ、もっと早く申告しろよにゃー!!!?」


「えーっと? いえ…… こちらは別に、さほど気にもならなくなりましたので。 何しろワタクシが生まれてから もうずっとですし。 すっかり()れちゃいましたわ。 てへ☆」


「こっちが気にするんだにゃ!!! てか、『てへ☆』言うにゃ! もー、このー…… あほー……………… ぐじゅ」



 はぁ…… もう、ただっただ ひたすらに泣けてくるにゃ……。

 うーん…… しかし、さすがのワガハイでも ちょっとすぐには立ち直る自信がにゃい……。


 ん? いや まさかこの事…… 槍慈(そうじ)のヤツも把握(はあく)しておった…… などということはあるまいにゃ―――


 え、いやちょっと待て…… この家で知らんかったのが そもそも当事者であるワガハイだけ(・・・・・・)…… とかだったりしたらどうしよう―――


 いやいやいやいや、さーすーがーにーにゃー!?

 ……………………………… にゃ?

 んーーーーー、うん さすがにそれは…… にゃい…… はずだ。


「えーっと、(たま)さま、そのことなのですが…… 」


「待て! 何も言うにゃ!!」


「は、はぁ…… 」


 よし、それについては考えまい。

 もしも万が一、そんな事実まで発覚してしまったら―――

 もう今にもワガハイ、ポッキリと折れてしまいそうだしにゃ。


 いやしかし、それにしてもだ…… 4000年以上も生きておって、恐らくは生涯一番と言って良い程の衝撃であった。

 トラウマなどを通り越して、もう精神汚染レベルの重大な傷害(ダメージ)を負ったぞ―――

 そう、精神(ココロ)の深ぁぁぁい部分ににゃ。


 ふん…… 全く、なかなかやるではにゃいか。

 この貧相(ひんそ)な東洋の小娘めがぁーーー!


 ――― びしぃっ!


 な、なにゃ!?


「はぁ? 今、いったい何を考えやがりましたの? このド(ぐさ)れ小動物は…… 」


「あ… いかん、また余計なことを心の中で口走ってしまったにゃあ――― ごめんにゃさい…… 」





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館2階 桐子(きりこ)の部屋―――


コンコン(ノック音)


龍岡たつおか桐子きりこお嬢様、居られますか? 紅茶をお持ちしました」


桐子きりこ 「ふにゅ…… あ、はぁーーーいぃ。 入っていぃよぉー 」


龍岡 「失礼します。 おや…… これは申し訳ございません、お休みでしたか」


桐子 「うん、でもなんか お部屋がピシーってなってて寝にくかったからいいんだー 」


龍岡 「ほぅ、周囲に何か違和感(・・・)を感じておられたのですね?」


桐子 「それはわかるよー。 だってぇ、耳の中がこんなにギューってなればさー。 サクラねえさまだよねー、コレ」


龍岡 「成る程、これは驚きました…… 流石さすがでございますね、桐子きりこお嬢様。 展開元の当事者までお解りとは」


桐子 「えー? だってサクラねえさまのカンジだし…… あ、タマ先生せんせも? なにしてアソんでるのかなぁー?」


龍岡 「遊び……。 はは、いや確かに そうかもしれませんな。 はい、みょうです」


桐子 「どんなだったか、あとでカシワちゃんに聞こぉーっと。 それより今日の紅茶のメイガラはなぁにー?」


龍岡 「え? あ、は…… はい。 えーーー、ドイツから今朝届きました ロンネフェルトです、桐子きりこお嬢様」


桐子 「いいかおりだねー! 龍岡たつおかさん、いつもありがとー 」


龍岡 「いえ、どう致しまして――― 」


(これはこれは…… 柏子かしわこ様が向こう(・・・)に居られることを、すでに感覚で察知なされているということか? いや、さすがに驚いた…… と言うより、少しばかり狼狽うろたえてしまいましたよ、このワタシが…… )


龍岡 「ふふ…… 」


桐子 「ん? えへへー。 ……………… ???」






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