表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『結』 chapter 002
5/40

玉依の概説 plus 櫻子 × 零



 ワレワレは――― おおむ宇宙人ウチュウジンだ。


 『宇宙人』などという呼称は あまりにも(ばく)とし過ぎており、ワレワレからすれば(はなは)だ不明瞭 かつ意味不明ですらあって、(まさ)噴飯(ふんぱん)ものの表現ではあるのだが―――

 今の地球星(アルド)人には、まだこの方が端的たんてきで解り易いであろうと思い、()えてこの語を(もち)いておく。


 また、ワガハイの方も『(おおむ)ね』などという煮え切らない副詞(ふくし)をつけて言い切りを避けた理由は主に2つ。


 まずは1つめの理由――― 現在、この屋敷の中には 目視(もくし)可能な程度の体躯たいくと質量を有する動的生命体が、使用人たちを除いては 全部で9体 ()み着いておるのであるが、その全て(・・)所謂(いわゆる)『宇宙人』という訳ではないからだ。


 コイツら――― いや、ワガハイも含めてであるから…… そう、ワレら(・・・)は『櫛名田(くしなだ)の一族』である。


 当 櫛名田(くしなだ)家は、都内某区を東西に走る私鉄の沿線―――

 その中の『神在町(かんざいまち)駅』より徒歩10分程の場所に居を構える一族で、此処(ここ)いら辺りでは『旧家』として 多少名が知られておる。


 何しろ、ワレらがこの地にみ着いてから およそ450年程にもなるのであるからして、短命な地球星(アルド)人たちの尺度からすると、まぁ なかなかのものであろう。


 そんな櫛名田(くしなだ)の一族のうち、1体は間違いなく純度100%の宇宙人である。

 それがワガハイの長年の…… そして恐らくは永年の相棒(・・)だ。


 しかし別の1体、その相棒の息子(・・)にあたるモノなのであるが―――

 ソイツは何というか、この星の人間とのハイブリッド…… つまり『ハーフ』と言えば解り良いだろうか。


 そして、その子供(・・)ら4体が更なるハイブリッド…… 最近はそういうのを『クォーター』とか呼称するのであったか。


 (ちな)みにソイツら4人は、この星の基準でいうところの『未成年』であるため、それぞれの年齢に応じ、この島国の教育機関に日々足繁(あししげ)く通っておる。


 そして更に別の2体――― 彼女(アイツ)らは、ワガハイの相棒と その息子の配偶者たちなのであるが、もともとが宇宙人ではなく、一応(・・)この星の人間だ。


 まぁ、月の裏側で諸々(もろもろ)の生体強化や遺伝子の多重化構造改変等の施術を受けておるので、それでもワレワレ程の寿命や身体能力は見込めないにせよ、恐らくあと5000年や6000年は 共に生きていけるであろう。


 また、彼女アイツらは(はなは)特異(・・)な精神構造の持ち主らであるからして…… いや、あくまでも『良い意味で』なのだが、ワレワレも最早もはや、アイツらを「地球星(アルド)人だ」などとは全く思っておらん。


 まぁ、相当に面妖(おか)しなヤツらなのだが…… 子供らにとっては、さばけた良い母親をやっておるのではないかと思う。

 異能(ジン)の使い方も、なかなか(うま)くなってきたようだしな。



 さて、多少話がれたが…… そう、『(おおむ)ね』などとして言い切らなかった2つめの理由。


 それは他でもない、このワガハイが 宇宙()ではないからである。


 現在の名を玉依たまよりと発する、漆黒(しっこく)毛艶(けづや)見目麗(みめうるわ)しいこのワガハイであるが―――

 いやさ言うに及ばず、勿論(もちろん) 異星系由来の希有けうな高等生命体である。

 そうであるには違いないのだが―――


 まぁ何だ、ワガハイはその…… 所謂いわゆるこの星の生物的分類でいうところの…… “CAT”―――

 つまりはそう、『(ネコ)』という生き物に近しい形状や生態であるらしいからなのだ。


 従って、宇宙(じん)ではなく、宇宙(ネコ)…… ということにでもなろうかにゃ。



 ◇



 そんなワレワレ――― 櫛名田くしなだの一族であるが、中でも最古参は、やはりこのワガハイということになる。


 この星に来て、もうかれこれ3000年近い時が流れた。

 初めの頃は 独りエジプト辺りで暮らしており、その後 今で言うところのインドや中国などにあたる地での使命を逐次(ちくじ)(まっと)うしながら、およそ東向きにこの星を順繰(じゅんぐ)りと巡り周り―――


 そして今から450年程前に、この『東方の島国』での暮らしが始まった。


 それまではずっと単独で行動しておったワガハイが、初めて別の個体――― そう、先程言った 今の相棒(・・)と協力関係を結ぶことになったのも、この時からであるにゃ。


 ワレらは、それぞれの時代の様々な場所で、みずからに課せられた行うべき事(・・・・・)…… ()わば『使命』を、都度粛々(つどしゅくしゅく)とこなしてきた訳であるのだが―――


 そうした各々(おのおの)の詳細はひとまず割愛(かつあい)するとしても、まず大前提となる『日々の暮らし』の基本スタンスは、とにかく『出来得る限り周囲に()け込み 普通に暮らす』ということであった。


 言い換えると、要はまず『宇宙人だとバレないこと』が第一義であり、あとは『異能ジンをやたらと不用意に使うな』、『抜け駆けはしてくれるな』…… といったような感じであろうかにゃ。


 それはまぁ当然の話で、ワレワレの持つ あらゆる方面や意味での『チカラ(・・・)』は、この星にとって 未だ影響力があり過ぎるのだ。

 それ(ゆえ)に…… 政治や経済、テクノロジーの発展や種の進化、そして何より『精神の次元昇華』等々―――


 まぁそういった、この星の大局的独自性とその成長過程に、むやみやたらと干渉するのは至極マナー違反…… いや、全宇宙に仮棲かりすまう全てのモノたちにとって、共通の『禁忌きんき』なのである――― 今の時代はにゃ。


 そのことは、ワレら櫛名田(くしなだ)に限らず、ほとんどの『宇宙人』たちにとって、今や共通の基本理念であると認識しておる。


 であるからして、ワレらがみだりにそうしたチカラを行使することは、基本的にはにゃいし、あまり表立(おもてだ)った活動を積極的に行うこともにゃい。



 但し、ワレワレが『使命』と定める事柄を、遅滞(ちたい)遺漏(いろう)なく円滑に遂行する上で、何らかの障害となり得る懸念けねんや事象が発生した場合には、勿論(もちろん) 適宜てきぎ効果的にそれを行使する。


 また万が一、『ワレらが目立たず普通に暮らしていくこと』に対し、それを微塵みじんでもさまたげるような 何かしらの事態が発生した場合には―――


 如何(いか)なる手段やチカラの行使をも辞さず、可及的(かきゅうてき)(すみ)やかに解決し沈静化させ、そしてその後は全力でもって、それら案件の隠蔽化(いんぺいか)を図る―――

 そうしたスタンスを(むね)としておるんだにゃ。



 そして、そんなワレらの現在の『使命』―――

 それは、今 ()んでおるこの地…… 広さにして約1500坪程の この屋敷地の範囲を、ある幾つかの理由により、ただひたすらに『絶対死守』することなのである。


 ワレらが()まうこのエリアは、上空から地中深くに至るまで、この地球上で唯一無二ゆいいつむにの、『絶対的不可侵聖域 < Absolutely inviolable sanctuary > 』であると、強く認識されたい。


 であるからして、この地がほんのわずかでも(おか)されるような事象が発現・出来(しゅったい)した場合には、その元凶が何モノであろうと…… 例えそれが、地震や台風などの自然現象であったとしても―――


 ワレらは如何(いか)なる犠牲をも(いと)わず あらゆる手段を講じ、(みずか)らの持つ『チカラ』の全てを行使する。


 それにより、例え個々の命や、場合によってはワレら一族の存亡までをも(おびや)かす事態になろうとも…… そのような些事(さじ)鴻毛(こうもう)よりも軽しとする覚悟である。


 またもし仮に、この『聖域』を無事(まも)り抜くことと引き換えに、今やワレらとて多少の愛着さえ感じ始めている この美しい『東方の島国』を、例え(ことごと)く滅ぼしてしまうことになるのだとしても―――

 手段が他ににゃいとするならば、ワレらはその方策を躊躇(ちゅうちょ)なく選択するであろう。


 それ程に、この場所をまもり抜くことは、今のワレワレにとっての『全て』であり、そしてともすれば『全宇宙の希望』となるのかも知れないのであるにゃ。



 但しこれは 多少開き直って言えば、ワレらだけの勝手な理屈であり、単なるエゴでしかにゃいのかも知れん。


 で あるからして、他勢力や現地民である地球星(アルド)人たちにとっては、今はまだ(・・・・) 全くもって理解不能な、到底受け入れ難い事柄であるのかも知れにゃい。


 だがしかし、ワレらにはワレらなりの『理』があり、それが唯一正しい道であると信じて、この地を長年 まもり続けておるのであるにゃ。



 まぁワレらとて、所詮(しょせん)は自分たちの萎縮(いしゅく)した了見りょうけん(はば)まれた、狭量(きょうりょう)かつ(かたく)なな世界の中で、日々懸命に足掻あがきにゃがら生きておるに過ぎん。


 そしてまた いつの日にか突然、何らかの危機的状況に直面したとしても―――

 その時、自分や 自分に近しい目の前の数少ないモノだけを、(ようや)くにして(にゃん)とか(まも)り切れるかどうか……。


 そう…… 大局からすればワレらとて、その程度の(わず)かなチカラしか持ち合わせてはおらんのだ。


 宇宙人だ(にゃん)だと言ったところで ひとりひとりをかえりみてみれば、所詮(しょせん)はそんな本当に情けない『っぽけな()の存在』に過ぎないので… あるにゃ………。



 ◇



「えーっと…… あのー、(たま)さま?」


「な…… なにゃ!?」


「大層なご高説を、ご満悦の表情でのたまわられ中に 大変申し訳ないのですが…… 少し(よろ)しいでしょうか?」


 突然の、背後仰角(ぎょうかく)からの不吉な声(・・・・)(あわ)てて部屋の入り口の方を向くと、声の主はワガハイの声色(こわいろ)を真似るように続けて言う。


「えー、こほん…… 『過ぎないので… あるにゃ……… 』 じゃないですし。 で、先程からワタクシの(・・・・・)お部屋で いったい何を?」


 そこには この家の長女、『クォーター宇宙人』の一人である櫻子(さくらこ)が、まるで白磁(はくじ)で作られた能面(のうめん)のように無機質な笑顔を浮かべ、小首を(かし)げるようにして立っておった。


 これは正直、非常にマズい。

 ワガハイとしたことが、すっかり思索の深みにまり込んでしまっておる間に―――

 (すで)に この部屋の物質的施錠(せじょう)は元より、それどころか部屋中に 強力かつ極薄の多層異次元膜からなる位相結界までが、コヤツの手によって幾重(いくえ)にも厚く張り巡らされておる。


 これでは外のヤツらに思念を飛ばして助けを求めることも出来ん。

 こいつは相当に、キケンがアブナイ(・・・・・・・・)状況だにゃ……。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 喫茶室―――


柏子かしわこ槍爺そうじい 部屋にいたら なんかミシってなった」


槍慈そうじ 「ええ、この波動は どうやら櫻子さくらこさんですかねぇ。 お相手は例によって玉依たまよりさんですか…… 毎度よくきませんねぇ。 それにしても柏子かしわこさん、よく気付かれましたねぇ。 で、桐子きりこちゃんは?」


柏子 「桐姉きりねえは寝てる ねぇ 玉先たませんさくらねえの二人 大丈夫?」


槍慈 「うーん、今回はちょっと…… アレ(・・)かもしれませんねぇ。 やれやれ、一応見に行っておきますか」


柏子 「へぇ 槍爺(そうじい)がわざわざ行くんだ 『アレ』って 結構ヤバいやつ?」


槍慈 「そうですねぇ…… 事と次第によっては、なかなかどうしてですかねぇ」


柏子 「槍爺そうじい アタシが言うのもなんだけど…… コトバ わかりづらいよ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 屋敷>身命。 いいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ