表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『絆』 chapter 008
36/40

玉櫻の仕掛 visit 葉月 × 伍



 櫛名田(くしなだ)家 presents 『魔法少女プロジェクト(仮称)』の首謀者 及び 当事者たちの一行は、葉月(はづき)が勤める防衛装備庁前に来ている。


 防衛省と敷地を(いつ)にする庁舎入口の正面ゲートには警備員が幾人も配置されており、人や車輌の出入りは常に厳しくチェックされているようだ。


 当初、猫を抱えた女子高生と双子の小4女児という極めて場違いな一行は、周囲から一様に奇異の目を向けられ…… というよりも、むしろ不審な印象すら警備員たちに与えたようであったが、葉月はづきの名を出すと すでに手続きが済まされていたようで、意外とスムーズに敷地内に入ることが出来た。


 表に立っている 屈強かつ厳しい表情をした警備員たちとは明らかに役割が違うと思われる、にこやかな表情の女性自衛官がすぐに現れ、彼女から行く先への案内を受けるとともに入館証を受け取る。


 物々(ものもの)しい雰囲気のゲートを後にして敷地内へ進むと、その先は広い階段状の勾配(こうばい)地形となっており、そこを上がった一段高い地盤が、省庁の建ち並ぶ敷地となっている。


 人工石材と思われるブロック状の白い舗装材が整然と敷き詰められたファサードは 何とも無機的な印象で、その硬い地面には 大人の肩幅程度の丸い穴が等間隔で点々と切られており―――

 そこには、やけに樹形が整い過ぎた感のある小型の樹々(きぎ)が一本ずつ、丁寧(ていねい)に植え込まれていた。


「来訪者をお(もてな)ししたいのかこばみたいのか、よく解らない趣向のしつらえですわね」


「ふん…… 確かに、全く味も素気(そっけ)もにゃい。 だが 入口ゲートのすぐ先に、この地形的な高低差と樹々(きぎ)の並びを(もう)ける事により、庁舎前広場の様子や中に()るモノたちの姿を、ゲート外からは容易に(のぞ)けんようにしておるのであろうにゃあ」


「あぁ、なるほど…… 確かにおもての通りからは、中が見えておりませんでしたわね」


 櫻子(さくらこ)は、玉依(たまより)の観察眼と冷静な判断力に対し、素直に感心する。


「そう言えばかつて、ワガハイが この国の中世…… 所謂(いわゆる)、戦国期以降に見た各地の城や(とりで)などには、よくこうした手法が(もち)いられておったにゃ」


 玉依たまよりが言うように、昔の城郭で用いられた手法を踏襲とうしゅうしたのかどうかは判らないが―――

 近年 この地に移転してきた、これら防衛省に(つら)なる庁舎群は、実質 この国の防衛のかなめとして位置付けられる最重要拠点であるため、当然ながら万全のセキュリティ 及び 必要最低限の遮蔽性(しゃへいせい)を持たせてある。


 そうした備えの一端が、入口ゲートに多数配置されていた警備員たちであり、あるいは 各所に厚く張り巡らされた見えないセキュリティ群であり―――

 そしてこの、外部からの視認観察を(さえぎ)る物理的勾配(こうばい)なのである。


 本来であれば、いっそ施設ごと地下にでも隠蔽(いんぺい)してしまいたい向きもあるのであろうが、(おおやけ)の官庁として税金でまかなわれている以上、更に秘匿性を高めて外部と隔絶するという訳にも、容易にはいかないのかもしれない。


 そのあたりの様々な葛藤が、ややいびつな形として現れてしまっている―――

 そんな微妙なエントランス広場の左斜め前方、そこにそびえる『庁舎D棟』と呼ばれる建物が、目指す防衛装備庁(ATLA)の本部施設であった。


 一行は儀仗ぎじょう広場(ひろば)を左手に見ながら庁舎内へと進み、入口正面にある受付カウンターへと向かう。


 (すで)に正面ゲート側から連絡を受けていたようで、カウンター内の女性は 立った状態でにこやかに彼らを待っていたが、全ての来庁者に対してそのようにしているのかどうかは判らない。


「ごきげんよう。 ワタクシどもは、こちらでお世話になっております 櫛名田くしなだ 葉月はづきの身内のモノです。 ワタクシは櫛名田くしなだ 櫻子さくらこと申しまして、こちらは妹の桐子きりこ柏子かしわこですわ」


 多少緊張した面持おももちながらも、りんとした立ち居振る舞いで声を掛けた櫻子さくらこに対し―――


「はい、お待ちしておりました。 私、氷川ひかわが ご案内申し上げます。 葉月はづきお姉様――― あ… いえ、えっと…… 櫛名田(くしなだ) 革新技術戦略官から、皆様のご来訪につきましては 先刻よりうけたまわっております。 少々お待ち下さい」


 受付の女性は、良く通る落ち着いた声で返してはきたものの…… 途中で何やら面妖(おかし)な言葉を発したような気がしたが―――


「 ……………? ねぇ、(サクラ)姉さまぁ、今なんか…… 」


「しっ…… 桐子(きりこ)ちゃん、あの人(・・・)(まつ)わることには、あまり深く関わらない方が良いですわよ。 聞かなかったことになさい」


 どうやら櫻子さくらこにとっては、慣れない官庁に来ているという緊張感よりも『あの(・・)葉月ははおや巣窟テリトリーの中に入った』という警戒感の方が強いのか、多少過剰ではありながらも リスク回避の判断は的確なようだ。


「うん、わかったー!」

「おー さすが(さくら)(ねえ) 対(かあ)さま案件への猜疑心(さいぎしん)発動 きたこれ」

「うむ…… まぁ、(さわ)らぬ神に(たた)りなしであろうからにゃ」


「だって…… 双子(このこ)たちの前で万が一にも、何か如何(いかが)わしい真実などが暴露されてしまっては困りますもの。 仮初かりそめにも、一応は(・・・)実の母親であるらしい(・・・)のですから」


 ひとつ屋根の下で暮らしている一族…… しかも実の娘たちに、ここまで言わしめる葉月はづきとは一体……。


「それにしてもワタクシ、こちらへは今回 初めて伺いましたわ」

(キリ)(カシワ)ちゃんもはじめてだよー!」

「ワガハイは以前ちょっとだけ潜り込んだ事があるが、その時はこの場所ではなかったしにゃ」

「しっ…… (たま)さま、受付の方に お声が聞こえますわよ」


 受付の女性が内線で葉月はづきと話しをしている間、一行は非常に小声ながらも、常にごちゃごちゃと普段通りに私語を交わし続けているのであるが―――


 しかし器用なことに、傍目はためには三人とも良家の子女らしく少しうつむき加減で、ただ(しと)やかに立っているようにしか見えない。

 それが、旧華族家令嬢としてのたしなみやしつけによる賜物たまものの技であるのか、あるいは 宇宙人として何かしらの異能を使ってのものであるのかどうか。


 だがいずれにしろ、この三人…… いや四人は皆、周囲にえ付けられた複数の監視カメラが自分たちに向けられていることを承知で、いつにも増して外見的な態度に気を配っているようであった。


「 …………… はい… はい、承知致しましたわ、葉月はづきお姉様。 それでは今から、丁重ていちょうにご案内してそちらへ。 はい…… はい、失礼致します」


 内線で葉月はづきと話す受付の女性から、再び発せられた『怪しげな呼称』に対し―――


「ねぇ、また…… 」

「しっ… 桐子(きりこ)ちゃん、お忘れなさい」

「でも アタシもちょっと 興味アルフォート」

「やめておけ柏子かしわこ、どうせロクでもない話に違いにゃいぞ…… ん、あるふぉーと?」


 どうやら葉月はづきに妙な手懐てなづけられ方をしているらしい受付の女性は、一行の興味や不審を他所よそに 受話器を静かに置くと、櫻子さくらこたちに向けて にこやかに声を掛ける。


「それでは、櫛名田くしなだ革新技術戦略官のご家族 三名様(・・・)、こちらのカードを お一人ずつお持ちください」


 と、各人それぞれに渡された新たなカードは、どうやらセキュリティエリア内へと向かう通路入口に設置された『自動改札機型ゲート』を通るためのシステムキーとなっているらしく、先程 正面ゲートで渡された入館証とは、また別のもののようであった。


「これから、技術戦略部のフロアへ ご案内致します」


「えぇ、よろしくお願いしますわ」

「おねがいしまーっす!」

「ありがと」

「ああ、よろしく頼むにゃ」


「はい、それではこちら…… え?」


 ここで迂闊うかつにも、四人目(・・・)の来庁者である玉依たまよりが ご丁寧ていねいに『返事』をしてしまい―――

 受付の女性も、これにはさすがに気付いてしまったようだ。


「あ、やっちまったにゃ…… 」

「ちょっ…… (たま)さま!?」

「ありゃりゃ…… ダメだよー、(タマ)先生(センセ)ってばー 」

(たま)(せん) うける 超やばくね」


 固まっている一同を包み込む、一瞬の静寂…… そして―――


「にゃ… にゃにゃーん…… た、たぁのみますにゃぁー! な… なんちゃってぇー。 ね… ねぇー、(たま)さ… 玉ちゃーん、ねぇーー。 あ… あは、あははは… は……。 えーっと、あの…… 申し訳… ございません…… 」


 ここは咄嗟とっさの判断で、櫻子さくらこが無理やり おかしな『猫語』を使い、抱いている玉依たまよりの前足をコミカルに動かしたりなどしながら、お道化どけた振る舞いを演じる。


 居たたまれないことに、取り敢えず 先程までの櫻子さくらこりんとした振舞いからすると、「急にどうした」的な空気感が半端ない。

 がっくりとうなだれる櫻子(さくらこ)


「いやぁ、すまんにゃ 櫻子(さくらこ)…… 」

「こんの、素恍すっとぼけ猫ぉぉぉ…… あとで、ぎったんぎったんですわよ!? あぁはぁぁあ…… これできっとワタクシも、お母さまと同様に『際物キワモノ認定』されてしまうのですわ…… 」

「 …………… え? 『キワモノ』って、なあにー?」

「めっさうける」


 ともあれ、櫻子さくらこ尊い犠牲(・・・・)により、何とかこの場は誤魔化せたようで―――


「うふふて… いいえ、もう全然ぜんっぜんです! 実は私、あの(・・)折り目正しく優美華麗な櫛名田(くしなだ)戦略官の娘様方とのことで、少し緊張していたのですが…… 思いもかけず気さくなご様子をお見せいただき、(かえ)って とっっっても安心致しました!」


「え? は、はぁ…… 」


 あまりの情けなさと恥ずかしさに、櫻子さくらこはすっかり意気消沈気味であったが、氷川ひかわの方は『お茶目な冗談』とでも取ってくれたようで、ひとまずは事無きを得た…… らしい。


 それにしても、『あの(・・)』とは、一体『どの(・・)葉月はづきのことなのであろうかと、櫻子さくらこをはじめとする一行は、多少…… いや、相当に大きな引っ掛かりを感じる。

 折り目正しい? 優美華麗? 誰が?


 その後、おとなしく氷川ひかわの後を付いて歩くこと、およそ5分。

 建物の中としては「もう結構歩いたな」と皆が思う頃、ようやく目的の扉の前に辿たどり着いた。


「こちらの応接室で、少々お待ち下さい」


 氷川ひかわはそう言うと、扉をみずからのIDカードで解錠し、一行を中へとうながす。

 その後、改めて葉月はづきを呼びに行ったようであった。


 扉に『応接室 03』と書かれたこの部屋は、内装も家具も非常に落ち着いた色調でまとめられており、なかなかに居心地が良さそうではあるものの―――

 これもセキュリティ上の配慮であるのか、室内には窓が一切(いっさい)なかった。

 ちなみに この部屋の壁や扉は相当に厚いようで、扉が閉まると外部の音は全く聞こえない。


 取り敢えず 黒革張りのソファの奥側から、櫻子さくらこ桐子きりこ柏子かしわこの順に腰を降ろしていく。

 そして最後に玉依たまよりが、厚かましくもテーブル上の ど真ん中に腰を据えて大きく伸びをしたかと思うと、そのままくるりと身体を丸めて そこに居座る。


 すると間もなく 軽快なノックと共に扉が開き、スーツ姿の女性が一人、颯爽さっそうと入ってきた。


「あら、いらっしゃい♪ みんなお(そろ)いで、よく来たわね」


 そう言って 彼女は一同の顔を見渡すと、旧知の仲か (ある)いはまるで『家族』ででもあるかのように、親しげに笑いかけてくる。


「あ、はい…… ど どうも (えっと…… え、誰?)」


「えへへー (んー? あったことある人… だったかなぁ?)」


 と、困惑しながらも曖昧(あいまい)会釈(えしゃく)や愛想笑いを返す一方、頭の中をフル回転させて記憶の糸を必死に手繰(たぐ)櫻子(さくらこ)桐子(きりこ)


 だがそれに対し、玉依(たまより)柏子(かしわこ)の二人は―――


「ふん (コッチ(・・・)コイツ(・・・)と顔を合わせるのは、随分と久方(ひさかた)()りだにゃ)」


「え なにこれ (まじ やばくね)」


 と、すぐにそれ(・・)何者(・・)であるのか見分けられたようだ。


 こうした反応をある程度予想していたのか、その人物は満更(まんざら)でもなさそうに得意気な()みを浮かべる。


 しかし、一息遅れで(ようや)何か(・・)に気付きかけたのか、狐狸(こり)にでも摘ままれたように(ほう)けた面持(おもも)ちで言葉を失う櫻子(さくらこ)桐子(きりこ)


 対して玉依(たまより)柏子(かしわこ)は、無表情な顔と(なか)ば死んだような目を彼女の方へと向け、そして(あき)れたように(しば)し、その『見慣れぬ身内』の顔を じっと見つめていた。


 



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、學士院大学附属 高等科校舎へと向かう車中―――


春日はるひ弓弦ゆづる、今日は櫛名田(くしなだ)家の車を出してくれてありがとう。 急のことで 家の車の手配がつかなかったから、本当に助かったわ。 猪去いさりさんも、急に運転をお願いしてしまって ごめんなさい。 お手数をおかけしちゃったわね」


猪去いさり 「いえ、とんでもございません春日(はるひ)様。 天児あまこ様のお屋敷は当家とも程近く、このくらい造作(ぞうさ)もないことでございます。 またいつでも、お声掛けください」


弓弦ゆづる) 「それにしても春日はるひ、ボクらはもう高3で、普通なら部活なんてとっくに引退している時期であるはずなのだけれど…… それが土曜日も稽古(けいこ)に呼ばれるだなんて、古流剣術部は なかなか大変なんだね」


春日 「まぁね。 何しろ師範格は私だけだから…… まぁ、しかたがないわ。 でもね、来月には流派の伝位考査があるのよ。 そこで、後輩のうちの誰かが準免許か…… せめて目録でも取ってくれれば、アタシも肩の荷が随分と下りるんだけど」


弓弦 「なるほどなぁ。 で、実際 見込みはどうなんだい?」


春日 「うーん…… 恐らくは、かなり難しいでしょうね。 だからまぁ、しばらくは付き合ってあげるつもりよ。 後進を育てるのも、先達(せんだつ)の大事な(つと)めってぇところかしらね。 それにね、アタシ…… 大学はこのまま學士院に上がるつもりだから、受験勉強も()らないのよ」


弓弦 「そうか。 まぁ そういうことなら、このまま上に行くのも良いのかもしれないね。 剣術部立ち上げの時は、春日はるひ 本当に頑張っていたから」


春日 「ありがとう弓弦(ゆづる)。 あの時は、アンタもいろいろと手伝ってくれたもんね。 でもあれから…… もう2年半… か。 なんだか、あっという間だったわね」


弓弦 「うん、特に ボクらみたいなモノたちにとっては、高校生生活なんて人生のうちの、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれないしね」


春日 「本当にそうね……。 だから良い思い出ができて、とっても良かったわ。 あ… でもね? このまま上に上がるのは、何も剣術部のためってだけではなくて……。 まぁ正直、『今更 外の大学を受験するなんてのが面倒くさい』って気持ちからでもあるのよね」


弓弦 「あはは、そうなんだ。 でもさ、ボクらの頭脳なら 特に勉強なんかしなくても、この星で行けない大学なんかないよね」


春日 「それはそうなんだけど…… でも、やっぱり面倒じゃない? ほら、アタシたちっていつも定期試験や模試の(たび)に、わざと幾つか間違えたりしないといけないし。 だからね、試験パスの うちの大学にしておけば、余計な気を遣わなくて済むってぇ話よ」


弓弦 「なるほどな。 うん、でもそうなんだよね…… 体育の時なんかも力をセーブして、例えば100m走なんか わざとゆっくり走ったりしないといけないし。 どうも嫌なんだよな、そういうのって」


春日 「今更(いまさら) 何言ってんのよ。 適当に地球星(アルド)の人たちのレベルに合わせておかないと、アタシたちが本気で走ったりしたら すぐに世界新記録とか余裕で更新できちゃうんだから、うまいこと手を抜くしかないじゃない」


弓弦 「それはそうなんだけれどね。 でも、やっぱり嫌なんだよ…… なんか ズルしているみたいでね」


春日 「手加減して (みずか)ら成績落とすことを『ズル』って言うのかどうかは解らないけど……。 弓弦(ゆづる)って 昔っからそういうところ、変に潔癖(けっぺき) (こじ)らせてるわよね」


弓弦 「そうかな。 でもそれを言うなら 春日(はるひ)の方は逆にさ、むやみに正義感だけは強いくせに、こういうことについては妙に(さば)けていると言うか、思考が(ざつ)だよね」


春日 「ちょっと、弓弦(ゆづる)ぅ…… アンタ、言葉の各所でシレっと人のこと いろいろとディスってんじゃないわよ。 喧嘩(けんか)売ってんの?」


弓弦 「まさか、そんなわけないよ。 ボクと同様 宇宙人の血筋である上、北進一刀流免許の腕前の春日(はるひ)に、ボクなんかが(かな)うわけがないじゃない」


春日 「いや、北進一刀流じゃなくて 神道無念流だけどね。 あと、免許じゃなく(すで)に允許までもらって…… て、そう言えばアンタさぁ…… いっっっつも必ず アタシんとこの流派名、他のあれこれと間違えるわよね。 え… もしかして、わざと?」


弓弦 「うん、少し」


春日 「いや、わざとなんかい。 って言うか、『少し わざと』って どういう状況よ。 アンタ、アタシのこと おちょくってんの?」


弓弦 「うん」


春日 「コイツ、言い切りおったし……。 いや、ここはもう一回『少し』言いなさいよ。 普通は再度 (かぶ)せてくるところなんじゃないの? 会話の(みょう)としてはさ」


弓弦 「そうだ 春日(はるひ)、ボク 美大とか受けてみようかと思ってるんだけど」


春日 「いや、無視かい…… って――― え? び… 美大ぃ!? アンタさぁ…… 本当ほんっとに いつも唐突よね!?」


弓弦 「ほら、勉強やスポーツと違ってさ、『アート』なら ボクら宇宙人の血をひいているモノにとっても、特に優位性とかはないじゃない?」


春日 「あー、まぁ…… それは確かにそうかも。 そっか… それならアンタの、その()じっくれた偽善者的潔癖思考も、どこかしらに『行き場』を見付けられるってわけね」


弓弦 「そうなんだよ」


春日 「いや、アンタ…… 人がせっかくディスり返してやってんだから、察して少しは反論とかしてきなさいよね? いつもながら、なんっか腹立つわ……。 って言うかさ弓弦(ゆづる)、アンタ 絵の勉強なんて、いつの間に始めてたのよ?」


弓弦 「してないけど」


春日 「出た… 相っ変わらず、世をすべからく()めきってるわね、この男は……。 アンタねぇ、受験まで半年切ってんのよ? そんなんで本当(ホント)に大丈夫なの? 今、アンタが『美大』とか言ってるのって、アタシたちの優位性が発揮できないジャンルだからなんでしょう!?」


弓弦 「まぁ、そうなのだけれど。 でもさ、そうは言っても 所詮(しょせん)地球星(このほし)の人たちが相手なんだし、まぁ 大丈夫なんじゃないかな」


春日 「えーっと…… ねぇ、弓弦(ゆづる)さん? アンタさぁ、もしかしてだけど…… 実は地球星(アルド)の人たちのこと、相当バカにしてるでしょう」


弓弦 「まさか。 確かにボクらと比べて 知能も身体能力も相当におとっているし…… 正直、生き物としてのヒエラルキー的には、かなり下の方の人たちなのだろうと思ってはいるけれど。 でもそれってさ、(まぎ)れもない事実なわけじゃない?」


春日 「はいはい、OK解ったわ。 アンタ今… 倫理的にも道義的にも、相当に踏み込んだ発言をしたわよ」


弓弦 「でもさ、年上の人には一応(・・)敬語だって使っているし、それに悪口やダメ出しとかだって、あまり言わないようにしているよ?」


春日 「いや、だからそういうことじゃあないのよ。 て言うかアンタさ…… アタシには悪口っぽいことも、ちょいちょい平気で放り込んでくるわよね。 え…… ひょっとして、なめてる?」


弓弦 「いやぁ、それこそ本当にまさかだよ。 まぁ あれかな…… 春日(はるひ)はさ、ボクにとって『特別』なんだよね」


春日 「 ……………………… え?」


猪去 「弓弦(ゆづる)春日(はるひ)様、學士院高等科 正門前に到着致しました」


弓弦 「あぁ、有り難う 猪去いさりさん。 帰る時には、また連絡しますので」


猪去 「はい、承知致しました。 それではワタシは、一旦 屋敷の方に戻らせていただきますので」


弓弦 「解りました、ではまた後で。 さぁ、着いたから降りようか…… って、あれ? 春日(はるひ)、何だか顔が紅いようだけど…… どうかしたの? 知恵熱?」


春日 「うぅ… うっさいわね! もぉ… いいわよ、アンタなんか……。 あぁぁぁー! 死ね死ね! 死んじゃえぇぇぇー!!」


弓弦 「えー、急にどうしちゃったかな…… よく解らないのだけれど。 でも、取り敢えず春日(はるひ)ってさ、外見は小柄で とっても可愛いのに、本当に口が悪いよね」


「!? ………… ょよ… 余計な お世話だし……。 って、ちょっ…… そ そういうこと、人の顔をまじまじと見据みすえて、言ってんじゃ… ないわよ…… 」


「照れる?」


春日 「 …………… コイツ、まじころす…… なますに… かたなのさびに…… 」


弓弦 「あー はいはい、相変わらず物騒なことを言うなぁ。 ほら そういうのは良いから、早く降りようよ。 ボクは生徒会室にでも行って時間つぶしてるからさ、終わったら連絡してよね」


春日 「わかったわよ! ど・う・も・あ・り・が・と・うーーー!!!」


弓弦 「え、どうしたの? ――― やれやれ、いったい何を怒っているんだか。 まぁ、別に良いんだけど。 さてと…… 生徒会室、速彦(はやひこ)紀里江きりえちゃんあたりが、ちょうど来てくれてると助かるのだけれど…… いるかなぁ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ