玉櫻の仕掛 visit 葉月 × 伍
櫛名田家 presents 『魔法少女プロジェクト(仮称)』の首謀者 及び 当事者たちの一行は、葉月が勤める防衛装備庁前に来ている。
防衛省と敷地を一にする庁舎入口の正面ゲートには警備員が幾人も配置されており、人や車輌の出入りは常に厳しくチェックされているようだ。
当初、猫を抱えた女子高生と双子の小4女児という極めて場違いな一行は、周囲から一様に奇異の目を向けられ…… というよりも、むしろ不審な印象すら警備員たちに与えたようであったが、葉月の名を出すと 既に手続きが済まされていたようで、意外とスムーズに敷地内に入ることが出来た。
表に立っている 屈強かつ厳しい表情をした警備員たちとは明らかに役割が違うと思われる、にこやかな表情の女性自衛官がすぐに現れ、彼女から行く先への案内を受けるとともに入館証を受け取る。
物々しい雰囲気のゲートを後にして敷地内へ進むと、その先は広い階段状の勾配地形となっており、そこを上がった一段高い地盤が、省庁の建ち並ぶ敷地となっている。
人工石材と思われるブロック状の白い舗装材が整然と敷き詰められたファサードは 何とも無機的な印象で、その硬い地面には 大人の肩幅程度の丸い穴が等間隔で点々と切られており―――
そこには、やけに樹形が整い過ぎた感のある小型の樹々が一本ずつ、丁寧に植え込まれていた。
「来訪者をお饗ししたいのか拒みたいのか、よく解らない趣向の設えですわね」
「ふん…… 確かに、全く味も素気もにゃい。 だが 入口ゲートのすぐ先に、この地形的な高低差と樹々の並びを設ける事により、庁舎前広場の様子や中に居るモノたちの姿を、ゲート外からは容易に覗けんようにしておるのであろうにゃあ」
「あぁ、なるほど…… 確かに表の通りからは、中が見えておりませんでしたわね」
櫻子は、玉依の観察眼と冷静な判断力に対し、素直に感心する。
「そう言えばかつて、ワガハイが この国の中世…… 所謂、戦国期以降に見た各地の城や砦などには、よくこうした手法が用いられておったにゃ」
玉依が言うように、昔の城郭で用いられた手法を踏襲したのかどうかは判らないが―――
近年 この地に移転してきた、これら防衛省に列なる庁舎群は、実質 この国の防衛の要として位置付けられる最重要拠点であるため、当然ながら万全のセキュリティ 及び 必要最低限の遮蔽性を持たせてある。
そうした備えの一端が、入口ゲートに多数配置されていた警備員たちであり、或いは 各所に厚く張り巡らされた見えないセキュリティ群であり―――
そしてこの、外部からの視認観察を遮る物理的勾配なのである。
本来であれば、いっそ施設ごと地下にでも隠蔽してしまいたい向きもあるのであろうが、公の官庁として税金で賄われている以上、更に秘匿性を高めて外部と隔絶するという訳にも、容易にはいかないのかもしれない。
そのあたりの様々な葛藤が、やや歪な形として現れてしまっている―――
そんな微妙なエントランス広場の左斜め前方、そこに聳える『庁舎D棟』と呼ばれる建物が、目指す防衛装備庁の本部施設であった。
一行は儀仗広場を左手に見ながら庁舎内へと進み、入口正面にある受付カウンターへと向かう。
既に正面ゲート側から連絡を受けていたようで、カウンター内の女性は 立った状態でにこやかに彼らを待っていたが、全ての来庁者に対してそのようにしているのかどうかは判らない。
「ごきげんよう。 ワタクシどもは、こちらでお世話になっております 櫛名田 葉月の身内のモノです。 ワタクシは櫛名田 櫻子と申しまして、こちらは妹の桐子と柏子ですわ」
多少緊張した面持ちながらも、凛とした立ち居振る舞いで声を掛けた櫻子に対し―――
「はい、お待ちしておりました。 私、氷川が ご案内申し上げます。 葉月お姉様――― あ… いえ、えっと…… 櫛名田 革新技術戦略官から、皆様のご来訪につきましては 先刻より承っております。 少々お待ち下さい」
受付の女性は、良く通る落ち着いた声で返してはきたものの…… 途中で何やら面妖な言葉を発したような気がしたが―――
「 ……………? ねぇ、櫻姉さまぁ、今なんか…… 」
「しっ…… 桐子ちゃん、あの人に纏わることには、あまり深く関わらない方が良いですわよ。 聞かなかったことになさい」
どうやら櫻子にとっては、慣れない官庁に来ているという緊張感よりも『あの葉月の巣窟の中に入った』という警戒感の方が強いのか、多少過剰ではありながらも リスク回避の判断は的確なようだ。
「うん、わかったー!」
「おー さすが櫻姐 対母さま案件への猜疑心発動 きたこれ」
「うむ…… まぁ、障らぬ神に祟りなしであろうからにゃ」
「だって…… 双子たちの前で万が一にも、何か如何わしい真実などが暴露されてしまっては困りますもの。 仮初めにも、一応は実の母親であるらしいのですから」
ひとつ屋根の下で暮らしている一族…… しかも実の娘たちに、ここまで言わしめる葉月とは一体……。
「それにしてもワタクシ、こちらへは今回 初めて伺いましたわ」
「桐と柏ちゃんもはじめてだよー!」
「ワガハイは以前ちょっとだけ潜り込んだ事があるが、その時はこの場所ではなかったしにゃ」
「しっ…… 玉さま、受付の方に お声が聞こえますわよ」
受付の女性が内線で葉月と話しをしている間、一行は非常に小声ながらも、常にごちゃごちゃと普段通りに私語を交わし続けているのであるが―――
しかし器用なことに、傍目には三人とも良家の子女らしく少し俯き加減で、ただ淑やかに立っているようにしか見えない。
それが、旧華族家令嬢としての嗜みや躾による賜物の技であるのか、或いは 宇宙人として何かしらの異能を使ってのものであるのかどうか。
だがいずれにしろ、この三人…… いや四人は皆、周囲に据え付けられた複数の監視カメラが自分たちに向けられていることを承知で、いつにも増して外見的な態度に気を配っているようであった。
「 …………… はい… はい、承知致しましたわ、葉月お姉様。 それでは今から、丁重にご案内してそちらへ。 はい…… はい、失礼致します」
内線で葉月と話す受付の女性から、再び発せられた『怪しげな呼称』に対し―――
「ねぇ、また…… 」
「しっ… 桐子ちゃん、お忘れなさい」
「でも アタシもちょっと 興味アルフォート」
「やめておけ柏子、どうせロクでもない話に違いにゃいぞ…… ん、あるふぉーと?」
どうやら葉月に妙な手懐けられ方をしているらしい受付の女性は、一行の興味や不審を他所に 受話器を静かに置くと、櫻子たちに向けて にこやかに声を掛ける。
「それでは、櫛名田革新技術戦略官のご家族 三名様、こちらのカードを お一人ずつお持ちください」
と、各人それぞれに渡された新たなカードは、どうやらセキュリティエリア内へと向かう通路入口に設置された『自動改札機型ゲート』を通るためのシステムキーとなっているらしく、先程 正面ゲートで渡された入館証とは、また別のもののようであった。
「これから、技術戦略部のフロアへ ご案内致します」
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
「おねがいしまーっす!」
「ありがと」
「ああ、宜しく頼むにゃ」
「はい、それではこちら…… え?」
ここで迂闊にも、四人目の来庁者である玉依が ご丁寧に『返事』をしてしまい―――
受付の女性も、これにはさすがに気付いてしまったようだ。
「あ、やっちまったにゃ…… 」
「ちょっ…… 玉さま!?」
「ありゃりゃ…… ダメだよー、玉先生ってばー 」
「玉先 うける 超やばくね」
固まっている一同を包み込む、一瞬の静寂…… そして―――
「にゃ… にゃにゃーん…… た、頼みますにゃぁー! な… なんちゃってぇー。 ね… ねぇー、玉さ… 玉ちゃーん、ねぇーー。 あ… あは、あははは… は……。 えーっと、あの…… 申し訳… ございません…… 」
ここは咄嗟の判断で、櫻子が無理やり おかしな『猫語』を使い、抱いている玉依の前足をコミカルに動かしたりなどしながら、お道化た振る舞いを演じる。
居たたまれないことに、取り敢えず 先程までの櫻子の凛とした振舞いからすると、「急にどうした」的な空気感が半端ない。
がっくりとうなだれる櫻子。
「いやぁ、すまんにゃ 櫻子…… 」
「こんの、素恍け猫ぉぉぉ…… あとで、ぎったんぎったんですわよ!? あぁはぁぁあ…… これできっとワタクシも、お母さまと同様に『際物認定』されてしまうのですわ…… 」
「 …………… え? 『キワモノ』って、なあにー?」
「めっさうける」
ともあれ、櫻子の尊い犠牲により、何とかこの場は誤魔化せたようで―――
「うふふて… いいえ、もう全然です! 実は私、あの折り目正しく優美華麗な櫛名田戦略官の娘様方とのことで、少し緊張していたのですが…… 思いもかけず気さくなご様子をお見せいただき、却って とっっっても安心致しました!」
「え? は、はぁ…… 」
あまりの情けなさと恥ずかしさに、櫻子はすっかり意気消沈気味であったが、氷川の方は『お茶目な冗談』とでも取ってくれたようで、ひとまずは事無きを得た…… らしい。
それにしても、『あの』とは、一体『どの』葉月のことなのであろうかと、櫻子をはじめとする一行は、多少…… いや、相当に大きな引っ掛かりを感じる。
折り目正しい? 優美華麗? 誰が?
その後、おとなしく氷川の後を付いて歩くこと、およそ5分。
建物の中としては「もう結構歩いたな」と皆が思う頃、漸く目的の扉の前に辿り着いた。
「こちらの応接室で、少々お待ち下さい」
氷川はそう言うと、扉を自らのIDカードで解錠し、一行を中へと促す。
その後、改めて葉月を呼びに行ったようであった。
扉に『応接室 03』と書かれたこの部屋は、内装も家具も非常に落ち着いた色調でまとめられており、なかなかに居心地が良さそうではあるものの―――
これもセキュリティ上の配慮であるのか、室内には窓が一切なかった。
因みに この部屋の壁や扉は相当に厚いようで、扉が閉まると外部の音は全く聞こえない。
取り敢えず 黒革張りのソファの奥側から、櫻子・桐子・柏子の順に腰を降ろしていく。
そして最後に玉依が、厚かましくもテーブル上の ど真ん中に腰を据えて大きく伸びをしたかと思うと、そのままくるりと身体を丸めて そこに居座る。
すると間もなく 軽快なノックと共に扉が開き、スーツ姿の女性が一人、颯爽と入ってきた。
「あら、いらっしゃい♪ みんなお揃いで、よく来たわね」
そう言って 彼女は一同の顔を見渡すと、旧知の仲か 或いはまるで『家族』ででもあるかのように、親しげに笑いかけてくる。
「あ、はい…… ど どうも (えっと…… え、誰?)」
「えへへー (んー? あったことある人… だったかなぁ?)」
と、困惑しながらも曖昧に会釈や愛想笑いを返す一方、頭の中をフル回転させて記憶の糸を必死に手繰る櫻子と桐子。
だがそれに対し、玉依と柏子の二人は―――
「ふん (コッチのコイツと顔を合わせるのは、随分と久方振りだにゃ)」
「え なにこれ (まじ やばくね)」
と、すぐにそれが何者であるのか見分けられたようだ。
こうした反応をある程度予想していたのか、その人物は満更でもなさそうに得意気な笑みを浮かべる。
しかし、一息遅れで漸く何かに気付きかけたのか、狐狸にでも摘ままれたように呆けた面持ちで言葉を失う櫻子と桐子。
対して玉依と柏子は、無表情な顔と半ば死んだような目を彼女の方へと向け、そして呆れたように暫し、その『見慣れぬ身内』の顔を じっと見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【 一掬 ❁ 同刻譚 】
同刻、學士院大学附属 高等科校舎へと向かう車中―――
春日 「弓弦、今日は櫛名田家の車を出してくれてありがとう。 急のことで 家の車の手配がつかなかったから、本当に助かったわ。 猪去さんも、急に運転をお願いしてしまって ごめんなさい。 お手数をおかけしちゃったわね」
猪去 「いえ、とんでもございません春日様。 天児様のお屋敷は当家とも程近く、このくらい造作もないことでございます。 またいつでも、お声掛けください」
弓弦 「それにしても春日、ボクらはもう高3で、普通なら部活なんてとっくに引退している時期であるはずなのだけれど…… それが土曜日も稽古に呼ばれるだなんて、古流剣術部は なかなか大変なんだね」
春日 「まぁね。 何しろ師範格は私だけだから…… まぁ、しかたがないわ。 でもね、来月には流派の伝位考査があるのよ。 そこで、後輩のうちの誰かが準免許か…… せめて目録でも取ってくれれば、アタシも肩の荷が随分と下りるんだけど」
弓弦 「なるほどなぁ。 で、実際 見込みはどうなんだい?」
春日 「うーん…… 恐らくは、かなり難しいでしょうね。 だからまぁ、しばらくは付き合ってあげるつもりよ。 後進を育てるのも、先達の大事な務めってぇところかしらね。 それにね、アタシ…… 大学はこのまま學士院に上がるつもりだから、受験勉強も要らないのよ」
弓弦 「そうか。 まぁ そういうことなら、このまま上に行くのも良いのかもしれないね。 剣術部立ち上げの時は、春日 本当に頑張っていたから」
春日 「ありがとう弓弦。 あの時は、アンタもいろいろと手伝ってくれたもんね。 でもあれから…… もう2年半… か。 なんだか、あっという間だったわね」
弓弦 「うん、特に ボクらみたいなモノたちにとっては、高校生生活なんて人生のうちの、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれないしね」
春日 「本当にそうね……。 だから良い思い出ができて、とっても良かったわ。 あ… でもね? このまま上に上がるのは、何も剣術部のためってだけではなくて……。 まぁ正直、『今更 外の大学を受験するなんてのが面倒くさい』って気持ちからでもあるのよね」
弓弦 「あはは、そうなんだ。 でもさ、ボクらの頭脳なら 特に勉強なんかしなくても、この星で行けない大学なんかないよね」
春日 「それはそうなんだけど…… でも、やっぱり面倒じゃない? ほら、アタシたちっていつも定期試験や模試の度に、わざと幾つか間違えたりしないといけないし。 だからね、試験パスの うちの大学にしておけば、余計な気を遣わなくて済むってぇ話よ」
弓弦 「なるほどな。 うん、でもそうなんだよね…… 体育の時なんかも力をセーブして、例えば100m走なんか わざとゆっくり走ったりしないといけないし。 どうも嫌なんだよな、そういうのって」
春日 「今更 何言ってんのよ。 適当に地球星の人たちのレベルに合わせておかないと、アタシたちが本気で走ったりしたら すぐに世界新記録とか余裕で更新できちゃうんだから、うまいこと手を抜くしかないじゃない」
弓弦 「それはそうなんだけれどね。 でも、やっぱり嫌なんだよ…… なんか ズルしているみたいでね」
春日 「手加減して 自ら成績落とすことを『ズル』って言うのかどうかは解らないけど……。 弓弦って 昔っからそういうところ、変に潔癖 拗らせてるわよね」
弓弦 「そうかな。 でもそれを言うなら 春日の方は逆にさ、むやみに正義感だけは強いくせに、こういうことについては妙に捌けていると言うか、思考が雑だよね」
春日 「ちょっと、弓弦ぅ…… アンタ、言葉の各所でシレっと人のこと いろいろとディスってんじゃないわよ。 喧嘩売ってんの?」
弓弦 「まさか、そんなわけないよ。 ボクと同様 宇宙人の血筋である上、北進一刀流免許の腕前の春日に、ボクなんかが敵うわけがないじゃない」
春日 「いや、北進一刀流じゃなくて 神道無念流だけどね。 あと、免許じゃなく既に允許までもらって…… て、そう言えばアンタさぁ…… いっっっつも必ず アタシんとこの流派名、他のあれこれと間違えるわよね。 え… もしかして、わざと?」
弓弦 「うん、少し」
春日 「いや、わざとなんかい。 って言うか、『少し わざと』って どういう状況よ。 アンタ、アタシのこと おちょくってんの?」
弓弦 「うん」
春日 「コイツ、言い切りおったし……。 いや、ここはもう一回『少し』言いなさいよ。 普通は再度 被せてくるところなんじゃないの? 会話の妙としてはさ」
弓弦 「そうだ 春日、ボク 美大とか受けてみようかと思ってるんだけど」
春日 「いや、無視かい…… って――― え? び… 美大ぃ!? アンタさぁ…… 本当に いつも唐突よね!?」
弓弦 「ほら、勉強やスポーツと違ってさ、『アート』なら ボクら宇宙人の血をひいているモノにとっても、特に優位性とかはないじゃない?」
春日 「あー、まぁ…… それは確かにそうかも。 そっか… それならアンタの、その捻じっくれた偽善者的潔癖思考も、どこかしらに『行き場』を見付けられるってわけね」
弓弦 「そうなんだよ」
春日 「いや、アンタ…… 人がせっかくディスり返してやってんだから、察して少しは反論とかしてきなさいよね? いつもながら、なんっか腹立つわ……。 って言うかさ弓弦、アンタ 絵の勉強なんて、いつの間に始めてたのよ?」
弓弦 「してないけど」
春日 「出た… 相っ変わらず、世をすべからく舐めきってるわね、この男は……。 アンタねぇ、受験まで半年切ってんのよ? そんなんで本当に大丈夫なの? 今、アンタが『美大』とか言ってるのって、アタシたちの優位性が発揮できないジャンルだからなんでしょう!?」
弓弦 「まぁ、そうなのだけれど。 でもさ、そうは言っても 所詮は地球星の人たちが相手なんだし、まぁ 大丈夫なんじゃないかな」
春日 「えーっと…… ねぇ、弓弦さん? アンタさぁ、もしかしてだけど…… 実は地球星の人たちのこと、相当バカにしてるでしょう」
弓弦 「まさか。 確かにボクらと比べて 知能も身体能力も相当に劣っているし…… 正直、生き物としてのヒエラルキー的には、かなり下の方の人たちなのだろうと思ってはいるけれど。 でもそれってさ、紛れもない事実なわけじゃない?」
春日 「はいはい、OK解ったわ。 アンタ今… 倫理的にも道義的にも、相当に踏み込んだ発言をしたわよ」
弓弦 「でもさ、年上の人には一応敬語だって使っているし、それに悪口やダメ出しとかだって、あまり言わないようにしているよ?」
春日 「いや、だからそういうことじゃあないのよ。 て言うかアンタさ…… アタシには悪口っぽいことも、ちょいちょい平気で放り込んでくるわよね。 え…… ひょっとして、なめてる?」
弓弦 「いやぁ、それこそ本当にまさかだよ。 まぁ あれかな…… 春日はさ、ボクにとって『特別』なんだよね」
春日 「 ……………………… え?」
猪去 「弓弦様 春日様、學士院高等科 正門前に到着致しました」
弓弦 「あぁ、有り難う 猪去さん。 帰る時には、また連絡しますので」
猪去 「はい、承知致しました。 それではワタシは、一旦 屋敷の方に戻らせていただきますので」
弓弦 「解りました、ではまた後で。 さぁ、着いたから降りようか…… って、あれ? 春日、何だか顔が紅いようだけど…… どうかしたの? 知恵熱?」
春日 「うぅ… うっさいわね! もぉ… いいわよ、アンタなんか……。 あぁぁぁー! 死ね死ね! 死んじゃえぇぇぇー!!」
弓弦 「えー、急にどうしちゃったかな…… よく解らないのだけれど。 でも、取り敢えず春日ってさ、外見は小柄で とっても可愛いのに、本当に口が悪いよね」
「!? ………… ょよ… 余計な お世話だし……。 って、ちょっ…… そ そういうこと、人の顔をまじまじと見据えて、言ってんじゃ… ないわよ…… 」
「照れる?」
春日 「 …………… コイツ、まじころす…… なますに… かたなのさびに…… 」
弓弦 「あー はいはい、相変わらず物騒なことを言うなぁ。 ほら そういうのは良いから、早く降りようよ。 ボクは生徒会室にでも行って時間つぶしてるからさ、終わったら連絡してよね」
春日 「わかったわよ! ど・う・も・あ・り・が・と・うーーー!!!」
弓弦 「え、どうしたの? ――― やれやれ、いったい何を怒っているんだか。 まぁ、別に良いんだけど。 さてと…… 生徒会室、速彦や紀里江ちゃんあたりが、ちょうど来てくれてると助かるのだけれど…… いるかなぁ」