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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『戯』 chapter 006
23/40

桐柏の模索 support 櫻子 × 參



「なあに? ワタクシに『雑用係(ドアマット)』になれですって? いったい何の話をしているの?」


 土曜日の昼食後、訳も解らず いきなり自室に押しかけられた櫻子さくらこは、押し掛けてきた双子(キリかし)たちと玉依たまよりに問い返した。


「だからアレだよぉー、サクラ姉さまぁー。 こほん、んと…… 『ワタクシ、アナタたちのためなら なんっっっでもしてさしあげますわよ!』 って、こないだも いってくれてたからさぁー。 ねぇー、おねがぁーーい… (だぁい)すきなぁ、(サクラ)姉さまぁー♪」


 桐子(きりこ)は、いつになく甘えた声色(こわいろ)と仕草でそう言うと、隣にいる柏子(かしわこ)に小声で「ねぇ…… これでいいの?」などと聞き、「てへぇー 」と笑っている。


 突然 訳の解らない懇願こんがんを受け、しかも自分の声真似(まね)らしきものまで披露ひろうされて言質げんちを取られているため、無碍むげに断ることもできなさそうだ。


「ねぇ 桐子(きりこ)ちゃん…… アナタのことは柏子(かしわこ)さん同様、世界で一番いっちばん大切に思っておりますけれど……。 今日のその、いつになく『計算高い女』みたいな立ち居振舞いはいったい…… 」


 確かに、いつもの桐子(きりこ)とは(いちじる)しく様子が違うため、櫻子(さくらこ)が不審に思うのも無理はない。

 まぁ、全て柏子(かしわこ)の差し金なのであるが。


「はっ…… まさか! あの お母さまや瑞穂(みずほ)祖母(ばあ)さまの、油断ならない狡猾(こうかつ)さや小聡明(あざと)さの部分を、アナタも多分たぶんに受け継いでしまっている…… と、そういうことなのかしら!? あぁ、なんてこと…… 頼ってきてくださったのは とっても嬉しい半面、なんとも複雑な心境ですわ…… 」


 櫻子(さくらこ)は、大層 手前勝手(てまえかって)的外(まとはず)れな想像を ひとり突っ走らせ―――

 そして あまつさえ、祖母(みずほ)母親(はづき)に対しても、そこそこ失礼な評価と()(ぎぬ)を盛大に着せつつ…… 悲嘆(ひたん)に暮れた表情で、桐子(きりこ)の顔を少し上の角度から見つめているのだが……。


 当の本人は、「えー? 『けいさん』って、さんすうの計算のことぉ? んんー…… なぁに? え?」などと言いながら、状況がまったく把握(はあく)できずに きょとんとしている。


「うぅ…… (さくら)(ねえ)の思考が 思ってたよりも斜め上をいった きりねえhaもういい ここはアタシが」


 と、横で見ていた柏子(かしわこ)が、いかにも「読み(・・)見誤(みあやま)った」というような、渋い表情で間に入る。


柏子かしわこさん、それにしてもアナタまで(・・・・・)というのは…… ちょっぴり意外ですわねぇ」


「うん そうソレ…… さくらねえ ソレに免じて 今アタシがほしいのは さくらねえの『盲愛(もうあい)』と『蛮勇(ばんゆう)』 そして『無償の労働力』だよ」


 櫻子さくらこ(さら)に訳が解らなくなり、柏子かしわこを ぽかーんと見つめる。


「えーっと…… その… うん――― 百歩(ゆず)って『盲… 愛?』は、まだ良しとしておきましょうか。 確かにワタクシも、そう言われて『身に覚えが全くない』というわけでもありませんし。 ですが、あとの二つって…… ワタクシ、この子たちから いったいどう見られているのかしら…… 」


 しかし、あまり細かいことに蹴躓(けつまず)いてばかりいても始まらないと気を取り直し―――


「そ、そう…… ね? えーっと、まぁ いまだになんだか良くは解らないのだけれど、取り敢えずワタクシの出来ることであれば お手伝いしますわ。 で、まずは説明してもらえます? えーと、柏子(かしわこ)さん?」


「あのねぇー! キリたちぃ、『魔法少女』になるんだよぉー! (サクラ)姉さまぁ、いろいろと よろしくおねがいしまぁーっす!」


 一応、『柏子(かしわこ)に』説明を求めてはみたものの…… 桐子(きりこ)が聞いているはずもなく、また柏子(かしわこ)みずから積極的に話し始めるはずもない。


「え… えぇ、あらあら…… そうなのね? うーん、まぁ…… どうしてそうなったのかが、まったく解らないままではあるのだけれど……。 でも取り敢えず、きっともうのがれられない状況なんだろうなということだけは、だんだんと解ってきた気が致しますわ…… 」


「お察しの通り もはや (さくら)ねえは さからえねぇ」


「ぶふぅっ! くく… っぷはぁー! もぉ…… やめてよぉ、(カシワ)ちゃぁーん…… ぶっ!」


(きり)(ねえ)…… アタシが自分で言っといてなんだけど 今ので笑うとか ホントないから」


 桐子(きりこ)は、柏子(かしわこ)の言動に対する笑いの耐性(たいせい)が、常にマイナス状態なのだ。


「で、ワタクシはアナタ方が… その、『魔法少女』? ……になるために、いったい何をすればよろしいのかしら?」


「ずばり 『衣装』と『小道具』の用意 そして()マズイことになったときの周囲への『威嚇いかく』 あとはアタシたちの『庇護ひご』…… デス」


「えーっと…… 柏子(かしわこ)さん? まさか最後の『デス』は、『(death)』ではありませんわよね? うーん、それにしても…… 厄介やっかいそうなこと、超絶この上もない感じですわねぇ。 本当にワタクシって いったい…… 」


 そう言って 櫻子(さくらこ)は深く溜め息をつきつつも―――


「でぇ? (たま)さまは…… いったいどういった経緯(けいい)で、こちら(・・・)にいらっしゃるのです?」


 と、双子(キリかし)たちの(かたわ)らの床に しれっと座っている玉依(たまより)を、上の方の角度から下目遣(しためづか)いで見下ろし、無機質な笑みを浮かべながら 上から目線で問い(ただ)す。


 言葉遣いは(かろ)うじて丁寧(ていねい)さを保ちながらも、その高圧的な声音(こわね)と 目の奥の不穏(ふおん)な眼光から―――

 取り敢えずの困惑(こんわく)鬱憤(うっぷん)、そして何ともやるせない思いなど、それら悲喜交々(ひきこもごも)の全矛先(ほこさき)を、足元の老猫(たまより)に向ける方針のようだ。


櫻子(さくらこ)、相変わらずオマエの心と思考の向きは 解りやすいにゃあ」


(さくら)(ねえ) 規定通り(・・・・)の行動に感謝 そして玉先(たません)も 避雷針役をありがと (きり)(ねえ)もお礼言って」


 柏子(かしわこ)は ぺこりと二人に頭を下げ、桐子(きりこ)にもそれを(うなが)す。


「え? あ、うん! (タマ)先生(せんせ)(サクラ)姉さまぁ、どうもありがとぉー!」


 桐子(きりこ)も二人に元気良く礼を言ったものの…… (となり)柏子(かしわこ)に、「で…… なにがありがとうなの?」などと小声で聞いている。


「え…… (なあに)? 今のって、ワタクシが『雑用係』を引き受けたから…… では、ないですわよね。 え…… 何のお礼?」


 櫻子(さくらこ)何故(なぜ)礼を言われたのか良く解らず、玉依(たまより)への威嚇(いかく)()()がれた格好だ。


柏子(かしわこ)…… オマエは本当に賢いにゃあ、有り難うよ」


「別に 話は早い方がいい アタシと(きり)(ねえ)は 部屋から衣装のスケッチ取ってくるね」


 柏子(かしわこ)はそう言うと、桐子(きりこ)(うなが)して自分たちの部屋の方へと駆けていった。


「やれやれ、如才(じょさい)のない事だにゃ。 桐子(きりこ)のヤツが()らん この間に、『(こと)次第(しだい)』を櫻子(さくらこ)に話しておけ…… という事か」


 玉依(たまより)は、柏子(かしわこ)の要領の良さに苦笑しながらも、(みずか)らが 彼女の言うところの 規定通り(・・・・)に『避雷針』とされたことに加え―――

 すぐさま場の流れを変え、櫻子(さくらこ)の機先を制した その機転や手際に、内心舌を巻いた。



 それにしてもだ…… 今回の一件、内容は くだらにゃい話に見えるが、紐解(ひもと)いてみると なかなかに大事(おおごと)だにゃあ。


 もしも 桐子(きりこ)が再び、例の『欲求の()具現化』とでも言うべき、キワモノ(・・・・)異能(ジン)を無意識下で発動させ―――

 今度はワニなどではなく、『魔法少女』という架空(かくう)のモチーフをベースとした、ある程度の知能や攻撃力までをも有する『人間らしきモノ』…… ()わば『自律式人型兵器』とも成り得るような存在を、本当に()から実体化させてしまったりなどした日には……。


 そんな事にでもなれば、本国の星系軍が…… いや 下手をすると全宇宙が、桐子(きりこ)のヤツを放ってはおくまい。



(たま)さま、いつになく神妙(しんみょう)なお顔をなさっておいでのようですが…… どうかなさいました?」


櫻子(さくらこ)、この件にゃ…… すまんが命を懸ける(・・・・・)くらいの気構(きがま)えで関われよ」


「えーっと…… はい?」


(こと)次第(しだい)によっては、ワレらは いろんなモノ(・・・・・・)を失ってしまう事になるかもしれんぞ」





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館2階 柏子(かしわこ)の部屋―――


柏子(かしわこ)(きり)(ねえ) これが昨日描いた 衣装のスケッチ」


桐子(きりこ) 「えー! すっごぉーい! ねぇねぇ、見ーせてぇー!!」


柏子 「ん… いろいろ描いてみた」


桐子 「うわ… すっごい…… ぅわぁ!? すっごぉーーーーいぃー!!!?」


柏子 「いや… ただのタタキ台だから」


桐子 「(カシワ)ちゃんってぇ、絵も とぉーっても上手なんだねぇー!!」


柏子 「(きり)(ねえ)だってうまいよ それにアタシの絵は…… たぶん ココロが入ってない」


桐子 「ううん、そんなことないよー! だって この絵のお洋服、(キリ) すっっっごく着てみたいもーん!」


柏子 「ホント? あり… がと…… 」


桐子 「うん! やーっぱり、(カシワ)ちゃんは すっごいよー!」


柏子 「(きり)(ねえ)…… 」


桐子 「んー? なぁに、(カシワ)ちゃん?」


柏子 「えと… 早く 魔法少女に…… なれる と… いいね…… 」


桐子 「うん! 今ねぇ…… (キリ)、すっっっごく 楽しみなんだぁーー!! 」


柏子 「そっか 良かった」


桐子 「えへへー、だ・か・らぁ…… 今度(・・)はさぁ!」


柏子 「 ……………………… え?」


桐子 「すっごい『必殺技』を考えようよー!」


柏子 「あ………………………… えーっと…… 」


桐子 「ねー、(カシワ)ちゃん! カッコよくってぇ…… それで、すっごく つよぉーいやつーー!!」


柏子 「いや… あのね (きり)(ねえ)…… 昨日も言ったけど アタシたちって元々 ものすごく(・・・・・)強いんだよ」


桐子 「うん、そうみたいだねー! びーっくりぃ!」


柏子 「うん でね…… そんなアタシたちが 『必殺技』とか…… そんな派手な感じの技を使ったら…… 」


桐子 「んんー? 使ったらぁ?」


柏子 「たぶん 相手の人 骨も残らず蒸発して…… ヘタすると 周りの地形が変わる」


桐子 「ん? えーっとぉ…… 『チケイ』って、なあに?」


柏子 「いや だから地形…… 山とか谷とかの」


桐子 「ああ、なーんだぁ! 『地形』ねー ……………… え?」


柏子 「だからさ…… えと… (きり)(ねえ) 『必殺技』って 二人でやるんだよね?」


桐子 「そう! (チッカラ)を、あっわせてぇーー!」


柏子 「で…… あまつさえ クリティカルヒットを目指すんだよね?」


桐子 「ん? えーっとぉ…… 『天津(あまつ) 沙絵(さえ)… クリスタルコンサート』? ――― だぁれ?」


柏子 「いや ホント誰なのソレ…… そして どこでやってるの?」


桐子 「わかんない。 でも、ちょっと見たいかも」


柏子 「話もどすよ で なんだっけ…… そだ『必殺技』 それって 派手なのを思いきり ぶっぱなすんでしょ?」


桐子 「そうそう! カッコよくってぇ…… ピカーっ ぎゅっぎゅぅーーーん……………………………… どっっっかぁーーん!!! はらりはらりぃー…… て感じ?」


柏子 「えっと (きり)(ねえ) いちいち確認してゴメンだけど…… 『ぎゅーん』のあとの沈黙と あと 最後の『はらりはらりー』って…… なに?」


桐子 「あのね、すっごい技を出したからぁ…… その時は すぅっっごい音が『ぎゅぎゅーん!』って聞こえるんだけどぉ…… でも、(テキ)の人が すーっごく遠くにいるからぁ、(キリ)たちの『必殺技』も すーーっっごく遠くに飛んでっちゃってぇ……。 そしたら、音も聞こえなくなるの」


柏子 「へぇ ちょっとおもしろい で 最後の『はらりはらり』は?」


桐子 「うんとねぇ…… すっごいワザをマトモにうけちゃった(テキ)の人のカラダがぁ、じゅわわーって ジョウハツしてぇ…… でも すこーしだけ灰になって、そこらへんに『はらりはらりー』って、ふってくるイメージだよ?」


柏子 「えと…… 思ったよりリアルで具体的だったんだね それに アタシたちの放つ火力が相当強いってことも (きり)(ねえ)は ちゃんと自覚してたんだ」


桐子 「うん! だからダイジョウブだよ! でね、『必殺技』のはなしなんだけどぉ…… 」


柏子 「ソレはちょっと置いとこう とりあえず 玉先(たません)(さくら)(ねえ)のトコに戻ろっか」


桐子 「うん!」


柏子 「(きり)(ねえ)のイメージがハッキリと… しかも大きくなってきた まずは玉先(たません)…… いや (とお)さまに 『テキ』の選定を依頼しなきゃ どっかの大規模な武装組織か…… もしくは国家レベルとかじゃないと 全然相手にならないかも…… 先は長そう」







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