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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『絆』 chapter 004
17/40

玉依の奇譚 about 槍慈 × 貳



 ところで、先程からワガハイひとりがこの『喫茶室』について長々と語っておるようであるが、実は此処ここ()るのはワガハイだけではにゃい。


 カウンターの中では、如何(いか)にも喫茶店のマスター然とした()()ちの槍慈(そうじ)が、黒く長い髪を後ろで束ね、顔にいつもの鼻眼鏡フィンチ()えた姿で珈琲(コーヒー)()れておる。


 無論、屋敷の外に出る際は 一応『設定』と合わせ、もっと()けた顔や体型に姿を変えて、髪も白髪しらががちにしておるのであるが―――

 今は屋敷の中である(ゆえ)ワレワレ基準(・・・・・・)での『年相応』に…… そうだにゃあ、地球星(アルド)人の年齢に換算するところの、『30代前半』くらい…… といったところかにゃあ。



「おい 槍慈(そうじ)、アイツらはいつ帰って来るんだにゃ?」


弓弦(ゆづる)くんや櫻子(さくらこ)さんたちですか? もうそろそろだと思うのですがねぇ。 あ… そうそう、双子(キリかし)ちゃんたちは、お友達のところに寄ってから帰って来るようですよ」


 槍慈(そうじ)珈琲(コーヒー)豆を()きながら、入口付近の椅子の上で姿勢正しく鎮座ちんざしておるワガハイに向かって、カウンター越しに そう(こた)えつつ…… 少し手を()め、手にした懐中時計に目を()る。


 別に時計など見ずとも、時刻はおおよそ解ってはおるのであろうが、どうせアイツは『会話の流れの中で自然に見える美しい所作しょさというものがある』…… などと考えながら、そうした動きを()えてしておるのであろう。


 この槍慈(そうじ)というのは昔からそういうヤツで、万事(ばんじ)所作(しょさ)』や『挙動(きょどう)』の美しさなどというものを気に掛け…… 常にどこか演出じみた(・・・・・)生き方でもって、日々を大層白々(しらじら)しく過ごしておる。


 そう言えば確か、伴侶(はんりょ)たる瑞穂(みずほ)と初めて出会ったのも、当時コイツが『美しく無駄のない立ち居振る舞いを身に付けたい』などと言って()れ込んでおった、表千家だかにゃんだかの茶会での事ではなかったかにゃ。

 その時 瑞穂(みずほ)は、まだ青臭い小娘であったが。


 (ちな)みに 一応言い添えておくと、弓弦ゆづる櫻子(さくらこ)槍慈コイツの孫にあたり、現当主である刀眞とうまの長男と長女となる。

 そして『双子(キリかし)ちゃん』というのは (さら)にその妹にあたる次女と三女で、あの(・・)桐子きりこ柏子かしわこの事だにゃ。


「友達のところだぁ? ふん…… まさかまた木花このはなの所なんぞに行っておるのではあるまいにゃ。 まぁ、大丈夫だというのなら是非(ぜひ)(にゃ)いが……。 でもな槍慈そうじ、いずれはアイツらにも話しておかにゃいといかんぞ。 出来れば向こうよりも先ににゃ」


「ええ、解っていますよ。 『まだ子供のうちは知らなくて良い』などと言って先送りにしている間にも、彼女たちはどんどん成長していきます。 まして普段から カレら(・・・)とも決して遠くない場所に居ることが多いのですから、何かのきっかけで つい『触れて』しまうということだって、無いとは言い切れませんからねぇ」


 槍慈(そうじ)も理解はしておるようだが、正直気は進まんのだろう。

 確かにワガハイとて、出来ればあの双子(ふたご)どもには もう少しだけ、今の普通の子供時代を謳歌おうかさせてやりたいと、思ってはおるのだがにゃ……。

 まぁ そもそも(すで)に、特に双子(アイツ)ら自体が 全然(ぜんっぜん)『普通』ではにゃいのであるが……。



「まぁ… オマエが解っておるなら良いにゃ。 それに木花(このはな)上の娘(・・・)は当然、諸々(もろもろ)の事情は知っておるのであろうが…… かと言って、特に双子(アイツ)らに何事か(・・・)を吹き込んだり 手出ししたりといった様子も(にゃ)い。 それにあの家には、(うさぎ)のヤツももぐり込ませてあるしにゃ」


 とは言え、やはり安心は出来ん。

 『相手の出方を見ている』…… などと言えば聞こえは良いが、要は 現在の状況に甘んじ、希望的観測の(もと)で 水を低きに流しているだけだ。

 怠慢(たいまん)と評されても仕方がないレベルの、()わば 大いなる『平和ボケ』に他ならにゃい。



「ところで、少し話は()れるのですがねぇ――― 」


 槍慈(そうじ)は、()れたての珈琲(コーヒー)をワガハイの前に置きながら言う。


 むぅ… この珈琲(コーヒー)(にゃん)だか やたらと熱そうだにゃ……。

 しかも、黒楽茶碗(くろらくぢゃわん)なんぞに入れて出しおって…… コイツ、もしかしてわざとか?


「 ――― 玉依(たまより)さんもやはり、『曾孫(ひまご)』というのは可愛いものですか」


「ぶふぅっ! けはっ… かっは…… 」


 くそ… 槍慈(そうじ)め、また顔色も変えずに いけしゃあしゃあと。

 またぞろ、ワガハイを いじり倒しに来おったにゃ……。


「突然 (にゃに)を言い出すのだオマエは、あほか! それに、珈琲(コーヒー)をこんな真っ黒な(うつわ)なんぞに入れおって。 見えにくいやら熱いやらでもぅ…… 飲めるかぁ! こんなもーん!!」


「あー、ちょっとちょっと玉依(たまより)さん…… ヤケを起こして、ひっくり返したりしないでくださいよ? その楽焼(らくやき)、相当なお値打ち品なのでしょうからねぇ」


(にゃに)ぃ? ……って、これはワガハイ秘蔵の『長次郎作 南陽坊』ではにゃいかー!? ぁぁあ… (あっぶ)にゃいぃぃ…… もう少しで、弾き飛ばして割ってしまうところであったにゃ…… 」


「いやぁ、危機一髪でしたねぇ。 やはり、ワタシの大事なカップに入れて出さなくて正解でしたよ。 あっはっはっは」


 こんの ちょび(ひげ) 天乃邪鬼(あまのじゃく)が…… 昔っから本当に、行動原理の()じくれたヤツだにゃ。


「全く、油断も隙も(にゃ)い… オマエ、本当に覚えておけよ……。 それとだ、一体(いったい) 誰が双子(アイツ)らの『曾祖父(ひいじじぃ)』なんだにゃ! ……って、それだとワガハイがオマエの父親という事にもなってしまうであろうが、あほか!」


 ワガハイは気の利かにゃい短絡的な悪態をついた後、わざとそっぽを向くように後ろ脚の付け根あたりに顔を(うず)め…… 機嫌の悪さを態度ポージング表出アピールしてみる。

 でにゃいと どうせコイツは―――


「おや、実は満更(まんざら)でもなさそうな感じに見えますがねぇ」


 ――― などとほざき、(さら)にまた()かした態度で じゃれついてくるのであろうからにゃ。


「ふん…… 全く鬱陶(うっとう)しいヤツめ。 おい、そんな事よりも 瑞穂(みずほ)のヤツは何処(どこ)へ行っておるのだ?」


 少し強引にでも話を変えてやる。


 (ちな)みに瑞穂(みずほ)というのは、今から90年近く前に槍慈(そうじ)の連れ合いとなった、物好きな()地球星(アルド)人だ。

 コイツもまた、腹の底で(にゃに)を考えておるのかさっぱり解らん…… にもかくにもつかどころのにゃい、全く 夫婦(そろ)って面妖おかしなヤツらであるのだが―――


 ふむ、瑞穂(みずほ)のヤツは確か…… 旧姓を宗像むなかたと言い、櫛名田くしなだと同じ子爵家の出であったのだが、その父親もまた一風変わった男でにゃあ…… って、いや… この話はまた別の機会にしよう。

 話がにゃがくなると、また櫻子さくらこのヤツに叱られてしまうからにゃ。



「ほぅ… 玉依たまよりさん、()から(さま)に話題を()らされますね? やれやれ、(あい)()わらず 実にお可愛らしい」


「うるさい! オマエ調子に乗るにゃよ」


 ワガハイがそう言うと槍慈(そうじ)は肩をすくめ、(ようや)く「仕方がない」とでもいった風な仕草で(こた)える。


「はいはい、失礼致しました――― あ、そうそう… 瑞穂みずほさんでしたら、恐らく和館の水屋(みずや)の方ではないでしょうかねぇ。 今日はお茶の教室がありますから」


「そうか、今日は月曜だにゃ…… 残念、来るのはあの騒々(そうぞう)しいババァ連中の方か」


「はは… 玉依たまよりさんお気に入りの若い子たちが来られるのは、木曜の教室の方ですからねぇ」


 瑞穂(みずほ)は毎週月曜と木曜の2回、邸内『和館』の離れにある茶室『煩悩庵(ぼんのうあん)』で、茶道教室などをやっておる。


 やはりまぁ、その辺り…… (のち)()しくも喫茶室などを開いてしまった槍慈(そうじ)とは、夫婦(そろ)って趣味嗜好しゅみしこうが良く似ておるという事にゃのであろうが…… ご多聞たぶんれず、こっちもひどい名前のいおりだにゃあ。


 それにしてもだ、木曜の教室には若い娘たちが多く来る(ゆえ)、ワガハイもたまに遊びに行っては菓子などをもらっておるのだが―――

 しかし今日来る連中は、全くもって騒がしい事この上もにゃい。

 しかもだ… どいつもこいつも相当にえん、したたかにゃ魍魎(もののけ)ぞろいと来ておる。


「あのり手(ばば)ぁどもめ、化粧臭い手で毎度 (にゃん)時間もワガハイを(いじ)くり倒しおってからに…… 全くもって忌々(いまいま)しい」


 「あっはっは、まぁお気持ちは解りますが…… しかしねぇ 玉依(たまより)さん、元はかしこくも 一応は『神様』だったという御方おかたが…… 何とも(いささ)か、お口がお悪いことですねぇ」


「ふん、放っておけ。 実際にはワガハイは『神』などではにゃいわ」


 それにしても槍慈そうじのヤツ、(にゃに)可笑おかしいのか知らんが 楽しそうにしおって。


「しかしあれだにゃ、地球星アルド人は…… やはり若い方が良いにゃ」


「え…… いきなり何の『心の吐露(とろ)』なのです? いやぁ、それを言ったらワタシたちだって、同様に若い方が良いでしょう」


「それはまぁ そうだが…… いや、そういう事ではなくてだにゃ――― この星の連中は、ワレワレと違って寿命が極端に短いゆえ、『若い時期』というのが本当に一瞬の話にゃのであろうからして…… だからまぁそれだけ、そのわずかなひらめきの時間が とうとく見えるのであろうか… とにゃあ」


 にしてもだ…… この星のあちこちで『文明』というものが(ようや)勃興ぼっこうし始めた当初の頃より、度々(たびたび)あちこちで『神』とまであがめられながらんできたこのワガハイが―――

 この(およ)んで、世俗体面的な『若さ』などというものを気に掛けておるというのは…… ワレながらに滑稽(こっけい)な事ではあるがにゃ。


「ん…… ところで槍慈そうじ、ワレワレは何歳くらいまでなら『若い』と言えるのであろうかにゃあ?」


「え? ああ、うーん… そうですねぇ――― まぁ、ワタシの感覚ですと…… 取り敢えず『紀元前生まれ』とかの方は、は、もうそこそこ(・・・・)御歳おんとしなのでは?」


「おい… それ、ワガハイの事だろう。 槍慈(そぉじ)ぃ…… オマエ、さっきから(にゃん)か調子乗ってんにゃあ。 てか、『昭和生まれ』みたいな感じで言うにゃよ」


 しかしまぁ、確か7~8年前に『タマやん 4000歳おめでとう! ご長寿祝賀記念 御神体(ごしんたい)を取り囲む(うたげ)』などという、ふざけた名称の晩餐会(ばんさんかい)を開いてもらった覚えがあるによって―――

 確かに、そこそこの歳(・・・・・・)ではある。


 まぁ (いず)れにしろ、地球星(このほし)の『紀元前』どころの話ではないのだがにゃ。


 ちなみに、ワガハイが此処ここ 地球星アルドに来たのがおよそ3000年近く前だ。

 その頃、まず手始めとして『エジプト文明』にいろいろと干渉してみたのであるが…… はからずも、早速さっそく『神様』扱いされてしまった。

 それが、『神様業』の最初であったかにゃあ。



「とにかく、今日のオマエは(にゃん)かしつこいぞ」


「はいはい、これは (かさ)(がさ)ねすみませんねぇ…… どうにも少し退屈でしたもので」


「オマエにゃ、()エジプトの『神』をなめんなよ(・・・・・)(のろ)うぞ」


「確かその頃は、バステトさんと呼ばれていたのでしたか――― ん? でも確か…… 『バステトしん』は、女神様ではなかったですかねぇ?」


「まぁアレだ、ワガハイは見ての通り、見目麗みめうるわしい姿をしておるからにゃ」


「それにしても、黒猫姿の玉依(たまより)さんが、何故なぜいきなり神様扱いされてしまったのです?」


 おい、流すにゃよ。


「ふむ、まぁアレだ。 小さなところでは、周りのモノたちの怪我(けが)やら病気やらを異能ジンで治してやったり、墓荒らしどもの集団を歌で誘っておいて一時いちどきに炎でほふってやったりした。 まぁ、そもそも普段から猫の姿のままで話し、時には二足歩行で歩いたりもしておったしにゃあ」


「猫の姿の魔導士(ウィザード)ですか、なんだかこう…… 随分(ずいぶん)異世界奇譚(ファンタジィ)ですねぇ」


「あとはにゃ…… そうそう、とある大きないくさに加担し、絶対的に不利であった一方を大勝させてやった事などもあったぞ。 ワレワレの本国から、この星には存在しない特殊金属オリハルコンを大量に取り寄せて武器提供したりしてにゃ」


「無茶苦茶ですねぇ…… しかし、本国了承のもと… ということですか。 まだその当時はワレワレも、地球星(このほし)に対して結構大掛かりな干渉をおおやけおこなっていた…… ということなのですねぇ。 今の通念からすると、相当に大胆 かつ傲慢ごうまんな感はいなめませんが」


「あの頃はこの星の文明が未開過ぎて、皆 少々()れておったからにゃあ。 『少しくらいモノを教えてやらんと この先どうしようもない』などという…… 確かに傲慢(ごうまん)で乱暴な機運きうんもあった。 それが良かったのか悪かったのかは判らんが。 取り敢えず、そうした事も 一応は(・・・)歴史として織り込まれた上で、『現在いま』の この地球星(アルド)の実情がある。 だからまぁ、今となっては良いのではにゃいか? と…… (にゃん)とか自分に言い聞かせ、み込むしかないにゃあ」


「ふむ… 今が『良い状況である』…… 言い換えると、少なくとも何かしらの『最悪の状況にはおちいっていない』――― ということは、少なくとも大きな(あやま)ちはなかった…… という論理(ロジック)ですか。 ある意味、相当にいい加減な考え方ですねぇ」


「ああ。 そしてその『良し悪し』を判断しておるのも、当事者たる地球星アルド人たち自身ではなく、それを外部から『みちびき』などという独善的な大義名分のもとに操作コントロールしておるつもり(・・・)の、ワレら『部外者ウチュウジン』たちであるしにゃ」


「ワレワレ自身が(おこな)ってきたこととは言え…… こうしてかえりみてみると、本当に傲慢ごうまんな話ですねぇ。 地球星(このほし)の何千倍という歴史と経験を有しているというのに、全く情けないことです」


 まぁ、所詮しょせんはワレらとて ただの『人間』であり、『神』ではないのだからにゃ…… そのあたりが限界なのであろう。


「それにだ、そもそもそんなワレワレ目線(・・・・・・)の身勝手な『良し悪し』の判断ですら、本当に良かったのかどうかは、実際に時間遡行じかんそこうなどでいちいち比較検討を繰り返し、確かめてみにゃければ解らんのだ。 まぁ、全ての選択場面においてそのような手順を踏むなど、とてもやってはおられんがにゃ」


 (にゃに)が「良かった」か」悪かった」かなどという話は、所詮(しょせん) 後で思い返して ほくそ()んだり後悔したりする程度に(とど)めておくのが良い。


 その時々で『選択』したそれぞれの分岐先の末路まつろが いちいち正しかったかどうかなどという事は、恐らく判らんままの方が良いのだ。

 まして、『誰にとっての正しさ』にゃのかすら判らんたぐいのものなどについては 特ににゃ。


 『あの時こうしておけば』などと浅はかに思うのは個々の自由だが―――

 例えばだ、もしもその時(・・・) 実際にそう(・・)していたら…… もしかすると 今の自分の存在自体が、(にゃに)かの作用によって『なくなっている』…… つまりは死んでいるという事だって、充分に有り得る話なのだから。


 今現在、取り敢えず そこそこ平穏無事に生きておるのであれば、恐らく(おおむ)ねは『正しい選択』をし続けてこられたという事にゃのであろう。



「おっと、玉依たまよりさん、もう18時ですよ。 早く茶室の方に行かれては?」


「おお、もうそんな時間か…… って、あほか! 今日は絶ーーーっ対、離れには近付かんからにゃ! またあのババァどもに延々(えんえん)(いじ)くりまわされては(かにゃ)わんわ」


「なら、今日はずっと此処(ここ)られますか?」


「いや、薄暗いのは嫌いだから ちょっと出掛けて来る。 夕飯(ゆうめし)までには戻るにゃ」


「猫なのに…… 玉依(たまより)さん、相変わらず暗いのがお嫌いなのですねぇ」


「ワガハイは(ネコ)ではにゃい」


「いや、(ねこ)でしょう」


「オマエさんとこうして、ちゃーんと高尚こうしょうな会話もこなしておるであろうが。 てか、それどころの話ではにゃいわ! オマエがまだ地球星アルドに来たばかりの頃、その若造(・・)にいろいろと教えてやったのは、このワガハイにゃのだぞ!?」


「でしたねぇ―――。 いやぁ、その節は大変お世話になりました」


「4~500年も前の話を『その節』て…… 『その節』という言葉の適用期間の、ギネス最長記録であろうにゃ」


「また訳の解らないことを…… そこら辺のオッサンですか。 玉依たまよりさんって、どうにも地球星このほしの文化や世俗に どっぷりと馴染なじみ過ぎですよねぇ」


「それはそうだろう。 だって考えてみれば、地球星(アルド)と最も付き合いの長い生命体は、全宇宙的にみても 恐らくこのワガハイであろうからにゃ」


「ほう… と言うことは――― 玉依たまよりさんが『若い』などというカテゴリーにまる可能性は、万に一つもありませんねぇ。 だってアナタが若かったら、地球星(このほし)に年寄りはいないことになってしまいますから」


「え? うーん…… いやいやいやいや、地球星(アルド)人どもと比べる話などはしておらんではにゃいか。 あくまで、ワレワレ基準(・・・・・・)での話だにゃ」


「なんだ、気付かれましたか。 はいはい、女神(バステト)様はいつもお美しく、またお若くていらっしゃいますよ」


「オマエ、やっぱのろってやるからにゃ」





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく古代期こだいきたん



 古代エジプト 猫女神神殿(ブバスティス)謁見(えっけん)之間(のま)―――


ファラオ 「あぁ、偉大なるバステトの女神よ…… 貴女様あなたさまのご加護(かご)もっのぞまんとする この聖なる戦いにおいて、何故(なにゆえ) 我らが あのような小国に大敗をきっするなどという、不吉極まりない託宣たくせんを下されるのか!?」


玉依バステト 「いや だから、ワガハイは女ではないと何度(にゃんど)も…… まぁ良い。 オマエらのおごりきった性根と日頃の行いが招くであろう 当然の結果だにゃ。 侵略とか…… そういった野蛮な行動は(げん)(つつし)めと、いつも言っておるであろうが」


ファラオ 「しかしながら女神よ…… 我らとて民草(たみくさ)を守り、食わせてゆかねばなりませぬ。 そのためには 近隣の地に攻め入り、そしてより多くの奴隷どれいどもを…… 」


玉依バステト 「だぁーかぁーらぁー、奴隷どれいとかもう()めてしまえにゃ。 (にゃん)か怖いわ、オマエらのそういう考え方とか社会とか」


ファラオ 「では…… 我らは一体 どうやって労働力を手に入れれば…… 」


玉依バステトオノレらが自分で働けにゃー!!! あほかぁ!」


ファラオ 「な なんと! じ じ… 自分で!? この我々が!!? ナーイワーーー、ソレダケハ ナーイデーーース」


玉依バステトにゃんだ どうした、その急なカタコト……。 いや、だからにゃ? 国民 皆で働いて経済を循環させれば、国は富み個人も豊かになる。 奴隷どれいなんぞに頼りきって食っちゃ寝しておると、皆 肥満になって国の勢いも衰え、その内に亡んでしまうぞ」


ファラオ 「しかしながら女神よ! あのように未開で脾弱(ひよわ)そうな奴輩(やつばら)が、すぐそばるのですぞ? それをみすみす見逃しておく()がありましょうや!?」


玉依バステト 「はぁ… もう解った、好きにしろにゃ。 だが忠告はしたからにゃ。 なれば聞け…… 此度(こたび)(いくさ)()いて、()が『バステト』の名をかんし戦う事は許さん。 よって、ワガハイの加護(かご)庇護(ひご)は一切 (にゃい)ものと思え」



 ◇



 エジプトにはれまで随分ずいぶん便宜べんぎはかってきたが…… 今回ばかりは相手に味方をしてやろう。

 如何いかな兵力差とは申せ、所詮しょせんは白兵による近接戦主体の戦いだ。

 武器の多寡たか、そしてそれらの性能がモノを言う―――



玉依ティマイョ・レイ 「おい、そこの下士官、本国に状況を報告し、兵站(へいたん)と共に 特殊鋼オレイカルコスの武器を2万組ほど用意させろ。 月裏面カマル基地ベース経由で3日後には指定座標に投下するよう言ってくれにゃ」


下士官(のち龍岡たつおか) 「は、了解であります、ティマイョ・レイ中尉。 ところで、銃器のたぐい如何いかが致しましょう」


玉依ティマイョ・レイ 「うーん… 流石さすがにこの時代、飛び道具はフェアではにゃいが…… 」


下士官(たつおか) 「ワレワレが介入している時点で、すでにフェアではございません。 それに、解らなければどうということもないかと」


玉依ティマイョ・レイ 「ふむ、エジプト側のおもったモノを早々に数名 狙撃(そげき)してほふり…… それによって戦いが早く終われば、その分 犠牲者の絶対数は減る…… か」


下士官(たつおか) 「はい、いずけられぬ惨劇カタストロフ…… であれば、幕引き(フィナーレ)は早い方がよろしいかと」


玉依ティマイョ・レイ 「ん… 解った。 オマエに任せるよ、伍長」


 ふん、若いクセに物怖ものおじもせず、なかなかに小賢こざかしく怜悧れいりな事を言う。

 コイツ、いつか役に立つかも知れんにゃあ…… ふむ、なれば将校過程の方にでも推薦しておいてみるか。






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