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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『絆』 chapter 004
15/40

玉依の概説 about 槍慈 × 零



 ワレら櫛名田(くしなだ)の一族が、『聖域』としておよそ450年の長きに渡り(まも)り続けておるこの場所―――

 実は、元々は由緒(ゆいしょ)正しい…… かどうかは微妙なところだが、かつては『神社』であった。


 そしてその『() 神社』の歴史はまあまあ古く、元亀(げんき)天正(てんしょう)と呼ばれた頃に ワレら櫛名田(くしなだ)の一族が… と言うか、ワガハイと槍慈(そうじ)とが 勝手に(・・・)この地に建てたところから始まった。


 とは言え、ワガハイらが大工仕事をしたという訳では勿論(もちろん)にゃい。

 ていに言えば、宇宙人としての先駆技術(ハイテク)異能(ジン)、そしてあらゆる威令権能(オーソリティ)(カネ)の力…… 等々を余すことなく一気に使い倒し、たった一夜にして 総檜そうひのき素木しらき 大社造りによる壮麗な社殿を荒れ野に出現させたのだ。


 当然、まだ戦国の世の地球星(アルド)人…… 地元のモノたちは腰を抜かして驚き、そして大層 有難がった。


 だがそれもまぁ…… 今にして思えば、もうほんの少しでも後の時代であったなら、幕府(おかみ)衆目(しゅうもく)も随分とうるさかったのであろうにゃ。

 当時まだ、この東方の島国の情勢が良く解っておらんかったワレらにしてみれば、非常に運が良かったのだと言える。


 その時代 此処(ここ)ら辺一帯は、どうしようもない湿地が ただひたすらに延々(えんえん)と拡がっておったし、(にゃに)より まだ徳川が関東に入封(にゅうほう)する前… どころか、豊臣による大規模な検地測量すら行われておらん頃であった。


 そうした、(いま)だ 中・近世における緻密(ちみつ)な統治制度が敷かれる以前の混沌(こんとん)とした時代であったから、誰もが皆 随分と野放図(のほうず)なもので―――


 たった一夜にして 突如(とつじょ) 社殿が現れたこの怪現象(キセキ)を、「神仏かみほとけ仕業(しわざ)じゃ!」などと、素朴(そぼく)無邪気(むじゃき)に 言い(はや)しておった。


 そんな具合であったから、ワレら…… というよりその『神社』を 皆は大いに(おそ)れ、また(おが)み倒しこそすれ―――

 何処(どこ)からも、いらぬ詮議せんぎや文句などは来なかったにゃ。


 また、その時期はちょうど 北条が豊臣によって滅ぼされた頃であり、この地を治め 取り締まる有力な大領主が誰もらんかったのが良かった。


 半農半士の国衆(くにしゅう)地侍(じざむらい)程度のモノたちはあちこちに数多(あまた)()ったが、カレらがそれまで従属していた、()わば大樹(たいじゅ)たる北条家が急に倒れて (にゃ)くなってなってしまっていたせいか、ワレらの神社を新たな心の()(どころ)として求め、そうした有象無象うぞうむぞうが 次々と寄進きしんに来ておったにゃ。


 まぁ所詮しょせん、ワレワレにとって金品などというものは、如何様いかようにも出来得る程度のせんなきものではあるのだが―――

 しかしそれよりも いざという時の為、この地(・・・)の周囲に生きるモノたちの『民心』だけは、常にしっかりと(つか)んでおかねばにゃらん。


 その為の手段として、心のどころとなり得る『神社』…… つまり『信仰の場』というものは、下手(へた)な武力や権力、財力などよりも 余程よほど人の心をとらまえるのに適した、ひとつの正しいカタチ(・・・・・・)であったのだにゃ。


 そして、その『()』を()かし かつ ()かす為には、(にゃに)より人の心を誘引(ゆういん)する、『こと』の発現が肝要(かんよう)だ。


 他人(ひと)から(あが)(たてまつ)られる為には、それこそ何処(どこ)の星や国、時代であるにかかわらず、(にゃに)かしらの『奇跡(キセキ)』を起こすのが最も手っ取り早い。


 そうした事は、かつての大昔にワガハイ自身が(すで)に一度 この星の裏側において経験済みであったから、この神社を創建する(おり)も「うまくいって当然だ」などと、随分(ずいぶん) 能天気に考えておったものだ。


 そして実際、思惑(おもわく)通りに(うま)くいったのではあるが―――

 しかし今にして思えば、これも『運』に助けられたところが相当に大きいにゃあ。


 そもそもの宗旨(しゅうし)選定についても、当時ははなはだしく短絡的たんらくてきながら、「この国の土着信仰系のもので()かろう」などという安直な理由―――

 いや… それどころか、ただの思い付きに近い勢い(・・)だけで、()しくも『神道(しんとう)』を選んだのであった。


 だが このなかば偶然のような当時の選択に、今は本当に心底 胸を(にゃ)で下ろす思いなのであるにゃ。


 と言うのも、ワレらが建てたのが例えば『仏寺ぶつじ』であれば、その後の各宗派による衝突やら盛衰(せいすい)やらのあおりを受け、恐らくは相当面倒な事に幾度も巻き込まれておったであろうし―――

 ましてや、ちょうど当時は ある特定の宗派に対する大規模な弾圧と、それに対する多くの民衆による反動蜂起はんどうほうきなどもあった。


 それにまた 万々が一、伴天連(バテレン)の『南蛮寺(だいうすでら)』などにでもしていたら…… 本当に、エライ事(・・・・)になるところであった。


 まぁ、恙無(つつがな)今日こんにちまで『この地』を無事に(まも)ってこられたのは、(まこと)にもって (にゃに)より幸いな事であるがにゃ。


 その後も様々な事象がそれなりにはあったが…… 長くいくさのにゃい近世江戸期という時代は、そこそこ平穏な日々であった。


 また、ワレらの神社は 京の神祇大副(じんぎたいふ)とかいう高位の役目柄のモノとも代々 (ねんご)ろであったので、それなりの社格(しゃかく)に加え 朝廷の官位なども(もら)えておった。

 それがゆえか、幕府の奉行や代官どもも ワレらを下へは置かなかったしにゃ。


 だから(しばら)くの間は、安穏(あんのん)と暮らしておられたし―――

 そして(にゃに)より その間には、この国が『()』という独自の文化を創り出し、260年余という長い年月を連綿れんめんと受け継ぎ 熟成させてゆくという興味深い(さま)も、じっくりと通しで(・・・)眺める事が出来た。



 だが、幕末から維新期にかけての数年は、さすがに大層な厄介事(やっかいごと)が幾つかあり―――


 いや…… その『厄介事(やっかいごと)』というのは、この小さな島国の中での「幕府だ」「朝廷だ」などという、つまらん権力交代の話などではにゃい。


 そうした この時代の混乱に乗じたのか、ワレらが地球星ここに来て初めて、この聖域に対し『他勢力』からの干渉(・・)を受けたのだ。


 まぁ… そうした事々(ことごと)は、ワガハイと槍慈そうじとで(にゃん)とか(うま)かわしたのであるが、その後もさらにいろいろとあって―――


 明治の初めの頃、ワレらが300年間 (まも)()み続けた『櫛名田くしなだ神社』は、(ゆえ)あってみずからの意思で廃社(はいしゃ)とした。


 まぁアレだ、多少の寂しさも(にゃ)いではなかったが…… それもまずは何より、『聖域』たるこの地を(まも)る為であった訳であるからして、致し方のない話だにゃ。


 このあたりの経緯いきさつは、今度また別の機会に詳しく…… そう、多少 盛り気味に面白おもしろ可笑(おか)しく、そしてワガハイが より格好良い(・・・・・・)ていで皆の胸にきざまれるよう再構成し、じっくりと話し聞かせてやろう程に。



 さて、ときくだって明治15年―――

 この地にまず、当家の華族邸宅として初めの屋敷を建てたのであるが…… これもまた諸般の事情(・・・・・)により、わず40年弱で ワレらみずからの手によって焼失させ―――

 って、うーん…… こうしてかえりみてみると、一体 (にゃに)をやっておるのであろうかにゃあ……。


 そして(ようや)く、今のこの屋敷が建てられたのが 大正期の中頃であったか。


 こうして現在に(いた)るまでの間に、この地が(こうむ)った震災や戦災を(ことごと)く無事に()(くぐ)り、今でも屋敷は厳然(げんぜん)此処ここ(のこ)っておるのであるにゃ。


 まぁ (いず)れの折も、屋敷の防衛システムが稼働(かどう)しておったのであるからして、この星で起こる程度の戦乱や天災などからは、無事であって当然と言えば当然にゃのであるが。


 しかしそれ(ゆえ)に、現在(いま)ではこの屋敷地は「当時の姿を最も保存状態良く遺している」などの理由で、都から『有形文化財』の指定まで受けておるという訳だ。

 まぁその辺は、槍慈(そうじ)のヤツの『思惑(おもわく)通り』…… とでもいったところか。


 お(かげ)で、この地を(まも)る上でのひとつの懸念(けねん)事項である『開発の波』からは、ある程度 逃れられておるのであるからにゃ。



 そうそう、先程から度々(たびたび)話に登場しておる『かつての各時代の槍慈(そうじ)ども(・・)』についても、折角(せっかく)だから少し話しておこうかにゃあ。


 昔、この地が神社であった頃には長年 宮司(ぐうじ)を務め、そして明治以降は 勲功華族(くんこうかぞく)として子爵(ししゃく)に列せられておった。

 これは先日来、(すで)に幾度も話しておるにゃ。


 で…… 『幕末』などと呼ばれたこの時期に、一体 (にゃに)をもって『勲功』を認められたかと言うとだ―――

 まぁいろいろあって、槍慈そうじのヤツは宮司の身でありながら『維新志士』などというモノを、心ならずも演じて(・・・)おった事があったのだ。


 正直…… 当時の機運からしても、また公平な眼から見ても、維新側の連中なんぞは全く好きにはなれなかったのであるが…… 実はそれで、一度失敗(・・)してしまっておってだにゃあ―――

 まぁ… 背に腹は替えられず、大層面倒ではあったのだが…… 実は一度、『過去のやり直し』をした。


 この辺りの事も、さっき言った『神社の廃社』や『初めの屋敷の焼失』などとからみ、諸々(もろもろ)経緯(いきさつ)があるのだが…… それもまた全部ひっくるめて、今度 別の機会の話でにゃ。


 それにしてもだ…… 『時代の波』などといったものは、異星系人であるこのワレらの知恵と経験をもってしても なかなかにはかがたく―――

 いや()(もっ)て、事程(ことほど)左様(さよう)に…… ()ぎょがたきものであるのだにゃあ。



 おっといかん、話を元に戻してだ―――

 その槍慈そうじだが…… 息子の刀眞(とうま)家督(かとく)を譲り、全ての事物(じぶつ)一切(いっさい)を周りのモノたちに伝え終えた後、さも満足したような笑みを浮かべて静かに―――

 まだしっかりと生きておるわ…… 宇宙人だからにゃ。


 知っての通り、この屋敷の1階で勝手(かって)気儘(きまま)(もう)かりもせん喫茶室などを営み、外見が若い割には年寄りくさい鼻眼鏡なんぞをし腐っておるアイツが、(くだん)ソレ(・・)…… 槍慈(そうじ)だ。


 表向き、旧華族のまごだとか曾孫(ひまご)だとかいう事になってはいるが、勿論(もちろん) 他ならぬ本人(・・)だ。

 元亀げんき天正てんしょうの頃から変わらずにずーっとにゃ。


 それでもワガハイなどよりは随分(ずいぶん)と若く、確か今年で1067歳であったか。


 当然、江戸期以前から同じ人間として生き続けておっては化け物扱いされてしまうゆえ、時々 死んだ事にしては姿を変え、代替わりしているように見せかけながら此処(ここ)までやってきた。


 しかしだ、さすがに最近では役所も昔のようにいい加減ではなくなってきておる訳であるからして…… それで()(にゃ)く、槍慈(ヤツ)地球星(ここ)に降り立ってから初めて、息子への代替わりを()(おこな)った…… というところだにゃ。


 では、その次はどうするかという事になるが―――

 刀眞(とうま)には(すで)に子もおるし、その他にもいろいろと手は打っておるのであるによって…… まぁその辺りの見通しについては、さほどの心配は(にゃ)いのではないかにゃあ。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく後刻ごこくたん



 後刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館2階 北東の間―――


瑞穂みずほ 「まぁまぁ…… 今日は槍慈そうじさんの昔のお話を たーっくさんうかがえて、とーっても よろしゅうございましたわぁ。 たまちゃん、ありがとうねぇー 」


櫻子さくらこ 「もう、瑞穂みずほ祖母ばあさまったら…… のっけからそんなにおめになられては、ワタクシがこの『おしゃべ毛玉虫(けだまむし)』をシバキ倒すことができなくなってしまうではありませんか」


玉依たまより 「おい」


弓弦ゆづる 「でもまぁ… 確かにボクら世代にとっては、かつてのこの家のことがいろいろと聞けて勉強になったね。 やはりたま先生のようなお年寄り(・・・・)の話は、いくら鬱陶うっとうしくても虫唾むしずが走っても、まだ聞けるうちに多少は我慢がまんして…… いやでも耳をかたむけておくべきなのだろうね」


玉依 「おーい」


葉月はづき 「うんうん、せやなぁ…… って、いやいやいや! もぉ、めっさ話が(なっが)いねんて、(タマ)やんは! 相っ変わらずに! あ゛ー…… なんかもっとこう… アレや、パパーっと短こぅな? せや、例えば原稿用紙1枚くらいに箇条書かじょうがきかなんかで、上手いこと適当テキトーにまとめたりとか…… そんなんはできへんの?」


櫻子 「まぁ、お母さま!? それってワタクシがこの間から主張していたことと全く同じですわ! 良かったぁ…… 初めてお母さまが、ワタクシの本当の親で間違いないのかもしれない(・・・・・・)と、ほんの少しだけ(・・・・・・・)感じられた瞬間ですわ! あぁ、ちょっとだけ(・・・・・・)感動…… 」


葉月 「おーーい」


槍慈そうじ 「それにしても玉依たまよりさん、よく昔のことをきちんと事細かに覚えておいでですねぇ。 ワタシなど、歴代で語ってきた自分の名前すらも、今 使っているのを含めて三つくらいしか思い出せませんよ。 あっはっはっはっは」


全員 「おーーーい」






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