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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『備』 chapter 003
14/40

玉依の采配 with 藩屏 × 貳



 此処(ここ)は洋館の1階にある『第三応接の間』―――

 今日はこの部屋で、月に一度の定例報告会を(おこな)っておる。


 この会議の参加メンバーは、当 櫛名田(くしなだ)家の執事である龍岡(たつおか)と 以下使用人たち…… というのは表向きであり―――

 実際は、この家の屋敷地を(まも)るために星系軍より派遣されてきておる、(まさ)に『聖域の藩屏(はんぺい)』たるに相応(ふさわ)しい 特務中隊のエキスパートたちである。



 ◇



「さて、他に(にゃに)か報告はあるかにゃ?」


「はい、玉依(たまより)主席統制官補」


 軽く手を挙げて発言許可を求めてきたのは、うさぎと同じ准士官級諜報要員であると同時に、システム等の特殊技術担当を兼ねる猿倉さるくら特務曹長だ。


 このモノは現状、今日のような定例会議や屋敷内のシステムメンテナンスの日には来邸するが、それ以外はこの国の『警察関係者』として、主に刀眞とうまのサポートに付いてもらっておる。


 猿倉さるくらは当然 ワレらと同じ『宇宙人』の(たぐ)いであり、地球星(アルド)人と比べれば知力・身体能力共に相当優位な状況にある訳であるからして―――

 この国の『国家公務員…… Ⅰ 種? 試験』などというものは、恐らく一夜漬け程度の準備でも余裕でクリアできる代物(しろもの)にゃのである。


 だがしかし、警察庁採用の際にはえてランクを落とし、『国家公務員 一般職(・・・)試験』とやらの合格者として入庁させた。

 そうした(わく)で採用されたモノらを 警察機構内では近年、公然の非公式で『()キャリア』とかいう待遇(たいぐう)としておるようだ。


 まぁ、そういう便宜制度(ローカルルール)は こちらとしても都合が良かった訳で―――

 仮に猿倉(さるくら)刀眞(とうま)と同じ『警察官僚キャリア』として送り込んだ場合、恐らく始めの数年は日本中を頻繁ひんぱんに配置転換させられてしまって、とても刀眞ヤツそばになどは ほとん()れんかったであろうし―――


 かといって逆に、『地方公務員』である 都採用の一般警官として警()庁などに入れてしまえば、それこそ 国家機関である警()庁に所属する刀眞とうまとの接点などは、ますます持てにゃかったであろう。


 しかしながら現状、(にゃん)とか無事 警察庁に席を置くことが出来、また毎年の異動の時期には その都度(つど)刀眞とうまの方から官房人事に無理を言って 猿倉(さるくら)を多少強引に手元に置き続け、以来5年間ずっと…… そう、一時は海外赴任にまで付き従わせておった。


 まぁしかし、刀眞とうまも一昨年まで出向しておった在米日本大使館から(すで)に帰国したことでもある(ゆえ)―――

 今後もし、猿倉さるくらに別の部署への異動などという話が出た場合には、もうあまり無理はさせずに刀眞(とうま)の元を一度離れさせ、例えば『現場方面への潜入』などといったかたちの職務に切り替えたりしても良いかもしれん。


 もしくは もうすっぱりと警察を辞めさせ、当屋敷に専属で戻すというのも良いであろうし…… まぁ、その時の流れ次第だにゃ。


 いずれにしろ、『この地』もしくは『櫛名田くしなだ家』の為に最大限 役に立ってもらう事が、勿論もちろん望ましいのではあるが―――

 それよりもまず第一義は、やはり『無理せず目立たぬ事』であるというスタンスを、常にワレワレは 忘れてはならんのであるにゃ。


 おっと、いかんいかん―――

 こうした語りが多くなると、また櫻子(さくらこ)のヤツに叱られてしまうからにゃ…… 場面を元に戻そうか。



猿倉さるくら特務曹長か、にゃんだ」


「はっ、先日の地球星(アルド)人窃盗犯による、当屋敷への侵入騒ぎについてであります」


 猿倉さるくらは起立すると、まるで背中に背筋矯正用の怪しい健康器具でも入っているかのような、やけに綺麗な姿勢で一礼してから述べ始める。


「ふん… オマエ、すっかりこの国の警官らしい物腰ものごしになったにゃ…… で?」


「え? あ、はい… 恐縮であります…… 報告します。 えー、3日前の深夜――― 当屋敷に窃盗目的で侵入をはかった被疑者ひぎしゃですが、当家の防衛システムにかかり、一時は亜空間へと自動強制転移――― 危うく窒息死する寸前のところで身柄を捕捉・確保し、急行した鹿沼かぬま医師(せんせい)によって救い出され、一命を取り留めました」


 鹿沼かぬまというのは、当 櫛名田(くしなだ)家付の主治医で、星系軍の軍医―――

 一応 軍属であり、階級は少佐待遇の…… いやまぁ、所謂(いわゆる) 気の良いオッサンだ。


「ああ、そこまでは聞いておるよ。 それで?」


「はい。 その後、医師(せんせい)処置(・・)を受け、秘匿要件部分の記憶を完全消去された上で、警視庁 神在東署(かんざいひがししょ)に引き渡されており、現在 取り調べ拘留(こうりゅう)中です」


「そうか。 で、(にゃに)か問題が?」


「はぁ、それがその…… 窃盗未遂 及び 不法侵入事件自体、そして被疑者本人についても、特に問題はなかったのですが…… 」


にゃんだ、はっきり言え」


「はい…… 実はこの件を受け、警視庁 某幹部の口から『やはり櫛名田くしなだ邸に駐在所を置いて警察官を常駐警備させた方が良いのではないか』という、ワレらからすれば看過(かんか)できかねる(たぐ)いの意見が出されておりますようで…… 」


「な!? はぁぁぁ…… そっちかぁ――― 」


「はい……。 そして(すで)に、その意向を受けたかたちでのトップダウンが、現場サイド…… 現状まずは方面本部の方に落ちてきているようでして…… 」


「 ――― いゃ… いやいやいやいや、ソイツはいかんにゃあ。 まぁ… 警察の連中としても別に他意はにゃいのであろうが…… 敷地のすぐそばにそのような『目』を常に置かれてしまっては、それこそ いつ(にゃに)を見られるかも解らんし、全く(もっ)()らぬお世話だぞ」


 そんなもの、コチラにとっては非常に有難迷惑(ありがためいわく)な話であり、正直ただの厄介事リスクでしかにゃいわ。


「おい 猿倉(さるくら)ぁ…… その件、どうにかして阻止そし出来んかぁ?」


「それが… ですね…… その提言をしておりますのが、警視庁の『警備部長』という職位のモノでありまして…… 」


「ほぅ… という事は、都の警備部門のトップか」


 全く、余計な事を言い出しおって。

 いやまぁ、ソイツとしても良かれと思っての意見(いけん)具申ぐしんにゃのであろうが―――

 ふん…… 相変わらずこの国の警察は、くそ真面目な事だにゃ。


「もう面倒だ。 多少の波風(なみかぜ)が立ってもかまわん。 刀眞とうまから直接ソイツに『そんなものは()らん』と、ハッキリ言わせてしまえにゃ」


 そう、(まさ)にこういった時の為―――

 各方面の要所(かなめどころ)には、常日頃(つねひごろ)より 身内や息のかかったモノたちを抜かりなく配置しておるのであるからにゃ。


「あ… いえ、それが…… 警視庁の警備部長というのは、確かに所管上は刀眞とうま様の()られる警察庁警備局の管轄下に属するものではあるのですが、少しばかりその… 微妙でして…… 」


「ん…… 『微妙』とは?」


「はい… 実は階級的に申しますと、そのモノは今の刀眞とうま様よりも上位にあるという状況であり…… 」


(にゃん)だ、ソイツもその…… 警察官僚キャリアにゃのか」


「はい。 『警視監』ですので、刀眞とうま警視正より二つばかり上の… 警察組織内では、ほぼ最高位になります。 ですので、正直 今後のことを考えますと、ここで()らぬ波風を立てるのは あまり得策とは言えないかと…… 」


 (にゃ)る程…… まぁ確かにワレワレとしても、刀眞とうまにはこれから この国の警察組織の中枢に侵入はいり込んでおいてもらわねばならんところではあるからにゃ。


「ふむ…… にゃらばどうする?」


「はい、従いまして 少し考えたのですが――― 実は今、全く違う方向から この案件が実行に移されなくなるよう、諸々(もろもろ) 手を回しているところであります」


「ほう、どうするのだ」


概案がいあんはこうです。 まずは、その『駐在所の用地候補』とされている場所より、何かしらの… 例えば『国宝級』とも言えるような、重要な『遺物』が発掘されるように仕向けます。 そうすれば、この国の文化財保護法の観点から、所管部局により『工事の一時中止』が求められ、上手くすれば そのまま計画が頓挫とんざする公算が高くなります。 ですので、もしこの場にてご裁下(さいか)いただけるようでしたら、早速(さっそく)にでも…… 」


時間遡行じかんそこう(おこな)って何処(どこ)ぞの時代に行き、その『(にゃに)か』を埋めてくる…… と言うのか?」


「はい。 しかし 単体の『遺物』だけでは、調査が終わればまた工事が再開してしまいます。 ですので出来れば、そこ(・・)がそのまま国の特別史跡か…… せめて 都の指定史跡とでもなるよう、『遺構』として(のこ)るような構造物級(・・・・)のものを 過去にて建造(・・)してくる必要が…… 」


「待て待て待て! そんな大層な事をしたら、現行の歴史への影響が大きくなり過ぎてしまうであろうが。 もう大っ変にゃんだぞ? その後始末あとしまつやら辻褄合つじつまあわせやらは。 それに…… この地があまり注目され過ぎるというのも、正直考えものだしにゃ」


左様さようですか…… 了解であります。 それでは少し発想を変えまして、逆に『高濃度の有害汚染物質』でも埋めて参りますとか…… 」


「えー? うーーーん…… いやぁ、それも何だかにゃあ。 そんなものが埋まっておる真傍まそばで日々寝食を営むというのも、正直 薄気味(うすっきみ)悪くて 全然気が進まんのだが……。 (にゃん)かもっとこう、シンプルでスマートな方法はにゃいのか?」


「でしたらもう いっそのこと、(くだん)の警備部長を消してしまいましょう」


却下きゃっかだ。 オマエ…… 仮の姿とは言え、『警察官』の発言とは思えんにゃ。 頼むから、もっと穏便おんびんなやつにしてくれよ」



「あの、よろしいでしょうか?」


 此処(ここ)で手を挙げたのは、本中隊の女性部隊である第3小隊の長であり、屋敷では家政婦長を務めておる鷺山さぎやまだ。

 隊中きっての切れモノで、かつ (にゃに)よりも思考に柔軟性があり、また腕の方も相当に立つ。


鷺山さぎやま少尉か、(にゃに)か妙案でもあるのか?」


「はい、妙案(みょうあん)…… かどうかは(はか)りかねますが――― そもそもの、その警察幹部発言のきっかけとなった『先日の当屋敷地への不法侵入事件』自体を、無かったことにしてしまってはいかがでしょうか」


「ほう…… つまり3日前に戻り、その泥棒ドロボウ(なにがし)がこの屋敷に入り込む前に(にゃん)とかする…… と、そういう事だにゃ?」


おっしゃる通りです、ティマィョ・レィ主席統制官補」


 ふむ、それなら歴史への被害も少にゃそうだし、ウチとしても余計な騒ぎで注目を浴びる事も(にゃ)くなる…… か。

 今までの案の中では、比較的 良策だにゃ。


「良いだろう。 まぁ、ソイツがこの屋敷に入った事実を(にゃ)くしたところで、今度はまた別の所に盗みに入るだけにゃのであろうが…… 」


 それならそれで好都合―――

 いや…… むしろ今回の場合は、そう仕向けねばならんのかも知れんにゃあ……。


「よし、ではこの任、発案者である鷺山さぎやま少尉と、そして報告者であり警官の身分でもある猿倉さるくら特務曹長の両名でおこなってもらいたい。 どうだ、龍岡たつおか大尉」


「はい、承知致しました中佐――― 異論はございません。 ですが…… 」


 龍岡(たつおか)は、いつもの執事である時のように思慮深そうな面持(おもも)ちで、右眼に着けた片眼鏡モノクルに軽く手をやってから言葉を継ぐ。


「今回は、小官(しょうかん)も同行させていただきます。 統括する立場のモノと致しましては、この件の『記憶』を保持しておいた方がよろしいかと愚考ぐこう致しますので」


「そうか、解った。 ではご苦労だがそうしてくれにゃ」


 龍岡たつおか大尉が言っているのはこうだ。

 鷺山さぎやま少尉と猿倉さるくら特務曹長の二人が 首尾(しゅび)良く任務を達成した場合、3日前の騒ぎ自体が(にゃ)かった事になる。


 すると畢竟ひっきょう、この両名を除く 全宇宙中全てのモノたちの記憶から、この泥棒騒ぎ自体の一連の記憶が全て(にゃ)くなってしまうという事になる―――


 それは勿論もちろん龍岡(たつおか)や このワガハイの記憶からも。


 従って此処(ここ)は、龍岡(たつおか) (みずか)らも同行して当事者となる事により、自身の内にも記憶を()め置こう…… という向きの配慮だ。


「ではこの案件、手間ですまんがオマエたちが戻ったら すぐワガハイに、『事の経緯から再度』報告してもらえんか。 あとで自筆の命令書を渡すによって、当該事実改変後の 何も知らんワガハイ《・・・・・・・・・》にそれを渡し、あわせて説明してやってくれ」


「はっ、了解であります」


 三人は(そろ)って敬礼し、命令を受諾した。


「ああ、それとにゃぁ大尉、これは言わずもがなの事にゃのかも知れんが…… 」


 と、念の為に補足しようとするワガハイに対し、龍岡たつおかの方は心得たもので―――


「はい。 対象(・・)が当家に入りそこねるよう仕向け、本作戦の完遂(かんすい)を確認した後も()えてそのまま(およ)がせて監視し、再び別の何処(どこ)かに侵入するのを待ちます。 そしてその犯行後に、警官の身分である猿倉(さるくら)をして現行犯逮捕せしめればよろしいでしょうか」


「ああ、それで良い」


 要はだ…… その泥棒(ドロボウ)の3日前の侵入を『ただ防いだだけ』では、例えばその翌日にまた同じ事を繰り返し、当屋敷に再度忍び込もうとせんとも限らん―――

 また 別の観点から言うと、歴史の改変事項はなるべく少にゃい方が良い…… という事だ。


 よって、ソイツがその後 また何処どこか別の家にでも侵入(はい)り、盗みを働いたのを見届けた上で現行犯逮捕し―――


 そして『改変前である今現在』と同じように、そのモノが神在東署(かんざいひがししょ)勾留(こうりゅう)された状態とするのが望ましい…… とまぁ、こういう事だにゃ。



「ところで猿倉さるくら、その泥棒ドロボウだが…… 男か女か、どっちだにゃ?」


「はい、姓名は巫女芝みこしば 美野和みのわ。 32歳の女です」


 此処(ここ)で 一同の内の幾人かは、おもてには出さないまでも内心 はっとする。

 どうやら、屋敷の筋塀すじべいをよじ登ろうとした窃盗犯であると聞き、短絡的たんらくてきに男であると思い込んでいたモノが、やはり多少は()るようだ。


 まぁ、この道のエキスパートどもとは言え、経験や能力も様々―――

 こうした些細(ささい)なところからも、日々(ひび)逐一(ちくいち)(にゃに)かと学んでいってもらいたいものである。


「そうか。 猿倉さるくら、念の為 ソイツの身元を入念に調べ(にゃお)しておけ。 この家に忍び込もうとした動機が間違い(にゃ)く、単なる日和見ひよりみの窃盗目的であったのかどうか――― そして本当に、どの他勢力(・・・)とも関わり合いが(にゃ)いモノであるのかどうかを…… にゃ」


「は! 了解であります」



 ◇



 ふぅ、それにしても…… 全くもって毎月毎月よくもまぁ、面倒事(めんどうごと)がいろいろといて出てくるものだにゃ。


 その後、さらに幾人かの口から、多岐(たき)に渡る様々な報告が(にゃ)されたのだが……。


 給仕(きゅうじ)主計係しゅけいがかりを兼ねる烏山からすやま伍長からは―――


槍慈そうじがやっておる喫茶室の、如何(いか)にも(かんば)しくにゃい累積赤字の収支状況について』



 邸内の庭師を務めておる馬籠まごめ軍曹からは―――


『聖地の地下深くから発せられるチカラによって、もう10月になろうというこの時期に 邸内の桜が一斉(いっせい)に咲き乱れ、あわてて人為的に竜巻を起こして散らせた際の、(こと)顛末(てんまつ)と今後の対策…… そして、ある《ワニ》の現況について』


 メイド長の犬山いぬやま軍曹と メイドの鴨山かもやま兵長からは―――


『先日の秋祭りの晩、町内上空を(にゃに)やら派手な格好で飛翔する桐子きりこ柏子かしわこの姿を 迂闊(うかつ)にも一般人に携帯端末(スマホ)で撮影され、しかもインターネット上にUPされてしまった件の状況報告――― 』


『 ――― 更には、その動画を削除する為に 複数のサイトや無数の個人端末をハッキングし、当該データを強制削除しまくった際の結果報告――― 』


『 ――― また、その上で撮影者を割り出し、一時その身柄を拘束こうそく。 そして最早もはや馴染(なじ)みとなった《鹿沼かぬま医師による記憶消去措置》の 施術完了報告――― 』


『 ――― まとめとして、それら一連の詳細な経緯いきさつを整理したレポートの提出 及び 今後の再発防止策の協議と――― 』


『 ――― (しま)いには、当事者である桐子(きりこ)柏子(かしわこ)両名による《反省文》の読み上げ…… 』



 そして最後が、瑞穂みずほの侍女である白鳥しらとり中隊付副官より―――


『昨日、神在町かんざいまち駅前付近を通りがかった瑞穂みずほが、80年以上も前によく遊んでやっていたという近所の子供(・・)を見付けて話しかけ――― しかしながら当然、ソイツはもう90歳に手が届こうという年寄りな訳で……。 片や、本来であれば今年で108歳になるはずの瑞穂みずほが どう見ても30代前半の容姿である為、必然的に軽くひと騒ぎになったという――― くだらなくも危なっかしい出来事について…… 』


 まぁ… 相手が年寄りであったゆえ随行(ずいこう)していた白鳥(しらとり)少尉の機転により―――

 『瑞穂みずほ曾孫ひまご瑞希みずきだ』などとその場をつくろう事で、一応その場は事無(ことな)きを()たらしいが……。


 念の為、これも後で鹿沼かぬま医師に ひと働き(・・・・)してもらうように命じておいた。



 はぁぁぁあ…… 最後の二つは一体 (にゃん)なのだ、あほか!

 アイツらには、後で多少キツめに言っておかねばならんにゃ。


 でもまぁそんな事で、今日の定例も無事終わりに近付き―――

 取り敢えず、諸々(もろもろ)のリスクヘッジを講じる手立ても付けられ、一先(ひとま)ずは めでたしめでたし…… と言ったところかにゃ。



「中隊諸君、他に何も(にゃ)いようであれば、そろそろ今週の定例会をまとめようか。 では最後に 料理長の熊野くまの特務曹長、来週の食事めし献立こんだてを発表してくれるかにゃ?」





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく同刻どうこくたん



 同刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 小食堂の間―――


柏子かしわこ 「あれ 龍岡たつおかさんたち どこか行った?」


桐子きりこ 「あぁ、アレだよー。 毎月やってる、えーっと…… そだ、『てーれーほーこくかい?』…… とかっていうやつ」


柏子 「あー 毎月この日は お茶のおかわりが出てこなくて不便」


桐子 「でもメイドさんたち、『この日はザンギョウ代がでるから助かるー』って言ってたよー 」


柏子 「え あの人たち そんなお金に困ってるの」


桐子 「うーん、それはわかんないけど……。 でもほら、鴨山かもやまさんとかまだ若いしさー、ほしいものとかぁ、きっといーっぱいあるんだよー 」


柏子 「ふーん あ…… 」


桐子 「んー? どしたのぉ、カシワちゃーん?」


柏子 「今日の報告会って こないだのアタシたちの反省文が読まれる日 かも」


桐子 「あ゛ー…… そだったぁー。 あとでタマ先生せんせに怒られるかなぁー?」


柏子 「でも あれはアタシたちが全部悪いわけじゃない」


桐子 「えー、そぉなのぉー?」


柏子 「うん だから反省文に アタシの思うところを書いてやった」


桐子 「おー! さすがだねー、カシワちゃんはー。 キリなんかさー、『ごめんなさい!』ってたーっくさん書いたよぉー 」


柏子 「アタシ 一個も謝罪の言葉 書かなかった」



柏子かしわこ 反省文>


 今回のこと アタシたちにも非はある

 でも 認識阻害の措置を講じていたにもかかわらず その効力には 相手の個体差による相性や限界があり

 また ごく少数の人間には 視認すらされ得るという事実は 今回のことで初めて露見した事案

 また 光学機器による撮影も ある一定条件のもとでは阻害できないという 技術的瑕疵(かし)の実態は

 アタシたちの今回の責任とは 完全に切り離すべき

 その点 くれぐれも斟酌(しんしゃく)されたい

 なんなら 過分に忖度(そんたく)してくれてもかまわない

 ――― 以上



桐子きりこ 反省文>


 きのうはごめんなさい。

 キリが「魔法少女☆スローロリスをやりたい」っていったせいで、カシワちゃんまでおこられてしまって、キリはお姉ちゃんとしてシッカクです。

 そして、龍岡さんや白鳥さん、犬山さん、鴨山さんにウッシー、あと猿倉さんにも たくさんたくさん ごメイワクをかけてしまいました。

 ほんとうにほんとうに、ごめんなさい。

 あと鹿沼先生、サツエイした人の頭の中をいじってキオクを消すのだそうですが、あまりイタくしないであげてください。

 こんど町のうえをとぶときは、ちゃんとヘンソウして、顔がわからないようにします。

 ごめんなさいでした。

 ――― おわり



玉依たまより 「おい、コイツらのこれ…… 柏子かしわこは全く反省しとらんし、桐子きりこいたっては、そもそも(こと)の本質を全く理解出来ておらんよにゃ」


櫻子さくらこ 「良いではありませんか、可愛いのですから」


玉依 「オマエ、そこだけは本当にブレないのにゃ」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 『余話譚』に関することにも触れてらっしゃいますね。 しかし異能パワーで、えいやっと解決できないあたりに、宇宙人といえども世知辛さからは逃れられない悲哀を感じます。
[良い点] 設定が面白そうでしたね。 名家が実は宇宙人一族で、華麗に乗り越えていく、とは惹かれる面があります。 荘厳な雰囲気がよく伝わってくる情景描写です。 副題もどこか気品を感じられます。 言い回…
2020/01/04 08:34 退会済み
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