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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『備』 chapter 003
13/40

玉依の采配 with 藩屏 × 壹



 此処ここは洋館1階、『第三応接の間』―――


 この部屋は他の応接室よりも広く、中央には表面を古色のローズウッドで仕上げた、如何(いか)にも重そうな大型の円形卓が置かれ、主に会議などの用途で使われておる。

 まぁ、一族の内ではワガハイ以外 あまり使用しておらんのであるがにゃ。


 ちなみに、この部屋の南側壁面には 明治期の華族令発布の際に子爵位を襲爵しゅうしゃくした、『櫛名田くしなだ中興ちゅうこう』などと言われておるらしい、維新志士 櫛名田くしなだ 斧衛おのえの肖像画が、にゃんとも仰々(ぎょうぎょう)しく飾り立てられておるのであるが―――


 まぁ… 言うまでもにゃく この絵の中の人物は、現在この屋敷の片隅で趣味の喫茶室などをやっておるワガハイの相棒、櫛名田(くしなだ) 槍慈そうじ 本人(・・)だ。


 確か、あれから3回程『代替だいがわり擬装の茶番(・・)』をおこなったはずであるから…… 槍慈そうじは一応、『斧衛おのえ曾孫ひまご』という設定になっておるのであろうかにゃ。


 知っての通りワレらの寿命は、恐らく今の(・・)地球星アルド人の100倍以上はある。

 (ゆえ)に、一所ひとところに のほほんと暮らし続けておっては、周りのモノたちとの間に世代的な齟齬そごが生じ、その内に奇異きいの目で見られ始め、そして(しま)いには相当に厄介(やっかい)な形で悪目立わるめだちしてしまうことにもなろう。


 そう言えば、かつてワガハイがこの東方の島国に来る前、八尾比丘尼やおびくになる前任者が居ったのだが―――

 『悪目立(わるめだ)ち』というものの一例としては、例えばそういうことかにゃあ。


 ヤツのように、ああやって一度ひとたび『不老不死だ』などという困ったうわさでも拡げられてしまおうものにゃら…… その生き死になどに限らず、一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそく逐一ちくいち喧伝(けんでん)され、また衆目しゅうもくさらされて、ワレらが『使命を果たす』上では不都合な事この上もにゃい。


 かと言って、守護の対象――― 『聖域』たるこの地を離れる訳にもいかんので、勿論(もちろん)ワレワレも長年の間ずっと此処ここ()み続けておるのであるが―――

 一向に()けもせず 変わらぬ姿で生き続けておっては、当然周囲のモノたちに不審がられる。


 そこで、そうした世間の耳目(じもく)(かわ)すためにワレらがった方策はこうだ。


 ある一定期間ごとに、その都度つど 顔や身体(からだ)を少しずつ()けさせていき、そして頃合いを見計らっては 病気やら事故やらで死んだこと(・・・・・)にする―――


 そしてその後、「長い間 遠方で離れて暮らしていた」…… などという、怪しくも大層ありきたりな設定で、『息子』やら『遠縁のモノ』などと称する『若返った姿の槍慈そうじ』が何処(どこ)からともなく現れては、次の当主ということで家を継いでいく。


 そんな事を、これまでのおよそ450年の間に、何度にゃんど何度にゃーんども繰り返してきた。


 だからこの、わざとらしい程にいかめしい顔つきをし、ひげの量を実際よりもかなり多めに盛られ(・・・)―――


 そして衣服の方はというと、黒地に金糸の刺繍(ししゅう)で桐の葉っぱをモチーフにしたマークが無数にあしらわれた…… 確か『大礼服(たいれいふく)』? …… とやらをその身にまとい、(にゃん)とも滑稽(こっけい)な姿で描かれておる この肖像画を見る(たび)に、ワガハイはもう可笑(おか)しくて仕方がないのであるにゃ。


 しかしまぁ、今の槍慈(そうじ)には 家を継いでくれた刀眞とうまという息子がおり、そして弓弦(ゆづる)という孫まで()る訳であるからして、少なくともあの『茶番(・・)』だけは、もうせずに済みそうで―――


 ふむ……?

 いや… それは当然、非常に喜ばしいことであるはずにゃのであるが……。

 しかし何故にゃぜだか意外と、それはそれで少し残念なような気がせんでもないにゃあ。


 とは言えだ、今はこの島国も 国民の管理統制システムがようやくにして多少は緻密ちみつに構築されてきておるによって―――

 かつてのような あんな茶番(・・)程度のことでは、世間はともかく 国や役所の方はあざむけんかもしれないがにゃ。



 ◇



 時刻は午後8時半―――

 (すで)夕食(ディナー)を終え、一族の他のモノたちは銘々(めいめい)気儘(きまま)余暇(よか)(とき)を過ごしておる…… が、ワガハイはこれから此処(ここ)で、月に一度の『定例報告会』などというものを(もよお)さねばにゃらん。


 その会議の内容はと言うと―――

 この屋敷内の日常の些末(さまつ)事々(ことごと)から、今の櫛名田(くしなだ)家を取り巻く周囲の状況に変化や不穏(ふおん)な動きはにゃいか…… などといった危機管理的な事項までと幅広く―――

 まぁ… とにかく議題はいろいろとあって、その時々なのであるがにゃ。


 そうした事について、まずは配下のモノたちに それぞれの職掌(しょくしょう)的な観点から遺漏(いろう)なく報告を上げさせ、またそれについて同様に話し合い、ワガハイが裁定(さいてい)を下して、順次 粛々(しゅくしゅく)と処理していく。


 そしてその決定要件に従い、各員は着実にそれを実行する…… というのが、この定例の意味合いであり、ざっとした概略(あらまし)であるのだにゃ。



 ◇



「申し訳ありません、遅くなりました」


 素早く力強いノックのあとに扉が開き、つい先程まで弓弦ゆづる櫻子さくらこの護衛任務に()いておった猪去いさりが、深々と一礼して入ってくる。


猪去(いさり)伍長、ご苦労だったにゃ。 座ってくれ」


「はっ」


 猪去(いさり)は、ワガハイに向け姿勢を正してから律儀りちぎにも改めて一礼し、直属の隊長である龍岡(たつおか)にも軽く黙礼(もくれい)してから、カレのいつもの定位置に座る。


 猪去(いさり)は屈強かつ均整のとれた体躯(たいく)の持ち主で、特に何もせずそこに立っておるだけでも 周囲に対して適度に品格をたもった威圧感を与える。


 (まさ)に、カレの屋敷内での役割のひとつである『ボディガード』としては、適材適所であると言えよう。

 性格も 馬鹿が付く程に真面目な男で、しかしそれゆえ 子供らをまもらせるにたっては信が置ける。


 カレには主に、弓弦(ゆづる)櫻子(さくらこ)の身辺警護の任を与えており、また 二人が通う學士院大学附属 高等科への、登下校の車の運転手なども兼ねさせておるのであるが―――


 それに限らず 他にもいろいろとやってもらっており、普段は学校まで弓弦(ゆづる)たちを送らせた後、午前中の内に一度屋敷の方へと戻し、夕方の下校時刻までは 槍慈(そうじ)瑞穂(みずほ)の外出などにも付き従わせたりしておる。


 (ちな)みに、ボディガードはもう一人おり、それが主に桐子(きりこ)柏子(かしわこ)の方に付いておる牛岐(うしき)というモノだ。


 カレは猪去(いさり)と同じ小隊の上官にゃのであるが、同様に戦闘系の優れたスキルと身体(からだ)を持ち、特に膂力(りょりょく)の面だけで言えば、龍岡(たつおか)(ひき)いる特務中隊のモノたちの中でも、この二人に(かな)うモノは他には()るまい。



玉依たまより様、一同これで全員(そろ)ったようです」


 普段は執事として屋敷内の多岐(たき)様々(さまざま)な営みを差配さはいし、そしてこの中隊においては その指揮官を務めておる龍岡たつおかが、ワガハイに会議の開始をうながす。


「ああ、解ったにゃ」


 今 此処ここに集まっておるのは、さきにも少し触れたが、あくまで表向き(・・・) 櫛名田くしなだ家の『使用人』のていつかえてくれておる、龍岡たつおか大尉麾下(きか)14名―――

 合わせて15体の ワガハイと同じ『半獣型』種族であり、星系軍 地球星アルド方面参謀本部直属 独立特務中隊のモノたちである。


 此処(ここ)()るカレらは、ゆえあってずっと猫の姿のままでおるワガハイとは違い、任務中の(ほとん)どの時間を 人型ひとがたの姿をたもった状態で過ごしておる。


 また、各員はそれぞれに違った個性の動物体がベースとなっており、状況に応じて そのもう一つ…… いや、もう二つ(・・・・)異形いぎょうの姿に身体からだを変化させ、その能力を引き出す事ができるのであるにゃ。



「おぉ、今日は猿倉さるくらうさぎの両特務曹長も来ておるのか。 うさぎ、久しいにゃ。 で… どうだ、このところの木花このはなの様子は」


 うさぎというのは、所謂(いわゆる)このモノの苗字(みょうじ)にゃのであるが、一昨年からずっと 異形いぎょうの姿で長期潜入の任を果たしておる諜報員 兼 特殊戦闘員の女性下士官だ。


 そしてその潜入先は、ワレらと同じ宇宙人一族である『木花このはな家』―――

 その本拠地たる屋敷の 庭先(・・)である。



「はい、玉依たまより様。 木花このはなの屋敷には、桐子きりこ様や柏子かしわこ様もよくお越しになられておりますが、そちらの方は特に問題はないかと」


「ふん、アイツらは相変わらず 木花(このはな)の家の子供らとよく遊んでおるのか…… まぁ良い。 それで?」


「はい。 ただ ここ1週間程の間に、当主 矛連たけつらの動きに変化がありました。 このところ矛連たけつらは 夕方に一度帰宅し、そして食事後にまた車を出させて(あわ)ただしく外出――― その後の帰宅は、毎日ほぼ深夜…… といったことが多くなっているようです」


「ふむ。 で、その『多くなっている』というのは どれくらいだにゃ?」


「6日前の水曜から昨日の月曜までのうち、金曜以外は全てそうでした」


「解った、引き続き見張れにゃ。 そして(にゃに)かあったら、まずワガハイにムシ(・・)を飛ばせ」


 『ムシ』というのは、超小型の自律式飛翔型ドローンで、画像や音声などを記録させ、遠隔地のモノ…… つまりワガハイとやり取りするのにもちいておる。


 (ちな)みに、それを作ったのは葉月(はづき)であるのだが…… その話はまた別の機会とするにゃ。



かしこまりました。 あともうひとつ」


(にゃん)だ」


「4日前の金曜 20:00(ふたまる)八上やがみ家の長女 勢理奈せりなが、共も連れずひそかに 木花このはなの屋敷に来邸しました」


八上やがみの? 一人でか…… 一体 (にゃん)の用だ」


矛連たけつらと書斎で1時間程 何事かを話していたようですが、内容までは…… 」


「ふむ、矛連たけつらが1日だけ夜に出掛けなかったのはその為か」


「恐らくは」


「解った。 出来れば用件を知りたいところだが…… 無理はするにゃ。 引き続き監視を続け、また来るようならしらせろ」


「は、了解であります。 玉依たまより様――― いえ、ティマィョ・レィ主席統制官補」



 それにしても…… 此処(ここ)にきて何故にゃにゆえ 八上やがみ家のモノが…… しかも上の娘(・・・)だと?


 財界のゆうの一角を成す八上やがみ家の跡取あととり娘であるとは言え、地球星アルド人の小娘が木花このはな家…… しかも矛連たけつらに一体 (にゃん)の用だ―――


 それにしても、木花このはな八上やがみか…… いやな組み合わせだにゃ。

 かつて(・・・)ごとく、また『この地』をまとにした動きでなければ良いのだが……。

 まぁ、今の限られた情報で考えていても仕方がにゃい…… 今後を見守るか。



 ちなみにだ、諸賢(しょけん)()いては もうすでに気付いておるかもしれんが―――

 此処ここ()るカレらの『姓名』には、大抵たいてい 各員のもう一つの姿の方の『動物名』を表す漢字が入っておる。

 それがまぁ、解りやすいと言えばそうにゃのであるが……。


 しかしどうにもこう、付け方が安直あんちょく過ぎてだにゃ…… 正直センスが、もう壊滅的と言って良い程に、全くにゃいのだ――― コイツらには。

 戦闘力だけでなく頭も切れる、結構すごい連中なんだがにゃあ……。


 特に『うさぎ』などは…… もう少し苗字(みょうじ)らしくというか―――

 にゃんとかならんかったのかと、いつも思うのだが…… まぁ、良いか。


 ワレらにとって、名前なんぞはどうでも良い。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく先刻せんこくたん



 先刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 小客室付近―――


白鳥しらとり 「先輩、そろそろですよね、月例報告会。 行けそうですか?」


鷺山さぎやま白鳥しらとり少尉…… ええ、問題ないわ。 それよりも… その…… 」


白鳥 「どうかされましたか?」


鷺山 「いや、その…… 先日はワタシ、随分と酔ってしまって…… 」


白鳥 「ああ、確かに。 あれはかなり引きましたね」


鷺山 「かはぁ! 白鳥しらとりぃ…… アンタ相変わらず容赦ないというか、本っ当に心無い女ね…… 」


白鳥 「はぁ、恐れ入ります。 ではアレですか? 例えば…… 『えぇー? いゃもぉ 全っ然ですよぉ、せんぱぁーい! そ・れ・よ・りぃ…… また聞かせてくださいねぇー? せんぱいのぉ…… コ・イ・バ・ナー★゛ あは!』…… などといった おちゃらけた返しで、有耶無耶うやむやにでもした方が良かったですか?」


鷺山 「いやぁ、うん…… 確かにいきなり『無かったコト』にされるのはさすがに無理があるし、そういったことじゃないのよ。 あと、アンタも こんなつまんないことに『潜入時の人格変換スキル』を小器用に使わなくて よろっすぃ。 てか何なのよ今のキャラ!? 最後の『★゛』みたいなのがよう~にどす黒かったんだけどぉ!? あとさぁ…… (声がでかーい! だれかにきこえたらどうすんのよあんたばかなんじゃないのまったくもう~!)」


白鳥 「はぁ…… あの 先輩、酔ってます?」


鷺山 「酔ってねーし!」


犬山(いぬやま) 鴨山(かもやま)白鳥しらとり副官に鷺山さぎやま小隊長、お疲れ様ですぅ。 で…… 『恋話コイバナ』されてるんですかぁ?」


鷺山 「ぶふぅっ!! いや、ちょ… ァア アンタたち、いきなり…… どど どっからいて出たのよぉ!?」


白鳥 「犬山いぬやま軍曹に鴨山かもやま兵長ですか、お疲れ様。 いえ、正確には『恋話』というより――― 」


鷺山 「え…… いや ちょっと、白鳥(しらとり)?」


白鳥 「 ――― 鷺山さぎやま先輩が、『アタシも若い頃にキュンキュンしちゃうような大恋愛とかしてみたかったわ~★゛』…… などという、超どん引きな話(・・・・・・・)を――― 」


鷺山 「ちょっと、白鳥(しらとり)少尉ぃぃぃ~!!?」


白鳥 「 ――― 先日 居酒屋で延々と聞かされた際の、ご本人様による後悔と自己嫌悪の談だったのだけれど」


鷺山 「てんめ コイツ、さらっと部下たちの前で…… だぁーっとけやぁぁぁ~!!?」


白鳥 「 ……………… え?」


鷺山 「ぅぅう… お、終わった……。 ワタシの軍人としての功績キャリアも、上官としての威厳も、そして一人の人間としての尊厳も――― それら全てを、今一瞬にして失ってしまった……。 この『トリ女』…… 決して… 決して許すまじ…………… 」


白鳥 「ああ はいはい、怖い怖い。 まぁ、大丈夫ですよ先輩、アナタ打たれ強いですし。 それに実務だけは(・・・)、そこそこ優秀なのですから。 だからこれからは ただひたすら、『課せられた任務だけ』に鋭意邁進えいいまいしんしてくださいね。 お互い『トリ女』同士、頑張りましょう★゛」


犬山 「えっと、白鳥しらとり副官って…… ものすごく鋭利えいりな刃物を持っていながらも、えて そのの部分の方で ジワジワと『撲殺ぼくさつ』するタイプですよね…… 」


鴨山 「そしてウチの小隊長殿が、その手にかけられてってしまわれた…… 」


(うさぎ) 「たっだいまー、みんな 久し振りぃ…… って、え… なんなのこの状況!? なんか小隊長が、白化して廃人みたいになってるんだけど!!?」






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