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旧家 ❀ 櫛名田一族の聖域  作者: 漣 ✾ 黒猫堂
『備』 chapter 003
12/40

玉依の概説 with 藩屏 × 零



 此処(ここ)はワレらが(まも)()まう、絶対不可侵の『聖域』たる場所――― 櫛名田(くしなだ)邸の屋敷地である。


 この地の概要をざっと述べると、東西に約80m、南北約60mといった、なかなかに単純(シンプル)かつ美しい矩形(くけい)のエリアではあるのだが…… 残念にゃがら黄金比 <Golden ratio> ではにゃい。


 あのプロポーションは、それなりに興味深いチカラや意味を持つはずにゃのだが―――

 まぁ… この地のソレは、そんなものに頼る必要など全くにゃい程に 強力かつ特異なものにゃのであるからして、実質 その程度の些細(ささい)な付加価値は、(にゃ)くても一向に(かま)わん。


 そんなこの敷地の外周は、土質由来(ゆらい)の仕上材を美しく塗り込め、そこに水平な五本の細い横溝彫よこみぞぼりを丁寧(ていねい)(ほどこ)した『筋塀(すじべい)』と呼ばれる擁壁(ようへき)によって、一応 隙間なく整然と囲まれておる。


 また、その延々と続く長い壁の上端(うわば)には、意匠的な笠として、鈍く光る黒鉄色(くろがねいろ)塀瓦(へいがわら)が、ひと揺れの歪みもなくびっしりと(そな)()かれており―――

 そうした風情(ふぜい)は、確かにこの東方の島国固有の様式美として 大変結構にゃものでもあるのだが……。


 (ちな)みに、敷地内に出入りするための門は各方位に1箇所ずつで、大小合わせて計4箇所。

 その内、車が出入りできる程度の幅があるのは西側の『表門(おもてもん)』で、特に此処(ここ)(かま)えは 近世の格式に(のっと)った規模と(しつら)えを そのままの姿でのこしてある。


 従って、邸内に入れば和洋それぞれの屋敷や庭園が数多(あまた)あり、それらは絶妙な調和バランスで折衷混在(せっちゅうこんざい)しているのであるが―――

 (おもて)から見える周囲の(たたず)まいは、純和様式で統一されておる…… ということになるにゃ。


 そのように、外から見た門構(もんがま)えや(へい)などは一見 (いか)めしく、大層立派に(しつら)えられておるのであるが―――

 そうしたものは、ワレらが言うところの『(まも)り』という観点からすれば、当然にゃがら全くもって役になど立とうはずもにゃい。


 まぁそもそも、乗り越えられたり ましてや空から来られたりなどしてしまえば もうそれまでである『(へい)』などという造作(ぞうさく)は、どちらかと言うと所詮しょせんは『意識』に訴えかける程度の、(はなは)だ不完全な物理結界でしかにゃく―――


 また 上空がガラ空きである以上、ワレらが想定する(たぐ)いの『干渉かんしょう』への防御機能などは、(はな)から全くもって期待など出来んのであるにゃ。


 で あるからして、そこは勿論(もちろん)ワレらなりの 全宇宙標準(・・・・・)的な高々度セキュリティを、この地の上空約100kmから 地中約60kmに至る範囲において、入念かつ過剰なまでに高く深く、そして幾重いくえにも厚く 厳重に張り巡らせてある。


 そのセキュリティ能力は、手放しに『絶対安全』だなどとは言えにゃいまでも、ある程度の効果は当然期待できるレベルのものだ。


 例えば、ワレらと同程度のチカラを有する(いず)れかの『異星系勢力』が、この地に(にゃに)かしらの敵意 ないしは害意ある干渉かんしょうを加えてきたのだとしても―――

 まぁ… それが物理攻撃であれ(にゃん)であれ、およそ大抵のものは (なん)なく跳ね返せるはずである。


 但しまぁ、それはだ…… 例えば、惑星制圧部隊やら航宙艦隊やらというような、()わば『化け物級の大規模戦力』を 此処(ここ)だけに()しげもなく一極(いっきょく)投入(とうにゅう)されてしまうなどといった、そんな異常事態においては流石(さすが)に、当然ながら その限りではにゃかろう―――


 ふむ… にゃかろうが……… いや、しかし実際にはそれでも、当システムを(もっ)てすれば、多少の時間を稼ぎつつ相手を一時的に無力化し、沈黙させるくらいのことは(かろ)うじて可能であるかも知れん。


 だがその場合…… 周囲の街などは、地形が変わる程の壊滅的な打撃を受けるであろうが―――

 しかしまぁ 取り敢えず、そんな事で此処(ここ)いら辺一帯が遠々(えんえん)と続く焼け野原となり、かつ地面ごと深く(えぐ)られる程の深刻な被害(ダメージ)を受けたとしても…… 少なくとも この地さえ(まも)り切ることが出来れば、ワレらとしては(にゃん)の問題もにゃい。



 話が随分(ずいぶん)横路(よこみち)()れてしまったが…… このようにもしも、当屋敷の防衛システムが『警戒すべき(にゃに)モノか』の接近や侵入を感知した場合には―――

 その記録照合から各種防衛措置などの、適切かつすみやかな展開…… そして 状況に即した効果的攻勢対応や、その後の執拗(しつよう)な追尾行動 等々までを、自律即応的に行うことが瞬時で可能…… な、はず(・・)ではある。


 だが如何(いかん)せん、戦後70年程はそんな大掛かりな起動が必要とにゃる事態も皆無(かいむ)であったので…… 実際、どうなんだろうにゃ。


 まぁ… かと言って、システムに『対 航宙艦隊戦』などを想定した大規模演習を行わせるという訳にもいかんしにゃあ。

 普段の軽微な事案に対する通常警戒動作は問題にゃく動いておるようだし、定期的なメンテナンスもおこにゃってはおるが……。


 まぁとにかくだ、そうした『(まも)り』が常に機能しておるが(ゆえ)に、少なくともうっかり(・・・・)窃盗目的などでこの敷地内に入ってしまった ただの(・・・)地球星(アルド)人などは、自業自得であるとは言え 多少の『過ぎたる(むく)い』を受けてしまうことも あるかもしれないにゃあ。



 ◇



 さて、こうして述べてきたように、この敷地は周囲の一般家屋などと比べると、あらゆる意味で異彩いさいはにゃ)っておることには違いにゃいのであるが……… そもそも、敷地面積自体がなかなかに広い。


 では今度は、その敷地()の話に移るが―――

 この地の内部には 主屋しゅおくである『洋館』の他、はにゃれとして木造平屋で純和風の『和館』が建ち、ワレらはそれらを 主にその日の気分(・・・・・・)によって使い分けておる。


 また、和洋それぞれに趣向を()らした幾つかの広い庭園は、季節ごとの移ろいがその時々で美しく()(いき)づくよう、隅々にまで入念かつ丁寧ていねいに人の手が入れられており―――

 無粋(ぶすい)なワレらがたまに散歩をする程度にしか活用法を見出(みい)だせておらんのが、至極(しごく)勿体(もったい)にゃいくらいであるのだにゃ。


 (ちな)みに、庭の芝を整えたり雑草を取り除いたりといった程度の雑務は、ワレらの異能(ジン)を使えば造作(ぞうさ)もにゃいことであるからして、広い割にはさほどの労力は掛かっておらん。

 まぁ、美的感覚の有無長短は別の話だがにゃ。


 但し、此処(ここ)棲息せいそくしておる様々な生き物や植物たちは、このエリアの『聖域』としての特性上、放っておけば勝手に―――

 いや、むしろ有り得ない程の生命力で 急速かつ強靭(きょうじん)に繁殖し育っていってしまうため、その辺りが多少厄介(やっかい)ではあるのだが。


 とは言え、それらの手入れのために地球星(アルド)の職人や専門家などを出入りさせることなどは決して出来ん。


 そんな連中に「此処(ここ)には何かあるぞ」などと感付かれ、()らぬ地質調査やら地中探査やらが行われることにでもにゃった日には…… 裏から表から 四方八方に手をまわして妨害するなり、(ある)いは様々な偽装工作を(ほどこ)すなりと、至極面倒な状況になりそうであること、全くもってこの上もにゃい。


 また、もし『万が一の事態』にでも発展してしまった場合には、背に腹は替えられんから、もう『時間遡行(じかんそこう)』からの根本的な『歴史改変』などの措置までが必要になってしまうかも知れず―――


 しかしにゃあ、それは前にもむを得ず何度かやったのであるが…… (にゃに)しろ、変わってしまった歴史の帳尻合わせやら後始末やらが、それはもう半端ハンッパにゃく大変で、正直もう 出来れば二度と御免だにゃ。


 であるからして、この敷地内には むやみに地球星(アルド)人など入れたくにゃい。

 では、そうならないためにはどうするかという話であるのだが―――


 実はこの家には、ワレら櫛名田(くしなだ)の一族の他に、同居ではなく基本的に皆『通い』ではあるのだが、幾人かのこちらサイド(・・・・・・)のモノら―――

 所謂(いわゆる)、宇宙人に(るい)する『使用人』たちを(やと)っておる。

 まぁ、(すで)に何度かチラっとは話したにゃ。


 そのカレらのうち、ほぼ毎日邸内に()るのは、執事である龍岡(たつおか)を筆頭に、メイドや料理人や庭師など 約10人程。


 その他 必要に応じて出入りしておるのが、例えばボディガードのモノたちや、邸内の各種システム系統の技術担当 兼 警察関係者として刀眞とうまに付けてあるモノ…… あとは、某所ぼうしょにて長期で潜入活動をさせておるモノ 等々。


 そうそう、それにワレワレ専門(・・・・・・)の医務官などもり、今は合わせて15人程であったかにゃ。


 (ちな)みにカレらは、この地の事情(・・・・・・)についても勿論(もちろん) (おおむ)ねは承知しており、有事の際には全員 ワガハイの麾下きか此処(ここ)(まも)るための戦闘員となる段取りである。


 そしてその際には、カレらの真の姿(・・・)も見られる訳であるが―――

 いや… そんな事態は、そもそも絶対に起こってはにゃらんのだ。



 話がまた少し跳んだが…… 敷地の和洋各庭園内には、茶室やいくつかの四阿(あずまや)や温室、そしてかつての名残(にゃご)りとして、鳥居や小さな(やしろ)などもあり―――


 事程左様(ことほどさよう)に、ワレら一族だけで()まうのには、正直多少 ()あまし気味の感があるのは(いな)めにゃいのである。


 まぁ、ワレらがまもらねばならん範囲(エリア)をカバーするのに、多少の余裕を見た上での必要最低限の広さが、今のこの屋敷地という訳であるからして…… 全くもって、仕方がにゃいのであるがにゃ。



 ◇



 今回は、この『聖域』を()するための 様々な造作的『結界(Barrier)』や、自律防衛のための高々度な『機構(System)』、そして適材適所に配置された優秀な『人員(Agent)』などについて、ほんの触り程度の概要ではあったが 一応述べてみた。


 (まさ)に、これら『聖域の藩屏(はんぺい)』と呼ぶに相応(ふさわ)しいモノ(・・)たちが集束(しゅうそく)相乗そうじょうし、そしてこれら(すべ)てが正常かつ適切に機能することによって、この地の安寧(あんねい)は、今日もまもられておるのであるにゃ。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





一掬いっきく後刻ごこくたん



 後刻、櫛名田(くしなだ)邸内 洋館1階 第1応接の間―――


櫻子さくらこたまさま…… これはいったい、どういうことですの!?」


玉依たまより 「どうした突然。 『どう』とは(にゃに)がだにゃ?」


櫻子 「いや どうもこうも、今日のこのお話の内容ですわよ! 終始 たまさまの独壇場どくだんじょう、かつ このクドくて長ったらしい文章ときたら…… もう、イィーーーーってなりますわ!」


玉依 「いや、『いぃーーー!』って…… だから(にゃに)がだにゃ。 『章初めの概説』ということだったから、ワガハイが誠意をもって懇切丁寧こんせつていねいに、いろいろと説明してやったのではにゃいか」


櫻子 「もう! この物語が始まった当初、ワタクシ言いましたわよね!? 『説明は原稿用紙1枚分まで』で『時候じこうのご挨拶あいさつなどは一切(いっさい)はぶき、簡潔に箇条書きで』と!」


玉依 「確かその時にも言ったが…… バカにゃのかオマエ?」


櫻子 「はぁ!? 老いさらばえた四つ足小動物に馬鹿にされるほど、ワタクシ落ちぶれてはおりませんわよ!?」


玉依 「四つ足…… だからオマエ、言い方にゃ。 ふん… では試しに、今日の話をオマエの言う『箇条書き』にしてやろうか」


櫻子 「あら、今日はいつになく聞き分けのおよろしいこと。 是非ぜひに、お願い致しますわ」


玉依 「全くしょうがないにゃ…… では、今日の話を以下にまとめるぞ―――


〇 当家の敷地は東西80m 南北60m

〇 周囲は筋塀すじべいに囲われ 門は各方位に計4箇所

〇 外周は近世風の和様式だが 内部は和洋折衷わようせっちゅう

警戒機構セキュリティは上空100km 地中60kmで展開

〇 設計上は大規模攻勢にも耐え得るが WW2以降の稼働かどう実績なし

〇 敷地内の植生しょくせいは『聖域』としてのチカラにより活性化がいちじるしいため要対処

〇 邸内には使用人にふんした軍派遣の工作員エージェントがうじゃうじゃ


…… と言った感じかにゃ」


櫻子 「まあ、素晴らしいですわ! やればお出来になるではありませんか! では、今後はこんな感じでお願い致しますわね、たまさま♪」


玉依 「オマエ…… やっぱバカにゃんだろう」






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― 新着の感想 ―
[良い点] お屋敷マニアの一般人中には櫛名田邸を「中見たい、公開してほしい」と垂涎の思いで眺めている人もいるのでしょうか。
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