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01.卒業試験は課外学習です。

「はぁ〜い、ちゅうもーく!」


担任のミラー・シュルツ先生の一言でそれまでザワザワと騒がしかったクラスメイトが押し黙り、視線が一点に集中する。

ミラーは黒く長い髪をポニーテールにまとめ度の強そうな丸眼鏡を欠けており、顔にはそばかすが散っている。

年は若いが見た目は真面目なガリ勉女だ。

モラルの低い一部の生徒は思い思いに小言を話しているが、そのミラーは気にせず続ける。


「ここが、300年前の対魔戦争の影響で発生したと言われる呪われた湖です。中に入るのはもちろん、漂ってる瘴気に触れるのも禁止でーす!強い毒性があるので君たちのレベルだと1分と持たずに死にますから気をつけて進むよーに!」


俺たちの視界には湖が広がっている、近所の漁師さんなら手を叩いて喜びそうな広さがあるが、皆が知ってる湖とはまるで違う色、臭い、雰囲気が見て取れる。

ここは明らかに生物が近寄っていい場所では無かった。


俺たちはいま冒険者学校の卒業試験で街の西側にあるトアの森という所に来ている。目的は…


魔物の討伐。


討伐と行ってもゴブリンやスライムと言った、討伐ランクF級の魔物…大人なら素手で討伐できるレベルだ。


討伐ランクはF〜AAA級。さらに上にS級がある。討伐ランクA級を越える生物は街1つ破壊する力があり、S級と言われる生物は国を破壊出来ると言われている。しかし、そのS級魔物を討伐できれば間違いなく、国の英雄として褒め称えられる。今は無理だけど将来的には英雄と呼ばれるような冒険者になりたいと俺は夢を見ている。


話は逸れたが、大人が素手で討伐できる魔物を武器を持って、況してやパーティを組んで戦おうというのだから、難易度は高くない。


「まあ、普通の学生であればね。」


そう呟きこうべを垂れ、ため息を吐く。


「ん?オルトくん、大丈夫ですかー?」


突然となりを歩く、美少女がどうかしたのー?という表情で俺の顔を覗いてきた。


ふむ、この陰気な空気のなか香る甘い髪の匂いは俺の不遇な人生をどうでもいい事に昇華させてしまう不思議な魔法がかけられているようだ…。


「ねーねー」


「うわっと、ごめんごめん」


俺はこの子の指ツンツンで目覚めた。


「落ち込んでるとおもったら、へんな顔するからよく分からないよね君は」


「えへへ」


この子は同じクラスメイトで今は同じパーティのエミル・ライブリー。青い髪でストレートのセミロングを今は動きやすいようにサイドテールに纏めている。目が薄い青色で小柄だが出ている所はしっかり出ていて時折、揺れ動くそれに目を奪われる。


戦闘用の軽装具に身を包む、エミルちゃんも良いが俺の神推しは制服姿のエミルちゃんだな。


エミルちゃんは回復魔法が得意でパーティでは補助的な役割を担っているが、攻撃魔法も使える校内では5本の指に入るエリートだ。

親父さんが王国の宮廷魔術士でその血を色濃く継いでいるらしい。

エミルちゃんは氷魔法が得意な家系の生まれで10才の時に行われる鑑定の儀では先天性スキルの甲斐もあって既にスキルレベルが6レベルもあった。


スキルレベルは取得時、1レベルから始まり10レベルが上限となる。レベルが高ければ高いほど魔法は威力が増し、消費する魔力も少なく調整できる。武技と言われる、剣術や槍術などは攻撃を繰り出す速さや威力などが増す。


生まれてすぐ先天的に覚えるスキルは成長が早いが、家系や才能に左右されることが多く、信用できないものに期待する者は多くない。

この世界の人が覚えるスキルはほとんどが後天的なもので努力や道具の力をなどによって得ることができる。


そんな中、この子は氷魔法に加え光魔法のスキルも先天的に授かることになった逸材だった。

ところがどうして彼女が国の優秀な逸材が集まる魔導学校ではなく、誰もが通える一般的な読み書きと計算程度の座学しか行わない冒険者学校に通っているのかは誰も知らない謎だった。


「まったくオルトくんちゃんと集中して!難しくない課題だけど命にかかわるから」


「うむ、りょーかい」


呪われた湖を沿うように続く、舗装されていない道を冒険者学校一同はズンズンと進んでいく。

しばらく進むと、俺は下腹部に違和感を覚えた。


「ちょ、エミルちゃんトイレ…」


「え、いま?我慢できない?」


「無理です〜」


いちど気づいてしまった催しは引っ込みが付かなく、既に我慢の限界だった。自然と内股になってしまう。


「もう、しょうがないなーすぐ追いついて来てね」


りょーかい!と元気よく敬礼すると呪われた湖方面の茂みの中に入っていく。

ガサガサと草を掻き分け進んでいくと、湖の沿岸部に出た。


湖の湖上には瘴気が漂っている。


「す、少しくらいなら大丈夫か」


生唾を飲み込み、決壊寸前を放出すべく沿岸部の縁に立つ。2メートル程下には濃い紫色の泥のような何かが波を打っている。


「落ちたら終わりかな?」


「おい…探したぜ」


突然かけられた声に驚くが、どこか聞き覚えのある声に俺は真顔で振り向いた。


「クレイグ…」


筋骨隆々な大柄の体に坊主頭。目つきの悪い憎たらしい顔。俺の背後で腕を組み、仁王立ちを決め込んでいるのは、クレイグ・ワトソン。


まあ、認めたくないが俺はコイツにいじめられている。正確には"コイツら"なのだが、いつもの取り巻きはいないようだ。


「なんだ、今日は1人か?」


「生意気な顔しやがって、別にお前ごときにアイツらは必要ねぇよ!」


まあ恐らくいや、まず間違いなくこの湖にビビって近寄りたくないのだろう。


「くそ、落ちこぼれのクセにまたエミルとイチャイチャしやがって!」


うわ…嫉妬心ダダ漏れだわ。

つか、なんか泣いてる?


ここで用を足し終えた俺はクレイグと正対する。


「また、それかよ。普通に話ししてるだけだろ」


「認めねえ!おめえに負けただなんて認めねえぞ!」


やれやれなんの話だよ、一方的過ぎてついていけない。ついていく気も無いが。


「ははは、お前がいなければこんな事にはならなかったんだ。」


突然ガシッと胸ぐらを掴まれそのまま持ち上げられる。


「ちょ、何すんだ」


「お前、【毒耐性】持ちだったなぁ?」


確かに俺は幼少期の事故で【毒耐性】スキルを持っているが、まさかコイツっ!?


「お前、正気か!?」


「いや、正気だよぉ。【毒耐性】スキルしか持たないお前がエミルと釣り合う訳ないんだ。お前が居なくなれば、エミルは俺に振り向く」


何言ってんだこいつ。


「お前なんか勘違いしてないか!?」


「勘違いしてんのはお前だオルト!エミルがこの冒険者学校に入学したのはお前がいるからだ!それが答えだよ」


え?俺がいるから冒険者学校に?


頭が追いつかない、とりあえずそれより今をどうにかしなくちゃ。


「俺はエミル本人から聞いたんだ、フリ文句と一緒にな…」


「と、とにかく今日はやりすぎだ!イジメの域をこえてるぞ!


クレイグがニヤッと不気味に笑った。


「大丈夫だよお前、【毒耐性】持ってるんだから…」


は?


それまでしっかりと掴まれていた拳がパッと開かれ、俺の体を支えるものはなくなった。


呪われた湖だぞ!たかだか【毒耐性】で生きられるか分からないだろ!ふざけんな…


「バカやろぉおおお!」


ドプンッという音とともに俺の体は呪われた湖に沈んでいった。



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