第5話
「愛菜ー!」
その声に、まだ無邪気な私は、
「お兄ちゃんー!」
微笑みながら、そう叫び、お兄ちゃんの元までただ走り、抱き着く。
「お兄ちゃんー!」
まだ、恋を知らない私。
ただ微笑みながら、ただ、無邪気に…
「愛菜ー!」
そう呼ぶ声に。
ちりりりり!ちりりりり!
むにゃむにゃと口を動かしながら目が覚める。
はっと起き上がる。
時計を見ると、まだ、6時半。
日が顔を出し、私の部屋の一部を照らしている。
なんか、夢を見た気がする…
はーぁ
息をつく。
再び、ベットの上にバタンとなる。
でも、内容は、全く覚えていない。
何の夢だったっけ?
そして、今日も一日が始まろうとしていた。
スマホを手にし、開いて見る。
芽衣ちゃんからのラインだった。
"おはよー
まだ寝てた?"
"数学の課題、あったっけ?"
「うーん…」
寝返りをし、スマホを片手で持ったまま、仰向けになる。
瞬きをする。
スマホを開き、
"おはよー
数学は課題ないよー"
返信を送り、はーぁ…と息を吐き、バタン。
すると、ピロロロ、ピロロロと再びスマホが鳴り出す。
"久し振り、今日、会えない?"
頼くんからだった。
はっと、顔だけ起き上がり、返信をした。
"大丈夫だよー"
バタンとなろうとしたと同時に、ピロロロ、ピロロロ
うーん…
画面上に頼くんからの返信。
"じゃあ、放課後、また、連絡するよ"
"了解"
バタン!
眠い。
そこに、
「愛菜ー、朝食出来たよ」
「…はい…」
眠い目を擦りながら下へ降りる。
部屋中にいい香りが漂っている。
食卓には、和食。白米に、鮭に、味噌汁。そして、ご飯のお供達。
椅子に座り、
「頂きます…」
まだ、目が半目状態で、食べ物達を口に運ぶ。
はーぁ
味噌汁を口に含み、ホッとする。
「どう?」
「おいしい」
「よかった」
平凡な時間は、優しかった。
「あっそうだ…」
「うん?」
「今日、帰り遅くなるから」
「…そっか…」
「寂しい?」
「大丈夫です」
「またまた」
小さい子を相手にしてるようなからかい。
お兄ちゃんにとって、私は、子供なんだな…
「先に寝てていいからね」
「…はい」
そして、食べ終わり、一緒に外に出て、それぞれに出掛けた。
学校に着き、校舎の下駄箱で、頼くんに会う。
「おはよう」
「…おはよう」
「今日さ…どうする?」
「え?」
「放課後…」
「…大丈夫だよ、悠斗くんは、今週、忙しいから、来週、大会があって…」
「そっか…じゃあ、放課後」
「うん…」
その場から去って行った。
教室に向かっている時だった。
後ろから
「誰ーだー?」
私の両目を塞ぐ。
「悠斗くん」
そう答えると、
「正解は…」
溜まる。
少し間が空いてから、
「俺でした」
現れたのは、悠斗くん。
「やっぱり、悠斗くんじゃん」
「正解だったね」
そう言いながら、私を後ろから抱き締めている。
「ねえ、愛菜」
「うん?」
「来週の日曜日、大会があるからさ、来てくれる?」
「え?…」
「駄目?」
「…うん、行くー」
私は、微笑みながら答える。
「うん….」
抱き締めながら、二人で微笑み合った。
お昼休み、悠斗くんと過ごした。
いつも、屋上で一緒に食べる。
悠斗くんと一緒にいられる時間は、私を笑顔で包み込む。
「あーん」
パクッと食べる悠斗くん。
「あーん」
少し照れながらもパクッと小さく口を開いて食べる。
そのお互いに姿に微笑み合った。
「ごめんね…暫く、大会があるから、朝迎えに行くことも一緒に帰れない日が続いちゃってるけど」
「…うんん」
首を横に振りながら答える。
しかし、下を俯く私。
彼は、そんな私の頭をポンポンとする。
微笑み合った。
悠斗くんと一緒にいられる時間が短いと思うと、少し心に穴が空いた気がした。
その日の放課後、頼くんと帰った。
雑談話をひたすらする頼くん。
私は、その話を聞いて微笑む。
「ごっごめん…俺ばっかり」
「そっそんなことないよ!聞いてて楽しいし」
「…なら、良かった…」
頼くんは、私に手を伸ばす。そして…私の手に触れた。
「ごめん…」
そんな頼くんの手を私は掴んだ。
「いいよ」
「…」
顔が真っ赤になるのを隠す頼くん。
「どうしたの?」
「なっなんでもないよ…」
焦りながらも顔を隠す。
頼くん、かわいい。
その手達は、握ったまま、帰った。
頼くんの緊張した手は、暖かった。
微笑む私。照れている頼くん。
「頼くん」
「何?」
「ただ呼んでみただけ」
「…」
微笑む頼くん。
それを見て微笑む私。
すると、突然だった。一瞬…
私の唇に何か暖かいものが触れた。それは、頼くんの唇だった。
再び照れながらも、真っ赤な顔になる頼くん。
頼くんは再び顔を隠す。
私も顔が真っ赤に染まる。
お互いに顔が見れないまま、私の家の前へ着いた。
「じゃあ…」
「うん…」
手が離れない。
「じゃあ…」
と言ったと同時に再び頼くんの暖かい唇が触れた。
顔がお互いに真っ赤になる。
そのまま、頼くんは、その場を去って行った。
その夜は、頼くんのことばかり考えてしまっていた胸が高鳴る日だった。
その夜、悠斗くんからのラインが来ていた。
"愛菜!お休み"
悠斗くんへの罪を感じた。
心の隙間は、あっという間に吹っ飛んでいた。
翌日の朝、私は、悠斗くんの練習している朝練にこっそりと行った。




