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第18話

だだだだ


だだだだ


「お兄ちゃん!」


私の大声で呼んだのが聞こえたのか、


「おはよう、愛菜」


「おはよう…じゃないよ!お兄ちゃん!何で、起こしてくれなかったの?」


慌ただしく支度をする私。


ばたばた!


その姿を見たお兄ちゃんは、


「愛菜…」


「うん?」


手だけが動いている。


洗面所で、歯を磨いていたのだ。


「愛菜…今日、土曜日だよ」


「うん?」


「休みだよね?」


「…」


お兄ちゃんの顔を見て、笑い、誤魔化し、その場からそっと、去って行った。


「休みだ…」


ぼっそりと呟きながら。


そこに、


「愛菜」


「うん?」


「出掛けようか」


「え?」


まだ、歯を磨いていた私の手が止まる。


「なんか、用とか、あるの?」


お兄ちゃんの言葉に首を横に振る。


「え?どこに?」


微笑みながら、


「色々と」


「…」


胸が高鳴った。


何年ぶりだろう…


お兄ちゃんと二人で出掛けるなんて。


わくわくとした気持ちで、再び、支度をし始めた。



「行くよ、愛菜!」


「ちょっ…と…待って!」


「…わかったよ」


支度を終え、家の玄関から出る。


「行くか」


「うん!」


高鳴るばかり。


ドキドキ。わくわく。


車に乗り、音楽を流すお兄ちゃん。


その音楽にのりながら、向かっていた。



「愛菜、着いたよ」


私の身体を揺らす。


「愛菜、愛菜…」


「うーん…」


目を開く私。


そんな私にお兄ちゃんは、


「着いたよ」


「…はい…」


眠い目を擦りながら、車から降りる。


すると、眺めの良い景色。


「ここ…」


「よく、来たよな」


「…」


それは、小さい頃、お兄ちゃんとよく来た景色の眺めの良い芝生の生えた野原。


「…」


懐かしい…


懐かしんでいる私。


お兄ちゃんは、野原の芝生の上に横になる。


「はーぁ」


大きな欠伸をしながら、身体をぐーんと伸ばす。


私は、そんなお兄ちゃんを見て、お兄ちゃんの隣に行き、横になり、真似をした。


その姿を見たお兄ちゃんは、微笑んでいた。



ここは、お兄ちゃんとよく遊んだところ。


直ぐ近くには、公園があり、遊具もあり、すこし大きめの川もある。


夏になれば、その川の水に足を入れ、遊んでいた。


お兄ちゃんは、私の相手をしてくれていた。


懐かしい思い出が私を迎える。



そんな時だった。


静かな中、風がそっと吹いた。


お兄ちゃんは、口を開いた。


「愛菜…」


「…うん?」


「大きくなったな….」


「…どうしたの?」


「あの頃は、あんなにまだ小さかったのになって思って」


「…そうだね…」



私は、ただ、お兄ちゃんの隣にいれることがうれしくて、胸が高鳴っていた。


はーぁ


息を吐くお兄ちゃん。


上半身だけ起き上がり、再び、ぐーんと背伸びをした。


そして、口を開いた。


「お兄ちゃん…」


「…」


「お兄ちゃんさ、海外な行かなくちゃならなくなってさ…」


「…え?」


風が再び吹く。


私の前髪を揺らす。


お兄ちゃんの前髪も揺れている。


「転勤することになったんだ….」


突然の告白に、何も私は、言えなかった。


「…」


「愛菜…お母さんが帰ってくる前までは、いるから、一人ではないから、大丈夫だよ」


「…」


大きな穴がポカンと開いた。


大我くんの時と同じくらいに。


「…」


言葉が出なかった。


「だから、今日は、愛菜、行きたいところ、行こう?」


「…いつ?」


「え?」


「いつ、行っちゃうの?」


「…そうだな…3ヶ月かな」


「…そっか….」


気まずい空気が流れる。


私は、どっしりと重い口を開いた。


「ねえ、お兄ちゃん…」


「うん?」


「遊園地、行きたい…」


「遊園地?」


「…うん….」


少し間が空いたから、


「行こうか」


私に手を伸ばす。


その手を私は、掴んだ。


何なんだろう…この気持ちは…


心の中のピースが全て崩れたような気持ちになりながらも、お兄ちゃんの手を繋ぎ、車まで、向かった。


それが言いたかった訳ではないのに…


何でだろう…


言ってはいけないし、変な関係になりたくはないのに。


ごちゃごちゃとした気持ちの中、私は、その日を、作り笑顔をしながらも過ごした。



ねえ、お兄ちゃん…


また、いなくなっちゃうの?


次は、いつ会えるの?


どうして、あの時、何も言わず、消えたくせに、また、会えたと思ったら…



「…」


お兄ちゃんが私に話しかけているが、耳に入って来なかった。


もう、どうしたら、いいのか、わからなかった。



最後にお兄ちゃんが、


「あれ、乗るか」


指した指は先には…


ゆっくり回る観覧車。



あの時も乗ったな…


「愛菜、もう、帰るよ」


お母さんとお兄ちゃんと来た時のことが頭の中に過ぎる。


「嫌だ!あれ、乗るんだもん!」


「もう、おしまい」


「嫌だ!嫌だ….」


泣きじゃくる私。


そんな私を見たお母さんは、


「帰るの!」


続けて、


「お兄ちゃん、愛菜、連れて来て」


「…」


「最後にこれだけだよ、お母さん、待ってるから」


お兄ちゃんは、私を連れて行くと、


「すいません、まだ、大丈夫ですか?」


「…今、締めたところです….」


「….」


「愛菜、閉めちゃったって」


「乗るん、乗るん!」


泣きじゃくりの私。


結局、その日は、乗れなかった。



その観覧車に今、お兄ちゃんと私は、乗っている。



「前に乗りたい、乗りたいって泣いていた愛菜が懐かしいな」


「….」


「結局、その日は、乗れなかったもんな….」


「….うん」



近いようで、遠いお兄ちゃんが近く感じた。


観覧車は、ゆっくりと、時を忘れてしまいそうなくらい、静かだった。


オレンジ色の夕日が少しだけ見えた。


きれいだった。

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