第13話
「愛菜、起きて!愛菜!」
私を起こすお兄ちゃん。
私の身体を揺する。
「うーん…」
はーぁ
ため息を吐くお兄ちゃん。
再び、口を開くお兄ちゃん。
「愛菜、起きて!遅刻するよ!」
布団から、顔さえ出ない。
私の部屋のカーテンをお兄ちゃんは、開ける。
その日差しが私に差す。
「うーん…」
「起きて!愛菜ってば!」
「…」
布団から、やっと、顔を出し、目を開く。
お兄ちゃんの優しい目と合う。
「おはよう!」
微笑んだ顔で、私に言う。
「…おはよう…」
まだ眠い目を擦り、布団から立ち上がり支度をゆったりとし始めた。
「久しぶりに、一緒に食べられるね」
「うん!」
お兄ちゃんは、朝食の用意をテーブルの上に並べた。
白米に、大根の味噌汁。心に染みる。
ふんわりとしたスクランブルエッグ。
柔らかい鳥の唐揚げ。柔らかいけど、カリカリとしていて、美味しい。
ハムにアスパラを巻いたもの。
そして、青魚。塩気がちょうど良く、ふんわりとしている。
「美味しい」
思わず、言葉に出る。
「美味しい?」
「うん!」
微笑みながら、そう言い、首を縦に振る。
お兄ちゃん、ありがとう
私は、心の中でそう思いながら、笑い、食べた。
やっぱり、美味しいわ、お兄ちゃんの料理!
学校に着き、下駄箱で靴を履き替えている時だった。
「愛菜!」
その声に振り返り、私に抱きついて来た。
「おはよう」
芽衣ちゃんである。
「おはよう」
教室まで、一緒に向かった。
教室に入り、席に鞄を置き、芽衣ちゃんのところに行こうとすると、
「愛菜ちゃん!」
そう呼ばれた。
その声に振り返る。
「…」
教室の出入り口に、女の人。
「愛菜ちゃん、呼んでるよ」
「…あ…ありがとう…」
その子にお礼した後、少しずつ、近づいて行った。
「あっあの…話したいことがあります」
そう言われ、屋上に連れ出され、後をついて行くように行った。
……
暫く、沈黙が続いた。
「あの…大丈夫でしたか?」
「え?」
「入院したって聞いて…」
「…あっはい…大丈夫です…」
ぎこちない会話。
……
沈黙の時間が長く、続かない。
「あっあの、なんか、用ですか?」
私から口を開いた。
すると、彼女は、頭を私に向かって下げた。
そして、口を開いた。
「悠人くんと…悠人と、別れてくれませんか?」
「…え?」
沈黙な空気が流れる。
「あの…やっぱり、悠人のことを諦められなくて…しかもあなた…他に付き合っている人、いるんですよね?」
「…」
頭を上げた彼女が再び、頭を下げながら言う。
暫く、沈黙が流れた後、私は、口を開いた。
「私も、悠人くんのこと、好きだから…」
「…」
「好きなんです!悠人くんのこと!」
「…え?」
「確かに、私…他にも付き合っている人は、います、でも、悠人くんのこともその人のことも同じくらい好きです!」
「…」
なかなか、口を開かない彼女。
「じゃあ、私に譲ってください!悠人を!」
少し間は開くが、
「…それは出来ません….」
「何でですか?」
下を俯いた彼女が言う。
「それは…好きだからです」
彼女の目は、私を睨み続ける。
「悠人に…他に付き合っている人がいることは、言わないから、譲って」
「だから、それは….」
私が言いかけているところに、私の襟を掴む。
「何でよ!何でよ!」
「…」
「私の方が…私の方が、あなたよりも、ずっと前から…」
泣き出した彼女。
「ずっと….ずっと…前から、悠人のことを見て来たんだよ、だけど…悠人は、私には一度も….」
再び、彼女の目は、私の強く睨み続ける。
「何で、寄りによって、あんたみたいな人に….」
泣きながら、座り込む。
「何で…何で…」
私は、そんな彼女の置いて、そっと、教室に戻って行った。
教室に入って戻り、席に着くと、
「愛菜、何だったのだろう?大丈夫?」
「…うん….」
そこに、真美ちゃんも来て、
「あっあの子さ、マネージャーの子だよね?サッカー部の」
「そうなの?」
芽衣ちゃん。
記憶を失っている私は、覚えていなかった。
「サッカー部のマネージャー?」
ぽつりと、口に溢れる。
「愛菜、会ったことないんだっけ?」
「…」
「…」
芽衣ちゃんと私は、わからなかった。
そんな様子に、
「愛菜、多分、会ったこと、あると思うよ」
真美ちゃんは、そう言う。
「え?」
「多分、一度くらい…」
何で、私は、覚えてないのだろう…
お昼休み。
「愛菜!」
その声に振り向く。
「悠人くん…」
「一緒に食べようか」
「うん!」
微笑みながら、口を開き、さらに、こくっと首を縦に振った。
屋上に着き、私がお弁当を開くと、
「愛菜の美味しそう!」
「いいでしょ?」
「自分で作ったの?」
「ううん…お兄ちゃんが作ってくれたの」
「…そっか…」
「食べてみる?」
「え?」
「あーんってして」
「…え?」
「いいから、あと、目閉じて」
悠人くんは、私の言う通りに口を開き目を閉じた。
私は、箸にそれを取り、悠人くんの口の中に、入れた。
「いいよ、口を閉じて」
悠人くんは、口を閉じ、もぐもぐと口を動かした。
目を開く。
まだ、もぐもぐしている悠人くんに、
「どう?」
そう聞くと、
「美味い…」
「でしょ?」
「うん…」
少し間が空く。
それから、再び、私は、口を開いた。
「何か、わかる?」
「卵焼き…」
少し間を空け、
「正解!」
「わかるよ」
「そっか」
「ふんわりしてる」
「でしょ?」
「うん」
「他にも食べてみる?」
「じゃあ…」
私の顔を見て悠人くんは、
「これ!」
そう言い、私の唇に触れた。
唇と唇が離れた瞬間、お互いに顔が真っ赤になる。
………
………
お互いに顔を見合わせ、さらに、お互いに顔が真っ赤になった。
暫く、お互いに、顔を見ることが出来なかった。
心臓の音が激しくなっていく。
どきどき。どきどき。
暫くして、お弁当を食べ終え、壁に寄りかかりながら、雑談が始まった。
その最中に、私は、彼の肩に自分の頭を少し載せた。
「どうしたの?」
そう彼が問う。
少し間が空いてから、
「悠人くん…もしさ、もしだよ…」
話を切り出す。
「何?」
「私に悠人くん以外の人のことを好きになっちゃったら、私がそう言ったら、悠人くん…私と別れる?」
「え?」
「もしだからね」
「…」
沈黙が流れる。
「そうだね…」
「…」
「愛菜に、他に好きな人が出来たら…」
「…」
「どうだろう…別れるかもしれないね…その人との恋が上手く行くなら」
「…そっか…」
「何で?他に、好きな人、出来たの?」
「…え?」
続けて私は、
「いや、今は…」
誤魔化すような感じで、しかも、嘘だ。
悠人くんへの罪を感じながらも、話を続ける。
「悠人くんは?」
「え?僕?」
「うん….」
「どうなんだろう…僕も今のところは…」
「そっか…」
そんな話をしていると、チャイムは鳴った。
いつか、悠人くんに、言われてしまうのかな?
そして、悠人くんとの久しぶりの昼休みは、終わった。
放課後、
「愛菜!帰り、どうする?」
「…悠人くん、部活は?」
「あるよ….」
「そっか…頑張ってね、部活」
「うん!ありがとう!」
そう言い、私は、その場から去った。
後ろで、悠人くんが、まだ、私を見ていたことに気付かないまま。
私は、バスに乗り、病院に即座に向かった。
彼の病室に真っ直ぐに向かった。
その扉の前まで着き、ドアを開ける。
そして、
「大我くん!」
私は、さらに、悠人くんへの罪を増やしていたのだった。




