第10話
「愛菜!愛菜ー!」
誰かが私を呼んでいる。
だけど、瞼が重い。
…
口から言葉が出ない。
「愛菜、愛菜!」
その声は、だんだんと遠のいていく。
「愛菜!愛菜!」
微かに聞こえる。
その声は、突然、消え、はっと、重かった瞼が開く。
「ゆう…悠人くん…?」
「そうだよ!愛菜!」
彼を見て口元が少し上がり、微笑む私。
「愛菜、大丈夫か」
「…うん」
「よかったー」
はぁー
息を吐く。
ほっとしたような顔の悠人くん。
そこに、少しして、看護師さんが私がいる病室に入ってくる。
微笑んだ顔の看護師さん。
「目、覚ましましたね、今から、先生を呼んで来ますね」
早歩きで出て行き、直ぐに、先生を連れて来た。
先生は、私の体調を見てくれ、
看護師さんは、その後、直ぐに、点滴を変え、お辞儀をして、この病室から去っていった。
「悠人くん…」
「うん?」
「ごめんね、迷惑かけちゃって…」
首を横に大きく振る悠人くん。
「愛菜が無事で良かったよ」
彼は、両腕で私の髪に触れ、自分の額とくっ付け、
「本当に良かったよ」
ホッとしたように、言い、微笑む悠人くん。
私は、彼の顔を見て微笑んだ。
そして、二人で微笑み合った。
暫くすると、
「愛菜!」
病室から入って来たのは、お兄ちゃん。
「おー!悠人くんか」
「初めまして、桜井悠人です」
かしこまった悠人くん。
「愛菜、お兄ちゃん、ちょっと、先生のところに行ってくるから、待ってて」
私にそう言い、悠人くんの顔を見て微笑み、去って行った。
…
「そう言えば…」
鞄の中から、取り出し始める悠人くん。
「これが、宿題で、これが、ノート…」
次々に中身を出し始める。
鞄から取り出した物を突然、後ろに隠し、
「あっ、そうだ!愛菜に見せたいものがあるんだ!」
「何?」
「せーのー」
少し間を空けてから、
「じゃーん!」
私に見せたのは、キラキラと光った金メダル。
そして、大きな賞状。
「すごいー!」
「勝ちましたよ」
少し照れながら、鼻に触れ、言ってきた。
「おめでとう!」
即座に出た言葉。
「ありがとう」
少し照れた顔の悠人くん。
うれしそうな顔だった。
「じゃあ、後で、お祝い、しなきゃね」
「…うん」
うれしそうな悠人くんの顔に私も微笑んだ。
「じゃあ、また、明日ね」
「うん」
手を振る悠人くん。
私は、彼の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
一度、姿が見えなくなり、視線を外す。
すると、
「忘れ物!」
再び、現れたのだ。
「え?どうしたの?」
私のところまで、ゆっくりと近づいて来て、
ドキドキ
心臓が高鳴る。
その時だった。私の額に悠人くんの唇が優しく触れた。
「じゃあ」
そして、そう言い、彼は、行ってしまった。
出て行った彼の顔は、赤く染められ、腕で隠しながら
「また、明日ね」
そう言い、帰って行った。
悠人くんが帰ってしまい、暫くすると、
「愛菜、ごめんね」
お兄ちゃんが戻って来た。
「悠人くんは?」
「帰ったよ」
「そっか」
「ねえ、お兄ちゃん!」
「うん?」
「私、いつ、退院できるの?」
「明後日かな」
「ふーん」
お兄ちゃんは、持って来てくれた服やタオルを引き出しにしまう。
私は、机の上に読みっぱなしの漫画本を手にする。
パラパラと開くが、目に通す訳でもなく、直ぐに閉じた。
悠人くんが持って来てくれた宿題になっている紙を見て、
「…」
はぁー
ため息を吐き、シャーペンを持って、解き始めた。
「ax+bxy…」
考える振りをするが、
「…」
はぁー
再び、ため息を吐く。
「お兄ちゃん!」
そう言い、横を振り向くと、椅子に座りながら、本を読んでいる。
そんなお兄ちゃんに
「何の本を読んでるの?」
そう聞くと、
「少し難しい本」
そう答え、本に集中している。
少しして、私の方を見る。
「どうした?」
「え?いや…別に何でもないよ…」
「そう?」
「うん…」
本に視線を戻すお兄ちゃん。
少し間が空く。
静かな病室に少し寂しさを感じた。
「そう言えばさ、夏菜子さん、元気?」
「…うん…」
「そっか…」
「うん…」
本に集中している彼。
何故か、少し苛立ちを感じた。
「お兄ちゃん!」
「うん?」
私の方を向いた。
「どうした?」
首を横に振った。
「どうしたん?」
「何でもないよ…」
少し間が空いた後、
「あっ、そう言えば、お母さんから電話来たよ」
「あ…そっか…」
「愛菜は、元気かって」
「そ…そうなんだ…」
「今のこと、言ったの?」
「うん…」
「…」
「でも、大丈夫だよって、言っておいたから」
「…」
緊張感と気まずさが漂う。
沈黙の空間が流れた。
それから、突然、口を開いたお兄ちゃん。
「退院したら、どこかに出掛けようか」
「本当に?」
「うん」
「やったー」
はしゃぎ出す私。
そんなはしゃいだ私を見て、微笑むお兄ちゃん。
「じゃあね…」
計画を立て始めると、会話は弾んだ。
暫くして、面会時間は過ぎ、
「じゃあ、また、明日来るね」
「うん」
うれしそうにそう言い、微笑んだ私。
お兄ちゃんは、病室のドアから手を振り出て行ってしまった。
静まり返る寂しい空間。
隣には、カーテンがしており、暗い感じだった。
私は、ベットから起き上がり、隣のベットに行って見た。
そっと、カーテンを開く。
目を閉じている。
寝ているのだろう。
…
つまらない…
私は、自分のところに戻って行った。
そして、窓の外を見て、
"早く、学校に行きたいな"
そう心の中で思いながら、ベットの上に横になった。
気付いたら、私は、夢の中に入っていた。
「大雅くん…」
ぼそっと名前を出したのは、彼だった。
そのことを口にしていたなんて、彼は、思うはずもなかった。




