広がる距離
桜が先始め、新しい季節の訪れを表す様に登る朝日が照らす中僕は泣きながら家に帰って勢いよく家のドアを閉めた。
「はぁ……はぁ……くっ」
「おかえり。ど、どうしたの?そんなに勢いよく閉めて。何かあったの?」
朝食の支度をしていた母さんが玄関まで来て、今にも泣き崩れそうな僕の顔を心配そうに見ている。母さんは僕が紗雪の事を好きな事を知っている。僕の恋が実ることをずっと応援してくれてる。そんな母さんを落ち込ませるような事はしたくない。
「ううん、なんでもないよ。あ、そうそう。今年もあの桜が咲き始めたよ。」
と僕は笑顔でかえし2階の自分の部屋に戻った。でも母さんは多分わかっているんだ。僕が何か隠していることを。その何かという疑問はすぐ解決する事になる。
ピンポーン。
「はーい。今出ますねー。」
家のインターホンが鳴った。何か嫌な予感がしていた。
「はーい。あら、紗雪ちゃんじゃなーい。元気だった?」
「お久しぶりです。おばさん。元気でした。」
訪ねて来たのは紗雪だ。2人とも再会を喜んでいた。でも僕にはあの紗雪の笑顔や笑い声が辛かった。それを遮る様に毛布を被ってうずくまっていると、
「和也くーん?紗雪ちゃんが来たわよー?」
「あ、和君とはさっきあの桜の木の所であったんですよ。」
「あら、そうなの?和也君帰ってきてからそんな事言わなかったから。」
それからしばらく母さんと紗雪と2人で話をして紗雪は帰って行った。結局僕は部屋から出れなかった。
それ以来僕は入学式当日まで家からは出なかった。クラスの振り分けが昇降口の所に張り出されているので僕は中学時代の友達と見に行ってそこで目を疑った。紗雪と同じクラスだった。幸い彼氏は同じクラスではなかった。
「彼氏もこの学校だったんだなぁ……。」
「おーい、和也ー。置いてくぞー。」
友達に呼ばれ急いで合流して教室に向かった。
そこから時間が過ぎるのが遅く感じた。僕は窓側の席だった為自己紹介の順番も遅い。そして僕の番が来て、
「初めまして。竜ヶ水和也って言います。これからよろしくお願いします。」
と挨拶し終えると紗雪と目が合い、ニコッと笑顔を向けてくる。僕は無視するかの様にすっと座り視線を外に向けた。
入学式の為午前中で学校は終わる。僕は荷物をまとめさっさと教室を出て下駄箱へ行き靴に履き替えて帰ろうとした時、後ろから紗雪が走って来た。
「和君待ってよ。なんで今日目も合わせてくれないの?私なんか和君に嫌な思いさせるような事した?もししたなら謝るから、話してよ。」
彼女は息を整えながら今日の僕の態度のことに対して聞いてくる。本当なら正直に言うのが正しのだろうけど僕は言う事をためらってしまい、
「なんでもないよ。紗雪の気にしすぎじゃない?」
なんでもないわけないのに嘘をついた。僕がそう告げてすぐに彼女の後ろから例の彼氏の声がした。
「ほら、彼氏が探してるよ。それじゃあ。」
そう言い残して足早にその場を後にした。その足であの桜の木のある丘に向かった。あの場所は、あの木は嫌なことをその時だけ忘れさせてくれる僕の癒しの場所だ。
「はぁ…はぁ…はぁ、自転車で、こればよかったかな。」
学校からそのまま走ってきてしまったので着いた頃には息が切れてしまっていた。鞄を木の側に置いて、木にもたれかかった。心地がいい風が吹き、桜の花びらが舞っている。まるで優しく僕を包み込むかのように。