苦痛の序章
一本の桜の木の下で僕達は再会した。桜の木が起こした奇跡。僕はそう信じていた。小さい頃から僕は紗雪のことが好きだった。だから心からこの再会を喜んだ。
「こっちに戻ってきてたんだ。ってことはこっちの高校に進学するの?」
「正確には昨日ね。うん、そうなるかなぁ。また和君と同じ学校だね。」
そう言って微笑む彼女の顔を見て、あぁ、ほんとに帰ってきたんだなぁと実感に浸っていた。そして2人で桜の木を後にし、彼女の家が僕の家の近所だという事で一緒に帰る事にした。
しばらくして彼女の家に着くところで、家の前に誰かいるのに気がついた。僕達と同じ年くらいの男の人だった。こっちに気がつくと歩み寄ってきて
「紗雪ちゃん、おかえり。待ってたよ。ん?その人、誰?」
と、僕達の顔を交互に見る。彼女の方を見ると少し困った様な顔をしていた。
「え、えーっと。この人は私の幼馴染みの竜ヶ水和也くん。で、こっちが前山友貴君。私の、その、彼氏です。」
僕は何かの聞き間違いかと思った。でも確かに彼女は彼氏と言った。その時の僕の頭は信じられないくらい冷静だった。
「君が和也君か。あ、ごめん。初対面でいきなり名前は失礼だね。じゃあ改めて。初めまして、竜ヶ水君。前山友貴です。紗雪ちゃんの彼氏なんでこれから会うことも多くなると思うからよろしく。」
「あ、は、はい。こ、こちらこそ。」
なんだろう。桜は咲いたばかりなのに僕の心の中の桜は散ってしまった感じがした。
「友貴君、なんで家の前にいるの?」
「なんか紗雪ちゃんに会いたくなって。来ちゃった。インターホン押したらお母さんが、今出かけてるって言ってたからここで待ってたってわけ。」
2人の楽しそうな会話を聞きながら、僕はただその場に立ち尽くすことしかできなかった。だが、流石に何も話さなくなった僕に彼女が何かを察したのか
「和君大丈夫?なんか顔色悪いよ?」
「あ、う、うん。大丈夫大丈夫。なんともないよ。」
心配そうにこっちを見る彼女に苦笑いしながら答えることしか出来なかった。
「じゃ、じゃあせっかく彼氏さんが来てるみたいだし邪魔しちゃ悪いから、帰るね。じゃあ、また。」
「うん。久しぶりに会えて嬉しかった。またね。」
逃げる様に帰ろうとする僕に再会を喜ぶ彼女の笑顔は辛くて、胸が苦しくなった。そして2人が家に入っていったのを確認して走って家に帰った。流れる涙を必死に拭きながら。