↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/126

讃美歌と6連ホーン

丁度グラーシアが教会の話題を出したとほぼ同時、侍立する女官の元に使い走りの侍女が小走りで

駆け寄り伝えるのは、タイミングよく教会からの使者が到着したとの報。

早速面会をと女官に命じれば此方へ呼ぶよりも早いと神父達の通された王宮内に建てられた

聖堂へと向かう事にした。

一介の公爵家令嬢より煩雑な儀礼と桁違いのメイドやら何やら召し使う者の数に、文字一つ綴る事も

ページ一枚捲る事も無くなったグラーシアは、運動不足を通り越して筋肉の萎縮すら現実味を帯びた

王族の至れり尽くせり生活に危機感を覚えて、機会があればなるべく動く事を心掛け

歩くチャンスはなるべく逃さないようにしている。


ゼンコウジ教会に赴任するかもしれない人材だからと、クラウドもアーダルも顔合わせに着いて行く事に。

野心満々の妙な奴が乗り込んで来て、神より加護を約束されたグラーシアの威光を笠に着て

領民に対して威張り散らしたり、アーダルより授けられた"ヒブツ"を我が物にして教会内での

権力闘争に利用しようと画策するような奴が就任するなど

あってはならないから、顔合わせより面通しの方が適切だろう。


あくまでも聖職者として領民の心の支えとなり、回復魔法の使い手として怪我人や病の床にある者を

救う弱者の味方という人格者でなければ、どれだけ権力があろうと稀有な異能を持ち得ていても

あらゆる宗派の信者と老若男女全てをを救う事を標榜しているゼンコウジには必要ないのである。


先触れの下女を走らせてから支度を整え、女官や侍女を付き従えて王太子妃宮から城内の神殿へ。

ヒールの高い靴を履いた女の足で、着飾りクリノリンやらペチコートやらで腰回りを膨らせ足下の覚束無い

婦人の一団の進むスピードはゆっくりとしたものだ。


神殿に付随する神官等に与えられた城内の部屋の中の応接間に相当する一画の奥の部屋。

王族を迎えられるだけの格式を備えた其処に神妙な面持ちで控えていたのはミハエルと、大柄な男。

法衣を纏っているので神官なのだろうが、見た目で判断すればどこその傭兵か冒険者、力自慢の職人のような男である。


「この者をゼンコウジ神殿に据えよと神託が下った」


ミハエルが大男の背をポンと叩いた。

それとほぼ同時に教会に据え付けるてあるパイプオルガンが厳かに神を讃える音を響かせる

そのメロディーに聞き覚えがあった。

荘厳な音色に誤魔化されているが、重厚なスクリーンの名場面がどうしてこうなった!?と。


イタリアンマフィアのあれやこれな物語だったそのテーマ曲が、何故か交通戦争やら

教育崩壊が囁かれはじめた頃のカミナリ族がリーゼントに髪を固め、

やたらと丈の長かったり短いおかしな学生服を纏うツッパリだの暴走族が台頭し

路上の迷惑な輩のぶっ放す爆音で知ったその曲が、仰々しく聖堂に響いている事にグラーシアは目を見開く。

生まれついての公爵家令嬢としての躾で、淑女らしく驚きを表に出す事は無かった物の

王太子妃としてでは無いシナノ領主としてのグラーシア付き、シナノ開拓責任者名誉準騎士として

付き従うクラウドは、王族や大神官の付き人として控える応接間の一段下がった端に控えていたが

驚きを隠せずポカンと口が開いたままだ。


似ているとか偶然の一致なんてものでなくイタリアマフィンの頭目の愛のテーマ。


宗教施設に響き渡る反社会的な団体等を連想させる音楽。


「この曲を作曲した才能ある若者だと中央にて研鑽を積ませようと呼び寄せたのだが

アーダル様より神託があったのでな、ゼンコウジ神殿の神官としてこの者を我々教会は推薦致しまする」


老神官の申し出に、マトラ様から直々の派遣なのだと納得してその者を呼びます。


「シェン、です」


老神官に呼び出されて控えていた男が名を名乗った。


「この方も転移転生をなされた方なの?」


グラーシアの問い掛けに教会側の人間が驚いた様にシェンと名乗った男に目を向けた。


「…本当は言いたくなっかったんですけど、神託ってヤツが俺だって言うから連れて来られたんです」


本当に不本意そうに立つシェンと名乗る無骨な男は、新品の神官服を纏って無理矢理連れ出されだ感が凄い。


「え!転生届けしてないんスか?」


「俺はそんなモン出しても信じられる様な生まれはしてないんですよ、所謂孤児ってヤツで

ヤーヤンの爺さん、モノヌイナの森の小さな教会のヤーヤン司祭に拾われて育てられたんですよ」


話が長くなりそうだと心配したグラーシアの許可で一同が着席する。


「そこは田舎のボロい教会だからオルガンなんて上等な物がある訳じゃ無い、だけど祈りの音や

歌の為に楽器が一応置いてあって、木琴や竪琴なんかはあったから司祭の手解きでそれなりに

音を奏でる程度は覚えたんで、昔、アッチに居た頃に聞き覚えた曲を弾いてるウチに

作曲の天才だとか言われてイイ気になって、その内喜捨で教会にオルガンを買おうって村の皆んなが…

それで御領主様の耳にも届いたらしくて、御領主様の娘さんが使っていたっていう中古の小さなオルガンを

譲って頂けたんですが…中央の教会から呼ばれるハメになって今こうして…」


下座で簡素な椅子に掛けたシェンがここにいる理由を語る。

そして音楽の才という前世で聞き覚えた曲を弾きこなす特技で最初は中央に強引に呼び付けられたらしい。

しかもかなり不本意な形で。


「俺はヤーヤンの爺さんみたいに孤児の面倒を見て、モノヌイナで一生を終えるんだと思ってたんですが

中央のヤツ等が昔俺が言った転生したって話を持ち出して、無届の罪で爺さんをしょっ引かれてもいいのかって

ちゃんと告白して届け出ようとしたのを孤児の妄言と、取り合わなかった癖に今更」


「それは本当の事なんですか」


柳眉を逆立て老神官を問い正すグラーシアに、シェン以外は床に視線を落として目を逸らす。


「何という事!この件については王太子様にお願いしてきちんと捜査の上、真実を明らかにして

シェンさんとモノヌイナの皆様、司祭殿にとって良い様に取り計らう様おねがいしますからね」


目の前の大男を励ます様に声を掛け、不本意な呼び出しを撤回して人質の安全を確約すれば

シェンは恐る恐る顔を上げ、王太子妃という尊貴の女性に今更ながら大分無礼な態度を取ってしまったと

小さくなって頭を下げた。


「構いませんよ、それより懐かしい曲ね、きちんと再現されているのね、とても耳が良くて羨ましいわ」


「そんな、それで俺、善光寺神殿の神官にさせられるんですか?」


「神託が下されたのでお願いしない訳にはいかないのよ、その代わり貴方の希望に添える様

此方からも便宜を図るつもりよ、その司祭殿と面倒を見ているという子供達も一緒にというのでしたら

そのように取り計らいましょう、きちんと暮らせる様な住まいも日々の糧も教育もそれなりに用意させますし

子供達の将来も一緒に考えていきましょう、それが善光寺神殿の役割だと思いますわ」


「それなら是非!俺で良ければ精一杯勤めさせて下さい」


グラーシアの鶴の一声でシェンの処遇と、その裏にあった不正の一端を暴く約束が纏まった。


「あのそれでシェンさん、シェンさんってホントに?」


「あ、此方は私の子飼いの転生人の名誉騎士のクラウドさん。

前の名前は土屋 蔵人さん、諏訪市の中学3年生の男の子だったそうよ、私は信州上田生まれ上田育ち、

死ぬまで上田の(しょう)だった染屋 イト、96までは数えていた普通の主婦でしたの」


「そうなんスか!?俺も上田育ちの木村 昭次って言います、七中の時の担任も染屋先生って言ったんですよ」


「七中?もしかして昭和三十…四十年頃にご卒業かしら」


「判るんですか!?もしかして染屋先生のご親族とか!」


「その担任の名前って袈裟彦って言わなかった?もしそうなら私は袈裟彦の母だったの」


「えぇっ!先生のお母様!ッスか、その節は大変お世話になりました!」


意外な繋がりにグラーシアもシェンも、横で聞いていたクラウドも驚いて互いを見回して

テンションと共に声のトーンも上がって当時の話がバーッと出てきて止まらない。


「あの頃、俺、ちょっとグレてて先生には凄い迷惑ばっか掛けてて

先生は俺を心配してよく弁当とか飯食わせてくれて…先生がいなかったら俺、暴力団の鉄砲玉か

下らないチンピラにしかなれなくてそこら辺でくたばってたと思います。

先生のお陰で中学卒業した後、運送屋に勤める事が出来て、免許が取れるまでは荷物の積み下ろしとかして

大型免許取って全国を走り回って金貯めて、ラーメン屋をやれるまでになったんです」


「まぁ!そうだったの…頑張られたのね」


「それで先生も校長先生にまでなって、叙勲までされてさ、あの時の恩返しじゃねぇけど

俺の店に招待してさ、ラーメンご馳走したんだ」


目に涙を浮かべ、過去の思い出を語るシェンの口から叙勲という単語が飛び出してグラーシアは椅子の上で

驚いて跳ねて目を真ん丸に見開いた、それは王太子妃、貴族の令夫人には似つかわしく無い感情の発露である。


「袈裟彦が天子様に勲章を頂戴したというの…」


「はい、教育功労の瑞宝章だってニュースで見ました。

あの優しい染屋先生が立派なモーニングを着て、御所で陛下から勲章を貰ったって嬉しくって、

同窓会なんてバックれてた俺まで級友と連絡取り合ってお祝いしたんです」


「そうだったの、本当に…袈裟彦が」


ハンカチを取り出し目元に当てるグラーシアと、手の甲で乱暴に目元を擦るシェン。

凄い!と良かったと声を掛けるクラウド。


そうしてグラーシアの元の家庭の息子の消息に一頻り驚き、情報と思い出のやり取りの後

無事にシェンはゼンコウジ神殿の神官長として就任する事を快諾。

黙って従者のフリをして見守っていたアーダルはその様子を目を細めて見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] グラーシアの一貫したまっすぐな生き方 [気になる点] 大義名分を掲げた内には~で 長男が教職に着き校長まで勤め上げ永年の功により叙勲されたりと様々な事柄が とアーダル神がグラーシアの心…
[良い点] 好きです! このお話が、文章が、キャクターが、主人公が!! 作者さまが! 更新していただき、作者さまの心身の健やかさを知り得たと、ありがたやと善光寺様方向に感謝の念をお送りさせていたどき…
[一言] まってたよ~例年通りなら今年もあと2・3話来るかな? もっと続いても良いけどw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。