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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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炎の復活と不踏の意味

王都の王宮の一画、奥向きの端に王太子妃の為の接見宮がある。

当代の王太子妃は珍しく化粧領を持ち、その化粧領の開拓を進めているからこその特別待遇なのだが。


「お久しぶりねクラウドさん、アダルさん」


「お久しぶりに御座います、お妃様」


基本男子禁制の王太子妃宮の例外として護衛の男女両騎士と女官達の立ち合いでグラーシア妃と

家臣との謁見が許されているが、それでも間違いが無いように三人の間は十分取られて遠い。


「火と正義と良き戦士の神アーダル様のお祭りは無事、終わったようで何よりね」


「人的被害が無いから…無事でいいのかな?」


不踏の森の闖入者騒動の後、保護した子供達を開拓事務所で保護すると医者に診察させてから

食事を与えて、毛布を支給し十分な休息と栄養を取らせ沐浴をさせて洗濯してある清潔な古着を

集めてきて着せ、シラミやノミの駆除と虫下しの薬を与えてそれなりに面倒を見ている。

その間に火祭りは敢行され、子供達の住んでいた小屋の残骸や可燃性の家財一切櫓に積んで一緒に焼いた。


火というのはどうしてあんなに人を高揚させるのだろう、同じくアラクネの持つ攻撃や捕食に使われる

アラクネ酸を利用する事で、何故か紡績が可能になったのだが、まだアラクネシルクは女工さんの手によって

繰糸という湯の中の繭から糸口を探し数本の糸を撚り合わせて一本にし、巻き取っていく作業がメインだ。

その際に糸玉を煮たり、数本の糸をよって一本に巻き取られたアラクネシルクは絹と同じ様に

揚げ返しという、無理に引っ張って弾性の乏しい糸を湿度のある部屋で休ませて強度を戻す作業の

湿度室でも、繰糸の際の釜でも火を使うので工場には火の神を祀る神棚があり、

同じく鍛治屋や火を使って加工する作業を得意とするドワーフも火の神を信仰している。

必然、火の神の祭りだと知らされたシナノの入植者達はアーダルに対して敬虔な信仰心をもっているので

それなりに規模は拡大していった、更に森と共に生き森と自然と世界樹を信仰していたエルフの一部も

古代勇者語で記された物語の翻訳の際に、紙作りに携わってアーダル信仰に目覚めた者もいる。

故にオリジナルの野沢温泉村での火祭りに引けを取らない火柱を上げ、火の粉を舞わせて

日頃のキツい開拓作業の鬱憤を晴らすのと、ドワーフ達の酒量に引き摺られて祭りは最高に盛り上がり

自然発生的にあちこちで服を脱いだ脱ぎ上戸の裸踊りと、酒に弱いエルフが漂う酒気に当てられて

脱いで踊り出す連中につられ、次々に服を脱ぎ捨て見様見真似で踊り出し見目麗しい全裸エルフの

パラパラを思わせる不思議なダンスに負けるなとばかりに、ドワーフ達もジョッキ片手に

ビール腹とご立派な胸毛を曝け出して華麗なステップを踏むカオス。


子供は寝る時間だと屋台の食べ物を鱈腹食べさせてから良い子達を帰しておいた事だけが

救いの火と酒と裸と踊りの祭典だったのだ。

しかし人間がマナーとして隠す陰部であるが、一方で多産とか繁栄を暗喩する部位と祭り上げられている

地域や祭があったりする訳で…陽気にお酒を飲んで笑顔で隠しどころを曝け出してのお祭りは

アーダルに信仰心と共に大いなる神力を捧げたらしい。

お陰で翌日から見違えたように元気になったアーダルは、くんずほぐれつ汁だく連結上等な

インチキ戦国漢だらけのエロ絵巻が展開する執務室の壁を見れる程度には修復してくれたらしい。

そしてお腹が空いたからと、レパートリーの少ない単なる男子校生だったクラウドよりもと

元主婦でメシウマなグラーシアに異世界グルメを強請りに、荷物持ちに扮してしれっとついて来ている。


「まぁ風紀が乱れなければ良いわ、美ヶ原の方の道祖神も似たようなお祭りで木で出来た

巨大なアレに、子宝祈願で若い女性や結婚したばかりのお嫁さんなんかが跨がるそうだから」


上田市街の川向こうの更に先、そんなお祭りがあったようなと困惑気味にグラーシアも

アーダルが元気になって事故も無く終わったし良いかな、と流した。

実際、お祭りで開放的雰囲気から伴侶を見つけるという男女の出会いの場でもあるのだから…


「後、違法移民の子供等をどうするかだよなぁ…禁足地に勝手に住み着いて水源汚染をやらかしてるし」


「そうねぇ、幼いからと無罪放免とはいかないわよね」


違法移民の子供というだけなら保護して養子先を探したり、職人の親方に預けるだけで良いのだが

人間の立ち入りを禁じた森に勝手に住み着いて野生エルフを怒らせ、水源の森で生活雑排水や

屎尿を垂れ流してその地を汚染した事が問題だった。

水泥棒や水源の汚染、井戸に毒物や汚物を捨てる事はキリアラナも含め各国での国法では

大人なら一発死刑である、下流の村人なんかに見つかれば公的な罰を受ける前に集落の者達に

袋叩きにされ凄惨な私刑(リンチ)に処せられる、まだ為政者から罰せられて絞首刑や斬首刑にあった方が

楽に死ねるというとんでもない重罪である。

保護者と目されるデイビスという青年に連れて来られて知らないまま罪を犯していたとしても

デイビスの言い残したナリという少女に指輪を贈って結婚の約束をしていたという事実に

少なくともナリという娘は、指輪という証拠がある以上婚姻によって

成人と同等の扱いを受ける事を意味していた。


「どうしましょうね」


「指輪を取り上げて焼こうか、その子供が結婚してたと聞いたのはクラウド一人だけ。

クラウドが口をつぐんでその子にはよくよく言い聞かせて証拠さえ無くせば大丈夫じゃないか?

肝心の亭主面した若いのは森の養分となって贖罪の真っ最中だしな」


アーダルの提案に、それが一番現実的な穏便に解決する方法だろうなとグラーシアも竜骨扇を少し広げ

口元に翳し仕方無しと小さく頷いた。

デイビスと名乗る青年が孤児院出身と聞いて、王都とその近辺の孤児院に問い合わせをした所

王都の端、都とは名ばかりの辺鄙な村の小さな教会の隣に立て掛けられたように建つ木造の小屋に

デイビスと連れ出された子供、16人が暮らしていた事が判った。

保護者として子供等の世話をしていた老神父と、そろそろ行き遅れと噂される年頃のシスターが

貴族の斡旋でシナノ開拓団へ参加すると言われて送り出したとの証言が取れていた。


「唆した貴族の正体とやらも判っているのだろう」


「判っちゃいるけど証拠が無いからなぁ、疑わしきは罰せずっていうだろ」


大凡の見当はついている、しかし物的証拠は何一つない。

高価な魔獣避けの石も殆どが領地持ちの貴族が購入する物だが、貴族だけが独占している物でも無い。

デイビスの証言も死人に口無し、生きていたとしてもたかが孤児院出身の取るに足らない

後ろ盾も何も無い最下層の平民の戯言と一笑に付すならマシ、羽虫風情がと息の根を止められて終い。

それがこの世界の階級というもので、貴族と一介の孤児との普通なのだから。

革袋から取り出した魔獣避けの石、あの場から回収してきたそれを掌で弄ぶクラウドは

石には名前なんて書いてないからねぇとばかりにグラーシアに示して見せる。


「持ち帰ってきたのか?」


「誰のかって名前でも書いてあるのか、人の入らない森にあっても無駄だろうしさ。

だったら開拓の方に回したって文句を言いに来る奴は居ないだろ」


ニシシと態とらしい笑い声を立てるクラウド、ついでに勝手に住み着いた不法移民だけで無く

文句を付けに来た野生エルフにも腹を立てていたようだ。


「人間と一切関わらない生活がしたいから人の入らない森で暮らしたいって言ってきたのは

アッチなのに困り事があったからって人を頼るなって話、その為の"不踏"って名付けたんだしさぁ、

不法侵入に対して勝手に始末でも何でもすりゃ良いのに、どうせ死人に口無しじゃん?

ウチも不法入領に産業スパイなんかに関わってる暇も無いし面倒はゴメンだしね、

生きて森から出さなきゃ勝手に森に入るバカもいなくなるだろうし、あそこまで木を切り払って

居座るのを許さなきゃいいだけなのにさ…多分アイツらの目当てはコレだったんだろうしね」


カラリと音を立てる魔獣避けの石、野生エルフといえども魔獣の寄らない平地が欲しかったのだろう。

魔獣避けの石は高価で、魔獣を討伐した際に採れる核を魔導師が加工した物だけに野生として

生きるエルフの口からは欲しいとは絶対に言い出せない代物。

それを知恵の足りない幼い人間の子供が持っていて、良さそうな場所に埋めた事で欲が出たのだろう。

もっと埋めに持ってくるだろうと思っていたがそんな事は無く、それ以上に勝手に木を切り倒して

草を払い土を起こして森を削る暴挙に出た事と、小屋を立て住み着かれ道らしき物が出来

魔獣避けの石の価値から森を開発するつもりの人間の後ろに貴族がいると察したのだ。

だから勝手に始末して森から追い出されては堪らない。

貴族の物量に対抗するには同じ人間の権力をもった人間、それも貴族の権力を有した者に

相手をさせるべく接触を図ったのだろう、後ろ盾に王太子妃がついていて相手に出来る技量を持ち

若く口先で何とか動かせそうな者で世界樹に認められている人間という、直に顔を合わせても

森に生きる矜持を傷付く事も無いと勝手に認定したクラウドを使う事に。

どうせオシカの森で魔獣と木々しか知らないだろうクラウドならば魔獣避けの石なぞ知る由も無いから

そのまま置いていくだろうしとの計算もあれば、人間が森を破壊して作った物の始末なぞ手が穢れると

雑事も押し付ける気満々と、その態度と精霊達の注進で知っていた。


だから今度こそちゃんと"野生種"のエルフとして生きていけるようにクラウドは人間の手によって

成された物品一切を回収してきた上で、二度と人が近寄らないよう森に環境に適していて

少し頑丈な魔獣数体と、森周辺に動物を捕らえて血肉を吸収するタイプの魔植物の種や

根の切れ端を何種類かチョイスして満遍なくばら撒いておいた。


人も近付けなければエルフも里へは降りられまい、他種族と関わらず生きるとはそういう事なのだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラウド君が良く考えて対策して居るところ。 [気になる点] 野生(野良)エルフが人間的なに考えている( ̄~ ̄;) [一言] 益々発展するシナノはあらゆる意味で注目されますねo(`^´*)
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