表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/116

夫々の思惑

「アンタこそ誰だよ、どうして此処に居るんだ?

此処は不踏の森、チクマ水系の水源地にして魔獣やエルフ達の棲家、人の立ち入りを禁じた

天然森なのに何故小屋がある?シナノ開拓の登録は?移民希望民には王都と募集を掛けた各領と

孤児院で受け付けの際にきちんと説明した上で、分譲住宅の割り当てをしているのに」


パチン、パチン、と鎌を開閉しながら音も無く歩を進め近付くクラウドに男は後退り距離を取ろうとするが

細い木の根に踵を引っ掛けて男は後ろへとひっくり返る。


「し、知らねぇよ!」


「じゃあ何でこの森にそんな大荷物背負って入り込んだんだ」


「道、そう!道に迷って困ってるんだ」


何とか言い訳をと回る口、道に迷ったなんてありもしない言い訳があり得ないと鎌を突き付け

それは無いと一刀両断、森の境界とした所には人が迷い込まないよう様々な警告がある。

断崖であったり沼であったり、魔界植物の一種で人間を含めた動物を捕食する木であったりと

緩衝地と決めたあの広場を経由しなければ、森の中と思わせる森の外周をぐるぐる回るよう

自生する木々の位置と無数に生えている草木のマナを利用した簡単だが微弱な認識齟齬の魔法陣に

誘導されて、いずれ外へと出されるよう設計されている、歩き方一つ見てもこの男が

単独で踏破出来る森では無い、何らかの助力なり支援があったと見るのが自然だ。


「この魔獣避けはどう説明する?」


「そんなモン知らねぇよ」


「なら、態々藪を突っ切って何処に行こうとしてた?」


「知らねぇったら知らねぇ!」


「じゃあこの先の小屋は知らないんだな、それなら良かった。

この先に隠された小屋に子供が何人も軟禁されてたって通報があって領兵が動いている。

念の為アンタも詰所に来て貰おう、道に迷ったんなら森から出られた方が良いだろ」


軟禁は咄嗟のでっち上げだったが、未成年者掠取と無許可での人身売買ば違法だ。

後ろ暗い所が無ければ大人しくクラウドに着いて森を出るだろうと、男に水を向けてみれば

男は這いずるようにクラウドから離れたかと思えば、立ち上がって逃げ出したのだ。

きっとそうだろうなと、クラウドは予想していたので大して驚きもせずに男の後を追う。

街暮らし特有の足元の覚束無さで男の逃げ足は大した事無い、もっと険しい森や山々を駆け回って

育ったクラウドは、見失う所か男の体力を削ろうかと態とゆっくり追い回す。

クラウドは現代日本の記憶があるが、生まれてからそれが異世界だからだろうと納得享受した

今の肉体は、魔獣の跋扈する森で生活してきたオシカの木樵の息子に相応しい身体を親から貰い

冒険者として生きようとし、精霊達と誼を通じ精霊王から餞と世界樹の一枝を授けられ

山野と其処を生息域とする魔獣に対抗出来る知恵と体力チートの固まり。


恐怖から本能で逃げる動物の動きは人間であろうと野生動物であろうと魔獣であろうと大体一緒だ。

国造りの為にシナノ中の森という森を歩いたクラウドはシナノの気候や自生する植物も生息する動物も

殆ど頭に叩き込んでいる。追い詰められて凸凹とした草や木の根の不安定な足元にとうとう男は転んだ、

その拍子に男の胸元から革紐で括られた幻術破りの術が刻まれた石が飛び出て、成る程と得心がいった。


「簡素だけど幻術破りのタリスマンに魔獣避けの石、お前一人で用意出来る物じゃ無いよな」


起きあがろうとする男のギリギリに鎌を突き付ける、それで男の抵抗は止んだ。


「知らない!ただ王太子のお妃様が領地を貰うから移民を募集してるって聞いて」


「なら何で正式な手続きを踏まなかった、此処は領主が定めた禁足地だと大々的に布告してて

移民希望者にはしっかり説明してるし、依頼目当ての冒険者にもギルドで説明されてるし商人だって

商用許可申請の際にキチンと言ってあるから間違っても此処に立ち入る事は無いし

あの小屋、お前一人でもあそこに居た子供等だけでも用意出来るような物じゃ無いよな。

それにあんな風に隠れて暮らしてたって事はシナノ領に勝手に住み着いて

面倒な雑役や納税義務から逃げようってしてたんだろ、ふざけんなよ」


精霊の愛し子のクラウドも両親と一緒にシナノに住むとなればシナノが実りの豊かさが約束され

災害やモンスタースタンピードの心配もほぼ無い。

スラムに住んだり浮浪者をやるにしてもシナノなら危険も他と比べれば少ないだろうし

楽に生活出来るだろうと、止むに止まれぬ事情からでは無く怠惰が理由での

流民生活を送るには都合の良い領だ、今なら開拓のドサクサに紛れて勝手に住み着いてしまえばいい。

内緒で住処を作って人頭税や門戸税といった日本で言う住民税や固定資産税をブッチして

フリーで活動する冒険者の振りをしておけば税なら冒険者ギルドで依頼料から

達成報酬を支払われる際に引かれているので十分だろうと身勝手な考えでいる奴等は多い。

それではシナノ領の運営、インフラ整備も防衛の為の領兵の維持や非常時の備えや

セーフティネットの整備なんて頭に無いのだろう、それこそ金を溜め込んでるお貴族様が

弱い立場の領民を助けるのが義務くらいに思っていて、王太子のお妃にお成りになった

グラーシア様なら天に口を開けて待っていれば何でもしてくれる異世界の知識を授かった

聖女のように優しい令嬢とでも思って甘えた考えでしでかしたんだろうけど。


「じゃああの小屋のガキ共はお前とは無関係なんだな」


転んだ男の上に馬乗りなって鎌を喉元に突き付けての尋問、男も抵抗したり突き飛ばして

逃走を図ろうとしても鎌が首を刈る方が早いと理解したのか諦めて口を開くが誤魔化そうとの

嘘は健在で、尋問するクラウドの肩に集まって来た森に元々居た精霊達が口々に真実を囁く。


「知らねぇよ、身形の良いお偉いさんに頼まれたんだ」


「誰に、何をしろと頼まれたんだ」


「知らない!渡された石を置いて小屋にいるガキの世話をしろって言われただけだ!」


『嘘よ嘘、みんな仲間、孤児院の塩水に浸かった薄い黒パンはもうコリゴリ』

『コリゴリ、コリゴリ、お綺麗な貴族の女に媚び売って、幸せ幸せ嘘言って』

『施し貰って生きるより、村を作って生きていこ』

『ナリって娘が好きだって』

『この村で結婚して生きていこって言っていた』


歌うように精霊達は口々に、この男と小屋での事を話していく。


「誰に頼まれた、正直に言えば悪いようにはしないしナリって娘の事も配慮してもいいぜ」


ナリという名前を出した途端男は狼狽した、大方孤児院で一緒に暮らしている内に惚れたの何のと

両思いか片想いかは知らないが、ありがちな甘酸っぱい感情を向けている相手なんだろう。


『ナリとデイビスはラブラブ』

『指輪を渡してキスしてた』

『デイビスとナリはふーふなの』


囃し立てるように精霊達が口々に歌えば、男の名前も判明した。


「デイビスさんよぉ、アンタこのままだとナリって娘も重罪で磔だって判ってる?

誰に頼まれたか、何をしようとしていたか話してくれたら何とかしてやる気にもなるんだけどな」


「何で俺の名を!?ってか重罪ってなんでだよ!それよりナリ達はどうしたんだ!」


「何でって、俺みたいに当ててみたら?それより何で重罪に問われるか判んねぇなら

孤児院から出て来んなよ、孤児院でも読み書きと国の法律くらいは教えてるって聞いたんだけど」


サワサワと辺りの蔓や蔦が這い回りデイビスという男の腕や足、首へと木の細い根が絡まっていき

もう逃げ出せないだろうとクラウドがデイビスの上から退いた。


「何だよコレ!?助けてっ!何でも言うし喋るから許してくれよ!」


ジワジワと緑と茶に沈められていくデイビス、植物をある程度自在に操るのがクラウドの手にした

鎌の柄、世界樹の一枝の力だったがクラウドはそれを明かす気は無い。


「井戸や川を汚した者は死罪、それがキリアラナの法だろ?忘れたのか。

此処はシナノの水源地、だからこそ人の立ち入りを禁じてるのに勝手に入り込んで住み着かれちゃ

下の方に住む税金払って住んでる住民が迷惑すんだよ、何で

グラーシア様が多額の費用と知恵を出して真面目な開拓民が汗水垂らして切り開いた土地に

図々しく入り込んできた税金の一シリルも払わないアンタ等に気を使ってやんなきゃならない訳?

挙句に水源地を汚されて森に人間が入り込んで勝手に木を切ったり草抜いたり水汲んだりって

精霊とエルフを怒らせて俺が余計な手間掛けさせられてるの、判る?」


ジリジリと緑の地に沈むデイビスは漸く己のしでかした事の重大性を理解したようで

謝罪を何度も繰り返しているが、まだギリギリ露出している顎を蹴り上げられて止められる。


「謝れなんて言ってないの、誰が何の為に何を渡してきて何をさせようとしたのか言えって言ってんの」


「本当に知らないんだよ!王都の王妃様の孤児院に来た金髪の巻毛のお嬢様って呼ばれてる女が

このペンダントと魔獣避けの石とお金をくれて、今度王太子のお妃様になるお姫様の領で

住民になる人間を集めてるから行って村を作れば土地は自分達の物だって言われて、

森の家に居たのは皆んな同じ孤児院に預けられてた子供で、あの金髪の女に俺達は騙されたんだ!」


「後、何を受け取った」


「月に一回王都の御屋敷で、生活が落ち着くまでの援助だって金を…それとそのお嬢様の

名前は聞かされなかったけど、御屋敷の奴等はそこがリステンシアって貴族の屋敷だって言って」


「そっか解った、アンタは確かに騙されたんだ」


「じゃあ早く助けてくれ!」


命乞いの叫びに応えるように鎌がデイビスの顎辺りの蔦を裂く、しかしそれだけだ。

助かったと表情を緩めたデイビスの首に掛けられた幻術破りのタリスマンを革紐を切って取り上げると

クラウドは踵を返して小屋のある方へと去って行ってしまった。


「何でだよ!喋ったじゃねぇか!!助けてくれ!俺達が悪かった!

もう家も壊すし森から出て行くから!お願いだからここから出してくれ!」

デイビスの命乞いが、茂みに埋もれて聞こえなくなったのは辺りの木しか知らぬ事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず怪しい者を確保! [気になる点] さもしい輩は後をたたない(;´Д⊂) [一言] おグラちゃんもクラウドのもまだまだゆっくり出来そうに無いね( ̄~ ̄;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ