表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃
9/110

蠢く思惑

花籠やら小さいが宝飾品やらでごった返す玄関ホールを抜けて

自室に戻れば女中達が待ち構えていて、

余所行きのドレスから室内着に着替えさせられると

早く休めと起きたばかりなのにベッドへ押し込められた。


十分休ませて貰ったのだからと昼間から布団に潜って自堕落に過ごすなんて

とんでもないと女中達に断ろうとするんだけど、

腕一本再生させたばかりなのだから休まなくてはいけませんと叱られて

仕方なく横になるけれど食事はちゃんと起きてテーブルに着いて

取りたいという希望は聞いて貰えたのでホッとする。



と、そんな風に朝食の心配をしている令嬢が朝はやっぱり炊き立ての米よねぇと

呑気な発言をしているファングル公爵邸の表では。


「是非にと我が主人より」

「お怪我を癒して御心が晴れたら気分転換にでも」

「我が家の薔薇は王都でも評判でありますから令嬢を是非」


花籠や贈答用菓子折やアクセサリーを添えた

茶会やらサロンへの招待状を手にした遣いの者達が列をなしているのは、

王族に身を捨てて諌言した勇敢で清冽なる貴婦人が婚約破棄され

その身がフリーになったからだ。

しかもその堂々とした対応と献身に王も不敬を咎めるどころか気に入ったと

三男だというだけの弟王子よりも王太子と娶せ将来の王妃と考える程の器量だと、

語ったとか何だとかと噂雀の想像を逞しくした囁きが上流階級の人々の間を

駆け巡った結果の対応に家令が釘付けになっている頃、

客間でも当主 クリストフと次男 ハミルが押しかけて来た客と相対していた。


「グラーシア嬢は"転生者"であられたが故のファングル領の発展であられたか」


「えぇ、本人も稀ではあるが他にも同じような者がいたと知ってからは

特には隠してはおりませなんだが王家側から

王子の配偶者として配慮せよとの内意がございましたので」


先の戦争の際の餓死者の数の少なさとアラクネ布量産成功と

それに伴う工場建設から始まりアラクネ牧場の開設等の設備投資と

雇用の増大によりもたらされた経済発展により

大幅な税収増となったファングル領はインフラ整備を進め、

未来への投資とばかりに荒野を開墾しアラクネ糸の他の産業を育てるべく

主に換金出来そうな農作物と飢饉や戦時に

飢えを凌げるような救荒作物の研究を行っていたりと

ここ5年で劇的に良い方向に向かっている。


その立役者として活躍していたのがファングル公爵家の未婚の令嬢とあらば

由緒正しいという血統だけが誇りの過去の栄光を忘れられずにいる見栄と

爵位を維持するだけに汲々として内情は火の車という名ばかり貴族という家からは

金の卵を産むガチョウにしか見えない宝を手に入れんと、

其々が好き勝手に動き出し金の生る木という令嬢獲得に

社交界はもとより政治までが騒がしさに悩まされるのは想像に難くない。

だからこそキリアラナ王国繁栄の意味だけでなく国家の騒擾を防ぐ意味でも穏便に

グラーシアを王家側に取り込もうとの縁談だったのだけれど

貴族というのは国家に尽くす者もいれば

自家の利益と安全を優先する者も少なからずいるのは事実。

王宮にそういった者の長い耳と良く見える目があるのは王も理解しておられたから

そういった存在を逆に利用し持ちつ持たれつの関係を築いていた、

だからこそ一夜で婚約の内情とグラーシアがどういった存在なのかが

パッと拡がってのファングル公爵邸玄関の混雑なのだ。


「クリストフ、貴様はドラゴン討伐の功と王女降嫁によりファングル家を興したが

元はファンガード男爵家の一員であろう、何故娘の異能を黙っていた」


「既に私はファングル家の当主で

王家よりいらぬ騒動を起こさぬよう内意があったからにございます、

何より先代ファンガード男爵夫人より私は男爵家の者では無いと

きつく言い渡されております故

最初から貴方がたを身内と思った事はございません、

逆に訊ねますが何故私が無関係の男爵殿に娘の話を致さねばなりませぬか?

今押しかけて来ている連中もグラーシアを金蔓と見て

王家との婚約破棄した傷物でも貰ってやるからと金目当て、

欲得ずくで来ている下種ばかり」


お前も同類だと一度も兄と呼んだ事の無い異母兄 ファンガード男爵との

話を打ち切りクリストフは扉を示す、


「我等は娘の犯した王家に対する不敬の沙汰を待っておりますので

話はそれからでも宜しいでしょう」


巻き込まれたくなければ帰れと慇懃に言葉を重ねれば

ファンガード男爵は舌打ち一つ、不機嫌を隠そうともせず立ち上がると

踵を返し足音を響かせ部屋を出た。


そして男爵と入れ違うように訪れたのは王家からの使者として威儀を正した

ファングル公爵嗣子、つまりはクリストフの長男 カルロであった。


「ファングル公爵家令嬢グラーシアに申し渡す」


本来なら長々とした前口上を述べてから本題に入るのだが、

誰も見ていない自宅で親子で仰々しい他人行儀なやり取りなんか面倒だと

言葉にせずとも判るからいきなりの本題。


「此度の第三王子の不誠実な対応を謝罪すると共に

改めてグラーシア嬢に王太子との婚姻を申し込むもの也、との事です」


カルロの真面目ぶった口上にクリストフが額に青筋を立てる。


「何故?」


クリストフの発した言葉は本来なら王家の使者に対しての言葉では無い、

更に言えば王家の命令と変わらない申し入れに疑問を差し挟む事すら不敬である。


「それはですねぇ…王太子様がグラーシアの啖呵を気に入ったからで」


だがそこは自宅で他人の目の無い親子だからこそのぶっちゃけ、

カルロは王太子の側付き、未来の王の側近と為るべく王太子と共にあるので

騒動の時にも王太子の側に居た。


「グラーシアの思い切りの良さと自己犠牲の精神その他諸々含めての一目惚れ、

その上あのアホが婚約破棄したから都合が良いって

横から掻っ攫われる前に婚約を申し入れろって王太子様が、

んで王様と王妃様に王太子様が直談判して許可をもぎ取って僕が派遣された訳」


「弟の尻拭いに兄をと押し付けて来たか」


「いや王太子様は本気も本気、僕に妹を寄越せって詰め寄ってきて鬱陶しかった」


カルロがウンザリとした表情を作って政略込みの本気だと追加情報を添えた。


「そうか…ならば今更グラーシアを修道女だなんだと言って

神殿を巻き込んで余計な騒ぎを引き起こすより受けておいた方がマシか」


富を産む転生者の知識を神殿も欲してはいたが、当人が公爵令嬢だという事で

生涯未婚で神に身を捧げなければならない修道女や聖女に寄越せとも言えず

指を咥えて見ている程度の静観をしていたのを

婚約破棄されたので出家して修道女になりますなんて言えば神殿側も

喜んで!とばかりに迎えに動き騒動は拡大する、

ならば今の所は王家からの申し入れを受け混乱を最小限にした方が良いと

クリストフは仕方なく判断した。


「では、ファングル公爵側は承諾したと伝えてきます」


カルロは面白く無さそうな仏頂面で王宮へと戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ