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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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家政…いやいや、神様は見た!

「何でも見える事が良いとも限らんがな。

正義という観点から裁定しろと祈られるが、大体権力闘争か色恋沙汰か金銭財産の争い事ばかりで醜いものだそ…」


凄えと感嘆の呟きを零したクラウドに、見えるからこその苦悩というものを溢すアーダル。

生きとし生けるものの営みを見守り裁定し続けてきたからこその感慨、故にマトラが異世界転生や

転移といったイレギュラーな方法を用いて対価を払ってまで異世界の神から純な魂を得ると

我が方へと引き、慰めにとこの世界(マトラーン)へ送るのだろう。


「そりゃ…ご愁傷さま?」


勝手に何とかしろと祈られて、他人の修羅場を覗かねばならない難儀な立場の神様なのだと

アーダルの役目と立場を可哀想と感じてクラウドは言葉を濁す。


「しかしあれは何だ?人の王に嫁ぐのはそれ程に旨味でもある事なのか?」


城壁に囲まれた王都、その出入りの門を潜って見えるのは遥か先に霞んで見える王城。

市民街や商業区域を抜けていくつかの交番のような役目を果たす警備隊の詰所や

公園や人口の森を抜ければ貴族の邸宅が並ぶ区域へ。

これだけの人口と、それを養い得る土地に施設に流通諸々が揃うと既に国の規模である。

その貴族街の中でも高台に位置するファングル公爵邸には十重二十重に馬車や護衛らしき

槍や剣を帯びた者に付き従う神官らしき装束の者達、見た所馬車の装飾や神官、護衛の紋章から

マトラ神教の関係者のようではある。


「何でしょう、既に婚約式は終えておりますし異議

があるのなら書面で通達があるのが慣例。

あのように教会の方々が大挙して押し掛けられる謂れは無いのですけれど」


いくら護衛とはいえ公爵家を帯剣し取り囲むとはと不快感を露わに竜骨扇子を握るグラーシア。

傍らに控えるリリアに排除をとだけ命ずるが、リリアが馬車側に控える護衛騎士に

主人の命を伝える前に辺りが更に騒がしくなった。


「無礼な!公爵家に人数を頼みに大挙して押し寄せ令嬢を差し出せとは、ファングル公爵閣下以下

ファングル家の武勇を侮られる振る舞いかな!」


ファングル家家令 ヨルクの大音声、多分当主継嗣共に王城に上がって不在なのだろう。

なれど押し掛けた教会関係者側が無理を言い募り、何事か言質を取ろうとしたのかもしれない。

そして一線を超えてしまったのだろうと見当が付いた。既に武装したファングル家私兵を指揮し

防衛戦の構えを見せ始めている。


その様子を馬車の窓から見ていたグラーシアが立ち上がる。


「扉を開けなさい」


「危のう御座います」


「承知の上です、二度は言いません」


グラーシアはリリアの制止を切り捨て馬車の外へ、そしてよく通る声で騒ぎの原因を問うた。


「この騒ぎは何事ですか、当家を囲んで我が家令を恫喝ですか」


名乗らずともファングル公爵家の紋章の施された婦人様の馬車、世に聴こえた黒髪の令嬢の姿に

ファングル家の私兵達からはグラーシアを呼ぶ声が上がる。

そして令嬢とはいえ公爵家の人間が出たと、教会関係者側の馬車から騒ぎの元凶らしき親玉が

漸く姿を現しグラーシアの元へと寄ろうとした。


「近付くで無い、何用で我が家を囲む」


護衛騎士の槍に阻まれた聖衣に身を包んだ壮年の恰幅の良い男が口を開く。


「聖女よ!話を聞いて下されませ」


「…聖女とは誰の事か?」


「ファングル公爵令嬢 グラーシア様、私は大聖堂にてマトラ様の神託を聞きました!

貴女様はマトラ様の寵愛を一身に受けた"聖女"様だと、故に教会へお移り頂きたく

お迎えに参上仕った次第でファングル公爵家と事を構えるなどと思いも寄りませぬ」


勝手に他人を"聖女"呼ばわりした上、マトラ様のの神託を都合良く曲解した身勝手な言い分に

腹を立てたグラーシアは例の竜骨扇子をパチリと鳴らし、御託を並べる自称教会関係者へと

向き直って扇子を突き付けた。


「お黙りなさい無礼者が、誰が"聖女"ですって?聖女とは王家と教会、民意を尊重する為に

グランドギルドマスターの三者会談の上議会にて承認を得、大聖堂にてマトラ様の神意を得て

"聖女"擁立となるのでは御座いません事?それを教会…の方ですわよね、教会が勝手に私を

"聖女"と祭り上げ僭称させようとするとは真に恐ろしい振る舞いに御座いますわね」


ツンとした形良い鼻が上を向き、掌にパシンパシンと例の扇子を打ち付けながらへの付く理屈にて

言葉で相手を追い詰めて行く様は正に悪役令嬢、いやらしい信州人の真骨頂。


「あ、それでもマトラ様の神託が」


「お黙りなさい!挙句、私と当家を愚弄しておりますの?この狼藉、当主の留守の隙に娘一人なら

連れ去れるとてでもお思いなのかしら」


「そのような…ただ、聖女様をお迎えに参じた訳で、それなりに威儀を正さなくてはと」


「ならば何故大司教の使者たる証の『女神の領巾』の紋章旗を携えてはおりませんの?

そして王家の使者、貴婦人の介添え無しに"聖女"を迎える使者と呼べますの?もしかして貴方こそ

マトラ神教の権威を嵩に着て公爵家を侮る騙りに御座いますか、無学な娘と侮りなさいますな」


シドロモドロに弁明とも呼べぬ言い訳を重ねる聖衣を纏う男に向かい、グラーシアは無言で

手にした竜骨扇子を向ければ既に戦闘態勢を整えていたファングル家臣団達の槍は

教会を"騙る"一団に向けられてすぐにでも攻撃、捕縛に掛かる勢いだ。


「教会を騙る慮外者を捕えよ」


騙りと断じ、公爵家の権威を軽んじたそれ等を捕えよと命じるグラーシアの様は

父譲りの英雄の風格が感じられるが、単に前世で奉公人やら住み込みの姉やに婆やに小作を指揮し

家業に農作業にと働いていた頃の慣いに過ぎない。


「お嬢様お帰りなさいませ、お騒がせ致しまして申し訳御座いません」


「只今戻りました、羽虫の始末は任せたわ」


白髪を丁寧に後ろに撫で付けた家令のヨルクはファングル私兵団長 マルチェロに捕縛を指示すると

捕物騒ぎから主家の令嬢と馬車を守るように進み出て護衛達で囲むとすぐに門の内へと入り

固く門を閉ざすように指示を出した。

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