異世界の常識、日本の非常識
「キリアラナが創造神 マトラ様を信仰しているようにマムクールでは月神様 ムートンを信仰してるわ、
そのムートン様の神子がマムクール王家の血族で、当代神子が王となるとかで証として月眼と呼ばれる
ヤギみたいな瞳孔の子が生まれるんですって。
で、現キリアラナ王妃 マムクール第四王女サフィール様の輿入れまで話は遡るんだけれど
その時一緒に来たユリウス殿下の生母のセシール様は王妃様の従姉妹でサフィール様が孕まなかった際の保険、
いわばスペアとしての第二夫人として王妃宮に入られたのですけど
一夫一妻制度のこの国には後宮どころか側妃の制度も無いでしょう?
愛妾に据えてしまえば産んだ子は全て庶子として継承権争い防止の為に議会から監視されて
家臣の誰かに降嫁されるなら上等、修道院で飼い殺されるか消されるのが関の山。
今メイドの子という噂が流れているのは、月眼がバレれば余計な憶測を呼ぶからと
社交界に一切出ていない所為ね、しかも王城にユリウス殿下はいらっしゃらないわ。
一度外に出てしまった血だからとそのままマムクール王に即位は出来ないから王女の配偶者、王婿として
マムクール王室に婚姻の形を取って戻りますけど、事実上の王となられるお方ですから
寧ろキリアラナの王位継承権は邪魔なんだとか…で、ゲームのストーリーだとマムクールへ留学していた
ユリウス殿下が一時帰国する旅の途中で、精霊と戯れる新米冒険者のクラリスちゃんを見初めたり
あのブーヨの息子が精霊遣いの娘を領主命令を使って呼び出して見初めたり
『イケ恋1』に登場した冒険者 双刀のジェットとパーティーを組んで冒険を進めるうちに恋に発展したり
修行で諸国を巡る東方剣士の村正 市之丞に危機を救われて恋に落ちたり」
指折り攻略対象メンズを数えるショーン、どれも男じゃねぇか…と当たり前な事実に項垂れるクラウドに
ショーンは然りげに恐ろしい事を忠告する。
「冒険者辺りは同性婚も普通だから、男だけど一応ヒロインポジの貴方は
攻略対象者達に目を付けられないように気をつけた方がいいわ」
「はぁ!?同性婚って宗教とかモラルとか法的にどうなのさ!」
事も無げにショーンは、此方の常識としての性風俗や冒険者達の結婚観を説明する。
「そこは日本とは全く違うわよ、特に"エニグマダンジョン特区"ではディスポーターという特性上
どの国よりも早くに同性婚が合法化されているわ」
「ダンジョンとは高価な薬剤となる魔獣の角やら宝珠が採れる迷宮窟の事でしたわよね?
何故そこの探険者だと同性の方を伴侶に選ばれるのかしら」
グラーシアが疑問に思うのも無理は無い。
荒くれ者達の集うのが冒険者、大体冒険者を目指すのは田舎で畑を耕しているのが性に合わないような
一獲千金を目指す村でも持て余し気味の乱暴者や、貧乏な家から追い出されるように国を出て
ギルドに登録した口減らしの三男以下の耕す畑を貰えないような厄介者が主である。
そのような者達の第一の目標は食っていける事、そしてそれが叶えば名声を得て冒険者として名を売って
大金を稼いで女にモテモテになってと男にとってのテンプレ、王道的な成功を手にしたら
ゆくゆくは豪邸に住んで美女を侍らせたハーレムを夢見、引退を考える頃には安定を求めて
何かしらの商売に手を出したりギルドで要職に着いたりするのである。
そういった生き方を目指しているのが冒険者なのだが、それが何故スケベの代名詞と呼ばれる程
女の子への欲望を持った性欲的な意味で男の中の男である冒険者にカテゴライズされるディスポーターは
同じムサ苦しい男を生涯の伴侶に選ぶのかというと、ダンジョン探索という一般的なギルドでの依頼とは
一線を画す特殊な環境下での仕事故である。
「一般的な冒険者パーティーの構成は攻撃役の前衛に回復役の後衛が基本で
そこに盾役や支援魔法使い等が加わって、場所によって開錠や浄化等のスキル持ちが活躍したりと
実力さえあれば男女問わず活躍出来るのが通常なのね、でもダンジョンではそうはいかない。
まずダンジョンというのは暗く狭い道を幾重にも重ねた言わば生きた洞窟であり
そういった体の内に魔獣を飼った魔物と考えたらいいわ、その暗くて狭い場所に進入しなければならない場合
気心の知れない相手とパーティーを組むなんて命が幾つあっても足りないわよ。
密室で見知らぬ他人と長時間過ごさなければならない緊張、何時モンスターに襲われるかもしれない不安に
暗闇、ジメジメした空気に足場の悪い岩場、そのストレスは計り知れないわ」
「だから気心の知れたパートナーとダンジョンに潜るとしても、女の子を相手に選んだら
男に転ぶ間違いは起きないだろ?それに暗いの狭いのとワガママ言わせないように手取り早く奴隷とか?」
ダンジョンという特殊な環境故の即席パーティーメンバーを受け付けない独特の習慣と同性婚が結びつかずに
クラウドは疑問を差し挟むが、ゆるりと首を横に振ったショーンは女性を受け付けない理由を説明する。
「ダンジョン攻略に女性をパーティーメンバーに選ぶ冒険者は少ないわ、ダンジョン攻略は一度ダンジョンに潜れば1週間から10日は帰って来ないし来れないわよ、それに暗くてジメジメした密室って
今説明したわよね?そんな所に男女が一緒に長期間行動を共にするのは難しいわ。
通常の依頼であれば日帰りで素材を採取したり、レア度の低いモンスターを退治するなんて物が多いけれど」
お花摘み等の問題だけでなく長期に渡って風呂どころか洗顔も困難な状況に難色を示す女性は多い。
「それと…男の子のクラウド君にはちょっと耳に入れ辛い話なんだけど、女性特有の月に一度の
血の障りがあるじゃない?どうしても人間以上の嗅覚を持つ魔獣のいる迷宮に血の匂いをさせて探索には
ちょっと行かれないわよねぇ、森や草原と違って匂いが洞窟内に篭るから格好の囮よ」
嗅ぎつけられて即、魔獣の腹へと収まるのがオチよとショーンはダンジョン探索の難しさを語る。
「消臭の魔法を使えば大丈夫じゃないかと考えつくかもしれないけど、期間中常に
ソレを使い続けたとしたらその魔力使用量はどれだけになるのかしらね。
だからダンジョン以外の冒険者が斥候と囮を兼ねて購入する奴隷なんかは性欲の発散も手近で済ませようと
なるべく若くて可愛い女の子を選ぶんだけど、ディスポーターは月に10日も使えない奴隷に大金は出せないし
奴隷を所持するだけでも色々と経費が掛かるから必然的に男を選ぶようになるわ。
それに長期に渡って命懸けの探索を共にして、ハイリスクハイリターンの成果を分け合える程の信頼が
段々と愛情に変わっていくのはそう不自然では無いと思うけど?」
「…そ、そうなんですか?」
女性特有の悩みなんて、今まで彼女の1人もいなかったクラウドには縁の無かった事柄だし
ダンジョン探索の現実なんて異世界でしか知り得ない実情故に、吊り橋効果じゃないけれど
冒険を一緒に乗り越える内に恋が始まっちゃう☆なんて腐敗した脳味噌の妄想の産物なのではと
反論出来ずに口を閉ざした。
「でも政治的な理由と不正防止の為にエニグマダンジョン特区の実質的な支配者である
其処のダンジョンギルドのギルマスと、王国側から派遣された特区管理代官は交際と結婚を禁止されてるわ」
そこまできちんと法整備されてるのだからそれが当たり前なのよと、ショーンは胸を張る。




