騒動始末
あのぶら下がり娘が逃げた?
ベオヘルグ王子に下駄まで履いて首っ丈なんて様子だったのにねぇ。
「ベオヘルグが王籍から外され王宮より立ち退きを命じられた故、
その騒動の原因の片割れで将来を誓ったとかあの場で宣言したエレミア嬢の家で
引き取れと王よりダフラシア男爵家に遣いを出したのだが
エレミア本人は平民のベオヘルグなんかと結婚する意味が無いと逃げた後だとか、
娘の方は身分と結婚する気でいたらしいのぅ」
先程の萎れた様子から一変、王妃様は息子が誑かされて身分を失ったと
お怒りらしく花の顔に青筋。
確かに掻き回すだけ掻き回してドロンはいただけないが、男爵令嬢として
乳母日傘で育てられたお嬢様が家を飛び出して大丈夫なのかねぇ?
すぐに見つかって連れ戻されるのがオチだと思うんだけど。
「エレミアさん、でしたか…その男爵令嬢がお一人で?」
雑巾一枚触った事のなさそうなお嬢様が一人で逃げたとしても、
働く先を見つけて落ち着く前に人攫いにあってえらい目に合うんじゃないかって
不安になってお父様の方を見る。
「心配せずとも人を出して既にエレミア嬢の動向は掴んでおる、
お前が心配する事では無い」
「そうですか」
良かった、このおとぎ話の世界は絵本よりも残酷な世界なので人攫いも
物盗りも普通にいて、攫われた子供や娘は奴隷に売られたり
慰み者になると何度も聞いていたから。
「グラーシアはエレミアを心配するのか?」
「女が一人で外へなど危ない事を、攫われでもしたらと心配になります」
やんごとないご身分の王妃様だからか世間の厳しさをご存知じゃあないからか
驚いてるみたいだけど、世間知らずの若い娘さんがフラフラ出歩いて
悪い人にかどわかされ女郎にでも売られでもしたら私も寝覚めが悪いわよ。
「婚約者を奪った女を心配するのか」
「私と王子との事は別にして、若い娘が一人で不用意に歩けば
人攫いにあうのは目に見えておりましょう。
それに貴族令嬢が家を出て外で生きてくとしても何が出来ましょうか?
攫われ奴隷に売られるか自分から売るかの違いはありましょうが
春をひさぐ花売り娘に身を落とすのは時間の問題と思い至りますれば」
「グラーシアは優しいのだな、あの娘には暫く怖い目を見せてから身柄を確保し、
改めてベオヘルグと大人しく婚姻を結ばせるか修道院に入れるか
父親の爵位剥奪の上ダフラシア家断絶と此度の騒動の責を取らせるかと
我々は色々考えておったのにのぅ」
その位せねば怒りも収まるまいにと王妃様は普通に恐ろしい事を口になさる。
そりゃ王子様だってこの婚姻は家同士の政略だったから好きな娘が出来て、
どうしようも無かったから婚姻破棄を言い出したんだろうから
穏便に解消してくれなかった事に怒りはあるけど破棄自体に
私はそんなに怒って無いのよね、惚れた腫れたで祝言当日に逃げた
花嫁花婿の話なんか偶に聞いた覚えもあるから。
私も惣領娘だったから婿取ったらそのお人と合わずに、
婿さんが悪所通いをしたらとか外に妾を囲ったらと不安になって一応は
そういった覚悟はしたっけと若かった頃を懐かしく思い出すわ、
まぁそんな事はしない真面目な人だったけれどもね。
「王子が順序を間違えたのと父について申されました事に
少し思う事はございましたが、こうして過分な治療と王妃様のお心遣いに
それも淡雪のように消えてしまいましたわ」
王家とウチの面目が立ってなるべく穏便に済ませて下さるなら何だって良いわ、
王の権威に傷をつけちゃあ無傷とはいかないから
ダフラシア男爵家に何らかのお咎めは免れられないだろうけれども。
「此度の事は本当に済まない事をした」
「勿体無い仰せです」
これで取り敢えず一区切りと、王妃様の謝罪を頂戴しましたし
私も手が生えて目を覚ましたので王妃様が退出なされたら、
着替えてお父様と一緒に家へ帰りましょう。