チートと知識と信州人
驚き固まる皆を余所にクラウドは、結婚祝いを渡すのを忘れていたと、ヘラヘラしながら箱を差し出す。
「忘れてたわ、コレ、俺が作った物だから出来があんまり良い物じゃないけど」
「あらまぁ精霊さん達だけじゃ無くってマトラ様やクラウド君まで…本当にありがたいわ」
茶器を避けるように置かれた箱の蓋を開ければ、光り輝く宝玉が幾つも並んでいる。
「まぁ!どうしたの?こんな高直なもの…」
「高く無いって、俺が作ったって言ったじゃん。コレは俺の作ったトンボ玉と、冒険者登録して
すぐに行った海で知り合った波の精霊とアコヤ老の力を借りて作ったマヨネーズ真珠だよ」
「本当にマヨネーズで真珠が出来るの?」
「宝珠と真珠を人の手で造っただと!?」
箱の中にビッシリ詰まる真珠の山に、王族であるハインリヒですら目の色を変えて問う。
「元々アッチの母さんに引きずられてたのって俺だけじゃ無くて、父さんも色々やらされてて
DIYの他にも簡単なバーナーワークとか、ろくろ回しての焼き物とかロー付けやメッキに何でも出来て
俺も手づくな程度にはやれるんで結構こういうの好きでさ、気持ちだけれど。
それとアチラじゃあネットで、成功例が無いなんて言われてる夏休みの自由研究、
梅酒瓶に真水を満たして、石灰と鰹ダシの素にマヨネーズを混ぜた物に核となるビーズを浸けて
エアレーションするだけってヤツなんだけど、父さんと一緒にやってみて俺も実際一回失敗してるから、
何でそれで真珠が出来ないかアコヤ貝のデカいのが居たから相談したんだよねぇ〜
そしたらさ、時間と貝のズクだか魂が足りないとかで、アコヤ貝の親玉なアコヤ老が
マヨネーズとラー油たっぷりの餃子をご馳走したら作ってくれたの」
クラウドは何でも無い風に流すが、50を超す数の火炎魔力の籠った宝珠だけで王城の火力関連の魔道具を
一年は稼動させられるだけのエネルギーを持った、需要の高い一財産である。
普通ならダンジョンで火蜥蜴等の魔獣を倒さねば入手出来無いドロップ品を
いとも容易く作ったと言い、更にそれ以上の量の真珠は、一国の王女の輿入れの際に持たされる
宝石やドレスに束に積んだレースに馬車にと諸道具類全てを合わせたとしても贖えない程の御宝だ。
「…では、こっちの宝珠はお前一人で作り上げたというのか?」
宮廷魔導師として宝珠の製造方法があると聞いては流せる訳が無いとリチャードが食い付けば、
クラウドはシナノで意気投合したマティスに似た男の顔立ちに気付き、呑気にマティスさんの親戚?と
ヘラヘラと日本人特有の無害アピールの笑顔で挨拶をする。
「マティスは私の甥だ。そういえばアレは今、シナノに居るんだったな」
「はい、シナノではマティス様には色々と教わってお世話になりました。
俺だけでは千曲川の河川工事も木落とし坂も諏訪大社造営も絶対無理でした、本当にありがとう御座います」
一礼するクラウドに思わず返礼をしながらも食い下がるリチャードに説明。
「こっちってガスバーナー無いからさ、イフリートやアータルに手伝って貰って加工したんだ。
石英を砕くのにシルキーとかニスの手を借りて硅砂にしたり、石灰とか混ぜて歌いながら
トンボ玉を作ればソレになるよ、色付けや模様は鉄粉とか重曹を使ってみた位かな」
「歌とは?」
「気分が出るかなぁと思って火とか炎とかファイアーって叫ぶような歌詞のヤツ」
闘魂を燃料に拳がファイアー!的なのや、許されない愛がどうたら嫉妬に身を焦がして消し炭〜♪等
愛の翼を広げたり、親に感謝して涙が溢れるテンプレソングを改変したトンデモソングを披露するクラウド。
「テレビで聴いたような歌ね、懐かしいわ」
グラーシアの感想も、ほぼ晩年は足が萎えてしまいテレビの前が指定席だったが故に
一日中垂れ流される流行歌に耳が慣れていたからだろう。
しかしリチャードの耳にはそれが音階と言葉で紡いだ魔法律に則った詠唱にしか聴こえなかったようだ。
「宝珠作りに用いたヒヒイロカネを触媒として、火炎属性の精霊の力を定着させる魔法旋律か」
永年謎とされていた魔力石や宝珠のレシピが解き明かされたと、感嘆の声を上げるリチャードは
この功績だけでも叙爵昇進モノのだとクラウドの手を取らんばかりに感動しているが先ずは
王太子のパレード馬車に攻撃魔法を放った、正式な婚約を経て準王族となったグラーシアを狙った
事件の解決が先と、ハインリヒは興奮したリチャードを遮る。
「そうでした、ジャン ダフネスの処遇の方が先でしたね」
蓋をした国家予算数年分の献上品を預かるメイドの手が震えるのも構わず、事件解決の方を優先と
クラウドは思い出せる限りを吐き出そうと、ゲームで知り得た彼の情報を整理すべく目を閉じた。




