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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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42/116

今山吹、玉の輿の末。

「ショーンさんが松本の人って…」


「一応ね、親が言うには祖は旭将軍 木曽義仲の四天王 手塚 太郎光盛って話で祖父母の代まで

上田の丸子って所に居たから純正な松本人じゃ無いけれどね」


上田人イエ〜〜イ☆とハイタッチするショーンにグラーシア、付き合わされ気味ながらも

グラーシアが楽しそうなのは同じ時代を知る同郷の同じ女性相手だからであろう。


「グラーシア様にはお世話になったわ、出会ったころの私は流浪民の冒険者だったから」


「凄く格好良かったわよ、キリリと黒髪を一つに結って正に女武者 巴御前みたいに強くてね〜

弓を負い靭を腰に着けてワイバーンを次々に射て倒して見せたり、火焔魔法で異常発生した

スライムやらジャイアントスパイダーの群れを薙ぎ払ったりと、凄腕の冒険者として名を馳せていたわ」


「昔の事です、本当に恥ずかしい……」


冷たい果実水を舐め、馬車の支度とショーンの自宅であるリヴィエール邸へ客人を招くと

ショーンが遣いを走らせたりと諸々の用事が済むのを待ちながら雑談に興ずる。


「えぇっ!?ショーンさんは冒険者だったんですか?俺、ギルドに登録したばかりのFランクなんですけど

何かアドバイスって貰えます?」


「乳酒に付き合ってくれらならね」


ショーンはニコリと笑って言うが、新人冒険者へのリップサービス程度だろうと見た目だけは

大人なビデオ作品の女優さんな女性がやれば、中学生男子には堪ったものではないだろう。

クラウドがドギマギしている間に用意が出来たのでと、従者が呼びに訪れて馬車へと。



+++++



カッポカッポと蹄の音を響かせ向かう先に現れたのは瀟洒な門と豪華な邸宅。


「ショーンさんって貴族なんですか!?」


21世紀の地球でもこれ程の豪邸は、王族や貴族の末裔でもなければ中々お目に掛かれないだろう。


「夫がシランス辺境伯の三男なのよ」


ショーンは嫁いで身分が変わったとサラリと流す中、馬車は門を潜り広い庭園を走り抜け

社交為に備えられているであろう車溜まりを通り広々とした玄関へと到着する。


「辺境伯って金持ちなんすか?」


クラウドは小声で隣に座るマリア越しにグラーシアへと問い掛けるが、静かな車内では人を挟んでの

密談は難しいようで、気を悪くする程では無いらしくショーンが答える。


「辺境伯というのは文字通り辺境の守護に任ぜられる役職込みの地位だから

普通は持ち出しの方が多いのよ、それでもウチはキリアラナ一の運河 シランス川が注ぐ

シランス港を有してるから海運交易関連の税収益が凄いのよ」


金満貴族夫人の余裕を漂わせて答えにクラウドは呑まれて、成る程と頷いた。


「さ、どうぞ」


リヴィエール家の家令が恭しく一礼しドアマンが扉を開くのを当たり前といった態度で

ショーンが広間へと歩を進める後を着いて行く。


「ようこそレディ シナノ=グラーシア ファングル嬢、異世界の客人殿」


広間にて待ち構えていたのは金髪を後ろにピッチリ撫で付けて後ろで括った武人然とした男が

ショーンの夫、クレール デ リヴィエール子爵だと立ち上がって名乗る。


「お招きありがとう」


慣れたように一声掛け、メイドに上座へと案内され席に着くグラーシア。


「初めまして、クラウドと言います。本日は奥様にお世話になりました」


貴族への礼儀はさっぱりだが、挨拶は大事だと持ちうる知識や経験の中から最上の礼を尽くそうと

クラウドは現代日本人らしく深々と頭を下げて名乗れば、クレールもクラウドの判らぬなりに

礼を尽くそうとの態度は好ましく映ったらしく、僅かにだが表情を和らげた。


「よい、色々と疲れたであろう」


パンと無骨な掌が鳴らされて次々と料理や飲み物の壺が運ばれて、クラウドも着席を勧められ

目の前には山海の珍味が並び、杯を持たされて並々とワインを注がれた。


「異世界よりの客人との邂逅に」


クレールの音頭で杯が掲げられ、ごく内輪ながら内福なリヴィエール子爵家の晩餐が始まる。

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