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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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マスメディアの力って魔法並みに凄いよね

舞台の上で輝く銀髪を靡かせ歌うのはエルフと人魚のハーフという血統故か、

大陸一の美貌と歌声、そして演技力を讃えられている大女優 ヘレーネの魅せ所。


「最初はこの身と色で蕩かせて、英雄を私の虜にと近付いた!でも…愛してしまったの!」


薄絹を閃かせ、体の線も露わなビキニ風の衣装に豪奢に見えるネックレスやアンクレットといった

キラキラ輝く宝石を模した装飾品は旅の魔道具という設定なのだろう。


「私はアンドリュー様の為にこの身と踊りで悪人を蕩かせ油断させて情報を獲るわ」


「危ない事は止めてくれ!シルビアは俺の永遠の恋人!運命の女!」


鍛え上げられた筋肉を惜しげも無く晒す2枚目は、アンドリュー役のイケメン俳優。


「いいえ!いいえ!私はアンドリュー様の恋の奴隷、私の生きる意味、私の運命の人!」


大仰な台詞と派手な殺陣で魔獣をバッタバッタと倒す英雄、見せ場では薄布越しに影を映して

裸でいるように見せ掛け演技するお色気タップリなシルビアの入浴シーンと、それを覗きに近付く

鼻の下を伸ばした好色そうな悪役 ジャンジェイク伯爵。


「伯爵様のエッチ!」


初歩の水魔法で悪役伯爵の顔に水流がお見舞いされるシーンは観客の笑いを誘う。

好色で無理矢理領内の娘を何人も喰い散らし蓄妾に励む悪役伯爵は、色香と踊りを武器にすれど

男に肌は決して許さない貞淑さを備えたシルビアを愛妾にしようと画策しては失敗し

また企むといった完全な当て馬で悪役で、英雄 アンドリューも一途なシルビアに恋心を抱いていて

身分差を超えての初恋を実らせようと真剣に考えているという恋物語が繰り広げられて

領民に重税を課し、オオシカ村に隠された希少なドリアード材を村人を隷属して扱き使い

昼夜関係なく伐採させて不当に蓄財していた悪役伯爵を成敗すればサウスフォレに平和が戻るが…

だが、最後の最後でシルビアはアンドリューを庇って死ぬ。


悪辣なジャンジェイクが雇う食い詰め魔法遣いが発動した国一つ滅ぼす強大な滅びの魔法陣の前に

シルビアは身を投げ出したのだ、聖なる祈りの踊りと生贄の乙女の命。


突然の悲劇に観客からは悲鳴が上がる。


平民ながらも王族のアンドリューに見初められて王弟殿下の妃へとなるべく世直し旅が終われば

シルビアは貴族令嬢としての教育を受け、アンドリューの従者 カトゥリア バンブツリー男爵の

義妹として貴族籍を用意して結婚する手筈も整っていた。


命と引き換えにキリアラナを護ったシルビアの亡骸を抱き締め悲しみにくれるアンドリュー。

嗚呼、何たる悲劇!この悲しい初恋の終わりに英雄は生涯の愛を捧げ尽くし

以降どんな美姫令嬢に心動かす事無くシルビアへの恋に殉じて独身を貫いたと語る。


舞台の幕が下り、目元を腫らしながら口々に喚くご婦人方は口を極めて悪辣な伯爵を罵り

呑み食いしながら観劇していた男達からは酔いに乗って好色下劣な伯爵への罵倒が上がる。


そんな王都で大人気の『シルビアと英雄の悲恋』はアンドリューの血族で王城に住まい

王国に君臨するキリアラナ王家の耳にも達していた。



+++++



「我が大叔父、英雄 ベンタロン公が民に人気だと聞くが」


「妾もヘレーネの演ずるシルビアの踊りを観てみたいのぅ」


王が側近や臣下から聞いた下々の間で流行のキリアラナ王族であるアンドリューを主人公にした

劇や英雄叙事詩が大人気だとの噂に気を良くしてのご下問、王妃も後宮の女官達にまで噂される

話題の恋物語にいたくご執心の様子だ。


「は、劇作家が畏れ多くもベンタロン公の多大なる功績や王家と兄上であらせられる先々王を

一番に立てられる清廉なご生涯に感銘を受け、あのような物語を書いたのだろうと存じます。

私も年甲斐も無く英雄 アンドリュー公の冒険譚に胸を躍らせておりまして」


ごく内輪の園遊会、主催するクリストフはパンと掌を打ち鳴らせば、庭に舞台が現れ音が鳴らされ

滅多に外出の叶わないサフィール王妃の為に亡きグロリアーナのサロンにて援助していた劇団と

ヘレーネを呼んで『暴れ大公世直し旅』を演じさせたのだ。


「おお、クリストフ」


感に堪えないと声を漏らしハンカチを握る王妃、そして流行りの冒険譚に引き込まれて腰を浮かし

何時しか前のめりになって足を踏み鳴らし、椅子の肘掛けに拳を叩き付け観劇する王。


王都で流行りの『シルビアと英雄の悲恋』では無く短めの『暴れ大公世直し旅』であったが

登場する悪役伯爵の領地と名前に引っかかりを覚えた王は、芝居が終わり役者が下がった後に

クリストフを身近に手招いてどういう事だと耳打ちした。


「実はこの話の元が、娘の頂戴致しましたるシナノの冒険者ギルドに助けを求め駆け込んで来た

ある転生人一家の話が開拓者や製糸工場の女工達の口から口へと面白可笑しく伝わった末に

ベンタロン公のようや救世主様がおられたらなぁと民達や吟遊詩人が語り継いで

あのようになったと聞き及んでおりまする」


「何と!南方の森を意味するオーイアスフォリと同義の地名と言い、ブーヨの名に似通った名

そして同じ伯爵位…アレは何を仕出かしたと言うのだ!?」


「逃げ出した転生人は"精霊の愛し子"なる称号を有して様々な精霊を従え

高位の精霊魔法を意のままに操る少年だと保護を求められた娘が報せて来ました。

その力を欲しいままに操ろうと、その転生少年の両親に、有りもしない脱税の罪を捏造し捕縛せんと

執拗に追い回して、娘にまで虚偽の引き渡し要請をした、との事に御座いました」


「ブーヨめが…未来の王配に偽りを並べ立て、無辜の民を不当に捕縛せんとしたのだな?」


「宰相殿にも確認をお願い申し上げておりまするが、オーイアスフォリより転生人の届け出と

その能力の報告の有無も調査した方がよろしいかと愚考致しまする」


クリストフに言われずとも王はそのような報告に覚えが無いと腹を立てていた。

異世界知識なぞよりも貴重で有用性のある精霊魔法と精霊達の加護となれば、仮に報告があれば

即座に国が保護回収と朝見の議題に上がり、会議が開かれる内容だからだ。


「判っておる、調査の上民達の口に膾炙した通りならばその通りにしてくれん」


国の地形を変える程の強大な魔法遣い、天地の恵みを約束してくれる精霊の愛し子を隠蔽とは

荒淫強欲悪徳非道どころでは無い国家叛逆を疑われてもおかしくない一大事。


王は侍立する近衛隊長に一言、命を下した。

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