お隣さんにご挨拶
ファングル領の隣にはリヒャルト君の実家のコンヨー領があります。
現コンヨー男爵 フリードリヒさんにも先程の話をしておかないとなりませんし
元々拝領地開発の件でご挨拶もしておきたかったので予め使者を立てて
お会い出来るようお願いしておいたのですよね。
「お久し振りにごさいますわね、ミランダ夫人」
「グラーシア様もお母様がお隠れになられてから色々とおありで大変でしたわね」
一応私は公爵の娘なのでコンヨー男爵の元には行かずに言葉はアレですが
呼びつける形になります。仮に私が無理に男爵の屋敷に押しかけても
公爵令嬢を迎えられるだけの格式を備えていない場所に迎えては無礼と
男爵側も対応に困るとの礼儀だそうです。
そして未婚の私が男爵と直接会うのはやはり礼儀に反するとの事ですので
男爵夫人をお茶にお招きし男爵がエスコートして来ましたとの形を取ります。
「聞きましたけれど王太子殿下とご婚約が成ったそうで」
席が定まりコーヒーを淹れてカップを置くと早速本題へ。
「首の挿げ替えでお茶を濁した感はありますが無難な始末のつけ方なのでしょう、
それよりリヒャルト君の事なのですけれど」
此所に来るまでにあったベオヘルグ元王子とリヒャルト君の間に起きた事の
内容を説明しベオヘルグ元王子が身分を剥奪されてはいるが断種されていない
事実を考え合わせれば身分回復を果たした後にリヒャルト君が
報復される危険があると憂慮していると伝えれば
お二人は青ざめていらっしゃる。
「そこで考えたのですけれど、
リヒャルト君に竜を仕留めるか捕まえるかしてもらおうと思いますの」
「それは!?」
驚いたミランダ夫人が扇を取り落として口元を押さえます。
「勿論安全とは行きませんが私の父と竜のフンを採取に出掛けて貰って
"偶然"竜を何とかすれば王家といえども簡単には手出しは出来なくなりますわ」
「グラーシア嬢、簡単に言われますが騎士見習いのリヒャルトに竜を倒せとは」
コンヨー男爵がこの案を無謀だと言いますけれど
私だって勝算無しに竜を倒して来いと言い出したりは致しませんよ。
「閣下は"竜気"という言葉をご存知?竜の命と引き換えに与えられる
竜殺しの気配と竜との観応能力、
それこそが各国の王室が竜を倒した英雄を欲する理由なのですわ」
「ファングル卿の力を使ってリヒャルトを守ると言われるのか」
「えぇ、それと引き換えに私も
リヒャルト君と男爵閣下のお力をお借りしたいのです」
最悪の事態を考えればリヒャルト君の件を理由にコンヨー男爵を潰せば
救荒食材である芋類に関する一切合切を手に入れる事が出来ます。
王家というよりベオヘルグ元王子がそこまで欲張るのかは判りませんが
剣を抜く悪癖から報復に走るのは目に見えています。
「有難いお話ですがそこまで配慮いただける程
グラーシア様をお支え出来る力が私にあるとは思えませんが?」
「ファングルとコンヨーの先に私、化粧領を賜りましたので
その新領地の開発に閣下にご助力を願いたくご足労願いましたの」
「あの渓谷をですか?開発と言っても私にそのような…」
「ファングル発展の礎となりましたアラクネ糸の量産化、
それをもう一歩進めて加工等も行いたいので其方の領地で跋扈するオークやオーガ
素材にもならない害獣をアラクネの餌に頂戴したいのです」
「その位でしたら協力出来ますが
それではグラーシア様にメリットが少ないと思いますが」
「そして将来、コンヨー家から私の子に配偶者を頂戴したいのです」
黙っていれば王妃となった私の所領は
有耶無耶の内に王家に統合されるかもしれません。
ならばそうなる前にファングルとファングルと懇意にしているコンヨー家とを
巻き込んでファングルの支領扱いにしてしまえば良い、
その思いつきの根回しにお誘いしたのだったのだけれど。




