初筆
本日は晴天なり。先日の嵐から一転して穏やかな
いや、照りつける太陽の痛い事眩しい事。
「夏だなぁー」
本当はすぐにでもこの邪魔な服を脱ぎ捨てて
大きく広がるコーヤティヌの海で泳ぎたいのだけれども
目の前の資料の山はそれを許してはくれない。
「コマー!ミユレー!」(コマー!見てみてー!)
甲高い声が外から響いた。
窓から見るといつものちびっ子が
両手いっぱいに貝を抱えて大声で駈けてくる。
ドタドタと荒々しく階段を上る音と共に
瞬く間に扉は開かれた。
「チオピキティカクノヤプニオオキマキカピトゥリタリー!」
(潮が引いたからいっぱい貝が取れたよー!)
目いっぱいの笑顔と貝を差し出して来たのはオルルカ。
焼けた小麦色の肌と真紅の瞳、トレンドマークのリィウエの首飾りとすこし小さめの白い貫頭衣。
今年で13歳になる彼女。背は一等に低いが子供達のリーダー的存在だ。
お日様の子と言われているだけあって今日も元気がよろしい。
「コヨピパマキカピトゥカピティアナタヌチユプケニナリム」
(今日は貝を使って楽しい夕食になるだろうね)
私はオルルカの頭を撫で微笑んだ。
「チャレドゥ…」(けど…)
「イトゥケガラワチアチディアノチュマピケガチャヂ!」
(汚い足で私の部屋に入っちゃいかんでしょ!)
私は撫でた手を切り返しチョップをお見舞いした。
砂と足跡で汚された我が家の怒りを知るがよい。
イタタと笑いながらオルルカはくるりと背を向け、貝を少し落としながらまたドタドタと階段を下りていった。
「ユプケパァアラノチュマピニキタマピヨ~!」
(夕飯は家に食べにおいでよ~!)
…本日は晴天なり。
蝉の声染み渡るのユプナギの村に夏が訪れた。
私は夕飯を楽しみに嵐の過ぎ去った我が家を掃除するとしようか。