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想い涙
滲む文字。
彼女の頬を伝う、一筋の涙。
そっと指を伸ばした。
紙切れ、に。
たった一行の言葉を、確かめるようにゆっくりとなぞる。
慰めも別れも、口に出せなかった。
嘘でしょう。
問いかける彼女に声を荒げた。
それは、俺の方が、ずっと。
よくできた作り話だと笑い飛ばせたら。
嗚咽をあげる彼女に背を向けた。
噛み締めたはずの唇が震える。
最低、だ。
でも俺は、どうせヒーローになんてなれない。
少しでも長くその心に存れるなら、何だっていい。
今までありがとう。
告げて、笑って見せた。
紙切れに書かれた同じ言葉が。
この瞬間を思い出させてくれるように。
たとえそれが、一度だけだって構わない。
そうしたら、こんな俺でも。
この声を、姿を、名前を。
その心に描けなくなる薄情さに目を瞑ってやれる。
代わりに、彼女が笑っていられる未来を描いて。