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どうでもいいけど魔法研究塔の責任者はユデ博士っていう

何年空いてんだ・・・

 俺に出来るチートで無双な事がきっとあるはず。

 そう考えると案内人歴の長いいすゞさんが着いてきてくれるのはホントに助かる。

 知識チートする為のネタを探して、真剣に街の中を観察する。気になるのは高い塔が何本か密集して建っているところか。


「あの塔は何ですか」

「右手に見えますのが魔法研究塔『マリポーサの塔』です。羽ばたき飛行魔法の研究の為に高度が必要で、あのような塔で研究を行っています」


 見ている前で、五階建てほどの塔の上から人が落ちた。凄惨な事故現場になるかと思ったが、普通に着地したようだ。


「落下制御の魔法かな? すごい魔法だね」

「いえ、今のはただの買い物に行くために近道しただけでしょう。階段狭いしめんどくさいですし」


まさか生身?


「ああ、人間種は五階から落ちると怪我するんでしたっけ? 妖精種の骨は丈夫なのであれくらいなら生身でも平気ですよ?」


 膝が痛いので私はやりませんけど、と呟くいすゞさん。50年前の人間達、なんでこんなのと戦争したんだよ。人型で人間サイズなのに耐久性が桁違いとか。チート種族か。渡った異世界は鬼ばかり。


「飛ぶ魔法はまだ実用化してないの?」

「二段ジャンプまではできるんですが、三段四段で難易度がはねあがるそうです。一応羽ばたきエンジンを複数積むことで飛行魔法具は完成しているのですがコストに見合わないのです」


 ジャンプの延長で飛ぼうとしてるのかよ。って飛べちゃうのか。脳筋なのか?

 魔法研究塔を遠くから見る。マリポーサの塔では飛行装置の研究がおこなわれているらしい。ここで竹トンボでも持って行けば違う未来もあったのだろうが、主人公にあるまじきことに彼はチャンスをスルーしてしまった。


「他にも凄い魔法とかあるの?」

「ありますよ。あちらに見える建物が裁判所。『ゼブラ』という白黒はっきりさせる真贋鑑定魔法の完成により、虚言は全て通らなくなりました。これにより犯罪捜査は飛躍的に制度を増し、時間も短縮。違法行為は割に合わないものとなり高度な犯罪は駆逐されました」


 高度な犯罪ってなんだ。ああ、衝動的な犯罪はまだあるってことか。虚言検知の魔法一つで法律とかドカンと変わりそうだしなぁ。


「そしてあちらの大きな倉庫に併設されているのが、巨人騎士工房です。人間との戦争を終えた後、我々は森や山に巣くう巨獣との戦いが始まりました。そのために生み出した『巨人(ビッグボディ)』の魔法工房です」


 巨大ロボットまであるのか!


「その巨人はさ、人間種との戦いの時には使わなかったの? まだ研究途中だったとか?」

「人間種が研究してたんですよ。水上さんみたいに召喚した人の知識で作ってたみたいですけど実用になる前に決着が付いたのでそっくり引き継ぎました」


 人間側の最終兵器だったのに間にあわなかったのか。あれ、もしかして……俺がこっちきて時間稼げてたら歴史はかわってたのかな。


「あとは回復魔法の『フェニックス』とかも歴史的には偉大ですね。治療院で管理していますが、これのおかげで事故死とかほとんど無くなりました。妖精種は病気にはなりませんし、怪我もあまりしないので即死と貧乏死と老衰だけが死因です」


 人類はいつから詰んでいたんだろう。俺が勇者降臨してても無理ゲーだったよね?

 キョロキョロと不審な動きをしながら観光していても、何も思いつかない。というか、書店があって雑誌とかが売られているって事は、製紙業があって活版印刷も当然あるんだろう。屋台とかで売っている食べ物をみると、トマトもジャガイモもあるっぽいし、食べ物が溢れている。


「念の為聞くけど、農作物の生産とか輸送とかってどういうのがある? 凶作になって飢饉で死んだり口減らしに…とかそういう事ってある?」

「気象制御魔法が作られる前は一年のうちの一時期しか稲も麦も作れなかったらしいですね。でもいまはどんな野菜も果物も一年中作れますよ。土地鑑定魔法で土の栄養状態も、リアルタイムで観察して無駄なく作られますし、その農作物はストレージ魔法で収納して運ぶから多少の距離とかは」

「わかった!もうわかった!」


 自分で聞いておきながらいすゞさんの話を遮って打ちきる。最低だとは思うがもう耐えられん。休耕地を無くす農法だけじゃなくて、鑑定もストレージも一般化してんの? 主人公特権残って無いじゃん! きっとストレージとか時間停止機能ついてんだろ。

 農業チートがアウトなだけじゃなくていろいろ一気に潰れたよ。屋台でピザとかホットドック売ってたから料理チートもアウトだろ。テリヤキの匂いがするって事は醤油とかもあんだろどうせ。印刷関連もアウト。規格あわせた大量生産とかもしてるっぽいし、産業革命なんて昔の話だよな。そもそもいすゞさんの所属する会社で株式会社とか言ってたもんな。現代知識の持ち込みチートは無理なのか。

馬車の車輪も統一規格。

水車もある。上質な小麦粉もある。石鹸もあるし温泉もある。それどころか永久機関まである始末。アイデアだけでSUGEEEする余地は全然なかった。


「人類種が終わった後も異世界からの召喚って何度か行われたらしいんですが、どうも有能なのが引けない様で。昔は様々な技術で文明の発展に協力してくれたようなんですが、いつの頃からか優れた技術者や発明家があらわれなくなったそうです。魔訪陣自体は同じ物を使っているんですが……その辺の改良とかに案が出せれば懸賞金でますよ? 水上さん久しぶりの異世界人なんですからその辺の見解ってないですか?」


 無言で品種改良されてるっぽい果物の屋台を見て歩く。見解?ねぇよ、そんなの。

 そもそも俺や召喚された地球人の「知識チート」ってのは発明じゃない。俺らの日常にある、昔の偉い人が作ってくれた物をこっちで再現したり教えたりするだけ。被召喚者が作りだした物じゃない。だから、農法も、紙も、酒造も、料理レシピも、こっちで教えて広まってしまえば「それ以上」は無いんだ。


「ねぇ、銃ってある?」

「持ってるはずないじゃないですか。一般人は所持禁止ですよ?」


 ほらな。火薬もだれかが教えちまってるっぽい。

 後何があるんだ。火薬知識まであるとなると、あとは毒物とかどうだろう。


「なぁ、さっきの地下水路の件なんだが、小型の虫ならなんとかできる方法があるかもしれない」

「ホントですか! 良いアイデアは魔研が買い取ってくれますよ」

「ああ。それで確認したいんだが、大型のモンスター出たら軍隊はどうやって対応してるんだ?」

「まず、ダンジョンの入り口を封鎖して、内部に広域殲滅魔法を撃つんです。酸素を消滅させる事であらゆる生物を死に至らしめるオキシジェンデストロイヤーとか、急速に温度を下げて凍結させるエターナルフォースブリザードとかで相手は確実に死にます。まぁコストが掛かるので普通はそこまでしません。低コスト高効率の範囲魔法のインフェルノで解決です」


 がっくりと肩を落とす。思ったより大がかりな方法が取られていた。ハーブを使ったりする素人のDIYが入り込む隙は無さそうだ。

 その様子を見て、アイデアがダメだった事をさとってくれるいすゞさん。その程度には俺を理解し始めている。


「普段からそれ使わないのはなんで?」

「もちろん、コストの問題です。大魔法は魔力消費が高いので、割に合わないんですよ。昔は薬品だけでほとんど倒せたらしいのですが、魔蟲には耐性がついてしまっていて一部の羽蟲にしか通用しません。それでもダンジョンスイーパーの後衛は一応薬品噴霧器を使いますけどね。ちなみに前衛は吸引魔道具で羽蟲の死骸や踏み潰した魔蟲を回収して、中衛のハイ枝切りシザー使いが巣を切り落として回収するのがセオリーです」


 違う。俺の知ってるダンジョン探索と違う。


「踏み潰して回収ってなんだそれ、モンスターと戦うとか言うのは全然ないの? 完全にただの害虫駆除じゃないか」

「害虫駆除ですよ? 戦うのは軍人の仕事でしょう?」


 そうか。ダンジョンに潜る仕事ってのは戦闘職じゃないんだ……


「ちなみに興味本位から聞くけどさ。低コスト高効率の範囲魔法のインフェルノって言ったけど、魔法もかなり効率化されてるの? 炎の矢を撃ったりするのに憧れてたんだけど」

「大昔の魔法にはあったらしいですね。炎の矢。延焼の危険があるので単体目標には火炎は使われなくなりました」

「じゃ、氷の槍とか?」

「水を出して凍らせてから投射とか、効率悪いじゃないですか。単体攻撃魔法と言えばスパークですよ。非殺傷にも調節しやすいですし、電撃による麻痺効果は戦闘力を奪うのに適してます。

命中率が低いのが難点なのですが、誘導性を高めた『当たるスパーク』という魔法が開発されてから他の魔法はほぼ使われなくなりました。その後、威力を高めた『優れる《スグル》スパーク』とのいいとこどりをした「完全版スパーク」という魔法が作られまして。スパークとインフェルノにリベンジャーを加えて戦闘職必須の三種の神器といわれてます。これは履歴書にも書けますよ! 私は身に付けられませんでしたけど!」


魔法改造なんてやったことはないけど、そのジャンルも無理そうだなと思い、水上は手を出す前に諦めたのだった。


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