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武力チートは無理でした

すげぇ間があいたけどシレっとして更新

 異世界の雑踏は思ったよりも落ち着いた物だった。

 ほら、異世界トリップっていうと、赤とか青とかピンクの髪してたり猫耳でビキニアーマーな人がウロウロしてるイメージがあったんだよ、全然そんな事無かったね。派手な髪の毛の人もたまに居るけれど、ほとんどは金髪とか明るい茶色の人が多かったし、黒髪も結構いる。

 それにお約束の「中世ヨーロッパ風」っていうともっと砂埃も多くて、風呂も無くてみんな体臭強いし、熟し切った果物の匂いに香水やら獣の臭いの混ざったカオスな生活臭がするもんだと勝手に思ってた。それはガンジス河か。全然ヨーロッパじゃないな。


 まぁいいや。でもね、そんな事無かったよ。石畳の街路には土埃も立たないし、屋台とかはあるけどあまりスパイシーな匂いはしない。俺が汗かきながら手で自分を扇ぎながら歩いているのに、隣を歩くいすゞさんは汗一つかいてない。匂いを嗅ぎまわったわけじゃないけど、どうも香水の類も付けていないっぽい。エルフって体臭ないのか? 普通に日本の住宅街とかと同じ無臭。ほんとにここファンタジー世界なのかな。


「なんか、ファンタジーっぽくないな。首輪付けた奴隷とかいないし、服装や髪の毛もカラフルじゃないし、なんか浮ついた感じがしない」

「そんな事言われましても。私たちエルフは幻想種という分類に自分達を置いては居ますが、この地で産まれて生きる生物ですから。幻想っぽくないと言われても幻でも想像でも無い現実ですよ」


 むう。そんなもんか。しかし今、さらっと流されたけど「ファンタジー」って言葉を「幻想」って認識したっぽいな。俺がどんな言葉で話しても意味が通る様に自動翻訳されるのか。この機能は便利で助かる。できれば文字も自動翻訳してくれれば良かったのだけど、残念な事に街の看板などの文字は読めない。識字率が高くないのか、看板は一目見てわかるピクトグラムになっているので、店を間違えたりはしなさそうだ。


「それよりも、浮ついていると言えばむしろ水上さんこそ、なんて言うか……喋り方が子供っぽいですよね? なんだか外見とギャップがあるんですが、魔訪陣を通った時に一気に老けたとかでしょうか? もし魔訪陣に加齢効果とかがあるなら魔研に報告したいのですが」


 いきなりいすゞさんがピンポイントな質問を放り込んで来た。自覚もしてるし前の世界でも良く聞かれた事だけどね。


「そんな事ねぇよ。俺、50年前に異世界召喚されるってわかってからずーっと異世界に持ち込む知識とか経験を吟味してたら気が付いたら年食っちゃっただけだからさ。

 魔法とかのあるファンタジー世界に行くんだから、若返りとか生まれ変わりとかそういうのがあるって思いこんでたんだよね。年寄りになってからも若返った後でギャップが出ない様にしようと思ってたら、なんかこんな話し方になっちゃった。だから魔訪陣通る前から子供っぽいジジイでした、はい」

「若返りなんて無いですよ。人は定められた時を精一杯に生きるから美しいのです」

「あ、やっぱり? でも寿命は延びたっぽいから結果オーライかな?」

「なんだかそういうグダグダなの多そうですね、水上さんって」


 キツイ事言ってくれる。


「でもさ、口調なんて『わしは○○じゃよ』なんて話し方する爺さん見た事無いぞ」

「そういうんじゃないですよ。落ち着きが無いと言うか、上滑りするというか」


 そのまま無言。何にも言えねぇ。いすゞさんも言い過ぎたと思ったのか無言。空気、重い。


 

「あの、もう一つ引っかかる事があるんですが」

「ん?」


 そんな風に失礼な事を考えながらキョロキョロ見回していると、深刻な顔をしたいすゞさんが話しかけてきた。


「お二人は魔力結合で状態を共有したから、水上さんに併せる形でアルミナさんも不老になったんですよね?」

「そうらしいな」


 いすゞさんは俺の耳元に顔を寄せて、大きめの声で話してくれる。俺はフードで耳とか皺のある顔とかを隠しながら街を歩いている。だから耳がそんなに遠いって程ではないのだが、ちょっと聞こえが悪いと思われているのかもしれない。エルフが耳隠すのは良く聞くが、逆をやるはめになるとは思わなかった。


「アルミナさんはもう長生きは望んでいないという認識であっていますよね?」

「お迎えが近いと思っていたっぽいしな。殺された王族の中で最後の自分くらいは天寿を全うしてやろうっていう意地もあったのかもしれん。早く来てやればよかった。俺ってホントにバカ」

「あの……それって」

「おいみろ、アレ凄いぞ! なんなんだあれ?」


 美形のエルフだらけの街中を顔を隠したまま小走りになる。いいんだ、イケメンへの劣等感なんてもう慣れたもんだ。

 それよりも目の前に見えた巨大な大剣に夢中だった。だって、大きく重く分厚いそれはまさしく鉄塊だったから。ぜったい振れないよな、あんな巨大な剣。看板替わりなのかな。


「ああ、武器屋ですね」


 店頭に飾ってある、焼きソバが焼けそうな鉄板みたいな大剣を、いすゞさんがヒョイッと持ちあげやがった。俺より細い腕の、俺がひそかにドジっ娘委員長属性と思っていた女の子が。


「え、なに? いすゞさんって凄く力持ち?」

「いいえ? 普通の剣じゃ無いですか」


 思わずそんな風に女の子には言わない方が良さそうな事を口走るが、サラリと否定される。もしかして凄く軽い素材なのかと思って俺も持ちあげてみる。召喚補正で強化されているのか、両手で持てば何とか持ち上がる。だがいすゞさんは片手で持ちあげたぞ?


「あー、種族性能ですね。骨や筋力の質が段違いなので、人間の人から見るとエルフって凄く強いらしいですよ。でもこれで普通なんです。山岳や洞窟に特化して変化したオーガとかドワーフ種はもっと凄いですよ」

「オーガとかドワーフもいるのか……それが強いのはわかる。でもエルフって細くて華奢なイメージだったんだが」


 俺が疑問を口にすると絶望的な返事が返ってきた。


「細いですし、華奢な方ですよ?」


 あわてて両手を振り、いえ幻想種の中ではですよ。人間種の人って進化前というか生存競争に負けた種族じゃないですか、純粋に肉体的に弱かっただけで、水上さんはそんなに(・・・・)ひ弱そうには見えませんよとか謎なフォローを始められた。追撃どころかトドメ刺しに来たよ。

 つまりこう言う事か。エルフは体力的には弱い。人間がそれ以下なだけ。そりゃ戦争したら負けるわ。


 1・2・3秒。大きく深呼吸して、復活。落ち込んでてもしょうがない、ポジティブに行こう!

 武力チートが出来ないってだけだ。まだ魔法チートとか、地球産格闘技での無双とか、俺TUEEEできる余地はある。建築SUGEEEに料理SUGEEE、出来る事はいろいろある。


「武器屋はもういいや、魔訪陣通った時に強化されたっぽい俺でも、普通にエルフより筋力低いって事ね。それならたぶん、俺にもてる武器って無いよね?」

「武器ですか? ここは土産物屋ですよ。実用の武器ならばもっとちゃんとした所で売ってます。子供用とか、護身用に軽くて小さいのもあるので、水上さんでも持てる物は一杯ありますよ」


 トドメ刺されたと思ったらまだ傷口に抉り込んで来た。俺はドMじゃないんだ、それ以上鞭打つのは辞めてくれ……


「でも、武器が持ちたいって事は地下迷宮とかにでも入るつもりなんですか?」


 シャキーン、復活! 来た! 来ました! 異世界に来たら是非行ってみたい観光スポットその一! 死の罠の(デストラップ)……ぎっしり詰まった……地下迷宮(ダンジョン)


「行きたい! ダンジョン入りたい! よし、まずはギルドに連れて行ってくれ。」

「いいですけど……なんでギルドですか?」


 興奮する俺とは正反対に、何が何だか分からないと言った風に首をひねるいすゞさん。ギルドで登録して武器と防具を見繕って、ダンジョン。仲間とかは種族的に難しそうだが、一階層をちょっとうろつく位なら一人でも構わないだろう。


「ギルドなら、そこの建物がそうですよ」


 テンション低めのいすゞさんが指さしたのは、交差した鎌の上に文字の書かれた看板を下げた大きな建物だった。周りは一階建ての建物が多かったのだけど、さすがはギルドと言った所か二階建ての建物だ。素材の買い取りとかしてたら倉庫だけでも場所取りそうだもんな。


「すみません、登録をお願いしたいのですが」


 そう言いながら、物ごころついて以来の憧れを胸に、ギルドの扉を開く。うわー、俺デビューだよ、冒険者だ。憧れが今現実になるんだ、落ち着いてなんかいられるか!

 でも中にいたのは、不審そうな目で俺を見る受付嬢とその背後で書類を抱えるヒゲの紳士。職員か? ギルドマスターか?


「えー、登録? と、申しますと?」


 ギルドの建物の中を見回すと、職員らしき二人以外には誰も居ない。壁には依頼(クエスト)らしきものがべたべた張ってあるし、広い室内に置かれた低めのテーブルには、採取依頼の品物なのか様々な植物が山積みにされている。俺のテンションは最高潮に!


「はい、冒険者になりたくてですね、これからダンジョンに入るにあたって登録をしに来たんです! 冒険者のランクがFからSSまでとか、水晶玉に手をかざしたら『ええ!こ、この魔力はっ!』とかそういうのをずっと心待ちにしていたんです! さぁ! さぁ!」

「すみません、この人病気なんです。それに見て頂くとわかると思いますがもう年で錯乱してしまっているようで」


 俺の溢れるアレとかコレを背後から抑えつけたいすゞさんは、そのまま俺を引きずって外へ。


「どういう事?」

「どういう事って、そっちこそどういう事ですか!」


 ギルドの建物に入って登録をお願いする。何も間違ってないと思う俺に、いすゞさんが説明してくれる。


 まず、ギルドというのは『職能組合』であると言う事。

 飲食店の店舗や、嗜好品や工芸品などの輸入輸出の対象になる生産品は『商工会』という組織がバランスを取っており、主にその土地で消費される農産物を管理しているのが『職能組合』だと言う事。

 以前はこの二つは同じ組織だったり、それぞれの職業ごとに細分化されていたりもしたのだが、長い間に統廃合が進んでこうなっているとの事。


「農産物?」

「農産物」

「米とか、麦とかを作る組織?」

「米とか、麦とかを作る組織です」

「それだけの組織?」

「お百姓さんから買いあげたり、種や苗を管理したり。農薬とかも扱うらしいですよ」


 農協! まさかのギルド=農協!

 確かに考えてみれば農業と言う職能の組合なんだからその通りだけどさ。


「じゃ、俺って農業協会に加入したいって宣言しつつダンジョン行きたいって叫んでたの?」

「そうです。畑にダンジョンはありません。農業やりたいなら土地を準備しないとダメですよ。あとダンジョンに入りたいなら㈱魔研で派遣登録しましょうね。私の登録している会社だから、紹介すると私にマージンも入るので嬉しいです」


 えへへ。と照れたように笑ういすゞさんの言葉は、ひっかる所だらけだ。

 ギルドが農協なのはいい。たぶんダンジョンはダンジョンで管理している組織があって、そっちが俺の考える冒険者ギルドみたいな物なんだろう。

 でも、派遣ってなんだ。会社って?

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