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職業選択の自由

「お名前は?」

「みなかみゆうき。78さいです」


 よかった。言葉が通じた。

 異世界に転移した以上、モンスターに囲まれるのは想定していたが。そうだよな、モンスターだって知性持ってる連中が居て当然だよな。こいつらなんていう種族だろう、角みたいのあるからオーガかな? それにしちゃ細いか。耳も少し長い気がするけどエルフか? 地球の伝説とかに居る種族ばかりとはかぎらないけど。うん、一番近いのはアレだな、「鬼」だ。


「住んでいる場所とか、言えますか?」

「足立区、とか言ってもわからんよな。黙秘します。こっちに家ないので」

「おいどうするよ、住所不定だよ……」


 なんか職務質問みたいなの受けてるけど、こいつら警察なのかな?

 それはそうと、制服と言う物はどこの国でも大体似たデザインになるものだ。それは世界を越えても同じだったらしい。それはそうだ、軍人や警備員などはどうしたって威圧感を出す為か厳つい感じになるし、医療関係なら清潔さをアピールする為に白衣を基本とした機能的な感じになる。

 だから、武装した軍人だか警察らしき「鬼」達に取り押さえられた俺が、軍服っぽい服着た人達に尋問されているのはわかるのだ。

 だけどさ。なんで「軍人」以上の「医者」が周りでウロウロ&ソワソワしているんだろう。俺、死ぬの?


◆◇~~~~~~◇◆


 うわー、案の定、解雇されちゃった。どうしよう。


「まぁね。わかりますよ。世界遺産にも登録されようとしていた、作動し続けるのに結果が出ないという世にも珍しい「召喚魔訪陣」が無くなってしまったわけですからね。旅行客に延々と説明し続ける為の定点ガイドなのに説明対象が無くなってしまったんだから、仕事が無いのはわかります。ええわかりますとも。

 でもね、別の場所を斡旋してくれても良いと思うんです。だって

場所の知識なんて覚えなおせばいいんですから。滑舌の良い喋りのぎじゅちゅ……技術は宝じゃないかと思うんですよ」


 そんな事を㈱魔研の人事部にまくし立てるダークエルフのガイドさん(派遣)。

 彼女とて、それでどうにかなると思ったわけではないけれど、他に頼れる所もないのだ。


「ここをクビになると他に頼る所とかないんですよ。いや、私がぼっちっていう訳じゃ無く……いや確かに友達は居ないのだけれど……地方から出てきているので親類とかは居ないっていうのと、同僚に誘われた飲み会をことごとく断っていたから相談に乗ってくれる人が居ないって言うだけなんです」


 まくし立てている時は困った顔をしていた人事の方だが、ここまで聞かされると困った顔も通り越える。

 そもそも召喚魔訪陣前ガイドというのは、集団を引率して名所を説明する案内役とは違い、あまりにも観光客が多くて引率が間にあわない場合に場所ごとに人を配置しておいて自由に回らせるという短期間の間に合わせ的な仕事であり、「ここはトアル村です」とか繰り返すだけの村に一人はいるようなどうでもいい役割なのだ。


「旅行事業部とはいえ、㈱魔術研究社は大企業です。正社員でもないのに『魔研で働いてる』とか同窓会で言っちゃったのにどうしよう。無職はマズイんですよ、無職は」


 元々短期のバイト募集が、会社の手違いで仕事が無くてもそこに人が配置され続けるという書類上のトラブルが、仕事自体が無くってようやく明らかになっただけなので、このダークエルフに回す仕事なんて無いのだ。

 どうやってこの「スポット契約のはずだったのにずっと働いていて給料もなぜか支払われていた」という厄介事を大事にせずに無かった事にするか。それを真剣に考えたコネ入社の白エルフさんは、別の部署に押し付ける事に決めた。


「わかりました。ウチの部署ではないのですが、現在短期で緊急の案件がありまして、その募集を掛けるよう指示を受けていた所なのです。召喚魔訪陣の件とも関係がありますので、きっとあなたの能力が活かせると思いますよ。

 形式上新規での契約という形になりますが、紹介状を用意しますのでそれを持って神聖帝国治安維持委員会の方にご足労頂けますでしょうか」


 何でも言って見るもんだと、地獄から天国に舞い上がった気持ちのガイドのダークエルフは、人事担当の社員の手を握って何度も上下に振った。


「ありがとうございます、本当に助かります!」

「いえいえ、それではいすゞ様の今後のご活躍をお祈りしております」


 村の出入り口でひねもす村の名前を連呼しているしか能が無い人扱いを受けているガイドのダークエルフ・いすゞは、仕事を得たと言うよりも落とされたかの様な印象に首を捻りながら、治安維持委員会本部に向かうのだった。

 

 エルフにより建国され、人類最大にして最後の国家メタリア王国を滅ぼした「エルフ神聖帝国」では、完全な「平等」政策を敷いており、人種や性別で差別・区別をされる事は一切ない。実力さえあれば誰でもどんな仕事にもつける。

 逆に言えば「力の劣る者はロクな仕事にはつけない」し、人脈や金は当然力のうちにあたる。力こそパワーなのだ。


 そして、異世界に労働基準法などと言う物は無い。

ヒロイン未登場。


いすゞはエルフだからというか、エルフだからいすゞです。

この話は転生じゃないけど、異世界移動にはつきものかなと思って。

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