爺さんだって異世界無双したいんじゃもん!
短編「人生は召喚待ち」にて、
召喚される準備に人生を費やした男の、その後です。
でも、読まなくても全然問題ありません。
--あなたの準備が整い次第、こちらの世界へとお呼びします--
ある日突然、脳裏にそんな声が響いた。
特にこっちの世界に未練もなかった俺は、いろいろな準備を済ませると、出来るだけしっかりと発音した。
俺はこう言う時、できるだけ物おじせずハッキリという。注文を聞き返されるのが嫌いなのだ。
「準備はもうすんでいる。いつでも『向こう』にいける」
◆◇~~~~~~◇◆
俺が準備の完了を宣言すると、視界が白く染まって行く。
指先から力が抜けて行き、身体がふわりと軽くなる。絶叫マシーンほどではないが、エレベーターよりはかなり強いような、胃がひっくり返りそうな浮遊感とでも言うのだろうか。
どうやら無事に召喚されているようだ。準備の最中に、もし俺の勘違いだったらどうしようとか、時間切れで別の人が召喚されていたりしたらどうしようとか、何度も心が折れそうになった。しかしそれも全て報われた。
準備にだいぶ時間を掛けてしまったが、その分納得のいく支度が出来たし、漏れは無いはずだ。
-―召喚陣起動 指定条件成立<ユウキ> <魔族汚染無し> <純血の人族> <世界移動適応力>対象を強制転移…成功-―
-―術式対象確定 付与魔術【誓約】成立 召喚術者:アルミナ姫への魔力接続を固定…成功-―
-―加護対象特定 神性加護【寿命延長】効果最上級拡大【不老】付与…成功-―
-―術式対象確定 付与魔術【肉体強化】甲種付与…成功-―
-―術式対象確定 付与魔術【魔力覚醒】甲種付与…成功-―
-―契約する人みつけた 精霊寿法【伝わる言葉】意志疎通はできるようになりました-―
「おお!おお!……おおおお!」
頭の中に次々に言葉が響いてくる。
もうこれだけで満足だ。魔王でもなんでも倒してやる!知る限りの文明を伝えるし、何でもするよ!
ただ、【不老】ってのが少し予想外というか期待はずれだったな。できれば転生か、若返りが良かったんだけど。
水上 勇樹78歳。
半世紀以上前から異世界召喚を待ち望んでいた、ある意味で勇者の中の勇者である。
◆◇~~~~~~◇◆
人族国家メタリア。
かつては世界最大の都市であり、最強の精鋭軍を誇る王国であった。
国家統合50年を祝う祝賀祭。
王国であった頃王城のあった場所は、現在では広場になっている。神殿と並ぶ有名な観光スポットとなっており、交易の中心でもなくこれといった産業も無いメタリアにとっては重要な収入源になっている。
「皆さん、こちら側から並んで下さい。この柵の内側には入らないでくださいね?
あそこに輝いている石の台座こそ、誰もが見たがるパワースポット。かの有名な『召喚魔訪陣』です。
これはかつて魔族と人族との戦争が始まった時に、異世界から勇気ある者を召喚し、神の加護と魔術の全てを託して国を救って頂こうとした大魔術の残り香と言われています。まさしくつわものどもの夢の跡地です。」
旅行会社のガイドが、ロクに話も聞いていない学生の群れに召喚魔訪陣の解説を行う。
このガイド、どうせ聞いていないのだから口から出まかせ喋ってもいいだろうと思って一回試してみた事があるのだが、生徒の中にたまたま会社の偉いサンの娘が居て酷い目に会った事がある。
「魔術自体は成功しており、今も魔術は作動中と言われています。陣から漏れる過剰光がその証ですね。作動中の魔法陣を途中で壊すと何が起こるか分からない為、こうして放置されていますが……なぜ術自体は成功しているのに召喚対象者が現れないのか、これは現在でも研究者たちを悩ませている問題です。」
毎日同じ事を喋っているので、関係ない事を考えながらでも噛む事無く立て板に水の見事な解説。誰も聞いてないけど。
「今は人と魔と調和の三大神を祀る神殿ですが、かつては唯一神として人族創生の神・テラカロリ神を祭っていました。
この神殿で10年の月日を掛けた『祈願』と、現在では魔研と呼ばれて皆様の生活に無くてはならない存在となっております、㈱魔術研究社の前身である魔術ギルドの貯蔵した53万マナを消費しての『強化魔術』、当時は魔力汚染と呼ばれていた魔力浸透値の低い王族の血を呼び水に使っての『契約』。
これら全てを一身に受けた勇者が現れていたら、人族が戦争に勝っていたのでは? などとも言われており……」
一瞬の閃光。
目がぁ目がぁと喜ぶ修学旅行の学生たちをかき分けて、㈱魔術研究社・旅行事業部で派遣社員をやっているガイドのダークエルフさんが目にしたのは、眩しくて迷惑だと近隣の住民からクレームが入り夜間には厚手の布を被せる事になった『召喚魔訪陣』の、完全に光の消えた姿だった。
あとなんか上にジジイが乗ってる。
「いぃぃやああぁぁぁぁぁぁっ!」
仕事が無くなるかもしれないと言う絶望が、ガイドに悲鳴を上げさせた。
◆◇~~~~~~◇◆
悲鳴を聞きつけた巡回衛士により、召喚魔訪陣を損壊した罪で謎のジジイが逮捕された。
この時の捕り物は見物だった。
槍をもった衛士3人を相手に一歩も引かず、丸腰のジジイが逆に3人の衛士を傷つける事なく無力化したのだ。
槍を回避し、柄を掴んで引き寄せ、衛士Aを掴んで投げて衛士Bに当てる。その隙にもつれ合って倒れた衛士ABを踏んで跳び、衛士Cにカカト落とし。着地した瞬間に鋭いバックステップで起き上がり中の衛士Aの膝を背後から刈り、倒して首を絞め落とす。
衛士Bにゆっくりと歩みより、喉を踏みつける姿は圧巻の一言でした。
その後、30人に囲まれて一歩も引かぬジジイが、冷えから来る腰痛の為に身動きできなくなり降伏したのは、衛士たちにとっては幸いな事でした。




