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予言

 あれはそう、何も知らない無邪気な小学生の頃だった。

 その頃私の住んでいる街に、「予言おじさん」として有名なホームレスがいた。そのおじさんは色んなことを言い当てた。今考え直すとどんなことを言っていたのかは全く思い出せないが、当時は尊敬し、信じきっていた。

 しかし、当時の私にも疑問に思った、そして今でも印象に残っている予言が一つある。

 何故その時疑問に思ったのか。それはあまりにも予言の対象とする時間が遠かったから。いつも彼は三日程度先のことを当てていたが、その予言だけは遠く、そして不明瞭だったから。

「キミ達が大人になって、この予言を忘れた頃」・・・確かそんなことを言っていたような気がする。

 そして何故今なお印象が色濃く残っているか。それは内容を全く思い出せないからだ。当時聞いたときも、家に帰ってお風呂に入る頃にはすっかり忘れていた。期間のことだけは覚えていて、内容は思い出せない。・・・そんな理由からだ。

 そして私は今、完全にその内容を思い出した。その意味をしかと理解した。

「キミ達が大人になって、この予言を忘れた頃。小さな地震が訪れるだろう。この中の何人かはそれを体験するハズだ。キミ達はその地震に抗ってはいけない。自然に身体を任せ、完全に力を抜くんだ。そうすると、この中の一人、一人だけが・・・その地震の後に訪れる、永遠とも言える恐怖、悠久とも言える不安、永劫とも言える全ての負の感情から逃れることが出来る。」

 私が丁度、お風呂から出ようと立ち上がったその瞬間、その刹那に地震は訪れた。本当に僅かな振動。テレビのテロップに住所の番地手前まで映されるか否か。その程度。

 私は一瞬で彼の言を思い出した。

 そして実行した。

 結果は分かりきっている。お風呂で立ち上がり、僅かでもバランスを崩したら、力を抜いたら。

 足を滑らせるのだ。そしてバスタブの角に頭をぶつける。

 ただ、それだけのこと。

 私は死んだ。

 この後に訪れる、永遠とも言える恐怖、悠久とも言える不安、永劫とも言える全ての負の感情から逃れる為に。

 私は、死んだ。

 永遠に、悠久に、永劫に。何も感じないだろう。

 私は、死んだ。


※誤解のないように申し上げますが、東北地方太平洋沖地震は、本作の発想等には一切関係ございません。もし、気分を害された方がおられるようなら、一時的に削除しますのでお申し付けください。被災地と被災者の方々に、一日でも早い復興と一秒でも早い回復に、ささやかながら祈りを。

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