序
一部『帰還』_一章『聖者の旅路』までのお試し投稿です。
“この書に、我が祖国_『新興灯台郷』の建国記を残そう。
_彼の国『灯台郷』は三千年前より存在すると言われる巨大帝国である。
国の歴代主導者、すなわち三千年世襲されてきた皇帝陛下の中には、百年に一度“正真正銘の暗君”と呼ばれる悪徳君主が現れるという逸話は諸君も耳にしたことがあるだろう。
私はそのひとりの‟暗君”と、その皇女様を取り巻いて起こった残酷な栄枯録を後世に残すという重大な任務を仰せつかった。
私はもとより史書を書く専門のものではないゆえ、多少の文章の稚拙、記憶のずれなどが生じる可能性がある。どうか私が一介の見届け人に過ぎないということを念頭に置いていただいた上でお読みいただきたい。
…ところで。まだこの物語は完結を喫していないのだ。いや、この物語に完結などあり得るのだろうか。私はこの数奇なできごとの渦中にいながら筆を認めているものの、いまだ“これにて”と言えるような決着点を視認できていないのだが。
…とにかく、ここはひとまず“建国記”とだけ記しておく。意味はそのままである。変更の余地は大いにあるだろうから、ここは「仮」という肩書付きで。”