膝枕
……あれ? 俺は何をして?
なんだが、頭がふわふわする。
……柔らかくてもちもちした感触がある? これ、なんだろ?
「ひゃん!?」
「……ひゃん?」
その声で現実に帰り、目を開けてみると……そこには口元を袖で抑えている松浦さんがいた。
少し恥ずかしいそうにも見える。
というか……どうして、俺はこのアングルから彼女を見ているのだろう?
「そっか、これは夢なんだ」
「ゆ、夢じゃないよぉ〜!」
「えっ? ……ええっ!?」
頭が一気に覚醒し、その場から飛び起きる!
辺りを確認すると、何やらテンマさんがニヤニヤと眺めていた。
そうだ、俺はオフ会に来て……あの後、情けないことに気を失ったのか。
あんな風に立ち向かったのは、生まれて初めてだったからなぁ。
「や、やっと目を覚ました……大丈夫?」
「う、うん、平気そう」
「えへへ、良かった」
そう言い、花が咲いたように笑った。
あまりの可愛さに、再び気を失いそうになる。
俺は咄嗟に顔の前に手をやり、彼女の顔が見えないようにした。
「くっ……眩しい」
「何してるのー?」
「いえ、あんまり見ないで頂けると……」
「どうして? 膝枕してる時に散々見たし」
「膝枕……?」
膝枕、それは男の子の夢。
ラノベや漫画のシチュエーションで、幾度となく見てきた。
俺には起こりえないものと言いながら、いつかは誰かにやってほしいと。
「うん、してたよー。その間、ずっと顔を見てたし」
「……うァァァ!!?」
「び、びっくりした〜。どうしたの、急に」
「ど、ど、どうしたのって!? 膝枕だよ!?」
あの柔らかいのは太ももだったのか!
なんてことだ! あんまり記憶にない!
「べ、別にそれくらい……」
「おほん! 見てる分には楽しいのだが、そろそろいいだろうか?」
「テンマさん、騒がしくてごめんなさい」
「いやいや、気にしないで。さて、スレイ君……まずはすまなかった」
どう見ても大人であるテンマさんが、俺に向かって頭を下げてくる。
「あっ、えっと……?」
「本来なら、彼には主催である俺がもっときつく注意すべきだった。それを、君に任せて申し訳ない。アキラ君も、改めて申し訳なかった」
「そんなことないですよー。テンマさんは一度言ってくれましたし。空気を壊したくないから我慢するって言ったのは私ですし」
「い、いえ! 俺はたまたまというか……アキラさんには返しきれない恩があったので。ただ、どうしてアキラさんが女の子なのかは疑問ですけど」
「それに関しては俺にはなんとも。アキラ君の声を聞いたことがあるのは、きたメンバーでは君くらいだったからね」
「あっ、確かに……そもそも、他の皆さんはどちらに?」
周りを見ると、いつのまにか和室には俺達三人しかいなかった。
「時間がきたから、みんなには帰ってもらったよ。もちろん、君のおかげで楽しく終えられた」
「ここ、二時間貸切だったんだ。今さっき、みんなが帰ったところ。私達は君が起きるまで、待ってようって」
「あっ、そういうことだったんですね。じゃあ、俺もお金を払わないと……」
「いやいや、君の分は俺に払わせてくれ。迷惑をかけてしまったし、君は何も飲み食いしてないからね」
「で、ですが………」
「ここは俺の顔を立てると思って。そうしないと気が済まないんだ」
テンマさんのことは知ってる。
ゲーム内でも責任感が強くて、よくボス戦などで皆をまとめていた。
ほとんどソロの俺も、よくお世話になっていた人だ。
「……わかりました」
「助かるよ。それじゃあ、俺はこれで。この埋め合わせは、何処かですると約束する」
「は、はい! 色々とありがとうございました!」
「はは、それはこちらの台詞なのだが。やはり、ゲームには本質が出るんだね……君は仲間がピンチになると、いつも敵に立ち向かっていたし……それじゃ、またゲームで会おう」
そう言い残し、店から出て行く。
ただ……相変わらず、俺の頭は何がなんだかわからず混乱していた。
結局、アキラさんは誰だったのだろう?




