勇気
体育祭の練習や慣れないバイトをしてると、あっという間に日が過ぎていく。
六月も二週に入り、今週末には体育祭となる。
そんな中、松浦さんは相変わらず元気だった。
「もうすぐ体育祭だね! みんな頑張ろっ!」
「おー! やったりますか!」
「先生が飯おごってくれるっていうし!」
みんなを盛り上げたり、俺みたいにノリ?がわからない人にも、分け隔てなく接している。
おかげで、疎外感を覚える人も少ないはず。
「おいおい、勝てばの話だよ。先生の安月給をナメンナヨ」
「先生、最後カタコトだよー?」
「松浦……まあ、お好み焼きくらいなら許してやる」
「「「ウォォォォォォ!」」」
俺も輪の中には入れないけど、そこまで気まずいってわけじゃない。
これも多分、松浦さんのおかげだと思う。
……あれ? 俺は何を?
ぼけっとする意識の中、何やら声が聞こえてくる。
「あーあ、めんどくさい」
「松浦さん、ちょっとうざいよなぁ」
「何が体育祭頑張ろっだよ。絶対に、俺たちの事を見下してる癖に」
「そうそう。なのに、俺たちみたいな陰キャにも愛想振りまいて」
あっ……この二人、松浦さんのことを言ってる。
そう思う人もいるっていうのは、松浦さん本人からも聞いていた。
というか、俺がいるのによく話してるなぁ。
ふと目を開けると、俺の頭には何かが被さっていた。
「これ、なんだろ……ああ、カーテンか」
「うわっ!? だ、誰だ!?」
「……なんだ、吉野かよ」
「えっと……」
どうやら、うつ伏せになって寝てしまい、その上にカーテンが乗っかってしまったらしい。
名前は覚えてないけど、俺と同じように目立たない二人だ。
でも悪ノリする男子に絡まれてるところを、松浦さんが助けてるのは見たことある。
「こいつなら平気でしょ。俺らと同じく目立たない陰キャだし」
「むしろ、話し合うんじゃね? 松浦さん、なんか偽善臭くて嫌だよな?」
「なんか、無理して俺らに構ってるというか」
「そうそう。絶対に陰で、俺らのことキモいとか言ってるし」
俺は松浦さんのことを、全部知ってるわけじゃない。
それでも、そんなこと言う女の子じゃないのは分かる。
「その……君たち自身の気持ちは否定しないけど……俺は松浦さんが、そんなこという女の子には思えない。俺もノリとかよくわかんないし、クラスのみんなについてけないこともあるけど……それでも、居心地悪いって思ったはことない。君たちも、そうなんじゃないの? それとも、虐められたりした?」
「そ、それは……」
「な、なんだ、こいつ……はっ、実は好きだとか?」
「ああー、そういうやつ?」
好き? 俺が松浦さんを? ……考えたことなかったや。
まあ、それは今はどうでもいい。
今度は、俺が松浦さんの力にならないと。
「それはどっちでもいいよ。ただ偽善だっていいと思う。少なくとも俺は、松浦さんに救われたから。彼女のおかげで、学校に行きたくないって思わなくなったから。君たちだって、彼女に助けられてたよね?」
「っ!? ちっ、帰ろうぜ」
「ま、まてよ!」
気まずい顔をした二人が、足早に教室から去っていった。
その瞬間、俺の体から力が抜けていく。
「——はぁ〜……い、言えた」
「へぇ、やるじゃん」
「へっ?」
振り返ると、そこには見知らぬギャルの女の子がいた。
髪は茶髪で軽くパーマがかかっていて、制服のブレザーを着崩している。
間違いなく、俺とは関わらないタイプの女の子だ。
「いや、ちょうど今の見てたからさ。見かけによらず、やるなって思った。何も言わなかったら、私が行くところだったし。うち、ああいうのは嫌いなんだよね」
「ど、どうもです……」
「あんた、名前はなんていうの? 私は長谷川絵里って言うんだけど」
「えっと、吉野拓馬っていいます」
「じゃあ、拓馬だね。ふふ、今度会ったら飯でも奢るよ」
そう言い、その人も去っていく。
俺は訳がわからず、しばらくその場で立ちつくすのだった。




