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帰宅

 学校が終わったら急いで家に帰る。


 まずは、リビングにいる我が家のウサギ様に挨拶をする。


 朝の世話は姉が、夕方のお世話をするのが俺の役目だからだ。


「おとめ、起きてるかな?」


「フスッ」


 声をかけてから小屋のカーテンを外すと、扉の前で待機していた。


「おっ、起きてたんだ。ご飯は……うん、全部食べてる。それじゃあ、水はあるから草とご飯だけ入れようか」


「フンスッ」


 まるで早く入れなさいよとでも言うように、俺に催促をする。

 わがままお嬢さんだけど、俺と姉さんの大事な家族だ。

 俺が中学に上がる時に母さんが亡くなって……それからしばらくして、父さんが俺達に買って来てくれた。

 それが、俺と姉さんをどれだけ癒してくれたか。


「これでよしと……ん? 抱っこする?」


「フスッ!」


 どうやら、今日は機嫌が良いみたいだ。

 俺は優しくおとめを抱っこして、ソファー座る。

 そして、いつものように独り言を言う。


「あぁー、失敗したよ。今日も教室入るのギリギリだったし、噛んじゃうし」


「フスフス」


「いや、わかってるよ? もうちょい早く寝たり、おどおどしないようにすればいいって……」


 リアルな友達がいない俺は、いつもこうして話を聞いてもらっている。

 ……虚しいとか思わないでもない。


「でもさぁ、クラスの人達に話しかけるとか難易度高すぎだよ。何話していいかわからないし、不機嫌にさせたら嫌だし」


 ゲームの中だったら基本的にチャットだし、嫌われても問題ない。

 ただ、学校で嫌われたらおしまいだ。


「フスッ!」


「あいたっ!?」


 おとめに、ホリホリと皮膚を掘られた。

 大して痛くはないが、全く痛くないわけではない。


「フンスッ!」


「俺がなよなよしてるから怒ってるのかな?」


「フスッ」


 まるで『そうよ』とでもいうようだ。

 うさぎは愛情を注ぐと、感情表現が豊かになるっていうけど。

 まさしく、その通りだなと思う。


 ◇


 おとめを部屋に返したら、自分の部屋にこもる。


 そして、今朝のゲーム用のDiscordを確認する。


 それはスマホやパソコンで、個人でグループを作ることができる仕組みだ。


 これを使って、いつもゲーム時間を決めたり、ゲーム部屋に集まって遊んだりしていた。


 そして、コメントを書く場所に『オフ会に参加しますか? 参加するならコメントください』と書いてある。


 すでに何人かの人が参加するとコメントを返していた。


「今週末の土曜日にオフ会かぁ……あと二日しかないじゃん」


 無論、一週間前から連絡は来ていた。

 ただ、俺が日和って連絡をしてないだけだった。

 だってリアルで会うなんて……怖いし。


「どうしよう? 今日が締め切りとか言ってたし」


 その時、個別でメッセージがくる。

 それはアキラさんで、明後日のオフ会に参加するかどうかだった。

 怪我のせいもあってブランクがあり、新しい人もいるメンバーとはアキラさんはほとんど絡んでいない。

 もしかしたら、俺なんかでも行けば安心するのかも。


「……アキラさんにはお世話になった。コミュ障の俺に、根気よくゲームを教えてくれた。人付き合いの仕方とか、ゲームマナーとかも。これで恩返しができるなら安いものだよね」


 俺は勇気を出して、参加しますとコメントを送る。

 すると、すぐに返事が来て……アキラさんもくると。

 俺に会えるのを楽しみにしてるって。


「おっ、来てくれるんだ。そうなると、俺も参加をしますっと……押してしまった。これで、後戻りはできない」


 そこで、ふと気づく。

 明後日出かけるのは、埼玉県民御用達の所沢ということに。

 若者や手頃な場所として、埼玉にしては栄えてるところだ。

 最近は開発も進み、結構人や店が増えているとか。

 当然俺は行ったことはあるが、オフ会となると話は別だ。


「ま、まずい、着ていく服がない。流石の俺でも、スエットとかジャージが不味いのはわかる。しかし、ジャケットなんか持ってないし似合わない。トレーナー? パーカー? ……何を着れば正解なのかわからない」


 結局、俺は洋服を片っ端から出しては着て……。


 帰ってきた姉さんに片しなさいと叱られるのだった。


 ちなみに、姉さん曰く……清潔感さえあれば、高校生はお洒落とか気にしなくていいと言われた。



 ◇




 良かった……スレイさん、来るんだ。


 その人が参加すると聞いて、私の心が跳ねる。


 《《いなくなる前の》》お兄ちゃんが、スレイさんは信用できる奴だから安心していいって言ってたっけ。


 その通りで、私に色々とゲームの遊び方を教えてくれた。


 最初は何人か居たけど、みんな私……お兄ちゃんのフリをした私のプレイにうんざりして離れていった。


 そんな中、スレイさんだけは根気よく付き合ってくれた。


 もちろん、相手はお兄ちゃんだと思ってるから親切にしてくれてるのはわかってる。


 それでも、スレイさんが私の恩人であることに変わりはない。


 私にお兄ちゃんが見てた景色、そしてゲームの楽しさを教えてくれたから。


「どんな人なんだろう? ……でも、見た目とはいいかな。優しい人っていうのはわかってるし。オフ会は不安だけど、スレイさんが来るならいかないとね」


「あっ、松浦さん。休憩中だけどいいかな?」


「はい、店長。どうしましたー?」


 私はスマホをテーブルに置き、店長の方を向く。

 少しくたびれた感じがする。

 まだ三十五歳とか言ってたけど、やっぱり飲食のお仕事は激務だもんね。


「いや、明後日の昼間なんだけど出れるかな?」


「すみません! 明後日は昼から用事があって……」


「あっ、そうだよね。松浦さんだと、デートとかあるよね……じゃあ、代わりの人を探さないと」


 そう言い、ぶつぶつ言いながら部屋を出て行く。


 普段は頼みごとを受けちゃったりするけど……店長には悪いけど、今回は特別だもん。


 スレイさんには、会ってお礼がしたかったから。


 私は少しの不安とワクワクを感じつつ、残りの休憩時間を過ごす。


 スレイさんの、『参加します』という文字を見ながら。

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