初対面?
家に帰ったら、おとめのお世話をして、それから部屋に行く。
パソコンを起動して、先に予習をしておく。
「えっと、今日は何を狩るんだっけ?」
前にアキラさん……松浦さんは、ランクを上げたいって言ってた。
そのための武器や防具の素材が欲しいとか。
「……そういや、そういうところあったよね」
俺がランク上げ手伝おうかって言ったら、それは負んぶに抱っこで嫌だと。
その代わり、素材集めとかは手伝ってくれると嬉しいって。
自分も足手纏いかもしれないけど、素材集めは手伝うからと。
あと、自分とやる時は弱い装備でお願いしますとも。
「なんというか、変な所で律儀というか負けず嫌いというか」
そういうところは、アキラさんぽくって違和感がなかったんだよなぁ。
もしかしたら、兄妹だから似てるところがあるのかもしれない。
そんなことを考えながら、装備確認をしていると……ライン通知が来る。
『スレイさん! 準備できたよっ!』
『こっちもできました。既に部屋は作ってあります』
『ありがとう! それじゃ、すぐに行くねー!』
ラインを終え、そのまま待っていると……俺の作った部屋にアキラさんが入ってくる。
俺は少しドキドキしながら、久々にヘッドホンをつけてマイクで話す。
「あ、あー……聞こえますか?」
「うんっ! 聞こえるよー!」
「それなら良かった……えっと、改めてましてスレイです」
「ふふ、変なのー。でも、確かに初対面だね。改めてましてアキラですっ」
ヘッドフォン越しからでも、その声の破壊力はすごい。
いや、ヘッドフォン越しだからこそか。
俺は一生懸命に動揺を抑える……今の俺はスレイ、今の俺はスレイ。
「えっと、とりあえず……対面しない時はアキラとスレイって呼び方でいいですか?」
「うん、そうした方がややこしくないかも」
「了解。それじゃ、好きなクエスト貼っていいですよ」
「ふふ、相変わらず敬語だね。あっ、もちろん気にしないから好きにしてね」
「あぁーラインとは別に、どうもアキラさんって認識が強くて。じゃあ、これから普通にするね」
本来のアキラさんは年上で、俺のゲームの先生だった。
当然、常に敬語だったし。
「うん、無理はしないでね……貼りました!」
「確認しました……良しっと」
「それじゃ、お願いします!」
「ええ、こちらこそ」
そうして、ゲームをスタートさせる。
◇
……なるほど、本来はこんな感じに話してたのか。
アキラさんは、怪我をした後遺症で声と手が衰えたって言ってた。
だから凡ミスもしたし、操作ミスもしていた。
大変だろうなぁって思ってたけど……こっちはこっちで大変そうだ。
たった今、ゴリラ型のボスモンスターに追われてアキラさんが逃げ回っていた。
「きゃぁぁぁ!? こっちに来るよぉ〜!?」
「落ち着いて! 怒ったってことは体力が少ない証拠だから! さあ、振り向いて閃光弾を使って!」
「う、うんっ! ……えいっ!」
「ゴァァァ!?」
閃光弾を使うことで、敵が目くらまし状態になる。
でも、それは数十秒しかもたない。
「今のうちにっ!」
「うんっ!」
俺は双剣で、彼女は斧を使ってダメージを与えていく。
両方とも火力に優れた近接武器なので、閃光弾との相性は悪くない。
一気に敵を攻撃していき……消滅する。
そしてゲームクリアの文字が浮かび、素材を剥いだら待機時間となる。
「ほっ、どうにが倒せたね。一回も死ななかったし、良い素材入るかも」
「うん、なんとか……緊張したぁぁ」
「それにしてもすごかったね? いつもあんなだったり?」
「うぅー恥ずかしい……だって怖いもん。でも、やっぱり話しながら遊ぶのは楽しいね!」
「確かに盛り上がりはするよね」
こっちもあたふたするけど、それもまた楽しいし。
わーきゃー言っている感じとか、俺はリアルでは味わえないし。
「それじゃ、今後はこういう感じでいいかな?」
「うん、俺の方もやりやすいし」
「それじゃ、私はバイト行ってくるねー。また時間あったら連絡するから」
「了解です。バイト頑張ってね」
「ありがとー!」
そこでログアウトの文字が浮かび、部屋にひとりぼっちになる。
他にやる相手はいるけど、何となくそんな気分になれずにゲームをやめた。
俺はベットに寝転んで……さっきまでのことを思い出す。
「……楽しかったなぁ」
リアルを知ってるからか、変に着飾ることもしなかった。
いつもはスレイっていうか、ベテランっぽくしてるつもりだし。
そうなると……リアルでゲームをやるっていうのも悪くないのかもしれない。




